上 下
224 / 832
3 魔法学校の聖人候補

413 魔法薬師の宝箱

しおりを挟む
413

魔法関連の素材や道具が充実したこの街には遠方からも多くの魔法使いが訪れる。また、ここに居を構える魔法使いたちへの依頼のために、この街を訪れる人々も多い。

セルツの街を散策中の私の目の前に現れた通りは、その名も〝魔術師横丁〟と言い、この街にしかない特別な場所だ。他の街ではまず見ない危険な魔法道具を専門に扱う店や魔法をかけて強化された魔法陣を護符として売る店、マジナいの専門店など、魔法関連の様々な道具や仕事の店も連なっている。

「これは壮観ね。わざわざ遠くから人がやってくるのがわかるわ」
荷物持ちについてきたソーヤは、先ほどもらった大きなリンゴをバリバリ食べながら、一軒の店を指差した。
「ここなど、メイロードさまのご興味を引くものがありそうではないですか」
その店の看板には装飾的な金文字で〝高級魔法薬と最高級魔法道具の専門店 魔法使いの宝箱〟と書かれている。なかなか入りずらい感じの高級店オーラのある店構えだ。

だが、小さなショーウインドウに飾られた不思議な形の計りに私の目は釘付けになった。そこには〝計れない材料を計る計り〟と書かれていたのだ。

(これは何を計るもの?)

意味が全くわからないことが、返って私の好奇心を刺激した。

私はこの店に入ることを決め、恐る恐る大きくて重いその店の扉に手をかけた。軽やかなベルがチリンと鳴り、私はゆっくり中へ進む。店の中は明かりはついているが全体に薄暗く、いたるところに不思議な道具が置かれている。ぶつかって壊したりしないよう気をつけながら進んでいくと、そこには、たくさんの薬が保管された鍵付きのガラスケースが置かれていた。

「見てみてソーヤ《ハイパーポーション》が売っている店なんて初めてみた。でも、やっぱり《エリクサー》はないみたいね」

「ございますとも」

いつの間にか、私たちの背後に魔術師らしいローブを身にまとった老婦人が立っていた。

「うわ、びっくりした!」

《索敵》を切っていると、さすがに人の気配はわからないので、普通に驚いてしまった。

「驚かせてごめんなさいね。お嬢さんは〝エリクサー〟をお求めかい?」

その老婦人の姿は、どこからみても物語の中に出てくるやや薄気味が悪い印象の〝魔女〟そのもので、白い髪に少し曲がった背骨、そして重そうなフード付きのマントをして先の曲がった太い木の杖をついている。

「いえ、とても貴重な薬ですので、見てみたかっただけです。私、聴講生として魔法学校におりまして、今〝エリクサー〟について調べているところなので……」

老婦人は私の言葉に納得したように頷いた。

「ああ、なるほどね。学校の子だったんだね。こんな小さいのに聴講生とは、よっぽど優秀なんだねぇ。丁度暇にしていたところだ。お茶でも飲んでおいきよ。この店は、客が少ないからね」

どうやら店主だったらしい老婦人は、私を店の奥に置かれた小さなテーブル席にイザナうと、かなりの高級品と思われる美しい花の絵が散りばめられたティーセットで、まだまだこの世界では貴重な紅茶を出してくれた。

「では、お茶菓子は私が出しますね」

私はマジックバッグから、おやつにしようかと思い入れておいたマドレーヌとフィナンシェ、それにチーズビスケットを取り出した。

「これはまた美味しそうな菓子だね。私も長く生きてきたが、見たことがないよ」

嬉しそうにお菓子を見る老婦人に、ソーヤが反応してしまう。
「ええ、そうでございましょうとも。メイロードさまのお作りになる至高の菓子は、イスや帝都パレスでもまだまだ高級品なのでございます。貴重なバターや生クリームといった乳製品をふんだんに使った、しっとりととろけるような食感は、この紅茶にもぴったりでございます!」
老婦人はソーヤの説明にも驚くことなく、笑っている。
「お嬢さんの妖精は随分と饒舌だね。よっぽどあなたを気に入っているらしい。たしかに、こんな美味しいものを食べさせてくれるのなら、妖精も満足なんだろうよ」

私は茶飲話をしながら、まずは気になっていたショーウインドウの〝計れない材料を計る計り〟について、聞いてみることにした。

「あれは文字通り、重さでは計ることのできないものを計る装置だよ。お嬢さんは魔法使いだから、世の中には魔力が宿った魔石というものがあることは知っているね」
「はい、もちろん知っています。少量の魔法力で起動できるため、一般の方でも使えますが、大変貴重だと聞いています」

老婦人は、ウンウンと頷く。

「その通りだよ。魔石は蓄えられた魔力……いやモノに蓄えられた場合は〝魔素〟と呼ぶ方が一般的かな。その魔素を消費して火や水を発現させるわけだけどね、当然、発現させれば蓄えられた魔素は減っていく。だが、結構な鑑定眼がないと、この減った量はわからないんだよ」

つまり《鑑定》の技術の低い魔法使いや一般の方の場合、魔石の蓄えている魔素の状況がわからないらしい。これでは、売り買いする場合、値段のつけようがないし、騙されてしまう可能性もある、ということだそうだ。

「この〝計れない材料を計る計り〟というのは、魔素の量を測れるのさ。まぁ、これ自体貴重品だけどね」

老婦人は普通のこととして説明してくれたが、私は今まで魔石の中の魔素の量について、考えたこともなかった。〝タネ石〟を魔石化するときは、満タンまで魔法力を注ぎ込めば色が変わり発光するため、それで見分けていたけれど、途中まで使った状態の魔石というものを使ったことがなかったため、気にしたこともなかったのだ。

「確かに、売ったり買ったりしたいときにも、いざ使おうとしたときにも、魔石の魔素の残量は気になりますね。気がつきませんでした」

この貴重な魔法の計りは、売るのではなく貸出やこの店での鑑定に使われているそうだ。

「送られてきた魔石をこの計りで鑑定して送り返したり、計りを一時貸ししたりもしてるのさ。これはいい定期収入になるんだよ」

いろいろな商売があるものだ。

やはり聞いて見ないとわからないことは多い。私の魔法に関する知識はまだまだひよっこのようだ。自分の知識の足りなさにため息をつく私をみて、老婦人はなんだか面白そうに微笑みながら紅茶を飲んでいる。そして、やさしく私にこう言ってくれた。

「いい機会だ。なんでもお聞き。魔法道具のことなら、大抵はわかるからね」
しおりを挟む
感想 2,983

あなたにおすすめの小説

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

公爵令嬢はアホ係から卒業する

依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」  婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。  そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。   いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?  何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。  エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。  彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。    *『小説家になろう』でも公開しています。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! ★恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 連載希望のコメントをいただきましたので、 連載に向け準備中です。 *他サイトでも公開中 日間総合ランキング2位に入りました!

仰っている意味が分かりません

水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか? 常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。 ※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。

妹だけを可愛がるなら私はいらないでしょう。だから消えます……。何でもねだる妹と溺愛する両親に私は見切りをつける。

しげむろ ゆうき
ファンタジー
誕生日に買ってもらったドレスを欲しがる妹 そんな妹を溺愛する両親は、笑顔であげなさいと言ってくる もう限界がきた私はあることを決心するのだった

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。