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2 海の国の聖人候補
332 新貴族のお披露目
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332
おじさまから〝ちょっと戻って来れないか〟という要請が来たのは、味噌蔵騒動が収まった数日後。
おじさまは皇室とも直接取引できるいわゆる〝御用商人〟と認められ、それに伴って必要とされる爵位を賜った。これは有難く受け取ればそれで済むものではなく、新参者はご挨拶のためのパーティーを大々的にしないといけないらしい。
しかもこのパーティー、サイデムおじさまの推挙に尽力して頂いた方への御礼の意味もあるため、ドール侯爵家の皆さまはもとより、なんと正妃リアーナ様までご臨席されるという、VIPだらけ確定のものになる。
「どちらの方々も、暗に〝メイロードに会いたい〟って伝えてきているんだ。なんとかならんか。
それに、もうひとつ、お前にしか頼めない面倒事がある」
〝伝令〟でそう伝えてきたおじさま。
(行くのはやぶさかではないけれど、これはそのパーティを仕切れと暗に言ってるよね。
しかも皇后様までいらっしゃる格式高いパーティーですか。荷が重い、メンドくさいぃ)
なんと伝令を返そうか唸っている私の横でセイリュウが口を出す。
「もうひとつの面倒事の方が、ちょっと気にかかるけどね。伝令でも伝えづらいぐらい込み入っているか、もしくは機密性が高いか、その両方かもね。でも、わざわざご指名ってことは、かなり切迫してそうじゃない?」
おそらくセイリュウの読み通りなのだろう。色々な面倒ごとが待っている予感しかしないが、行くしかないようだ。
私はため息をついた後、《伝令》の準備をした。
「了解です。なるべく早く戻ります。セイツェさんにご協力頂いてサイデム商会の催事部門にパーティーまでの進行表と当日のタイムスケジュールを練ってもらって下さい。時間がないので、とにかく準備は前倒しで!後は行ってから話を聞きます」
私は魔力を込めて伝令の鳥を放つ。さて、次はパレスでお仕事らしい。
ーーー
久々にやってきたパレスのサイデム商会は、間口が以前見たときの倍以上になっていた。
しかもその広いフロアはどこも盛況で、高級品ばかりのはずなのにかなりの人が買い物を楽しんでいる。
やっと、品切れの心配がなくなった薔薇水も相変わらず人気の様子だ。
私はお嬢様然としている方が目立たなそうなので、ゆっくり買い物しているかのように店内を進み事務所への階段を登った。そこからは顔見知りの秘書さんに案内してもらい、執務室へたどり着く。
声をかけてからドアを開けると、相変わらず素晴らしい姿勢のセイツェさんと机の上で頭を抱えながら何かを書いているおじさまがいた。
「よろしいですか。サイデム様も貴族となられたからには、今までのようなボンヤリとした覚え方では済まされません。きっちりすべて覚えて頂かねば、パーティーどころではございませんよ!」
「分かってるって!だからやってるだろ。ああ、しちめんどくせぇ……」
おそらく、おじさまは貴族たちの階級と構成が書かれた資料を読み込み中。所謂〝紳士録〟というやつだ。
会場に御出でになる方々の敬称でもまちがえようものなら大変なことになるのだし、ここはセイツェさんに、シゴいてもらうしかないのだろう。
(頑張れ、おじさま)
セイツェさんが、入ってきた私に気づき礼を取る。
「これはこれは、メイロードさま。
遠いところをご足労頂き申し訳ございません。
本来ならば今回の事も、私共の催事部が全て執り行うべきなのですが、皆ここまで大規模で格の高い催事は初めてなものですございますから、不安がっておりましてね。
サイデム様もこの通りですし、指揮官不在なのでございます」
おじさまは私が入ってきたことは分かっているくせに、お勉強中のフリをする。
「貴族になられた事を示しご挨拶する大切な催しですものね。では、私は食事や演出についてご相談に乗りましょう。プランの叩き台は出来ていますか?」
セイツェさんは、私が座ったソファーの前のテーブルにドンと資料を積み上げてくれた。
「既に先触れの方は済んでおります。
正式な招待状の発送も本日完了致しました。未だ場所が決まっておりませんので、今回は会場通知は、後日とさせて頂いております。
会場につきましては、いくつか候補がそちらに上がっておりますので、最終判断を頂きました後、すぐに内装に入ります。
すでに当方には出席の返信と共に贈り物や花も届き始めております。
この様子ですと、欠席される方はごくわずか、ほぼ全員出席と思われますので約3000名規模になりそうです。
「3000……ですか?多すぎません?」
どうやらこの類の祝賀の宴は、失礼のないよう、ともかく出来る限り招待状を送るのだそうだ。
通常の場合、双方時間もお金もかかるこの類の披露のお誘いは、お祝いの品や花だけで出席しない者が多く、関係性の濃い方々、そしてこれから関係性を濃くしたい方々だけが出席するものだそうだ。
3000の招待状で、5-600多くて1000名程度らしい。それでも十分多いのだが、今回は全く欠席の連絡がないのだそうだ。
「こう言ってはなんですが、サイデム様がなられたのは、一番爵位も低い男爵、しかも相続権のない一代伯でございます。多くの貴族たちにしてみれば、全く出席の必要はないのです。通常であれば、300名ほどの会場で十分なはずなのですよ」
だが、今回は違った。
最初から侯爵家、そして皇家の正妃が出席すると決まっているという異例の宴。
そして、新たな〝皇室の代理人〟の誕生。
もはや伝説と化したあの婚約式を仕切った催事のプロの全面プロデュースとの噂。
何者なのか見てみたいという思いは貴族たちも一緒のようで、新貴族サガン・サイデムに興味津々なのだ。
それにしても3000名ですか。
私は頭を抱えつつ、勉強で唸るおじさまの横で資料を睨み始めた。
(せっかくの晴れ舞台、なんとか成功させなきゃね)
おじさまから〝ちょっと戻って来れないか〟という要請が来たのは、味噌蔵騒動が収まった数日後。
おじさまは皇室とも直接取引できるいわゆる〝御用商人〟と認められ、それに伴って必要とされる爵位を賜った。これは有難く受け取ればそれで済むものではなく、新参者はご挨拶のためのパーティーを大々的にしないといけないらしい。
しかもこのパーティー、サイデムおじさまの推挙に尽力して頂いた方への御礼の意味もあるため、ドール侯爵家の皆さまはもとより、なんと正妃リアーナ様までご臨席されるという、VIPだらけ確定のものになる。
「どちらの方々も、暗に〝メイロードに会いたい〟って伝えてきているんだ。なんとかならんか。
それに、もうひとつ、お前にしか頼めない面倒事がある」
〝伝令〟でそう伝えてきたおじさま。
(行くのはやぶさかではないけれど、これはそのパーティを仕切れと暗に言ってるよね。
しかも皇后様までいらっしゃる格式高いパーティーですか。荷が重い、メンドくさいぃ)
なんと伝令を返そうか唸っている私の横でセイリュウが口を出す。
「もうひとつの面倒事の方が、ちょっと気にかかるけどね。伝令でも伝えづらいぐらい込み入っているか、もしくは機密性が高いか、その両方かもね。でも、わざわざご指名ってことは、かなり切迫してそうじゃない?」
おそらくセイリュウの読み通りなのだろう。色々な面倒ごとが待っている予感しかしないが、行くしかないようだ。
私はため息をついた後、《伝令》の準備をした。
「了解です。なるべく早く戻ります。セイツェさんにご協力頂いてサイデム商会の催事部門にパーティーまでの進行表と当日のタイムスケジュールを練ってもらって下さい。時間がないので、とにかく準備は前倒しで!後は行ってから話を聞きます」
私は魔力を込めて伝令の鳥を放つ。さて、次はパレスでお仕事らしい。
ーーー
久々にやってきたパレスのサイデム商会は、間口が以前見たときの倍以上になっていた。
しかもその広いフロアはどこも盛況で、高級品ばかりのはずなのにかなりの人が買い物を楽しんでいる。
やっと、品切れの心配がなくなった薔薇水も相変わらず人気の様子だ。
私はお嬢様然としている方が目立たなそうなので、ゆっくり買い物しているかのように店内を進み事務所への階段を登った。そこからは顔見知りの秘書さんに案内してもらい、執務室へたどり着く。
声をかけてからドアを開けると、相変わらず素晴らしい姿勢のセイツェさんと机の上で頭を抱えながら何かを書いているおじさまがいた。
「よろしいですか。サイデム様も貴族となられたからには、今までのようなボンヤリとした覚え方では済まされません。きっちりすべて覚えて頂かねば、パーティーどころではございませんよ!」
「分かってるって!だからやってるだろ。ああ、しちめんどくせぇ……」
おそらく、おじさまは貴族たちの階級と構成が書かれた資料を読み込み中。所謂〝紳士録〟というやつだ。
会場に御出でになる方々の敬称でもまちがえようものなら大変なことになるのだし、ここはセイツェさんに、シゴいてもらうしかないのだろう。
(頑張れ、おじさま)
セイツェさんが、入ってきた私に気づき礼を取る。
「これはこれは、メイロードさま。
遠いところをご足労頂き申し訳ございません。
本来ならば今回の事も、私共の催事部が全て執り行うべきなのですが、皆ここまで大規模で格の高い催事は初めてなものですございますから、不安がっておりましてね。
サイデム様もこの通りですし、指揮官不在なのでございます」
おじさまは私が入ってきたことは分かっているくせに、お勉強中のフリをする。
「貴族になられた事を示しご挨拶する大切な催しですものね。では、私は食事や演出についてご相談に乗りましょう。プランの叩き台は出来ていますか?」
セイツェさんは、私が座ったソファーの前のテーブルにドンと資料を積み上げてくれた。
「既に先触れの方は済んでおります。
正式な招待状の発送も本日完了致しました。未だ場所が決まっておりませんので、今回は会場通知は、後日とさせて頂いております。
会場につきましては、いくつか候補がそちらに上がっておりますので、最終判断を頂きました後、すぐに内装に入ります。
すでに当方には出席の返信と共に贈り物や花も届き始めております。
この様子ですと、欠席される方はごくわずか、ほぼ全員出席と思われますので約3000名規模になりそうです。
「3000……ですか?多すぎません?」
どうやらこの類の祝賀の宴は、失礼のないよう、ともかく出来る限り招待状を送るのだそうだ。
通常の場合、双方時間もお金もかかるこの類の披露のお誘いは、お祝いの品や花だけで出席しない者が多く、関係性の濃い方々、そしてこれから関係性を濃くしたい方々だけが出席するものだそうだ。
3000の招待状で、5-600多くて1000名程度らしい。それでも十分多いのだが、今回は全く欠席の連絡がないのだそうだ。
「こう言ってはなんですが、サイデム様がなられたのは、一番爵位も低い男爵、しかも相続権のない一代伯でございます。多くの貴族たちにしてみれば、全く出席の必要はないのです。通常であれば、300名ほどの会場で十分なはずなのですよ」
だが、今回は違った。
最初から侯爵家、そして皇家の正妃が出席すると決まっているという異例の宴。
そして、新たな〝皇室の代理人〟の誕生。
もはや伝説と化したあの婚約式を仕切った催事のプロの全面プロデュースとの噂。
何者なのか見てみたいという思いは貴族たちも一緒のようで、新貴族サガン・サイデムに興味津々なのだ。
それにしても3000名ですか。
私は頭を抱えつつ、勉強で唸るおじさまの横で資料を睨み始めた。
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