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2 海の国の聖人候補
278 火中の栗
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278
「うわぁ!これはスゴイわ」
やっと長い行列をくぐり抜け、門の中へ入った私の目に飛び込んできたのは、姿形も美しい上、頭からつま先まで隙間なく着飾った男女が、大通りのあちこちで愛想を振りまいている姿だった。
〝満艦飾〟という形容がぴったりの、全身くまなく派手で煌びやかな衣装の人たちは、門前から〝ヌノビキの神〟を祀った〝ヌノビキの大社〟まで続く大通りのあちこちに立ち、それぞれ多くの人に取り囲まれている。
彼らはこの〝布の都〟の名物だそうで、有名な布地店や仕立て屋からの依頼を受け、ぐるぐる街を練り歩きながら広告塔をしているそうだ。彼らは積極的に宣伝するのではなく〝見せる〟ことが仕事らしく、どうやらモデルに近い。〝辻練り〟と呼ばれるれっきとした職業で、ここではステータスがとても高い人気の職業らしい。
彼らの身につけているモノに興味を示した人たちに店の場所を教えたり、簡単な道案内やガイドもしてくれるのだそうだが、中には人気がありすぎて芸能人のような扱いの人もいるらしい。
(なるほど、歩くマネキンかぁ……面白いこと考えるなぁ)
美しい姿で、気軽に街へ入ってきた人に道を教えたり、着ているものの説明をしたりする彼らの姿は、ランテルでは日常的な光景らしく、道行く街の人々も気軽に声をかけていく。
その中でも特に目立つ真っ黄色の髪を逆立てた長身の女性の周りは人が多かった。
「ラーヤ!今日も決まってるな!」
「ラーヤ!そのイヤリング何処のお店のか教えて」
「今日の帯はヘマ染めだね。いい色だ。ラーヤらしい!」
ひっきりなしにお声がかかっている。
着ている服もかなり高価なもので、これはかなりの売れっ子と見るべきだろう。
「あ、上着〝アキツ瑠璃蔓草〟だ!」
思わず声に出た私の方へ振り返ったラーヤさんは、美しいだけでなく笑顔が素敵な人だった。
「お嬢ちゃん、よくご存知ね。そうなの!これは貴重な〝アキツ瑠璃蔓草〟で作られたシャツで、シンプルなようで、素晴らしい光沢、動くたびに変わる色彩が極上な上、肌触りも最高!」
「ええ、とてもいい触り心地で、着るのは素敵ですけど、繊維が細い上に織が複雑ですから汚れると面倒ですよね。落とすの大変でしたもの……」
私の言葉に、ラーヤさんが、一瞬黙った。
「お嬢ちゃん、これの汚れが落とせるの?」
(あ!しまった!これ〝パーフェクト・バニッシュ〟じゃないと落とせないやつだった!
マズイ、非常にマズイ!)
「ええと、私が落としたわけじゃなくて、帝国のイスにある〝魔法屋さん〟が落としてくれたんです」
「なんて店?」
「外国人街の〝貴方の魔法〟です……」
「そうか、魔法の国ならなんとかなるんだなぁ……いいなぁ」
ボソッと独り言を言った後、ラーヤさんは、板のカードに走り書きしたものを私に渡した。
「その魔法屋さんについて、ぜひ詳しく教えて欲しいの。お昼をおごるから、よかったら昼前にこの店にいてくれないかな?」
ラーヤさんには、悪い気配はないし、言動にはかなり困っている雰囲気があるし……
(まぁ、〝辻練り〟の仕事にもちょっと興味があるし、初めてできた知り合いの縁も旅の醍醐味かな?)
カードの地図を見ると、指定された店の場所も布市場の中、丁度行きたかった場所でもある。
「分かりました。では、布市場を見た後に、お昼頃お伺いしますね」
私の言葉にホッとした顔を見せたラーヤさんは
「じゃ、後でねー!」
っと手を振ると、再び喧騒の中へ泳ぐように入っていった。
私たちのやり取りを見ていたセーヤは、軽いため息の後、嗜めるように口を開いた。
(因みに、布は食べられないので、興味がないソーヤに代わり、今日はセーヤがお供なのだ)
「また、厄介ごとに巻き込まれる予感が致しますが、皆様に怒られやしませんか?メイロードさま……」
「それは、分かっているんだけど……ラーヤさん〝アキツ瑠璃蔓草〟のシャツの上から、派手な着物風の上着を肩がけした素敵なコーディネートだったでしょ。
実は《索敵》で見たところ、隠れた部分の〝アキツ瑠璃蔓草〟のシャツ、かなり広範囲のシミがあったの。つまり隠れていたんじゃなくて、隠していたの。
きっと、そこまでしても着たい服……なんだわ。
それなのにインクでも投げられたみたいな酷い汚れを、しかも一度落とそうとして失敗してるようだったから、気になっちゃって……それに汚れそのものもちょっと気になる感じだったのよ……」
「なるほど、興味を惹かれた上、ご同情されてしまわれたのですね……」
そう言った後、深くため息をついたセーヤは、強い口調でこう言った。
「メイロードさまらしい、お優しいお気持ちは分かりました。
あの方にも悪意は見られませんでしたし、困っておられることも、ご慧眼の通りでございましょう。
でも、だからこそ、くれぐれもお気をつけを。
メイロードさまの能力を知れば、欲しがる輩は無限におります。
何が危険につながるかわかりません。
私たちもお守り致しますが、好奇心もほどほどに。
どうぞ、火中の栗を拾うような短慮をなさいませんように……」
セーヤの心配はもっともなだけに、何も言えず、力なく頷く私なのだった。
(ごめんねセーヤ。でも、気になるものは気になるんだもん!)
「うわぁ!これはスゴイわ」
やっと長い行列をくぐり抜け、門の中へ入った私の目に飛び込んできたのは、姿形も美しい上、頭からつま先まで隙間なく着飾った男女が、大通りのあちこちで愛想を振りまいている姿だった。
〝満艦飾〟という形容がぴったりの、全身くまなく派手で煌びやかな衣装の人たちは、門前から〝ヌノビキの神〟を祀った〝ヌノビキの大社〟まで続く大通りのあちこちに立ち、それぞれ多くの人に取り囲まれている。
彼らはこの〝布の都〟の名物だそうで、有名な布地店や仕立て屋からの依頼を受け、ぐるぐる街を練り歩きながら広告塔をしているそうだ。彼らは積極的に宣伝するのではなく〝見せる〟ことが仕事らしく、どうやらモデルに近い。〝辻練り〟と呼ばれるれっきとした職業で、ここではステータスがとても高い人気の職業らしい。
彼らの身につけているモノに興味を示した人たちに店の場所を教えたり、簡単な道案内やガイドもしてくれるのだそうだが、中には人気がありすぎて芸能人のような扱いの人もいるらしい。
(なるほど、歩くマネキンかぁ……面白いこと考えるなぁ)
美しい姿で、気軽に街へ入ってきた人に道を教えたり、着ているものの説明をしたりする彼らの姿は、ランテルでは日常的な光景らしく、道行く街の人々も気軽に声をかけていく。
その中でも特に目立つ真っ黄色の髪を逆立てた長身の女性の周りは人が多かった。
「ラーヤ!今日も決まってるな!」
「ラーヤ!そのイヤリング何処のお店のか教えて」
「今日の帯はヘマ染めだね。いい色だ。ラーヤらしい!」
ひっきりなしにお声がかかっている。
着ている服もかなり高価なもので、これはかなりの売れっ子と見るべきだろう。
「あ、上着〝アキツ瑠璃蔓草〟だ!」
思わず声に出た私の方へ振り返ったラーヤさんは、美しいだけでなく笑顔が素敵な人だった。
「お嬢ちゃん、よくご存知ね。そうなの!これは貴重な〝アキツ瑠璃蔓草〟で作られたシャツで、シンプルなようで、素晴らしい光沢、動くたびに変わる色彩が極上な上、肌触りも最高!」
「ええ、とてもいい触り心地で、着るのは素敵ですけど、繊維が細い上に織が複雑ですから汚れると面倒ですよね。落とすの大変でしたもの……」
私の言葉に、ラーヤさんが、一瞬黙った。
「お嬢ちゃん、これの汚れが落とせるの?」
(あ!しまった!これ〝パーフェクト・バニッシュ〟じゃないと落とせないやつだった!
マズイ、非常にマズイ!)
「ええと、私が落としたわけじゃなくて、帝国のイスにある〝魔法屋さん〟が落としてくれたんです」
「なんて店?」
「外国人街の〝貴方の魔法〟です……」
「そうか、魔法の国ならなんとかなるんだなぁ……いいなぁ」
ボソッと独り言を言った後、ラーヤさんは、板のカードに走り書きしたものを私に渡した。
「その魔法屋さんについて、ぜひ詳しく教えて欲しいの。お昼をおごるから、よかったら昼前にこの店にいてくれないかな?」
ラーヤさんには、悪い気配はないし、言動にはかなり困っている雰囲気があるし……
(まぁ、〝辻練り〟の仕事にもちょっと興味があるし、初めてできた知り合いの縁も旅の醍醐味かな?)
カードの地図を見ると、指定された店の場所も布市場の中、丁度行きたかった場所でもある。
「分かりました。では、布市場を見た後に、お昼頃お伺いしますね」
私の言葉にホッとした顔を見せたラーヤさんは
「じゃ、後でねー!」
っと手を振ると、再び喧騒の中へ泳ぐように入っていった。
私たちのやり取りを見ていたセーヤは、軽いため息の後、嗜めるように口を開いた。
(因みに、布は食べられないので、興味がないソーヤに代わり、今日はセーヤがお供なのだ)
「また、厄介ごとに巻き込まれる予感が致しますが、皆様に怒られやしませんか?メイロードさま……」
「それは、分かっているんだけど……ラーヤさん〝アキツ瑠璃蔓草〟のシャツの上から、派手な着物風の上着を肩がけした素敵なコーディネートだったでしょ。
実は《索敵》で見たところ、隠れた部分の〝アキツ瑠璃蔓草〟のシャツ、かなり広範囲のシミがあったの。つまり隠れていたんじゃなくて、隠していたの。
きっと、そこまでしても着たい服……なんだわ。
それなのにインクでも投げられたみたいな酷い汚れを、しかも一度落とそうとして失敗してるようだったから、気になっちゃって……それに汚れそのものもちょっと気になる感じだったのよ……」
「なるほど、興味を惹かれた上、ご同情されてしまわれたのですね……」
そう言った後、深くため息をついたセーヤは、強い口調でこう言った。
「メイロードさまらしい、お優しいお気持ちは分かりました。
あの方にも悪意は見られませんでしたし、困っておられることも、ご慧眼の通りでございましょう。
でも、だからこそ、くれぐれもお気をつけを。
メイロードさまの能力を知れば、欲しがる輩は無限におります。
何が危険につながるかわかりません。
私たちもお守り致しますが、好奇心もほどほどに。
どうぞ、火中の栗を拾うような短慮をなさいませんように……」
セーヤの心配はもっともなだけに、何も言えず、力なく頷く私なのだった。
(ごめんねセーヤ。でも、気になるものは気になるんだもん!)
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