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3 魔法学校の聖人候補
413 魔法薬師の宝箱
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413
魔法関連の素材や道具が充実したこの街には遠方からも多くの魔法使いが訪れる。また、ここに居を構える魔法使いたちへの依頼のために、この街を訪れる人々も多い。
セルツの街を散策中の私の目の前に現れた通りは、その名も〝魔術師横丁〟と言い、この街にしかない特別な場所だ。他の街ではまず見ない危険な魔法道具を専門に扱う店や魔法をかけて強化された魔法陣を護符として売る店、呪いの専門店など、魔法関連の様々な道具や仕事の店も連なっている。
「これは壮観ね。わざわざ遠くから人がやってくるのがわかるわ」
荷物持ちについてきたソーヤは、先ほどもらった大きなリンゴをバリバリ食べながら、一軒の店を指差した。
「ここなど、メイロードさまのご興味を引くものがありそうではないですか」
その店の看板には装飾的な金文字で〝高級魔法薬と最高級魔法道具の専門店 魔法使いの宝箱〟と書かれている。なかなか入りずらい感じの高級店オーラのある店構えだ。
だが、小さなショーウインドウに飾られた不思議な形の計りに私の目は釘付けになった。そこには〝計れない材料を計る計り〟と書かれていたのだ。
(これは何を計るもの?)
意味が全くわからないことが、返って私の好奇心を刺激した。
私はこの店に入ることを決め、恐る恐る大きくて重いその店の扉に手をかけた。軽やかなベルがチリンと鳴り、私はゆっくり中へ進む。店の中は明かりはついているが全体に薄暗く、いたるところに不思議な道具が置かれている。ぶつかって壊したりしないよう気をつけながら進んでいくと、そこには、たくさんの薬が保管された鍵付きのガラスケースが置かれていた。
「見てみてソーヤ《ハイパーポーション》が売っている店なんて初めてみた。でも、やっぱり《エリクサー》はないみたいね」
「ございますとも」
いつの間にか、私たちの背後に魔術師らしいローブを身にまとった老婦人が立っていた。
「うわ、びっくりした!」
《索敵》を切っていると、さすがに人の気配はわからないので、普通に驚いてしまった。
「驚かせてごめんなさいね。お嬢さんは〝エリクサー〟をお求めかい?」
その老婦人の姿は、どこからみても物語の中に出てくるやや薄気味が悪い印象の〝魔女〟そのもので、白い髪に少し曲がった背骨、そして重そうなフード付きのマントをして先の曲がった太い木の杖をついている。
「いえ、とても貴重な薬ですので、見てみたかっただけです。私、聴講生として魔法学校におりまして、今〝エリクサー〟について調べているところなので……」
老婦人は私の言葉に納得したように頷いた。
「ああ、なるほどね。学校の子だったんだね。こんな小さいのに聴講生とは、よっぽど優秀なんだねぇ。丁度暇にしていたところだ。お茶でも飲んでおいきよ。この店は、客が少ないからね」
どうやら店主だったらしい老婦人は、私を店の奥に置かれた小さなテーブル席に誘うと、かなりの高級品と思われる美しい花の絵が散りばめられたティーセットで、まだまだこの世界では貴重な紅茶を出してくれた。
「では、お茶菓子は私が出しますね」
私はマジックバッグから、おやつにしようかと思い入れておいたマドレーヌとフィナンシェ、それにチーズビスケットを取り出した。
「これはまた美味しそうな菓子だね。私も長く生きてきたが、見たことがないよ」
嬉しそうにお菓子を見る老婦人に、ソーヤが反応してしまう。
「ええ、そうでございましょうとも。メイロードさまのお作りになる至高の菓子は、イスや帝都パレスでもまだまだ高級品なのでございます。貴重なバターや生クリームといった乳製品をふんだんに使った、しっとりととろけるような食感は、この紅茶にもぴったりでございます!」
老婦人はソーヤの説明にも驚くことなく、笑っている。
「お嬢さんの妖精は随分と饒舌だね。よっぽどあなたを気に入っているらしい。たしかに、こんな美味しいものを食べさせてくれるのなら、妖精も満足なんだろうよ」
私は茶飲話をしながら、まずは気になっていたショーウインドウの〝計れない材料を計る計り〟について、聞いてみることにした。
「あれは文字通り、重さでは計ることのできないものを計る装置だよ。お嬢さんは魔法使いだから、世の中には魔力が宿った魔石というものがあることは知っているね」
「はい、もちろん知っています。少量の魔法力で起動できるため、一般の方でも使えますが、大変貴重だと聞いています」
老婦人は、ウンウンと頷く。
「その通りだよ。魔石は蓄えられた魔力……いやモノに蓄えられた場合は〝魔素〟と呼ぶ方が一般的かな。その魔素を消費して火や水を発現させるわけだけどね、当然、発現させれば蓄えられた魔素は減っていく。だが、結構な鑑定眼がないと、この減った量はわからないんだよ」
つまり《鑑定》の技術の低い魔法使いや一般の方の場合、魔石の蓄えている魔素の状況がわからないらしい。これでは、売り買いする場合、値段のつけようがないし、騙されてしまう可能性もある、ということだそうだ。
「この〝計れない材料を計る計り〟というのは、魔素の量を測れるのさ。まぁ、これ自体貴重品だけどね」
老婦人は普通のこととして説明してくれたが、私は今まで魔石の中の魔素の量について、考えたこともなかった。〝タネ石〟を魔石化するときは、満タンまで魔法力を注ぎ込めば色が変わり発光するため、それで見分けていたけれど、途中まで使った状態の魔石というものを使ったことがなかったため、気にしたこともなかったのだ。
「確かに、売ったり買ったりしたいときにも、いざ使おうとしたときにも、魔石の魔素の残量は気になりますね。気がつきませんでした」
この貴重な魔法の計りは、売るのではなく貸出やこの店での鑑定に使われているそうだ。
「送られてきた魔石をこの計りで鑑定して送り返したり、計りを一時貸ししたりもしてるのさ。これはいい定期収入になるんだよ」
いろいろな商売があるものだ。
やはり聞いて見ないとわからないことは多い。私の魔法に関する知識はまだまだひよっこのようだ。自分の知識の足りなさにため息をつく私をみて、老婦人はなんだか面白そうに微笑みながら紅茶を飲んでいる。そして、やさしく私にこう言ってくれた。
「いい機会だ。なんでもお聞き。魔法道具のことなら、大抵はわかるからね」
魔法関連の素材や道具が充実したこの街には遠方からも多くの魔法使いが訪れる。また、ここに居を構える魔法使いたちへの依頼のために、この街を訪れる人々も多い。
セルツの街を散策中の私の目の前に現れた通りは、その名も〝魔術師横丁〟と言い、この街にしかない特別な場所だ。他の街ではまず見ない危険な魔法道具を専門に扱う店や魔法をかけて強化された魔法陣を護符として売る店、呪いの専門店など、魔法関連の様々な道具や仕事の店も連なっている。
「これは壮観ね。わざわざ遠くから人がやってくるのがわかるわ」
荷物持ちについてきたソーヤは、先ほどもらった大きなリンゴをバリバリ食べながら、一軒の店を指差した。
「ここなど、メイロードさまのご興味を引くものがありそうではないですか」
その店の看板には装飾的な金文字で〝高級魔法薬と最高級魔法道具の専門店 魔法使いの宝箱〟と書かれている。なかなか入りずらい感じの高級店オーラのある店構えだ。
だが、小さなショーウインドウに飾られた不思議な形の計りに私の目は釘付けになった。そこには〝計れない材料を計る計り〟と書かれていたのだ。
(これは何を計るもの?)
意味が全くわからないことが、返って私の好奇心を刺激した。
私はこの店に入ることを決め、恐る恐る大きくて重いその店の扉に手をかけた。軽やかなベルがチリンと鳴り、私はゆっくり中へ進む。店の中は明かりはついているが全体に薄暗く、いたるところに不思議な道具が置かれている。ぶつかって壊したりしないよう気をつけながら進んでいくと、そこには、たくさんの薬が保管された鍵付きのガラスケースが置かれていた。
「見てみてソーヤ《ハイパーポーション》が売っている店なんて初めてみた。でも、やっぱり《エリクサー》はないみたいね」
「ございますとも」
いつの間にか、私たちの背後に魔術師らしいローブを身にまとった老婦人が立っていた。
「うわ、びっくりした!」
《索敵》を切っていると、さすがに人の気配はわからないので、普通に驚いてしまった。
「驚かせてごめんなさいね。お嬢さんは〝エリクサー〟をお求めかい?」
その老婦人の姿は、どこからみても物語の中に出てくるやや薄気味が悪い印象の〝魔女〟そのもので、白い髪に少し曲がった背骨、そして重そうなフード付きのマントをして先の曲がった太い木の杖をついている。
「いえ、とても貴重な薬ですので、見てみたかっただけです。私、聴講生として魔法学校におりまして、今〝エリクサー〟について調べているところなので……」
老婦人は私の言葉に納得したように頷いた。
「ああ、なるほどね。学校の子だったんだね。こんな小さいのに聴講生とは、よっぽど優秀なんだねぇ。丁度暇にしていたところだ。お茶でも飲んでおいきよ。この店は、客が少ないからね」
どうやら店主だったらしい老婦人は、私を店の奥に置かれた小さなテーブル席に誘うと、かなりの高級品と思われる美しい花の絵が散りばめられたティーセットで、まだまだこの世界では貴重な紅茶を出してくれた。
「では、お茶菓子は私が出しますね」
私はマジックバッグから、おやつにしようかと思い入れておいたマドレーヌとフィナンシェ、それにチーズビスケットを取り出した。
「これはまた美味しそうな菓子だね。私も長く生きてきたが、見たことがないよ」
嬉しそうにお菓子を見る老婦人に、ソーヤが反応してしまう。
「ええ、そうでございましょうとも。メイロードさまのお作りになる至高の菓子は、イスや帝都パレスでもまだまだ高級品なのでございます。貴重なバターや生クリームといった乳製品をふんだんに使った、しっとりととろけるような食感は、この紅茶にもぴったりでございます!」
老婦人はソーヤの説明にも驚くことなく、笑っている。
「お嬢さんの妖精は随分と饒舌だね。よっぽどあなたを気に入っているらしい。たしかに、こんな美味しいものを食べさせてくれるのなら、妖精も満足なんだろうよ」
私は茶飲話をしながら、まずは気になっていたショーウインドウの〝計れない材料を計る計り〟について、聞いてみることにした。
「あれは文字通り、重さでは計ることのできないものを計る装置だよ。お嬢さんは魔法使いだから、世の中には魔力が宿った魔石というものがあることは知っているね」
「はい、もちろん知っています。少量の魔法力で起動できるため、一般の方でも使えますが、大変貴重だと聞いています」
老婦人は、ウンウンと頷く。
「その通りだよ。魔石は蓄えられた魔力……いやモノに蓄えられた場合は〝魔素〟と呼ぶ方が一般的かな。その魔素を消費して火や水を発現させるわけだけどね、当然、発現させれば蓄えられた魔素は減っていく。だが、結構な鑑定眼がないと、この減った量はわからないんだよ」
つまり《鑑定》の技術の低い魔法使いや一般の方の場合、魔石の蓄えている魔素の状況がわからないらしい。これでは、売り買いする場合、値段のつけようがないし、騙されてしまう可能性もある、ということだそうだ。
「この〝計れない材料を計る計り〟というのは、魔素の量を測れるのさ。まぁ、これ自体貴重品だけどね」
老婦人は普通のこととして説明してくれたが、私は今まで魔石の中の魔素の量について、考えたこともなかった。〝タネ石〟を魔石化するときは、満タンまで魔法力を注ぎ込めば色が変わり発光するため、それで見分けていたけれど、途中まで使った状態の魔石というものを使ったことがなかったため、気にしたこともなかったのだ。
「確かに、売ったり買ったりしたいときにも、いざ使おうとしたときにも、魔石の魔素の残量は気になりますね。気がつきませんでした」
この貴重な魔法の計りは、売るのではなく貸出やこの店での鑑定に使われているそうだ。
「送られてきた魔石をこの計りで鑑定して送り返したり、計りを一時貸ししたりもしてるのさ。これはいい定期収入になるんだよ」
いろいろな商売があるものだ。
やはり聞いて見ないとわからないことは多い。私の魔法に関する知識はまだまだひよっこのようだ。自分の知識の足りなさにため息をつく私をみて、老婦人はなんだか面白そうに微笑みながら紅茶を飲んでいる。そして、やさしく私にこう言ってくれた。
「いい機会だ。なんでもお聞き。魔法道具のことなら、大抵はわかるからね」
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