上 下
263 / 832
3 魔法学校の聖人候補

452 冬休み

しおりを挟む
452

「貴族の中にだって、たくさん普通に寮生活を送っている人はいるんですから、そこまで悲観的にならなくてもいい気はするんですけどねぇ」

相変わらず間断なく届き続けている大量の贈り物との格闘を続けながら、今日の顛末をグッケンス博士から聞いた私は、素直にそう思った。

博士に今回のペナルティを提案した私は、彼らの感覚の是正がされればいいな、という気持ちだったのだが、彼らにとってはこの罰、思った以上にキツイものに感じられているらしい。

今回の処分対象となった子たちは全員第一寮にいた子たちだ。そのため彼らは入学以来実家となんら変わらない貴族生活をすることが許されてきた。それだけにその特権を失う恐怖は思った以上に大きいようだ。第一寮に居られなくなった彼らは、プライドとかライフスタイルとか、すべてをイチから立て直さなければならないわけで、それは大変で当たり前だし、じゃなきゃ罰にもならない。

実はひとりだけ、第一寮には、今回の罰を受ける必要のない人物がいる。そう、彼らの権力争いから逃れるため私たちと組んだクローナだ。

なので、今回の処分の前に彼女にはひとり残ってもいいと伝えられたのだが、クローナはあっさりと第二寮への移動を決めた。

「今回のことは、もしかしたら私も関わっていたかもしれないことです。それにグッケンス博士がそうせよとご命じになるのであれば、きっとそれは意味のあること、自分の成長につながることなのだと思うのです。
でも、お掃除すらしたことがないので、わからないことだらけなのです。いろいろ教えてくださいね」

博士の名代で、クローナに会いに行った私に、彼女は一瞬の躊躇も見せずにそう言ったのだ。

クローナは実に男らしかった……じゃない雄々しかった……違うか……毅然としていた、うん、これだ!

それに、クローナがそういう覚悟なら喜んで家事指南をさせてもらう。

(ふふ、クローナに魔法を使ったお掃除伝授しちゃおうかなぁ)

当然のように、この裁定に関しては彼らの過保護な親たちから様々な形でのクレームがあったそうだ。だが、この問題はすでに軍部から皇帝陛下の耳にも入っていた。陛下は命を賭して子供たちを守ったグッケンス博士を讃えられた上、学生たちの無謀を叱責された、という情報が出たところで、外野からのクレームはピタリと止んだ。まったくもって貴族とはわかりやすい人たちだ。

クローナ・サンス嬢に対しては、特別の計らいで第二寮への移動となったが、元々空きはないので、今回懲罰対象となった学生たちは次の成績考査が発表になる春まで、二人部屋の第三寮以降の部屋への移動となる。

女子のひとりは、自分が住む部屋を見に行き、そこで泣きわめき始めたそうで、その寮に住む女子から早々に引かれていたそうだ。第一寮で使っていた大量の高級家具を持ち込もうとした生徒が、備え付けのベッドと机以外置く場所がない部屋を見て、絶句した後肩を落としてすべて持ち帰ったとか、勝手に模様替えしようとしたり、同室の子を金で買収して追い出そうとしたりとか、もう

「お前たち、本当に反省してるのかい!」

と、言いたくなるような諸々がありつつも、結局誰ひとり停学を選択する者はいなかった。

当然、問題行動を起こしたその子たちはめちゃくちゃ怒られた上、要監視処分となり、毎日その行動を事務局に報告されるという、プライバシーのかけらもない処分が下された。さらに自分で自分の首を締めるという、なんともお粗末な展開だった。

誰も自分の世話をしてくれないという生活に慣れていないので、しばらくはかなり苦労すると思うが、それもいい経験だ。

(ま、頑張れ!)

冬休みの間、家に戻っているクローナからは、三学期に備えて家の者から生活に必要な家事を習っていると手紙が来た。

〝洗濯や掃除は《清浄》があれば大丈夫だと思っていましたのに、洗濯したものは畳まないといけないし、掃除の後はゴミを捨てないといけないのです。その場で燃やそうとして、メイド長に怒られてしまいました。ああ、それからボタンをつけるための魔法はございませんでしょうか。指が針穴だらけです。ちっともうまくできません〟

といった微笑ましい泣き言が書かれていて、笑ってしまう。お裁縫は、戻ってきたら一緒にやってみよう。

冬の休暇中はほとんどの生徒が帰宅するので、学校の中はとても静かだ。いくつかの大きな都市までは学校所有と軍所有の〝天舟アマフネ〟が一気に運び、そこからそれぞれの故郷へと帰っていく。帰りも同様だそうだ。

静かなこの冬休みの間、私はいよいよ近づいてきた〝エリクサー〟作成のための準備と、治癒の《白魔法》の勉強に勤しもうと思う。

(でも、新年会ぐらいはみんなでやろうかな)

年末の大掃除のため、ソーヤと高価そうな贈り物をぞんざいに《無限回廊の中》の中に放り込みながら、私はみんなの好きそうなお酒のことを考えていた。

しおりを挟む
感想 2,983

あなたにおすすめの小説

策が咲く〜死刑囚の王女と騎士の生存戦略〜

鋸鎚のこ
ファンタジー
亡国の王女シロンは、死刑囚鉱山へと送り込まれるが、そこで出会ったのは隣国の英雄騎士デュフェルだった。二人は運命的な出会いを果たし、力を合わせて大胆な脱獄劇を成功させる。 だが、自由を手に入れたその先に待っていたのは、策略渦巻く戦場と王宮の陰謀。「生き抜くためなら手段を選ばない」智略の天才・シロンと、「一騎当千の強さで戦局を変える」勇猛な武将・デュフェル。異なる資質を持つ二人が協力し、国家の未来を左右する大逆転を仕掛ける。 これは、互いに背中を預けながら、戦乱の世を生き抜く王女と騎士の生存戦略譚である。 ※この作品はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※本編完結・番外編を不定期投稿のため、完結とさせていただきます。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

公爵令嬢はアホ係から卒業する

依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」  婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。  そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。   いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?  何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。  エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。  彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。    *『小説家になろう』でも公開しています。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! ★恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 連載希望のコメントをいただきましたので、 連載に向け準備中です。 *他サイトでも公開中 日間総合ランキング2位に入りました!

仰っている意味が分かりません

水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか? 常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。 ※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。

妹だけを可愛がるなら私はいらないでしょう。だから消えます……。何でもねだる妹と溺愛する両親に私は見切りをつける。

しげむろ ゆうき
ファンタジー
誕生日に買ってもらったドレスを欲しがる妹 そんな妹を溺愛する両親は、笑顔であげなさいと言ってくる もう限界がきた私はあることを決心するのだった

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。