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2 海の国の聖人候補
288 ランテルの舞姫
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288
バンハラン将軍にお願いした〝神の衣〟の持ち出し許可の承認は、非常に難航したそうだ。
御神体にも等しい〝神の衣〟だ。
神官たちの抵抗も当然だろう。
だが、このままでは奉納舞に使うことは絶対にできないことは明らかだった。
そして、その解決策は彼らにも何ひとつなく、ただただ時間だけが過ぎていく状況が続いていた。
こうなっては、この問題を解決できる人物の所へ持っていく、というバンハランに対し、強く反対し続けることもできず、神官たちは渋々、彼の〝覚悟の〟提案を受け入れた。
バンハランは、もし今回の持ち出しにおいて、問題が起こった場合、すべての責任をその身に負うと約束したのだ。
それは文字通り、もしものことがあれば命で贖うという約束だった。
そんな悲壮な覚悟の約束をしてきたはずのバンハランだったが、〝コウダイ屋〟まで、その大事な衣を運んできた彼の表情は、意外なほど明るくすっきりとしていた。
「頂いた魔法の秘薬の効果は素晴らしいものでした。妹は目に見えて回復し、今は体調も戻り始めたようで、少しですが食事もできております。本当にありがとうございました。
キヌサには〝神の衣〟が元に戻る目星が付いたことも伝えることができました。
おかげでやっと生きる気力も出てきた様子です。本当に何と感謝を申し上げて良いやら……」
バンハランは、昨日の横柄さが嘘のように謙虚な態度で、魔法使い〝セイ〟の前に跪き、もう一度無礼を深く詫びた。
彼は、妹の名誉とこの街のために自らの命を賭けることに対して全く躊躇していない。今も妹の回復を心底喜び安堵している。
(こういう点は気持ちの良い男、ではあるんだよね……)
だが〝セイ〟の物言いは厳しい。
「私より他に、謝らなければならない方がたくさんいることをお忘れなきように。
あなたの愚かな振る舞いで、どれだけの人が迷惑を被り傷ついたか、決して忘れてはなりませんよ。
それに、衣の汚れについては、私が責任を持って取り払うとお約束致しましょう。ですが、それだけで解決はしません。強い浄化の儀式を行わなければ穢れは、落とせませんよ」
「それはどういう……」
バンハランは汚れさえ落とせば解決と思っていたようだが〝パーフェクト・バニッシュ〟で完全に汚れを落としても〝神の衣〟が一度〝穢された〟事実は変わらない。最初に付けられた点のようなシミ程度であれば、通常の神事の神楽を舞う際に浄化されただろうが、今回のように魔獣の血で広範囲に穢された衣では〝神の衣〟の役割は果たせない。
「その衣が神の依り代として再びこの地の守りとなるためには、神族の踊り手と神の音を奏でる楽器、そして浄化の声を持った者が必要です。その者達が神楽を執り行えば〝神の衣〟を完全に元に戻すことができるでしょう……」
バンハランは、自分たちが考えていたことが、安易で浅はかだったことに反省しきりだ。
「神官たちですらそんな警告はしてくれませんでした。彼らも〝神の衣〟の真の姿は理解していないのですね。
私たちは、汚れさえ落とせば済むと思っていた。もし、貴方がいなければ、そのまま神事を行い、神の怒りに触れていたかもしれない。
まさに、貴方の存在は神のお導きだ。セイ様、本当に感謝致します。ですが……どうやってそのような方々と楽器を探せばよいのか……」
困惑し悩むバンハランには申し訳ないようだが、恐ろしいことに、どうやって揃えたら良いのか普通なら悩むだろうそのメンツ、実は全て揃っている。ミゼルと私とセイリュウでその儀式は行えてしまうのだ。
こんな常人ならざるメンツがそう簡単に揃うなど、到底信じられないバンハランは混乱していたが、説明するのは面倒なので〝セイ〟が実は神族に連なっていることだけ告げ〝全部用意できるから大丈夫〟と、詳細の説明なしで押し切った。
バンハランも、今では〝セイ〟を信用するしかないと決めたようだし、しかも神族の領域の話なので、さすがに根掘り葉掘り聞くことは自重してくれた。
だが問題は日時についての制約。
約束の正式な日と時間に舞わなければ神に届ける奉納舞としては機能しないらしいのだ。
そう、つまり〝ヌノビキヒメ〟になる以外に方法はない。
ということは、セイリュウに〝セイ〟として、ヌノビキヒメ選びのミスコンに参加してもらい、〝ヌノビキヒメ〟を勝ち取って〝神の衣〟で舞ってもらうしかないことになる。
(ものすごい無茶振りだけど、本当にそれしかないんだよね)
「私たちが手を回せれば良いのですが〝ヌノビキヒメ〟選びは非常に厳格でございまして、コネや裏工作が入り込むことは難しく……」
バンハラン将軍は申し訳なさそうだが、ラーヤさんはそれでこそ価値があると言い、正々堂々とこの勝負に勝とうと参戦を主張し、〝セイ〟のプロデュースを買って出た。
「今まで、地方の織物の活性化の意味もございましたので、ランテルは参加を遠慮しておりましたが、今年はそうは参りませんね。〝セイ〟様は、素材としても、申し分ございません。私が〝コウダイ屋〟の威信にかけて、最高のランテルの舞姫の衣装を作らせて頂きます。お任せください!」
ラーヤさんの目は爛々と輝き、頭の中は構想で一杯というのが見て取れた。
(かなり楽しんでいる気配がするのですが?
じゃ、私はアクセサリーと、アレを利用したものを作ってみようかなぁ)
こうして〝ランテルの舞姫〟プロジェクトが始動した。
今年の〝ヌノビキの祭〟には満を持してランテル参戦!、というニュースは、国中に駆け巡り、祭りはかつてない盛り上がりとなっていった。
バンハラン将軍にお願いした〝神の衣〟の持ち出し許可の承認は、非常に難航したそうだ。
御神体にも等しい〝神の衣〟だ。
神官たちの抵抗も当然だろう。
だが、このままでは奉納舞に使うことは絶対にできないことは明らかだった。
そして、その解決策は彼らにも何ひとつなく、ただただ時間だけが過ぎていく状況が続いていた。
こうなっては、この問題を解決できる人物の所へ持っていく、というバンハランに対し、強く反対し続けることもできず、神官たちは渋々、彼の〝覚悟の〟提案を受け入れた。
バンハランは、もし今回の持ち出しにおいて、問題が起こった場合、すべての責任をその身に負うと約束したのだ。
それは文字通り、もしものことがあれば命で贖うという約束だった。
そんな悲壮な覚悟の約束をしてきたはずのバンハランだったが、〝コウダイ屋〟まで、その大事な衣を運んできた彼の表情は、意外なほど明るくすっきりとしていた。
「頂いた魔法の秘薬の効果は素晴らしいものでした。妹は目に見えて回復し、今は体調も戻り始めたようで、少しですが食事もできております。本当にありがとうございました。
キヌサには〝神の衣〟が元に戻る目星が付いたことも伝えることができました。
おかげでやっと生きる気力も出てきた様子です。本当に何と感謝を申し上げて良いやら……」
バンハランは、昨日の横柄さが嘘のように謙虚な態度で、魔法使い〝セイ〟の前に跪き、もう一度無礼を深く詫びた。
彼は、妹の名誉とこの街のために自らの命を賭けることに対して全く躊躇していない。今も妹の回復を心底喜び安堵している。
(こういう点は気持ちの良い男、ではあるんだよね……)
だが〝セイ〟の物言いは厳しい。
「私より他に、謝らなければならない方がたくさんいることをお忘れなきように。
あなたの愚かな振る舞いで、どれだけの人が迷惑を被り傷ついたか、決して忘れてはなりませんよ。
それに、衣の汚れについては、私が責任を持って取り払うとお約束致しましょう。ですが、それだけで解決はしません。強い浄化の儀式を行わなければ穢れは、落とせませんよ」
「それはどういう……」
バンハランは汚れさえ落とせば解決と思っていたようだが〝パーフェクト・バニッシュ〟で完全に汚れを落としても〝神の衣〟が一度〝穢された〟事実は変わらない。最初に付けられた点のようなシミ程度であれば、通常の神事の神楽を舞う際に浄化されただろうが、今回のように魔獣の血で広範囲に穢された衣では〝神の衣〟の役割は果たせない。
「その衣が神の依り代として再びこの地の守りとなるためには、神族の踊り手と神の音を奏でる楽器、そして浄化の声を持った者が必要です。その者達が神楽を執り行えば〝神の衣〟を完全に元に戻すことができるでしょう……」
バンハランは、自分たちが考えていたことが、安易で浅はかだったことに反省しきりだ。
「神官たちですらそんな警告はしてくれませんでした。彼らも〝神の衣〟の真の姿は理解していないのですね。
私たちは、汚れさえ落とせば済むと思っていた。もし、貴方がいなければ、そのまま神事を行い、神の怒りに触れていたかもしれない。
まさに、貴方の存在は神のお導きだ。セイ様、本当に感謝致します。ですが……どうやってそのような方々と楽器を探せばよいのか……」
困惑し悩むバンハランには申し訳ないようだが、恐ろしいことに、どうやって揃えたら良いのか普通なら悩むだろうそのメンツ、実は全て揃っている。ミゼルと私とセイリュウでその儀式は行えてしまうのだ。
こんな常人ならざるメンツがそう簡単に揃うなど、到底信じられないバンハランは混乱していたが、説明するのは面倒なので〝セイ〟が実は神族に連なっていることだけ告げ〝全部用意できるから大丈夫〟と、詳細の説明なしで押し切った。
バンハランも、今では〝セイ〟を信用するしかないと決めたようだし、しかも神族の領域の話なので、さすがに根掘り葉掘り聞くことは自重してくれた。
だが問題は日時についての制約。
約束の正式な日と時間に舞わなければ神に届ける奉納舞としては機能しないらしいのだ。
そう、つまり〝ヌノビキヒメ〟になる以外に方法はない。
ということは、セイリュウに〝セイ〟として、ヌノビキヒメ選びのミスコンに参加してもらい、〝ヌノビキヒメ〟を勝ち取って〝神の衣〟で舞ってもらうしかないことになる。
(ものすごい無茶振りだけど、本当にそれしかないんだよね)
「私たちが手を回せれば良いのですが〝ヌノビキヒメ〟選びは非常に厳格でございまして、コネや裏工作が入り込むことは難しく……」
バンハラン将軍は申し訳なさそうだが、ラーヤさんはそれでこそ価値があると言い、正々堂々とこの勝負に勝とうと参戦を主張し、〝セイ〟のプロデュースを買って出た。
「今まで、地方の織物の活性化の意味もございましたので、ランテルは参加を遠慮しておりましたが、今年はそうは参りませんね。〝セイ〟様は、素材としても、申し分ございません。私が〝コウダイ屋〟の威信にかけて、最高のランテルの舞姫の衣装を作らせて頂きます。お任せください!」
ラーヤさんの目は爛々と輝き、頭の中は構想で一杯というのが見て取れた。
(かなり楽しんでいる気配がするのですが?
じゃ、私はアクセサリーと、アレを利用したものを作ってみようかなぁ)
こうして〝ランテルの舞姫〟プロジェクトが始動した。
今年の〝ヌノビキの祭〟には満を持してランテル参戦!、というニュースは、国中に駆け巡り、祭りはかつてない盛り上がりとなっていった。
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