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2 海の国の聖人候補
325 魔法使いの奇襲
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325
「やっぱり、来ちゃいましたね……」
《迷彩魔法》で隠れつつ、味噌蔵の屋根の上から辺りを見渡し、私はため息をつく。
そんな私の様子に、横にいるセイリュウは肩をすくめている。
私もセイリュウも共に好戦的な性格ではないので、ふたりでちょっと困ったような顔になっていた。
だが、気が進もうと進むまいと、彼らの攻撃は断固排除する、この決意は固い。
今回は私が敵の攻撃に対応する役回りなので、セイリュウが聖なる《白魔法》で味噌蔵のための《保護結界》を維持してくれる。
私もガッチリ今回の魔法の修練は積んできたので、敵の攻撃を着弾させてやる気はないけれど、100パーセント敵の動きが読めるとは限らないので、保険のためお願いした。セイリュウのおかげで、敵に集中して対峙できるというものだ。
《索敵》であちらの位置は捕捉済み。魔法使いとそのお付と監視役含め、6人の従者がいるようだ。
ソーヤとセーヤの内偵調査で、魔法使いの名はべーダ・ライだと既に分かっている。
ここではただ〝ベーダ〟と名乗っていたが、相手についてソーヤたちが調査後、私もコッソリ《鑑定》で確認したので間違いない。
彼についての情報もすでに収集済みだ。
魔法学校を中の上の成績で卒業後、国家魔術師となるも戦役で負傷。右目を失ったため、退役。
持っている属性は火と風。特に業火を操る攻撃魔法の使い手で、なかなかの実力とのこと。
以上、グッケンス博士からの情報。
その後はエスライ・タガローサの専属魔法使いのひとりとなったようだ。
タガローサは金にあかせて、このような人物を複数抱えているそうで、ポジションとしては用心棒のようなものらしい。
今回の仕事は、タガローサを守るという契約のはずだったべーダ・ライ自身は気が進まないようだったが、だからといって高額の契約料を受け取り普段ほとんど遊ばせてもらっている身では、タガローサの命令には逆らえず沿海州までやってきた。そのせいなのか、こちらに着いてからは始終機嫌が悪い。
(そりゃそうだよね、用心棒として契約したはずが、犯罪に加担させられそうになっているんだから……)
以上、セーヤがパレスと東の蔵周辺で入手してきた魔法使いべーダ・ライに関する情報。相変わらずの凄腕だ。
ベザサールたちは、かなり時間をかけて、この襲撃計画を準備していた。
特にべーダ・ライが恐れていたのは、もし発覚すれば極刑が待っている一般人へ直接攻撃。
それを回避し西の味噌蔵に大きなダメージを与える作戦として、話し合いの末、深夜の放火という方向でまとまったそうだ。
(まとまらなくてもいいのに……)
味噌蔵周辺に人が一番少ない時間を狙い、味噌だけダメにできればよし、ということのようだ。
ちなみに彼らの筋書きでは
この西ノ森に大きな落雷、それにより蔵のすぐ近くで小規模な森林火災が発生する。
(実際は、彼らが小さな山火事を蔵の近くで起こす)
その火の粉が飛び、偶然味噌蔵の屋根に引火、不幸なことに大きく燃え広がり味噌蔵は全焼。
完成間際の味噌もすべてダメになり、蔵も崩壊。
不運な事故に見舞われてお気の毒……
という予定らしい。
(何がお気の毒だ!あなたたちの楽しそうな悪巧み会議は、全部ソーヤが聞いてたっちゅーの!)
まぁ、こんな感じで色々筒抜けだったので、そのうち来るんだろうな、とは思っていた。
思ったより時期が遅かったのは、タガローサから〝より西の蔵にダメージを与えたいので、出来上がる寸前を狙え〟という指示があったからだそうだ。
(素晴らしい性格ですね、呆れる)
ありがたいことに、この放火計画の成功を毛筋ほども疑っていない彼らのおかげで、西の森の巨大味噌蔵は、この日まで何の問題も起こらず、妨害工作も受けず、極めて順調に運営されてきた。もちろん味噌の状態も上々。
そして、彼らの東の味噌蔵がかなり悲惨な状況であることも、報告を受けている。
そもそも味噌のために必要な菌が住んでいない〝新しい蔵〟を立てている時点で間違っていることに気付かないのだから困ったものだ。
彼らに呼ばれた職人たちの中には、新しい蔵には古い蔵から木材を持ってきてやらないと〝味噌の神様が臍を曲げる〟という職人としての経験に裏打ちされた非常に有益な助言をし、一部移築を進言した方もいたそうだが、
〝そんなことをしていたら、また工期が伸びるではないか!!〟
っと、既にかなりの高額を支払って建築資材の手配を終えていたベザサールによって一蹴されたそうだ。
それによって、成功するかもしれない可能性の細い糸も自ら切ってしまったのだが、彼らがそれに気づくことはないだろう。
種麹もなく蔵付きの麹の力すら借りられず、この状況で味噌を作るのはかなり確率の低い賭けだ。
もうすでに彼らの味噌の半分は使い物にならなくなっているだろう。
(それでも、私たちが味噌を輸出できなくなれば、それでなんとかなると思っているわけだ……本当に困った人たち)
東の味噌蔵の状況を憂いつつ、先ほどより少し《索敵》範囲を広げると、近くの森に人の姿が確認できた。どうやら、そこにある無人の小屋に火を着けるつもりのようだ。発火を促進するためなのか、小屋の中には事前に準備したのだろう火の着きやすそうな枯れ枝と薪がぎっしり。
やがて、合図なのだろうか、鳥の鳴くような声がした。
その直後、小屋の方向で《雷の魔石》を使った一撃の雷鳴が轟いた。この大きさの雷鳴を出すほど一気に反応させるにはそれなりに魔法力がいるようで、沿海州の人間には適任がおらず、その役目はベザサールがしていた。
魔石を使用後、今度はきっちり小屋の中の木材に火を着け、ベザサールは脱兎のごとくその場を逃げ出す。
(放火の現行犯……だよね。捕まえておきますか)
〔ソーヤ、セーヤ、それ捕まえておいてくれる?〕
〔もう捕まえました。とりあえず転がしておきますね〕
〔ありがとう。助かったわ〕
(仕事早いな、相変わらず)
ちょっと笑いそうになったところで、小屋から火の手が上がるのが目視できた。
それと同時に、べーダ・ライのいる方向にも明るい炎の色が浮かぶ。
本当に攻撃してくる気のようだ。
(ならば、受けて立ちましょう!来い!)
「やっぱり、来ちゃいましたね……」
《迷彩魔法》で隠れつつ、味噌蔵の屋根の上から辺りを見渡し、私はため息をつく。
そんな私の様子に、横にいるセイリュウは肩をすくめている。
私もセイリュウも共に好戦的な性格ではないので、ふたりでちょっと困ったような顔になっていた。
だが、気が進もうと進むまいと、彼らの攻撃は断固排除する、この決意は固い。
今回は私が敵の攻撃に対応する役回りなので、セイリュウが聖なる《白魔法》で味噌蔵のための《保護結界》を維持してくれる。
私もガッチリ今回の魔法の修練は積んできたので、敵の攻撃を着弾させてやる気はないけれど、100パーセント敵の動きが読めるとは限らないので、保険のためお願いした。セイリュウのおかげで、敵に集中して対峙できるというものだ。
《索敵》であちらの位置は捕捉済み。魔法使いとそのお付と監視役含め、6人の従者がいるようだ。
ソーヤとセーヤの内偵調査で、魔法使いの名はべーダ・ライだと既に分かっている。
ここではただ〝ベーダ〟と名乗っていたが、相手についてソーヤたちが調査後、私もコッソリ《鑑定》で確認したので間違いない。
彼についての情報もすでに収集済みだ。
魔法学校を中の上の成績で卒業後、国家魔術師となるも戦役で負傷。右目を失ったため、退役。
持っている属性は火と風。特に業火を操る攻撃魔法の使い手で、なかなかの実力とのこと。
以上、グッケンス博士からの情報。
その後はエスライ・タガローサの専属魔法使いのひとりとなったようだ。
タガローサは金にあかせて、このような人物を複数抱えているそうで、ポジションとしては用心棒のようなものらしい。
今回の仕事は、タガローサを守るという契約のはずだったべーダ・ライ自身は気が進まないようだったが、だからといって高額の契約料を受け取り普段ほとんど遊ばせてもらっている身では、タガローサの命令には逆らえず沿海州までやってきた。そのせいなのか、こちらに着いてからは始終機嫌が悪い。
(そりゃそうだよね、用心棒として契約したはずが、犯罪に加担させられそうになっているんだから……)
以上、セーヤがパレスと東の蔵周辺で入手してきた魔法使いべーダ・ライに関する情報。相変わらずの凄腕だ。
ベザサールたちは、かなり時間をかけて、この襲撃計画を準備していた。
特にべーダ・ライが恐れていたのは、もし発覚すれば極刑が待っている一般人へ直接攻撃。
それを回避し西の味噌蔵に大きなダメージを与える作戦として、話し合いの末、深夜の放火という方向でまとまったそうだ。
(まとまらなくてもいいのに……)
味噌蔵周辺に人が一番少ない時間を狙い、味噌だけダメにできればよし、ということのようだ。
ちなみに彼らの筋書きでは
この西ノ森に大きな落雷、それにより蔵のすぐ近くで小規模な森林火災が発生する。
(実際は、彼らが小さな山火事を蔵の近くで起こす)
その火の粉が飛び、偶然味噌蔵の屋根に引火、不幸なことに大きく燃え広がり味噌蔵は全焼。
完成間際の味噌もすべてダメになり、蔵も崩壊。
不運な事故に見舞われてお気の毒……
という予定らしい。
(何がお気の毒だ!あなたたちの楽しそうな悪巧み会議は、全部ソーヤが聞いてたっちゅーの!)
まぁ、こんな感じで色々筒抜けだったので、そのうち来るんだろうな、とは思っていた。
思ったより時期が遅かったのは、タガローサから〝より西の蔵にダメージを与えたいので、出来上がる寸前を狙え〟という指示があったからだそうだ。
(素晴らしい性格ですね、呆れる)
ありがたいことに、この放火計画の成功を毛筋ほども疑っていない彼らのおかげで、西の森の巨大味噌蔵は、この日まで何の問題も起こらず、妨害工作も受けず、極めて順調に運営されてきた。もちろん味噌の状態も上々。
そして、彼らの東の味噌蔵がかなり悲惨な状況であることも、報告を受けている。
そもそも味噌のために必要な菌が住んでいない〝新しい蔵〟を立てている時点で間違っていることに気付かないのだから困ったものだ。
彼らに呼ばれた職人たちの中には、新しい蔵には古い蔵から木材を持ってきてやらないと〝味噌の神様が臍を曲げる〟という職人としての経験に裏打ちされた非常に有益な助言をし、一部移築を進言した方もいたそうだが、
〝そんなことをしていたら、また工期が伸びるではないか!!〟
っと、既にかなりの高額を支払って建築資材の手配を終えていたベザサールによって一蹴されたそうだ。
それによって、成功するかもしれない可能性の細い糸も自ら切ってしまったのだが、彼らがそれに気づくことはないだろう。
種麹もなく蔵付きの麹の力すら借りられず、この状況で味噌を作るのはかなり確率の低い賭けだ。
もうすでに彼らの味噌の半分は使い物にならなくなっているだろう。
(それでも、私たちが味噌を輸出できなくなれば、それでなんとかなると思っているわけだ……本当に困った人たち)
東の味噌蔵の状況を憂いつつ、先ほどより少し《索敵》範囲を広げると、近くの森に人の姿が確認できた。どうやら、そこにある無人の小屋に火を着けるつもりのようだ。発火を促進するためなのか、小屋の中には事前に準備したのだろう火の着きやすそうな枯れ枝と薪がぎっしり。
やがて、合図なのだろうか、鳥の鳴くような声がした。
その直後、小屋の方向で《雷の魔石》を使った一撃の雷鳴が轟いた。この大きさの雷鳴を出すほど一気に反応させるにはそれなりに魔法力がいるようで、沿海州の人間には適任がおらず、その役目はベザサールがしていた。
魔石を使用後、今度はきっちり小屋の中の木材に火を着け、ベザサールは脱兎のごとくその場を逃げ出す。
(放火の現行犯……だよね。捕まえておきますか)
〔ソーヤ、セーヤ、それ捕まえておいてくれる?〕
〔もう捕まえました。とりあえず転がしておきますね〕
〔ありがとう。助かったわ〕
(仕事早いな、相変わらず)
ちょっと笑いそうになったところで、小屋から火の手が上がるのが目視できた。
それと同時に、べーダ・ライのいる方向にも明るい炎の色が浮かぶ。
本当に攻撃してくる気のようだ。
(ならば、受けて立ちましょう!来い!)
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