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2 海の国の聖人候補

255 ふさわしいお仕事

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255

「私はこの商品を、売るのではなく〝貸そう〟と考えています」

「大金貨50枚分の商品を〝貸す〟とおっしゃるのですか?」

私の言葉にタスカ幹事は、目を丸くしている。

この冷蔵庫の商品価値を使ったことのない人に説明するのは難しい。増して初めて導入する商品の対費用効果については実際に使用してみなければ試算が難しいだろう。

それに、用途もピンと来ていない状態で購入するにはあまりにも高額で敷居が高すぎる。

「私としては、3ヶ月ぐらいは試用期間としてタダで貸してもいいと考えています」

「へっ? た、タダ? 無料で高額な魔石を貸し出すとおっしゃるのですか?!」

ついに素っ頓狂な声を出してしまうタスカ幹事だが、まぁ、気持ちは分かる。

「タスカ幹事、重要なことなので言っておきますが、私には短期的な利益は必要ありません。
ですので、実はこの魔石の対価も今受け取るつもりは無いのです。この冷蔵庫貸し出しの事業が軌道に乗り、利益が出た場合に限り、相応の対価をお支払い頂ければ結構なんですよ」

私の言葉に、今度は呆れたような目をしたタスカ幹事が大きくため息をついた。

「メイロードさまの、あの紹介状の意味がやっと解った気が致します。ここまで長期的な視野で商売を考えられるとは、その若さの賜物なのでしょうか。正直驚きです。

……この画期的な事業計画を、なぜここまで具体的な構想も資金もお持ちでありながら、商業ギルドへお持ち込みになったのですか?ご自身で事業を起こされればより大きな収益が見込めますでしょうに……」

それについての私の答えは明快だ。

「私はこの国のためにも、この事業が早く軌道に乗って欲しいと思っています。
しかし、新参の私にはこの国での実績も信用もありません。
この商品を売り込むべき相手から探し始めるとなれば、最速でも数ヶ月の準備が必要でしょう。

ですが、これが商業ギルドの事業であれば、この〝魔石冷蔵庫〟は最速で普及するだろうと考えました。

そして、失礼かと思いますが、当地のご事情はお伺いしております。

今、こちらの商業ギルドは運営があまり芳しくない……とも。

この事業を通して、地元の有力商人と長期間の協力関係を築き、密接にお互いの利益を補い合う関係が続くことは、商業ギルドの安定を図るためにも非常に有益だろうと判断しました。

この事業に必要なのは信用できる長期継続が保証される組織です。それが可能なのは、利益だけではない公益性のある商業ギルドのような組織であり、これはあなた方にこそふさわしい事業であると思うのです」

私の言葉に聞き入っていた幹事と、秘書らしき方の様子が、何かおかしい。

(あ、あれ?タスカ幹事の目に涙が……あれ?あれ?)

「メイロードさま、メイロードさま!! ありがとう、ありがとうございます!!」

秘書のお嬢さんも号泣モードに入ってしまった。

商業ギルドが大変そうだというサイデム商会のエンジさん達からの情報は、どうやら大正解だったようだ。相当厳しい状況にあったのだろう。

ギルドの力が弱まるのは、当地にとっていいことではないし、旅の商人にとっても困った事態だ。
商業ギルドにはこれからきっとお世話になるし、頑張って頂きたい。

「あ、それから、ひとつ絶対に守って頂きたいことがあります」

なんでも言ってくださいという感じで頷くタスカ幹事。

「今回の魔石冷蔵庫貸し出し計画について、私の案であることとか、魔石の出所が私であるとか、そういうことは一切を秘密にして下さい」

「そんな、そんなことは出来ません!」

ブルブル首を振るタスカ幹事と秘書の方に私は念押しする。

「絶対に秘密にして下さい!私はこの国に遊びに来ているんです!もし、外に知れたら本気で怒りますからね!」

私は精一杯脅してみる。10歳の子供の脅しにどのくらい迫力があるか分からないが、帝国の時のテツは踏みたくない。私の名が外に出ることは極力防がなければ。

ものすごく残念そうに、シブシブと了承する2人にホッとした私は、持ち込んだ冷蔵庫に入れてあった他のご馳走も取り出して、軽く事業成功を願う宴会をして乾杯した。

やはり、私の包丁の腕は鈍っていなかったらしく、ここでも刺身もその他の魚介料理も絶賛してもらえたし、飾り切りも教えて欲しいと頼まれてしまった。

魚を食べ慣れたご当地の方に料理を褒められるのは、ものすごく気分がいい。
お仕事もまとまったし、幸先が良くて鼻歌が出てきそうだけど、これも自重しないと……ったく面倒な!

(さて、では次は冒険者ギルドに行きますか)
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