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2 海の国の聖人候補

262 バンダッタの夜

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262

「正確なことは、明日現地調査をしてからお伝えしたいと思っていますが、ご存知のことがあれば、その前にお伺いしておこうと思いまして……」

私はここに来るまでの船の中で書いた、港付近の簡易地図を机に広げた。

一方、見捨てられた港にまさか外部からこの町を立て直そうとする人間が来るとは、夢にも思わなかったヨシンさんは、状況を飲み込むのにかなり苦戦していた。

「じゃ、あんた……いやメイロードさんは、タイチの話を聞いて不漁の原因の察しがついたって言うんですか!で、それを調べてなんとかするためにわざわざこんな遠くまで来てくれたと?!」

なぜ、たまたま一度助けたことのあるだけの異国の少年の窮地を救おうとするのか、解らないのが当たり前だろう。私だって、なぜと問われたら、ちょっと悩む。

「助けたいと思ったから……じゃダメですかね?」

実際、他に答えようもないのだ。助けられそうな人がいたら助ける、それが私の生き方だ。それを〝縁〟と言ってもいい。

「メイロードさんにはなんの見返りもないでしょうが!こんな小さな港町を助けても!」

なんだか訳が分からないという感じでヨシンさんがため息をつく。

「見返りですか……そうですね……早くタイチが最高の味だと自慢していた、こちらの港の貝を料理してお腹いっぱい食べてみたいですね」

ニコニコ笑ってジュースを飲んでいる私を見て、ヨシンさんは呆れ顔だ。

「おじさん、メイロードさまって、こう言う人なんだ。信用してあげて!決して悪いことを考えるような人じゃないんだ」

タイチはキッペイとの手紙のやり取りで知った、私がキッペイにしたことや、孤児たちのために印税を全て寄付していることなどを説明して全て〝善意〟なのだと、重ねて説明してくれた。
驚きとともに話を聞いていたヨシンさんは、パンッと足を叩いて頷くと、私の方を見て笑った。

「分かったよ。確かに、今この町はこれ以上ないどん底だ。スガれるなら、なんにでもスガらなきゃならない。メイロードさん、いやメイロードさま、あなたを天からの使いだと信じるよ!できることがあれば協力させてもらう」

まだ全てが信じられるわけでじゃないとは思う。だが、何ひとつ光明の見えない今

〝策がある〟

というのはこの町の人が何よりも聞きたかった言葉に違いない。
ただの子供ではないと、納得してくれたことで、信用する気になってくれたようだ。

ともかく、現地の有力な協力者ができたようなので必要な情報を聞いてしまおう。

「では、まずお聞きしたいことがあります。この港に面した森の管理はどなたがされているのでしょうか?」

「森? ああ、アカツキの森か。

山は〝山守〟っていう木こりの連中の管理だ。

売り物になるいい樹木を育て、森の食材や薬草を採りながら、ずっとこの一帯の森を管理している連中だ。
だが5、6年前、領主様の息子が嫁取りのために見晴らしのいい場所に家が欲しいとか言い出しやがった。あの森を直轄地にして、山守たちを締め出し入れなくしたんだ。
そのあと、自分が集めた大工やら木こりやらに、木を切らせたり整地させようとしたりを長いことした末、斜面をうまく整地できず、結局そのまま放置だ。

山守たちもあまりのひどい状況に、一から整地し直し植林するだけの費用も人手も準備できないらしくてな。
本当なら、そういう時にご領主さまに相談して、一緒に計画を立てて頂いていたんだろうが……
とてもご相談できるような体調でもなくてなぁ。

お陰でアカツキ山の周りは荒れちまって、昔は売るほど取れた山菜もめっきり取れなくなっちまってよ。

本当に……あいつは、最初から最後までロクでもない野郎だった!」

ヨシンさんが酒を一気に飲み干す。領主の息子の所業は、よほど目に余るものだったのだろう。

「おそらく、不漁の原因はです」

領主の息子は自然の循環を破壊し、山と海を断絶してしまったのだ。それは間違い無いと思う。

「こちらと、こちらにある2本の川の水量は減っていませんか?」

地図に書かれた湾に注ぎ込む大小2つの川を示すとヨシンさんが驚いたように頷く。

「見てもいないのになんで分かるのか不思議だが、その通りだ。水源池は問題ないらしいんだが、下流の水量が足りていないんだよ」

どうやら状況は見るまでもないようだ。

「明日から3日間、町の人がアカツキ山に入らないようにして頂けませんか?」

私の言葉にヨシンさんは苦笑する。土地があちこちむき出しで、何度も崖崩れが起こっているため、もうあの山に入るものは誰もいないそうだ。

(じゃ、早速明日から行動開始だ!)
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