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3 魔法学校の聖人候補

368 古代の失われた魔法

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ここは魔法学校だが、授業は魔法関連だけに留まらない。

貴族のように家庭教師に学んだり、お金のかかる私立学校で教育を受けてきた者ばかりではないので、それに準ずる基礎知識の教育も受けられるようになっている。

考えてみればそれだけでも、庶民と貴族の入学時の格差は歴然としており、貴族有利のスタートと言える。
だが、そういった庶民の子供には教わる機会の少ない教育が受けられるだけでも、魔法学校が重要で意味がある教育機関になっていることは確かだ。たとえ魔法使いへの道が断たれても、ここで受けた教育は彼らにより良い仕事を与えることになるし、彼らの中には各省庁の重要な仕事に就く者も多い。

結局、自分の作ったシラン村の学校にもほとんど行くことができなかった私は、まずは、そういった基礎教育授業から受けてみることにした。

今の私の〝世話係兼内弟子〟というポジションは特殊だ。
基本的にの仕事が優先されるため、授業の準備や研究の助手、そして生活の世話が優先される。だから普通に入学してきた子たちのように所謂クラス単位で設定されている授業には縛られないのだ。最終的に必要な単位を取得し、試験に受かれば卒業となる、大学生のような学生生活となる。

これは〝世話係兼内弟子〟というポジションが、仕事をしながら授業も受けなければならない多忙な存在だからだ。
聞いたところでは、人使いの荒い教授や論文のための研究に追われる教授についた内弟子は、かなり体力的にキツイ思いをするという。

私の場合、魔法に加えセーヤとソーヤのサポートも受けられるので、今のところ体力的な問題は大丈夫そうだ。グッケンス博士との研究も、以前から時々していたことなので、勝手は分かっているし、博士は基本的に家事以外は私に何かさせたりはしないし……

(博士には感謝だね!)

さて、この学校では、現代文及び古文解釈と数学、そして科学の授業は必須。どれも魔法には欠かせないもので、古い文献を読み込んでそこから新しい魔法を創造したり、必要な魔法量や場合によっては必要な薬を調合したりするための計算も、やらずには済まされない重要な学問だ。科学に関しては私の知るものとは趣が違うようだが、これもまた必須の知識となる。

有難い恩恵のおかげで、私はこの世界の言語は何でも読み書きできる(と思われる)のだが、古文の解釈となるとさすがに自信がなく、それに普段触れる機会のないこういったアカデミックな分野を、ぜひ勉強したいと思った。

授業はクラス単位で受けている学生の授業に滑り込んで受けていく。なので、私は、聴講生として目立たぬよう一番後ろの席で、そっと授業を聞くことにしている。
今も定位置でノートを広げ、授業を受けているところだ。

先生の名前はシベール・ロキ教授。古代イルガン語の権威で、この学校内にある魔法図書館の館長も務めている女性だ。とてもお綺麗な方だが、年齢はよく分からない。魔法使いには、色々と秘術があるそうで、特に判りにくいそうだ。見た目は30代前半ぐらいに見えるけれど、女性の年齢を詮索するのは失礼な気がするので、そこはあまり突っ込まないでおこう。

現在のイルガン大陸3強国、シド帝国、ロームバルト王国、キルム王国、が成立するかなり以前、イルガン大陸には小国が乱立していた。その時期の言語は地域によって独自に発達。特に文書は、木簡、羊皮紙、古くは石版などに刻まれてきたが、とても地域差があり、今は失われた言語も多く、その解読は非常に難しいとされている。

魔法に関する情報は、古代から重要と考えられており多くの文書が残されているものの、古い資料の解読は困難で殆どが未だ手付かず、研究者も少ないため、今も細々と研究が続いているそうだ。

「文字としてはっきり魔法使いが登場するのは、今から6300年前の文献です」

ロキ教授が解読した資料に登場するのは、《治癒師ヒーラー》もしくは《聖魔法》古代では《白魔法》と呼ばれていた治癒系の魔法を使う人物で、伝説の英雄を救った偉人として登場するという。

「妖精の存在はもっとずっと古いのですが、ここでは妖精ではなく〝人〟と記述されており、人が治癒の魔法を使った最初の例ですね。残念ですが、この古代の《白魔法》は今では途絶えており、《ポーション》を始めとする魔法薬にその技術の一端を残すだけです。せめて《聖魔法》について詳しい術者が研究に参加してくれたら、もう少し解析が進む可能性がありますが、それは更に難しいでしょうね……」

どうやら人が《聖魔法》を使えることは、かなり珍しいらしい。

そういえば、わたしが《聖魔法》を使えるようになったのも、《全属性適正》を持つ私が全ての《基礎魔法》を覚えたことにより得られた《完全なる礎》という称号があったからだった。

(これってレアどころの騒ぎじゃない称号なのかも……)

「現在教会には、何人か《聖魔法》が使える方が確認はされています。ですが、彼らは俗世に戻ればその〝聖性〟を失うと信じており、また教会もその力は〝神のためにのみ使われるべきである〟という立場を貫いているので、研究への協力を得られる見込みがなく、大変残念ですが、この研究は停滞中です」

ロキ先生は本当に残念そうに、資料に目を落とした。

確かに研究が進み《白魔法》が復活すれば、薬がなくとも助けられる命が増える。魔法使いにも新しい職が増えるだろう。

(でも、これを最も必要とするのは軍部だよね。一番《白魔法》の復活を望んでいるのは、あの人達のはず……)

これは下手に関わったらまずい研究の予感がものすごくするが《白魔法》は大変興味深い。
もう少し深い内容が知りたいところだが、ロキ教授に突撃するのは得策じゃないだろう。

私は、個人的な〝自由研究〟のため、まずは、魔法図書館を当たってみることにした。
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