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2 海の国の聖人候補
311 説教タイム
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311
「待たせたな。なんだ、あんまり変わってないな。もう少し背が伸びてるかと思ったが……」
相変わらず第一声から減らず口だ。
「これでも少しは伸びたんですよ。服だってお直ししたぐらいなんですから!」
おじさまは鼻で笑ってテーブルに座ると、既に箸を手に持ち臨戦態勢だ。
「仕事に集中している時に、味噌ラーメンの匂いは反則だぞ!
腹が減って死ぬかと思った!
とにかく食わせてくれ。今までとは違うんだろう?」
さすが、私のラーメンを一番食べているおじさま。漂う匂いだけで、今までと違うことはお見通しの様子だ。
全くもって、この偏愛ぶりは常軌を逸している。
躰のためにも1日麺厳守を、ギルドの屋台に指示して更にキッペイにも監視させているのだが、どうやらあんまり守られてはいない様子だ。
(イスには、サガン・サイデムに逆らえる人などいないからなぁ。出せと言われたら出さざるを得ないんだろうなぁ)
おじさまが、そわそわしっぱなしで落ち着かないので、ひとまず改良した沿海州の恵みたっぷりの味噌ラーメンをおじさまに食べてもらうことにした。
「ん、んん?これは、今までとはかなり違うぞ。
味は濃いのに食が進む。スープもごくごくいけるぞ……うめぇ!!
これも屋台で出せるか?」
ものすごい勢いで麺をすすりながら、おじさまが聞いてくる。
「そうですね。今まで以上に、沿海州産の魚介の比重が高いので完全に同じものは難しいですが、乾物は輸入できますし、魚介も帝国の港で水揚げされるものを中心に取り入れれば、近いものができると思いますよ」
「どうやら、アキツでも美味いものを作っているようだな」
おじさまがニヤリと笑う。
きっとマホロのサイデム商会辺りから、私の動向は、ほぼほぼ掴んでいるんだろう。
「ええ、快適ですよ。
今の家は、外にもカマドがあったり、珍しい器がたくさんあったりで、とても楽しいです。
食についても、面白いものが色々見つかりました。
この新しい味噌ラーメンの味噌も、私が開発から関わったものです。しかも、つい最近ですが、非常に安定した品質のモノが大量に生産できる目処がつきました。本格生産はこれからですが……」
おじさまの目が光る。
「大量に?」
「ええ、今まで沿海州の味噌は、その歩留まりの悪さから、大量生産するにはリスクが高すぎるため、小規模生産しかされたことがありません。しかも品質や味も安定しているとは言い難かったのですが、その問題を解決できる天才がいまして、彼に出資してマホロで食品の研究を始めているんです」
「続けろ」
おじさまは、味噌ラーメンを食べ続けながら、私の話を促す。
「味噌に関しては、一番の問題だった〝歩留まり〟を劇的に改善できる手法を確立したので、これからは一定の品質を維持できます。まだ、大規模な味噌蔵建設までには至っていませんが、時間の問題だと思います。
わたしとしては、適正価格で、大陸へ輸出されることを願っています。
買い叩かれて品質が下がり、味噌ラーメンが不味くなって困るのはおじさまですから」
不敵な笑顔(のつもり)でおじさまと対峙し、私はこれからエジンさんが中心となって生産されるだろうアキツ産の味噌輸入の全権とその価格水準の維持をおじさまに暗に打診した。味噌ラーメンをこよなく愛するおじさまならば、決して悪いようにはしないだろうという確信があってのことだ。
「メイロード、お前味噌ラーメンのレシピを開示する気だな?」
さすがは生粋の商売人。おじさまは、もう私のプランをほぼ理解しているようだ。
「ええ、そのつもりです。
今まで開示しなかった主な理由は、おじさまに止められていたという以外に、この料理の要である味噌の流通量と安定性に非常に問題があった、という点が大きいのです。
今の流通量ではギルドの従業員程度の量でも、毎日提供するのはなかなか大変ですからね」
だが味噌の輸入量が十分確保されれば、それも心配なくなる。
私はとりあえず、今ギルド内の屋台を手伝ってもらっている何人かに〝暖簾分け〟をすることを考えている。
彼らに新しい味噌を使った味噌ラーメンをそれぞれの店で、販売してもらうのだ。
やがて、そこからまた新しい店が増えていくだろう。
そうやって広まっていけばいいと思う。
味噌、そして味噌ラーメン、どちらも価格的には決して安くはない。でもそれでいいのだ。安売りも暖簾分けの条件として禁止しようと思う。
味で勝負しないなら、先はない。それに、イスの人間なら払えない額ではない程度の原価には抑えている。
「で?」
「は?」
おじさまは眉間にしわを寄せている。
「で、お前の取り分はどうする気だ?味噌が大陸の食生活にくいこんでくれば、莫大な利益になる。まだ、誰も目はつけていないし、今ならウチの独占だ。ここまで道をつけてきたなら、純益の2割はくれてやってもいいぞ」
「あ、ああ。それは必要ないです。エジン先生にもそう言っちゃったし、今回はタダ働きでも良いんです」
「お前は……なんてバカなんだ!?」
バンッと、飲み干したラーメンの丼を叩きつけるように置いたおじさまが、低い声で言った。
そこから、おじさまの説教タイム。
利益を得るということは、その事業の責任の一端を持つということに等しい。この長期間の取引が確定的な契約において、直接動いた人物が、利益を得ないということはあってはならないし、それは責任を放棄した態度だと、おじさまは言う。
「いいか、商売っていうのは騙すことでも、むしりとることでもない。関係を築きお互いの希望をすり合わせる作業だ。利益を得られるよう努力する、それが商人の信用なんだ。ちゃんと商売をしろ、メイロード!これはお前が作り出した新しい仕事なんだ」
(参ったな、やっぱり商売となると、おじさまには敵わないや……)
「待たせたな。なんだ、あんまり変わってないな。もう少し背が伸びてるかと思ったが……」
相変わらず第一声から減らず口だ。
「これでも少しは伸びたんですよ。服だってお直ししたぐらいなんですから!」
おじさまは鼻で笑ってテーブルに座ると、既に箸を手に持ち臨戦態勢だ。
「仕事に集中している時に、味噌ラーメンの匂いは反則だぞ!
腹が減って死ぬかと思った!
とにかく食わせてくれ。今までとは違うんだろう?」
さすが、私のラーメンを一番食べているおじさま。漂う匂いだけで、今までと違うことはお見通しの様子だ。
全くもって、この偏愛ぶりは常軌を逸している。
躰のためにも1日麺厳守を、ギルドの屋台に指示して更にキッペイにも監視させているのだが、どうやらあんまり守られてはいない様子だ。
(イスには、サガン・サイデムに逆らえる人などいないからなぁ。出せと言われたら出さざるを得ないんだろうなぁ)
おじさまが、そわそわしっぱなしで落ち着かないので、ひとまず改良した沿海州の恵みたっぷりの味噌ラーメンをおじさまに食べてもらうことにした。
「ん、んん?これは、今までとはかなり違うぞ。
味は濃いのに食が進む。スープもごくごくいけるぞ……うめぇ!!
これも屋台で出せるか?」
ものすごい勢いで麺をすすりながら、おじさまが聞いてくる。
「そうですね。今まで以上に、沿海州産の魚介の比重が高いので完全に同じものは難しいですが、乾物は輸入できますし、魚介も帝国の港で水揚げされるものを中心に取り入れれば、近いものができると思いますよ」
「どうやら、アキツでも美味いものを作っているようだな」
おじさまがニヤリと笑う。
きっとマホロのサイデム商会辺りから、私の動向は、ほぼほぼ掴んでいるんだろう。
「ええ、快適ですよ。
今の家は、外にもカマドがあったり、珍しい器がたくさんあったりで、とても楽しいです。
食についても、面白いものが色々見つかりました。
この新しい味噌ラーメンの味噌も、私が開発から関わったものです。しかも、つい最近ですが、非常に安定した品質のモノが大量に生産できる目処がつきました。本格生産はこれからですが……」
おじさまの目が光る。
「大量に?」
「ええ、今まで沿海州の味噌は、その歩留まりの悪さから、大量生産するにはリスクが高すぎるため、小規模生産しかされたことがありません。しかも品質や味も安定しているとは言い難かったのですが、その問題を解決できる天才がいまして、彼に出資してマホロで食品の研究を始めているんです」
「続けろ」
おじさまは、味噌ラーメンを食べ続けながら、私の話を促す。
「味噌に関しては、一番の問題だった〝歩留まり〟を劇的に改善できる手法を確立したので、これからは一定の品質を維持できます。まだ、大規模な味噌蔵建設までには至っていませんが、時間の問題だと思います。
わたしとしては、適正価格で、大陸へ輸出されることを願っています。
買い叩かれて品質が下がり、味噌ラーメンが不味くなって困るのはおじさまですから」
不敵な笑顔(のつもり)でおじさまと対峙し、私はこれからエジンさんが中心となって生産されるだろうアキツ産の味噌輸入の全権とその価格水準の維持をおじさまに暗に打診した。味噌ラーメンをこよなく愛するおじさまならば、決して悪いようにはしないだろうという確信があってのことだ。
「メイロード、お前味噌ラーメンのレシピを開示する気だな?」
さすがは生粋の商売人。おじさまは、もう私のプランをほぼ理解しているようだ。
「ええ、そのつもりです。
今まで開示しなかった主な理由は、おじさまに止められていたという以外に、この料理の要である味噌の流通量と安定性に非常に問題があった、という点が大きいのです。
今の流通量ではギルドの従業員程度の量でも、毎日提供するのはなかなか大変ですからね」
だが味噌の輸入量が十分確保されれば、それも心配なくなる。
私はとりあえず、今ギルド内の屋台を手伝ってもらっている何人かに〝暖簾分け〟をすることを考えている。
彼らに新しい味噌を使った味噌ラーメンをそれぞれの店で、販売してもらうのだ。
やがて、そこからまた新しい店が増えていくだろう。
そうやって広まっていけばいいと思う。
味噌、そして味噌ラーメン、どちらも価格的には決して安くはない。でもそれでいいのだ。安売りも暖簾分けの条件として禁止しようと思う。
味で勝負しないなら、先はない。それに、イスの人間なら払えない額ではない程度の原価には抑えている。
「で?」
「は?」
おじさまは眉間にしわを寄せている。
「で、お前の取り分はどうする気だ?味噌が大陸の食生活にくいこんでくれば、莫大な利益になる。まだ、誰も目はつけていないし、今ならウチの独占だ。ここまで道をつけてきたなら、純益の2割はくれてやってもいいぞ」
「あ、ああ。それは必要ないです。エジン先生にもそう言っちゃったし、今回はタダ働きでも良いんです」
「お前は……なんてバカなんだ!?」
バンッと、飲み干したラーメンの丼を叩きつけるように置いたおじさまが、低い声で言った。
そこから、おじさまの説教タイム。
利益を得るということは、その事業の責任の一端を持つということに等しい。この長期間の取引が確定的な契約において、直接動いた人物が、利益を得ないということはあってはならないし、それは責任を放棄した態度だと、おじさまは言う。
「いいか、商売っていうのは騙すことでも、むしりとることでもない。関係を築きお互いの希望をすり合わせる作業だ。利益を得られるよう努力する、それが商人の信用なんだ。ちゃんと商売をしろ、メイロード!これはお前が作り出した新しい仕事なんだ」
(参ったな、やっぱり商売となると、おじさまには敵わないや……)
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