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3 魔法学校の聖人候補

405 オーライリの忠告

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405

「単刀直入に聞きます」

意を決したようなオーライリの表情に、私は

(来たか……)

という気持ちで、言葉を続けるよう促した。

「あなたはメイロード・マリスさま、なんですよね」

今日のお茶会を冷静に分析されれば、機動力、財力、料理の斬新さや美味しさ、どれも普通じゃないコトが分かってしまう可能性があった。それでも、それを私に結び付けられるのは、イス出身のオーライリだけだろうと、私も思っていた。

私の名前自体は、そう珍しくもない。〝マリス〟姓は地方貴族や功績のあった平民によく与えられる姓らしく、父のアーサー・マリスの家系がそういう家だったらしいとも聞いている。なので、基本学校ではこの平凡なマリス姓しか名乗っていないし、それでいけると思っていたけれど、親しくなればどうしてもメイロードの名を隠すことは難しくなってくる。

「違います、と言ったら、信じるの?オーライリ」

私は苦笑しながら答えた。

「うーん、それを信じるにはいささかやり過ぎたのではないですか。メイロードさま」

「だよねぇ……」

私は笑いながら頭を掻いた。

メイロード・マリスはイスでは超のつく有名人だ。サガン・サイデムに次ぐ知名度だったと思う。なので、イス出身者の多い魔法学校にいれば、いつかこういう事態になる可能性があると想定はしていた。

「じゃ、私が人前に出ることをものすごく嫌がっていたことも知ってるよね」

「はい、ですから今日まで確証がありませんでした。イスの人間でもお名前を知るだけで、お顔まで判る者はほとんどいないと思います。道でさえ見かけたという人がほとんどいませんでしたからね。本当はいないのではという〝メイロード・マリス非存在説〟も、よく噂にありました」

(まぁ、イスでは基本コソコソ隠れていたし《無限回廊の扉》もあったからね)

オーライリは、都市伝説化している私についての情報も良く知っているようだ。どうやら、正式な出版物は押さえ込んだものの、大衆向けの安い読み物には、私を題材にしたものが出回っていたらしく、伝記っぽい体裁の嘘八百な〝メイロードモノ〟の本はいろいろ出ていたらしい。

(私が興した製紙そして出版事業の普及が、こういった情報を広げているわけだから、自業自得なんだけどね)

「わずか6歳のメイロードさまが街を荒し回る50人の悪漢たちを魔法を使って一撃の下に退治し民を救った、なんていう武勇伝までは、物語にしてもさすがに信じませんでしたが、数々の善行や悪漢退治話は、たくさん読みました。もう、ワクワクしながら……」

「ああ、……そ、そう。皆んな、大げさなんだよね」

私は顔が引攣らないように気をつけながら、やんわりと否定したが、50人の盗賊のその話はほぼ事実だ。

(どこから情報が漏れたかなぁ……イスの警備隊辺りか?)

私としては、下手に隠しだてすることで話が広まるのが一番困るので、オーライリには絶対に秘密を守れるならこれからもお友達としてお付き合いをするが、そうでないなら、また身を隠すと告げた。

「大丈夫です。私、口は堅いです。むしろ、これからは学校内でバレたりしないよう防波堤になりますから、お友達でいて下さい!」

オーライリは育ちのいい優等生で、生徒会にも入っており、学内での影響力はこれから強くなっていく1年生トップクラスの人材だ。事情を知った上で味方になってくれるというのなら、確かに心強い。ちょっと〝メイロード・マリス〟に夢を見過ぎな気もするけれど、好感度が高いなら良しとしておこう。

「じゃ、対外的にはこれからも〝マリスさん〟と呼んでね。他のイスの子たちに気づかれると収拾がつかなくなりそうだから……」

オーライリは何度も頷きながら、真剣な顔だ。

「心得ました。もちろんです!」

どうやら、オーライリにとって私は子供の頃からの〝アイドル〟だったらしく、私と秘密を共有し、私を守れる立場になったことにとても感激しているようだ。

同室のトルルには、もし彼女が気づいたら話そうということに決め、それまでは2人の秘密にすることになった。少し心苦しいが、隠せる間は、少しでも隠しておきたい。

仕事の早いソーヤとセーヤが片付けを終えたところで、相談が終わった私たちも立ち上がり帰ろうとした。

「あの、最後にひとつ、お耳に入れておいたほうがいいのでは、と思うことがあるのですが……」

帰り際、オーライリがひときわ小さな声になって私にある人物のことを教えてくれた。

「2年生の生徒会副会長、アーシアン・シルベスター様にお気をつけ下さい。
どうもクローナ・サンス様をメイロード様と対立するよう仕向けたのは、あの方のようなのです」

私は、名前もよく覚えていなかった生徒会役員のことを聞かされて、驚くしかなかった。
なぜ彼がクローナ嬢をけしかけたのか、その訳にも全く想像がつかない。オーライリも、偶然耳にした会話で知ったことらしく、その時はあまり気にしていなかったそうだが、今考えれば彼はやんわりとだが明らかに、私に負けないように頑張れ、というようなことを言っていたそうだ。

「もしかしたらシルベスター様は、メイロードさまのことをご存知なのかもしれません。お気をつけになって下さい」

オーライリの言葉に頷いた私は、早速、アーシアン・シルベスターという人物について調べることにした。
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