淑女と黒の日記帳

コトイアオイ

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心当たりのない招待状

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 突然やって来た王家の馬車に乗った私は、頭の中でひたすら記憶を探っていた。


何と、この国の王子が私を名指しで護衛術士にすると宣言し、こうして招待状を送ってきたというのだ。しかし、王子が何故私のことを知っているのか。


使者から手渡された上品な香りのする手紙の封を開ければ、流れるような字でこう書いてある。


ーーーー




ルーチェ・サングリア殿



先日は面倒に巻き込んでしまい、大変申し訳ありませんでした。


しかし、気を悪くしないで頂けると有難いのですが、あの時、貴方の力をこの目で見ることができたという意味では、大変貴重な機会でした。


つきましては、貴方のその力を見込んで私の護衛術士として力添えして頂きたく、こうしてお手紙を差し出した次第です。


先日の件の謝罪とお礼も兼ねて、貴方を王宮へ招待します。ぜひ、お越しください。そこで、詳しいお話が出来たらと思っております。



ヴィンセント・ヴァン・スフィア


ーーーー


いや、うーん。王子は私と会ったと仰っているけれど、まるで心当たりがないわ。どうせならどこで出会ったかを書いてくれれば良かったのに。先日とか、あの時とか言われても、全く分からない。そもそも、この国の王子がいたら周りが黙っていないはずだ。


ここ最近の記憶をいくら引っ張り出しても、王子という言葉に引っかかるものは一切ない。



結局、既に馬車に揺られているものの、私は1つの結論に達した。



「王子殿下はきっと人違いされているわ」


人違いならさっさと引き返せばいいのだが、ルーチェはせっかくなら王宮を一目見てから帰ろうと思った。貧乏貴族にとって、王宮とは輝かしい表舞台、年頃の娘ならば憧れの場所だからだ。


本来、名門伯爵家のエルドとの婚約がまとまり、結婚ともなれば王宮で式が挙げられたかもしれない。しかし、それはもう叶わぬ夢である。ならば、見るだけでもとルーチェはまだ見ぬ王宮へと夢を馳せた。
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