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2 海の国の聖人候補

296 御宣託

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微動だにしない光り輝く鳥から聞こえてくる、これは神の声……なんだろうか?

ともかく、膝を折り最高の敬意を表す礼をとるセイリュウを真似、私も慌てて礼をとった。

バンハランは何が起こっているのか判ってはいないようだが、が起こっていることはさすがに察したようで、私たちに合わせてくれている。

〔そこの武人にも説明しておやりなさい〕

と神様が言うので、私はバンハランに、いま舞台上に〝神宣鳳〟が舞い降りてきたこと。私と〝セイ〟(ミゼルにも)その姿が見えているし、声も聞こえていることを告げた。

「なっ……」

と言ったきり絶句したバンハランは、何か悟ったようで、

「状況は理解しました。今はヌノビキの神のお言葉に集中なさって下さい。そして、できれば後で内容をお聞かせ下さいますよう、お願い致します」

そう言って、深く礼をする体勢に入った。
見えないとはいえ、直接〝神宣鳳〟の降りている場所を見るのは不敬と思ったようだ。

〔これもよい男なのだが、思慮がまだまだ浅くてな。許してやっておくれ〕

どうやらヌノビキの神は私たちのドタバタも、すべてご存知の様子だ。

〔改めて礼を言う。聖龍よ、祝福を受けし娘よ、神の楽師よ。お前たちの力を持って、この美しい衣も、我に使えし巫女も救われた。神事は滞りなく遂げられ、この街の守りも続いていこう……ご苦労だった〕

神様との約束というのは〝契約〟に近いものらしく、守れなかった事情については基本的に斟酌しないものらしい。元々、神様が守ってくれるということが〝稀有な恩恵〟であって、それを守るために努力を続けることを課している。
それが守れないのであれば、恩恵もそれまで……ということのようだ。

考えてみれば、元々ひとりの少女の願いで与えた恩恵に過ぎない、この街の護り。
街にも人も、それを忘れず大事にしていく気持ちがなければ、神も離れるということなのだろう。

この世での不幸や不運は人の世のことなので、神様は全てを見知っても基本ノータッチらしいが、この世界と神の世界の間に立つ青龍のような存在は容認している。それの助けが得られるかどうかも、また人の世の運という態度だ。

(結構ドライだよね、神様って……)

〔今回のお前たちの働きにヌノビキヒメがとても感謝している。ふたりにこれを渡すよう預かってきたよ〕

そういうと、青と白二反の反物が宙に現れた。

〔青は青龍へ、白はメイロードへ。ご苦労だった〕

セイリュウがその反物をありがたく受け取る。

〔今年の祭りもつつがなく完了した。この街の守護は叶った、と皆に伝えるがよい〕

そう言い残すと〝神宣鳳〟はその美しい羽を光り輝かせながら、再び飛び立っていった。

「〝神宣鳳〟は帰られましたよ」

私が告げると、ホッとしたようバンハランが顔を上げた。

セイリュウが舞台の上からバンハランに告げる。

「ヌノビキヒメの願いは、新しい年も続くと神は約束された。今年のようなことがなきよう、より精進されよ」

セイリュウの言葉に、バンハランが真剣に頷く。

「はい!今回の失態は全て公にし、二度とこのようなことがなきよう、全ての者たちに伝えます。
神の加護があることに、決して慣れてはいけないことも。

それを忘れた、愚かな私と妹が、その罪を贖うために、どのような罰を受けようとも、謹んで全うするつもりです。

ご助力、ありがとうございました。心より感謝致します」

バンハランの表情は清々しく、妹と街が救えたことに心底安堵しているようだった。

「ああ、そういえば、もうひとつ御宣託がございました」

セイリュウの言葉に私は驚いた。

(え、他に何か言ってたかな?)

「あなたの罪の贖い方を指示されたのですよ。実行なさいませね」

そして、ちょっと楽しげな顔で舞台上の美女はちょっといたずらっぽく微笑んだ。
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