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パーティー

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 アリステラはパーティーで小皿片手に忙しくしていた。


「ぜ、全部美味しいだと…!?」


ちょっと摘むだけのつもりが、それを抑えられないレベルに美味しい。これがロイヤルクオリティーか!ぜひとも、この味や料理を家で再現したい。


しばらくすると、会場に拍手の音が響き渡る。それに合わせて、オーケストラの演奏が盛り上がりを見せる。何事かとアリステラは食事をモグモグと咀嚼しつつ、会場を見回す。


そうしていると、1人の男性と目が合った。どこかで見たような顔だ。しかし、記憶が朧気でどこの誰かはよく覚えていない。まぁ、覚えていないくらいの人なら、忘れても問題ない人だったのだろうと、アリステラは思う。


ところが、その人はその考えに当てはまらない人だった。彼の登場に会場が沸いたことも気づいていないアリステラは、早々に目線を食事に戻したが、彼の方は違った。カツカツと靴を鳴らして、アリステラの元へ向かってきた。


流石に目の前に立たれたので、アリステラも皿とフォークをテーブルに一旦置いた。何の用だと首を傾げると、彼はすっとアリステラの手を取り、口付けを落とした。


「………!?」


「ずっと探していた…。あの時、僕と愛馬を救ってくれたのは君だね」


「は?」

何言ってるのかと聞き返そうとして、アリステラはハッと我に返る。彼は今何と言った?馬?助けた?そう言われると蘇る記憶がある。


「君を探してもどこの誰なのかがさっぱり分からなかったんだ。だから、今回こんな大がかりなパーティーを開いた。もしかしたら、君にまた会えるかもしれないと思ってね」


パーティーを開いた。その言葉にようやく目の前の彼が何者かを、アリステラは悟った。


そして、思うことはただ1つ。 
ほっといてくれ。それだけである。


このパーティーに来たのも、色々と偶然だし、そもそも王子なんて面倒そうな存在に関わりたくない。


アリステラが全力でここから抜け出す方法を考えようとした時、どこからか聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「何なの、あの子!王子様を独り占めして」


「王子様、そんな子より私達とお話しましょう!」

この空気を読まない態度・発言!紛うことなく、エディナとサーシャだ。ある意味バレたらまずい状況だが、渡りに船、この好機を逃してたまるか。


「殿下、私だけがお話していたら他の女性達に申し訳ないですので、私はこれで失礼します」

あれだけ執着していた食事にも目をくれず、アリステラはその場から勢い良く飛び出す。

幸い、人の多さもあり、王子はすぐにこちらを追いかけることができないようだ。今のうちにと、アリステラは一気に逃げる。


「はぁ、はぁ、馬車…あった!」


城門前の長い階段から下を見下ろせば、あの馬車が暗闇の中、ぼんやりと光っているのが見えた。これで、あとは馬車に乗るだけと思いきや、まさかの王子の声が後ろから聞こえてくる。


「待って…!せめて名前だけでも…!」

「名はない、通りすがりの、平凡な一般人ですからっ」


名前を言ってしまえば、そこから探そうとするのが見えている。誰がそんな自分の首を締める真似をするか。


全力で階段を駆け下りるアリステラだったが、そもそも彼女は昼過ぎに酒を飲みまくっていた。酔いは覚めていたが、その足元はどこかおぼつかなかった。長い階段で、ついにその足がぐらつく。


「あ…っ!?」


履いていたガラスの靴のヒールが折れ、身体が宙に投げ出された。このまま、階段下に叩きつけられる様を想像する。あ、これはやばいなとアリステラはどこか他人事のように思った。


痛みを予想していたが、アリステラは階段下ではなく、あの馬車の中にいた。これも魔法使いのおかげか、いや、それにしても、馬車の性能が凄過ぎないか。


無事、怪我もなく馬車に乗ったアリステラは王子に向かって捨て台詞を吐いた。


「では、御機嫌よう。そして永遠にさようなら!」


この時のアリステラは、もう王子に会うことはないと信じきっていた。
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