上 下
74 / 823
2 海の国の聖人候補

263 行動開始!

しおりを挟む
263

翌朝、私はヨシンさんの奥様ユイさんとキッチンに立っていた。

「なんだか申し訳ないわねぇ。お客さんに食材まで持ち込みしてもらうなんて……」

たっぷりの新鮮な野菜を手早く洗いながら、楽しげにユイさんが言う。

昨日は夜も遅いということで、ヨシンさん宅に泊めて頂いた。

ヨシンさん宅は普段から客人が多いらしく、誰かが泊まっていくのも珍しくないらしい。
ものすごく自然に私たちも泊まることになっていた。

「宿屋に泊まっても、今は名物料理もほとんど食べられないからつまらんですよ」

と、ユイさんに言われたことも大きい。そういう状況なら、自分で料理できる方がずっといいしね。

昨夜は、サンドウィッチや甘いお菓子に、それでなくても興奮気味だった子供たちが、遠方からのお客さんに、更にヒートアップ。はしゃぎまくってなかなか寝付いてくれず、私は色々な話をせがまれ、ワイワイと賑やかな夜になった。

「泊めて頂いているのですから、食材の提供ぐらい当然です。今日はシド帝国で最近人気の、バターと牛乳を使った料理も作りますね」

私は大きなフライパンにバターをたっぷり乗せ、以前から仕込んで保存してあった、牛乳と卵をたっぷりと含ませたパンを次々焼いていく。このホテル風フレンチトースト、じっくり長時間染み込ませることで、プリンのようななめらかさが加わり、美味しくて不思議な食感になるのだ。
バターの香ばしい香りがキッチン中に立ち込め、いつに間にか子供たちが鈴なりでこちらを見つめていた。

「お前たち、危ないから入って来ちゃダメよ」

ユイさんは小さい子がキッチンに入らないよう制するが、誰も入り口から離れる気配はない。

(まぁ、大して自分たちと変わらなく見える私が料理してるからね。自分もできると思うよね)

私は苦笑しながら、サラダやお皿の用意を頼んではどうかと提案する。子供たちは我先にとお手伝いに手を上げ、一気にキッチンは賑やかになった。

「大きい子はちゃんと小さい子を見るのよ!ゆっくりでいいから怪我しないでよ!」

「はーい」

久しぶりの華やかでたっぷりとした朝食。
不思議な異国の料理の美味しそうな香り、子供達がワクワクするのは当然といえば当然と言えた。
子供達の面倒を見ながら、食事をするタイチの顔もとても穏やかだ。

「タイチにーちゃん、メイちゃんのおりょーりオイシねー」

口の周りをベトベトにしながら、楽しそうに食べる小さな子の口元を拭いてやるタイチ。

「そうだな、美味しいな。メイロードさまは、本当に泣けるほど料理がお上手なんだよ」

久しぶりの豊かで幸福な食卓に、タイチは感無量のようだ。

「1日も早く、こういう毎日が取り戻せるよう、頑張るから、協力してね」

私の言葉に大きな声で返事をするタイチ。

他の子も、訳がわからないままタイチを真似て、同じように大きな声で次々と

「はい!」

と言い始め、食卓は笑いに包まれる。

ひとしきり笑った後、タイチに今日必要なことをお願いする。

「タイチ、山守の一番偉い方に私と一緒にアカツキの森へまで出向いて欲しいのだけど、連れて来てもらえるかな?」

「山守のエダイ親方は、叔父の昔からの知り合いなので、大丈夫です。すぐ、行って来ます!」

「それは助かる。じゃ、お願いね」

昨日ヨシンさんから不漁の前後の事情について詳細に話が聞けたので、状況はおおよそ判った。
まずは、アカツキ山の環境の健全化だ。それをしなければ話は始まらない。
そのためにも山守の皆さんの協力が不可欠だ。

私が山をなんとかしている間、ヨシンさんには、町の人たちの生活状態の立て直し準備をお願いした。

タイチにマホロの市場で買い込んできてもらった食料と私が樽に山ほど作ってきたメイロードソース各種を使った炊き出しと、保存食の配給。
これからの立て直しのためには、ちゃんと街の人たちが働ける健康状態でいてくれることが重要だ。
そのための体制作りは街の顔役の1人であるヨシンさんが適任だろう。

栄養価の高いメイロードソースは、肉にも魚にも使えるし、野草でもイケるポテンシャルがあるので、食べられる素材も増えるだろう。

いくらみんなで頑張っても、今から最低でも数ヶ月は、まだ生活の厳しさは続く。
新しい道筋が開けるまでの間、なんとか少しでも食生活だけは改善してあげたいものだ。

バンダッタの再生に、私のスキルがどこまで通用するか、私も初めてだし実験的な部分もあるけれど、とにかく迅速に行動することが必要だ。
この町の人を子供たちをタイチを、これ以上飢えに苦しませてはいけない。

「ドラ息子の一団は、随分と土地も生き物もイジメたようだよ。地脈の状態もかなり良くないけどね。メイロードが地を癒せばきっと大丈夫さ」

山の霊的健康を見て来てくれたセイリュウも、私の力が役に立つと言ってくれた。

ならば、することは決まっている。

(アカツキ山へ行こう!)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

【完結】妃が毒を盛っている。

ファンタジー
2年前から病床に臥しているハイディルベルクの王には、息子が2人いる。 王妃フリーデの息子で第一王子のジークムント。 側妃ガブリエレの息子で第二王子のハルトヴィヒ。 いま王が崩御するようなことがあれば、第一王子が玉座につくことになるのは間違いないだろう。 貴族が集まって出る一番の話題は、王の後継者を推測することだった―― 見舞いに来たエルメンヒルデ・シュティルナー侯爵令嬢。 「エルメンヒルデか……。」 「はい。お側に寄っても?」 「ああ、おいで。」 彼女の行動が、出会いが、全てを解決に導く――。 この優しい王の、原因不明の病気とはいったい……? ※オリジナルファンタジー第1作目カムバックイェイ!! ※妖精王チートですので細かいことは気にしない。 ※隣国の王子はテンプレですよね。 ※イチオシは護衛たちとの気安いやり取り ※最後のほうにざまぁがあるようなないような ※敬語尊敬語滅茶苦茶御免!(なさい) ※他サイトでは佳(ケイ)+苗字で掲載中 ※完結保証……保障と保証がわからない! 2022.11.26 18:30 完結しました。 お付き合いいただきありがとうございました!

婚約破棄 ~家名を名乗らなかっただけ

青の雀
恋愛
シルヴィアは、隣国での留学を終え5年ぶりに生まれ故郷の祖国へ帰ってきた。 今夜、王宮で開かれる自身の婚約披露パーティに出席するためである。 婚約者とは、一度も会っていない親同士が決めた婚約である。 その婚約者と会うなり「家名を名乗らない平民女とは、婚約破棄だ。」と言い渡されてしまう。 実は、シルヴィアは王女殿下であったのだ。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

とある婚約破棄の顛末

瀬織董李
ファンタジー
男爵令嬢に入れあげ生徒会の仕事を疎かにした挙げ句、婚約者の公爵令嬢に婚約破棄を告げた王太子。 あっさりと受け入れられて拍子抜けするが、それには理由があった。 まあ、なおざりにされたら心は離れるよね。

断罪されているのは私の妻なんですが?

すずまる
恋愛
 仕事の都合もあり王家のパーティーに遅れて会場入りすると何やら第一王子殿下が群衆の中の1人を指差し叫んでいた。 「貴様の様に地味なくせに身分とプライドだけは高い女は王太子である俺の婚約者に相応しくない!俺にはこのジャスミンの様に可憐で美しい女性こそが似合うのだ!しかも貴様はジャスミンの美貌に嫉妬して彼女を虐めていたと聞いている!貴様との婚約などこの場で破棄してくれるわ!」  ん?第一王子殿下に婚約者なんていたか?  そう思い指さされていた女性を見ると⋯⋯? *-=-*-=-*-=-*-=-* 本編は1話完結です‪(꒪ㅂ꒪)‬ …が、設定ゆるゆる過ぎたと反省したのでちょっと色付けを鋭意執筆中(; ̄∀ ̄)スミマセン

【完結】7年待った婚約者に「年増とは結婚できない」と婚約破棄されましたが、結果的に若いツバメと縁が結ばれたので平気です

岡崎 剛柔
恋愛
「伯爵令嬢マリアンヌ・ランドルフ。今日この場にて、この僕――グルドン・シルフィードは君との婚約を破棄する。理由は君が25歳の年増になったからだ」  私は7年間も諸外国の旅行に行っていたグルドンにそう言われて婚約破棄された。  しかも貴族たちを大勢集めたパーティーの中で。  しかも私を年増呼ばわり。  はあ?  あなたが勝手に旅行に出て帰って来なかったから、私はこの年までずっと結婚できずにいたんですけど!  などと私の怒りが爆発しようだったとき、グルドンは新たな人間と婚約すると言い出した。  その新たな婚約者は何とタキシードを着た、6、7歳ぐらいの貴族子息で……。

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。