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3 魔法学校の聖人候補
394 取材されてしまいました
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394
「まずは自己紹介させて下さいね。私はレカ、2年生です。
〝文芸クラブ〟という同好会に所属しています。文芸クラブは物語を読んだり書いたりするのが好きな人たちと、私のように事実に即した記事を書きたい人たちが混在しているクラブです。文章関連だけれど方向性が違うから、本当は別々のクラブになった方がいいのだけど、それだと人数が少なすぎて、活動費が足りなくなってしまうし、既に今でも厳しいし……ああ、これはマリスさんには関係ないですね」
どうやら、レカさん、かなりの話好きだ。
席に着いたと思ったら、話し始めて止まらない。
そこで、お茶を勧めて一息入れてもらい、私の疑問について聞くことにした。
「レカさん、どうして、今回私とクローナ・サンスさんの私的な諍いを、こんなに大きく取り上げたんですか。正直なところ、私はとても困惑しています」
私の抗議に対して、レカさんは素直に謝ってくれた。取材対象に当たりもしないうちに記事にすることには彼女を始めクラブ内でも反対の声はあったのだそうだ。だが、それでも壁新聞の存在感を見せつけるために、この記事を早く出すことが優先されてしまったのだという。
レカさんの説明によると、毎年のことだが入学時の貴族と庶民出身者の格差は圧倒的で、成績順位も貴族が常に上位。態度の大きい貴族出身者に対し、言い返すこともできない同じクラスの庶民出身者たちは、かなりストレスを溜めているのだそうだ。
「そこに、あなたが現れたワケなんですよ!」
あのグッケンス博士から許されて内弟子になり、貴族でも受からないことのある《基礎魔法講座》の達成度テストをここまで連続で一度のミスもなく通過。しかも、一度は貴族たちを抜き去っての1位。
「庶民出身の子たちは、みんな溜飲を下げているの。やっぱり魔法使いは実力、貴族でなくても上位になれるんだと希望を持ったの。あなたはその象徴なのよ、マリスさん」
(目をキラキラさせてますが、レカさん、だからってなんで私とクローナ嬢の諍いを煽るんですか?)
私の困り顔に、レカさんはキラキラの顔を引き締め、少し心苦しそうに彼女たちの事情を語り始めた。
魔法学校では〝研究会〟という魔法を研究する活動には助成金が出る。もちろん審査はあるが、顧問もつくし場所も活動費も割り当てられているという。
だが、魔法に関わらない活動には一切の学校の支援がない。
「演劇や楽器の演奏関連の活動は、潤沢な活動費のある〝社交クラブ〟から、自分たちの主催するパーティーなどで披露することを条件に資金援助を受けているから、それなりにしっかりとした活動ができているけれど、それ以外はどこも本当に厳しいんです。文芸クラブなんて、本当にインクひとつ買うのも大変なんです」
そこで、起死回生の方法として文芸部は壁新聞から有料の手売り新聞へと移行しようという動きになったのだそうだ。以前と違い、紙がずっと買いやすくなっているため、一番安い紙ならばなんとか調達でき、印刷もレカ先輩が《火魔法》を応用した焼き付けのような技法を使うことで、黒の一色刷りなら《複写》することができるという。
この方法で、なんとか活動費を捻出し、もっと自由な取材活動がしたい、貧困に喘ぐクラブを救いたい、と熱弁を振るうレカセンパイ……その気持ちはとてもよく分かるが、だからといって、この現状は看過できない。
「つまり〝新聞〟を買ってもらうための、手っ取り早くみんなの関心を買うことのできる目玉にされた、ってことですよね」
「そうです。申し訳ないですが、その通りです。できれば、こんな売り方はしたくはないのですが、このままだと〝文芸クラブ〟の活動そのものができなくなってしまうんです。無理を承知でお願いします。ご協力頂けませんか!」
レカさん物凄い圧で、しかも涙目で私の手を握り締めてきた。
彼らが、今までいい記事を作ろうと真面目に取り組んでいたことは知っているし、彼らの追い詰められた現状も把握した。だが、このまま放置すれば、彼らがこれから記事を売るために、更に煽り記事を量産する方向に向かうのは間違いないだろう。それは、彼らにとってもいいことではないはずだし、少なくともレカさんは本当には望んでいないと分かった。
「お話は分かりました」
「え!では、ご協力頂けるんですか!!」
「いえ、この記事は取り下げて頂きます。これ以上、この件を煽ることもやめて頂きます」
私の言葉に混乱したレカさんは、取材のためのメモ帳を片手に固まっている。
私は勢いで立ち上がったまま、どうしてどうしていいのか分からなくなっているレカ先輩に、落ち着いて話しましょうと、席を勧めた。
そしてバスケットから取り出した美しい鈴蘭の描かれたティーカップに、色鮮やかな薄紫のハーブティーを注ぎ、二色のマドレーヌとともに彼女の前に差し出した。
ちなみに、《水出》も《火出》も使える魔法使いは、どこでもお湯ぐらい沸かせる。
私はそれに《流風》 を加えた3つの魔法を並列処理して、熱湯の水球を作り出しポットへ送り込んでお茶を入れた。
「すごいわね。習い始めたばかりのはずなのに、もうそんな高度な使い方ができるのね」
「家事魔法は得意なんですよ。〝お掃除魔法少女〟ですからね」
私は、なるべく余裕そうに見えるように、ゆっくりとした動作でお茶を飲んでから、改めてレカさんへ目を向けた。
「クラブ活動の予算を取りましょう。それで、万事解決ですよね、レカ先輩?」
「まずは自己紹介させて下さいね。私はレカ、2年生です。
〝文芸クラブ〟という同好会に所属しています。文芸クラブは物語を読んだり書いたりするのが好きな人たちと、私のように事実に即した記事を書きたい人たちが混在しているクラブです。文章関連だけれど方向性が違うから、本当は別々のクラブになった方がいいのだけど、それだと人数が少なすぎて、活動費が足りなくなってしまうし、既に今でも厳しいし……ああ、これはマリスさんには関係ないですね」
どうやら、レカさん、かなりの話好きだ。
席に着いたと思ったら、話し始めて止まらない。
そこで、お茶を勧めて一息入れてもらい、私の疑問について聞くことにした。
「レカさん、どうして、今回私とクローナ・サンスさんの私的な諍いを、こんなに大きく取り上げたんですか。正直なところ、私はとても困惑しています」
私の抗議に対して、レカさんは素直に謝ってくれた。取材対象に当たりもしないうちに記事にすることには彼女を始めクラブ内でも反対の声はあったのだそうだ。だが、それでも壁新聞の存在感を見せつけるために、この記事を早く出すことが優先されてしまったのだという。
レカさんの説明によると、毎年のことだが入学時の貴族と庶民出身者の格差は圧倒的で、成績順位も貴族が常に上位。態度の大きい貴族出身者に対し、言い返すこともできない同じクラスの庶民出身者たちは、かなりストレスを溜めているのだそうだ。
「そこに、あなたが現れたワケなんですよ!」
あのグッケンス博士から許されて内弟子になり、貴族でも受からないことのある《基礎魔法講座》の達成度テストをここまで連続で一度のミスもなく通過。しかも、一度は貴族たちを抜き去っての1位。
「庶民出身の子たちは、みんな溜飲を下げているの。やっぱり魔法使いは実力、貴族でなくても上位になれるんだと希望を持ったの。あなたはその象徴なのよ、マリスさん」
(目をキラキラさせてますが、レカさん、だからってなんで私とクローナ嬢の諍いを煽るんですか?)
私の困り顔に、レカさんはキラキラの顔を引き締め、少し心苦しそうに彼女たちの事情を語り始めた。
魔法学校では〝研究会〟という魔法を研究する活動には助成金が出る。もちろん審査はあるが、顧問もつくし場所も活動費も割り当てられているという。
だが、魔法に関わらない活動には一切の学校の支援がない。
「演劇や楽器の演奏関連の活動は、潤沢な活動費のある〝社交クラブ〟から、自分たちの主催するパーティーなどで披露することを条件に資金援助を受けているから、それなりにしっかりとした活動ができているけれど、それ以外はどこも本当に厳しいんです。文芸クラブなんて、本当にインクひとつ買うのも大変なんです」
そこで、起死回生の方法として文芸部は壁新聞から有料の手売り新聞へと移行しようという動きになったのだそうだ。以前と違い、紙がずっと買いやすくなっているため、一番安い紙ならばなんとか調達でき、印刷もレカ先輩が《火魔法》を応用した焼き付けのような技法を使うことで、黒の一色刷りなら《複写》することができるという。
この方法で、なんとか活動費を捻出し、もっと自由な取材活動がしたい、貧困に喘ぐクラブを救いたい、と熱弁を振るうレカセンパイ……その気持ちはとてもよく分かるが、だからといって、この現状は看過できない。
「つまり〝新聞〟を買ってもらうための、手っ取り早くみんなの関心を買うことのできる目玉にされた、ってことですよね」
「そうです。申し訳ないですが、その通りです。できれば、こんな売り方はしたくはないのですが、このままだと〝文芸クラブ〟の活動そのものができなくなってしまうんです。無理を承知でお願いします。ご協力頂けませんか!」
レカさん物凄い圧で、しかも涙目で私の手を握り締めてきた。
彼らが、今までいい記事を作ろうと真面目に取り組んでいたことは知っているし、彼らの追い詰められた現状も把握した。だが、このまま放置すれば、彼らがこれから記事を売るために、更に煽り記事を量産する方向に向かうのは間違いないだろう。それは、彼らにとってもいいことではないはずだし、少なくともレカさんは本当には望んでいないと分かった。
「お話は分かりました」
「え!では、ご協力頂けるんですか!!」
「いえ、この記事は取り下げて頂きます。これ以上、この件を煽ることもやめて頂きます」
私の言葉に混乱したレカさんは、取材のためのメモ帳を片手に固まっている。
私は勢いで立ち上がったまま、どうしてどうしていいのか分からなくなっているレカ先輩に、落ち着いて話しましょうと、席を勧めた。
そしてバスケットから取り出した美しい鈴蘭の描かれたティーカップに、色鮮やかな薄紫のハーブティーを注ぎ、二色のマドレーヌとともに彼女の前に差し出した。
ちなみに、《水出》も《火出》も使える魔法使いは、どこでもお湯ぐらい沸かせる。
私はそれに《流風》 を加えた3つの魔法を並列処理して、熱湯の水球を作り出しポットへ送り込んでお茶を入れた。
「すごいわね。習い始めたばかりのはずなのに、もうそんな高度な使い方ができるのね」
「家事魔法は得意なんですよ。〝お掃除魔法少女〟ですからね」
私は、なるべく余裕そうに見えるように、ゆっくりとした動作でお茶を飲んでから、改めてレカさんへ目を向けた。
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