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2 海の国の聖人候補

300 マホロの好景気

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バンダッタの復興は、マホロの魚市場にもいい影響を与えていた。

まず、最初にバンダッタからマホロへ、突然、良質な昆布が大量に持ち込まれてきた。

その時の人々の驚きは、とても大きいものだったそうだ。

それは、流通が再開できるまでにバンダッタの状況が好転し〝休眠地〟を解除されたということの証でもあった。
〝休眠地〟に堕とされた土地が、外部の人間に買われることもなく元の領主を頂いたままを解除され、再び隆盛を取り戻した例は皆無と言って良いそうだから、彼らの驚きも当然といえた。

その奇跡のような復興は強烈なインパクトを与えたようで〝バンダッタ昆布〟は縁起物として高値で取引されるようになる。そしてその品質の良さから、ブランドとしての評価も得ていった。

そして、それと同時にバンダッタから〝昆布締め〟という新しい料理法ももたらされる。

高級品である昆布を惜しげもなく使って刺身に上質の味をつけるこの技法は、差別化を図りたい高級料亭や富裕層から非常に高い関心を買うこととなり、お祝い事や高級料理の新しい定番となっていく。

料理法の広がりとともに、このブランド昆布を求めて沿海州の他の地域からも引き合いが増加した。マホロの乾物市場は活気付き、マホロの街全体の景気も浮上の兆しを見せ始めた。

更に、そこへ私プロデュースのオイル漬け商品がバンダッタから投入され始めた。
新しい調理保存法がもたらされたことで、追随する様々な他の商品も増え始め、様々なオイル漬け商品が売り出され始める。

あっという間に魚介のオイル漬けは、アキツの新しい名物として遠い地域へも輸出され始め、貴重な外貨をもたらすようになっていった。

そして、その背後には、例のアレの普及も非常に大きく関わっていたのだ。


「決してご無理を言うつもりはないのですが……もし、もしできましたら、なんとかあと20台分の魔石は手に入らないものでしょうか」

流れる汗を拭きながら、申し訳なさに、躰を小さく畳むようにして頭を下げるマホロ商人ギルドのタスカ幹事を前に、秘書さんの入れてくれた高級茶をすする私ーー

今日は久しぶりに商人ギルドへやってきていた。採取の依頼を受け約束したまま時間が経ってしまった〝イワムシ草〟をちょっと大量に《緑の手》で栽培できたので、その納品のためだ。

買取カウンターの担当さんは、その量に驚きつつ、嬉々として査定してくれた。
相変わらず〝イワムシ草〟の在庫は不足が著しいらしく、私の持ち込んだ分もかなりの高値で買い取られた。私は瞬間的に植物を増殖させられるスキル持ちだから、私がいる間だけなら不足分を補ってあげるのはなんでもないことだが、やはりこの綱渡りな在庫状況はよろしくないと思う。

(バンダッタで発見した時〝イワムシ草〟の不思議な生態は掴めたし、ヒントもあるし、なんとか不安定な採取に頼るだけじゃなく、栽培ができるようにしたいよね)

そんなことを考えながら、喫茶室で会計が終わるのを待っていると、いつもの秘書さんが慌てて駆け込んで来て、グルグルと辺りを見渡し、私を発見すると、更にものすごい勢いで近づいてきた。

「メイロードさま、おいでになられる際はお声をお掛け下さいませ!会計の者に〝イワムシ草〟が大量に入荷したと連絡をもらいましたので、もしかして……と思いまして書類を見て驚きました!

タスカもぜひご挨拶したいと申しております。どうぞ応接室の方へ、お越し頂けませんか」

「今日は納品だけですし、お忙しいかなーっと、思いまして……」

秘書さんの圧力に若干引きつつ、言い訳がましいことをごにょごにょと言う私……

だがその間にも、子供の私に頭を下げまくる美人秘書さんの姿に、周囲からヒソヒソ声と視線が突き刺さり始めた。私はその視線から逃れるためにも、これ以上ここで話す方がマズイと判断して、応接室へそそくさと移動を開始。

応接室への移動中にも、秘書さんに商人ギルドへおいでの節はお声をお掛け下さい、と何度もお願いされてしまった。

「メイロードさまとお会いする以上に大切な要件はないと、タスカも申しております。いつ何時でもお気兼ねなく、お尋ねくださいませ」

(そこまで大事にされると、なんだかこそばゆいのだが、まぁ〝魔石冷蔵庫〟のこともあるし、連絡は取るべきかもね……)

応接室では、もうすでにタスカ幹事が待っていて、時候の挨拶もそこそこに、件の内容を切り出した。

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