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社会の洗礼
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雨宮真澄、今年から新卒一年目。OLとしての私の輝かしい社会人生活が始まる。そう信じて疑わなかった半年前の私は馬鹿だ。高いコスメを買って、季節感溢れるネイルにマツエクをして、できる女になるのが夢だった。
それが実際はどうだろうか。
毎日残業、何より自分の希望の部署ではない所で日々働くのがきつい、しんどい。
営業部に行きたいとは一言も言っていない。面接の時にも、様々な部署を経験できるという説明を受けたのに、研修もそこそこに私は営業部に決められたのだった。一応、面談という名ばかりの時間は取ってもらったが、そこでの拒否権など無いに等しい。新卒の私は「はい」としか言えず、今に至る。
そして、さらに最近の私はもう一つ悩み事を抱えていた。それは、同期の津村鈴の存在だ。最初は住所も近く、趣味も合うことからよく遊んだりご飯に行ったりした。しかし、とある時に鈴の自分勝手さを思い知った私は、それ以来どうしても冷たい対応を取ってしまう。
私が誘った飲み会は来ないのに、他の同僚(男子)の誘いには乗る。
私の買ったゲームや漫画を借りたまま、ずっと返さない。
例えを挙げればキリがない。一度嫌な面を目の当たりにしてしまうと、もう止められなかった。私の中での彼女は「嫌な女」でしかなくなってしまったのだ。
ところが、そんなギクシャクしている私と鈴だが、今日も勤務後の帰りを共にしている。鈴も何となく私の反応に気づいているだろうに、お互い急に一人で帰ろうとは言いづらい。だからこそ他愛もない話をしながら、毎日一緒に帰り続けている。
「あのゲームもうした?私はステージコンプリートしたよ~」
へぇ、そう。だから何?
そう思っていることは内に潜め、私はそれなりの答えを返す。
「流石、鈴やるね。私も土日に進めるわ」
話題を探すのも疲れて、私は地面に視線を落とした。十二月の凍えるような寒さで、辺りは暗闇に包まれている。街頭の灯りと月明かりによって少しばかり明るいが、大通りから外れればそこはすぐに深い闇に染まる。
駅から小道に逸れて、静まり返った住宅街には二つのヒールの音だけが響く。
早く別れたくて、私は早足で進む。目の前に見える交差点さえ渡れば、私はそのまま真っ直ぐ、鈴は左折してしばらく行くことになる。青く光る交差点の信号に救われた気持ちで、私は気持ちが楽になった。
「じゃ、また明日も頑張ろ…」
交差点を渡り切る寸前に、別れを告げようとする。しかし、信号の色が突然赤と黄色に点滅し始める。次第に二つの色が混ざり合い、目に痛いような不快な色になる。
「な、何これ!?」
この時ばかりは、仲の悪い私達も同じ言葉を発していた。困惑する私達をよそに、信号の色は激しく点滅を繰り返し、そちらに目を取られている間に、私達は道路に空いた大きな穴に吸い込まれて行った。
落ちていく中、私は死を覚悟した。
せめて、納得出来る仕事で成果を残してから死にたかった。
じわりと滲む視界にそっと蓋をして、私は夢の世界を想像することで現実逃避した。
もうこうなったら…生まれ変わったら、バリバリのキャリアウーマンになってる!そんで、美意識高い系の女性として、過去の自分を上書きしてやる!
終わりの見えない穴に吸い込まれつつ、私はようやく決意した。死ぬ間際にそんなこと考えても遅いという点は目をつぶって欲しい。
自分のことで手一杯だったので、隣で鈴が悲鳴を上げ続けているのも、気にならなかった。最後が鈴と一緒というのは気に食わないが。
それが実際はどうだろうか。
毎日残業、何より自分の希望の部署ではない所で日々働くのがきつい、しんどい。
営業部に行きたいとは一言も言っていない。面接の時にも、様々な部署を経験できるという説明を受けたのに、研修もそこそこに私は営業部に決められたのだった。一応、面談という名ばかりの時間は取ってもらったが、そこでの拒否権など無いに等しい。新卒の私は「はい」としか言えず、今に至る。
そして、さらに最近の私はもう一つ悩み事を抱えていた。それは、同期の津村鈴の存在だ。最初は住所も近く、趣味も合うことからよく遊んだりご飯に行ったりした。しかし、とある時に鈴の自分勝手さを思い知った私は、それ以来どうしても冷たい対応を取ってしまう。
私が誘った飲み会は来ないのに、他の同僚(男子)の誘いには乗る。
私の買ったゲームや漫画を借りたまま、ずっと返さない。
例えを挙げればキリがない。一度嫌な面を目の当たりにしてしまうと、もう止められなかった。私の中での彼女は「嫌な女」でしかなくなってしまったのだ。
ところが、そんなギクシャクしている私と鈴だが、今日も勤務後の帰りを共にしている。鈴も何となく私の反応に気づいているだろうに、お互い急に一人で帰ろうとは言いづらい。だからこそ他愛もない話をしながら、毎日一緒に帰り続けている。
「あのゲームもうした?私はステージコンプリートしたよ~」
へぇ、そう。だから何?
そう思っていることは内に潜め、私はそれなりの答えを返す。
「流石、鈴やるね。私も土日に進めるわ」
話題を探すのも疲れて、私は地面に視線を落とした。十二月の凍えるような寒さで、辺りは暗闇に包まれている。街頭の灯りと月明かりによって少しばかり明るいが、大通りから外れればそこはすぐに深い闇に染まる。
駅から小道に逸れて、静まり返った住宅街には二つのヒールの音だけが響く。
早く別れたくて、私は早足で進む。目の前に見える交差点さえ渡れば、私はそのまま真っ直ぐ、鈴は左折してしばらく行くことになる。青く光る交差点の信号に救われた気持ちで、私は気持ちが楽になった。
「じゃ、また明日も頑張ろ…」
交差点を渡り切る寸前に、別れを告げようとする。しかし、信号の色が突然赤と黄色に点滅し始める。次第に二つの色が混ざり合い、目に痛いような不快な色になる。
「な、何これ!?」
この時ばかりは、仲の悪い私達も同じ言葉を発していた。困惑する私達をよそに、信号の色は激しく点滅を繰り返し、そちらに目を取られている間に、私達は道路に空いた大きな穴に吸い込まれて行った。
落ちていく中、私は死を覚悟した。
せめて、納得出来る仕事で成果を残してから死にたかった。
じわりと滲む視界にそっと蓋をして、私は夢の世界を想像することで現実逃避した。
もうこうなったら…生まれ変わったら、バリバリのキャリアウーマンになってる!そんで、美意識高い系の女性として、過去の自分を上書きしてやる!
終わりの見えない穴に吸い込まれつつ、私はようやく決意した。死ぬ間際にそんなこと考えても遅いという点は目をつぶって欲しい。
自分のことで手一杯だったので、隣で鈴が悲鳴を上げ続けているのも、気にならなかった。最後が鈴と一緒というのは気に食わないが。
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