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2 海の国の聖人候補

302 嘘つきは許しません

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302

商人ギルドは、残っている20台分の〝魔石冷蔵庫〟のリースについて、ギルドの掲示板を使い、主旨と共に改めてリース希望者の募集告知をした。

改めて募集を告知したのには理由がある。

既に候補はかなりあるのだが、この間見せてもらったリストには、そのままにはしておけないレベルの偏りが見られた。
リストの大半は大店の下請け的な店や同業の店で占められており、それ以外の業種へは、まだ情報が流れていない感じがあったのだ。

どうも大店が情報を広めないようにしている節もあるし、怪しい気配だ。ここは再度募集してみたほうがいいと判断した。

案の定、告知後すぐに詳しい説明を聞きたいという店がたくさん現れ、当初50件ぐらいの応募数だったのが、あっという間に300件近い数に増えた。業種としては、鮮魚店が一番多く、次に飲食店と小売店、工房もかなり応募してきている。

〝魔石冷蔵庫〟導入後の事業計画に関する筆記での一次審査を経て、50件まで絞った後、面接による最終選考が行われることになり、私はそっと後ろの方で観察するというポジションでの参加とさせてもらった。

だがそこで、商人の悪い方の一面をみて、私は困惑してしまった。
私は50件に絞るまでの段階ではノータッチだったので、面接の行われている背後で申請用の板紙に目を通し始めたのだが……眉間に大きなシワができた。

私の《鑑定》そして《真贋》が捉えたのは、半数以上の候補者が書類に虚偽の内容を記載していた事実だ。

理由も明らか。彼らの目的は転売だ。

最初から大店の依頼で申請を出してきた者も多く、一から十まで嘘しか書かれていない応募用の板紙もあった。

(うわぁ、真っ黒。でも、私以外が見たらそれなりに整った内容に見えるんだろうなぁ……)

《真贋》を発動すると、私には虚偽の内容の場所が歪んで黒っぽい靄がかかって見える。従って私には、どんな嘘もつくことはできないのだが、知らないというのは恐ろしいことだ。
私の前では、面接官に向かって皆、シレッと嘘の事業計画について滔々と語っている。

(普段は小さい嘘を気にするのが嫌で、この力はあまり使わないんだけど、今回は使って良かった。こんなコスい商売のために私の力を注ぎ込んだ〝タネ石〟達を使われちゃたまらないよ!)

文書の場合、本人が書いたものでないと《真贋》の精度が下がるので、書類は申請者本人に指定されたギルド内のスペースで書き込ませた。〝魔石冷蔵庫〟を使おうという規模の商人となれば、さすがに書面を書けないでは成り立たないので、その場では書けませんといった言い訳もできないはずだ。

私はノートに、彼らの真っ黒で真っ赤な嘘だらけの事業計画の中の矛盾点や見込みの改竄を手早く書き出し、秘書さんを通じて面接をしているタスカ幹事へ渡した。

それを見て、一瞬ギョッとしたタスカ幹事は、直ぐに意図を汲み取って、次々にその内容に沿った質問を始め、案の定嘘をついている人たちはしどろもどろになり始めた。

「こちらの事業計画では、冷蔵庫の設置場所が記載されていませんが、どちらへ置かれる予定でしょうか?」

「あ、うちの倉庫を改造してそちらに設置する予定です」

「その倉庫には、既に在庫の荷が詰まっていますよね。それを移動する計画は無いようですが?」

「え、あ、それはですね……あの、親戚の倉庫へ一時預けてですね……」

「では、そのご親戚のお名前を記載して下さい。確認します」

「え、あ、ああ、えーと、なんだったかなぁ、名前が……」

「名前も分からないご親戚に、大事な商品をお預けになるおつもりですか?」

「……」

この調子で論破し、追い詰め続けるタスカ幹事に、既に調と悟ったのか、後方でその様子を見ていた候補者集団の様子が変わった。

そして、色々な理由をつけてコソコソと面接を途中で逃げ出す輩が続出。午前の面接は早々に終了となった。

「情けない……」

嘘つき達との面接を終えたタスカ幹事は、肩を落としていた。

「皆、きちんとギルドにも登録している引いて一角ヒトカドの人たちなんですがねぇ……」

海産物市場には好景気が訪れつつあるとはいえ、まだまだ苦しい商人たちは多い。そんな状況が、こんな詐欺まがいの手口へ、普通に仕事をしていたはずの人々を加担させてしまうのだ。

(だからといって,見逃す気はないけどね)

「非常に情けない醜態をお見せしてしまいましたが、メイロードさまのおかげで、不埒な連中に貸すことなく選考できそうです。とは決してお聞き致しませんので、どうぞご安心ください。

本当にありがとうございます。午後からは、さらに小さな店の者になりますが、店の大小ではなく、商売を見てしっかり査定させて頂きます」

〝バンダッタの奇跡〟についての経緯もちょっと知っているタスカ幹事。私の不思議能力についても、色々分かってはいそうだが、お互いのために追求しないほうがいいと判断した様子だ。

私に笑顔で一礼してから、幹事は気を取り直し、午後の面接へ向かっていった。

(一応〝黒い書類〟はもうないし、後は任せてもいいかな……)

私はクリーンなモノだけになった午後の分の資料に再度目を通しながら〝魔石冷蔵庫〟がどんな場所で使われることになるのか考えていたのだが、ふとひとつの申請板に目が止まった。

ーーエジン加工食品研究所。魚介を使用した新しい調味料の開発。また豆を使った調味料の研究開発の為、使用を求むーー

「豆を使った……これって、もしかして醤油じゃない?!」
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