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第57話 人質と交渉

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 少し時が経過し、再び来たゲルド達はある人物を連れて来た。
 その人物は、本当に変装なのかと思うくらいにリヴィオに似ている。

(カラムに聞いていなかったら動揺していたわね)

 事前に聞いていたから取り乱すことなく見ることが出来た。まぁ私が間違えるなんてことはないけれど。

 背丈も顔のつくりも、表情すらもそっくりだ。

 だが、違和感がある。上手く言えないが、全体的に見れば何かが違うという雰囲気が感じられた。

「エカテリーナ様、申し訳ありません……不覚を取りました」

 悔しそうな顔をし、深々と頭を下げる仕草は、実物と見紛うものだ。

「いえ、いいのよ。それよりも怪我をしたり、酷い事をされていない?」

 リヴィオだろうと別人だろうとそこは関係ないわ。
 平気でローシュを短剣で刺す者達だから、心配になる。

「はい、ございません、エカテリーナ様もご無事でしょうか?」

 気遣いの言葉に少し頬が緩む。

(そう言えばここに連れられてきた時に、そのような言葉もかけられなかったわね)

「えぇ、ないわ。大丈夫。心配をしてくれて、ありがとう」
「当然です。あなたは俺の大事な人なのだから」

 真摯な言葉と目は本物のリヴィオのようで驚いてしまう。

 そんな彼の首についに短剣があてられた。

「先程した話を覚えていますか、エカテリーナ様。私達の味方をしてくれるかという話だったのですが」

 まだそのような戯言を言うのね。ならないと言ったらならないわよ。

(人を脅して従わせて、それで良いと思ってるのかしら)

 そんな事してもずっとその関係が続くわけがないじゃないの。そのまま押さえつけていたのでは、いずれ不満が溜まって爆発してしまうわ。

 しかしどう動こうかと悩んでしまう。

 カラムの同僚ならば騎士よね。そう簡単に殺されたりしないだろうけど、彼もまた武器を持っているようには見えない。

 きっと体術に優れているとか、カラム同様何らかの魔法が使えるのでしょう。

 それに知りたい事はまだまだある。

「例え魔法を使えるようになっても、私一人では大した力にならないわ。このバークレイには他にも魔女がいる、反逆を行なっても、その方達が止めに来るはずよ。彼女達にかかれば、私なんてすぐに倒されてしまうわ。それでいいの?」

 これは本当にそう思っている事だ。

 実際に戦った事はないが、実戦経験のない私よりも彼女達は遥かに強いだろう。

「良いのですよ。戦えなくてもあなたは貴重な人ですから。ねぇブルックリン侯爵令嬢様」

 そっちも欲しがるのね。何と欲張りな人たちでしょう。

 ブルックリン侯爵家の後ろ盾やら財産やらも欲しいという宣言ね、私を人質に侯爵家も脅すつもりなのよ。

 お生憎様。タリフィル子爵のように乗っ取られたりはしないわ。私がそうはさせない。

「エカテリーナ様。俺の事は見捨ててください。あなたにそのような事はさせません」

 きっぱりとリヴィオ? がそんな頼もしい事を言ってくれる。

 しかし後ろ手に縛られているその状態で、挑発なんてして大丈夫かしら?

「ブルックリン侯爵家やあなたに迷惑をかけるのならば、俺はここで果てた方がましです。どうかお許しください」

 本当に変装なの? と思うくらいだわ。この生真面目さも、自分で何もかも背負おうという彼の性格がよく出ている。

「そんなことは出来ないわ」

 演技とはいえ、このような真摯な態度の彼をこのまま見捨てる気はない。

「エカテリーナ様はこの男を見捨てることは出来ない。とはいえ勝手に話をされては困りますね。エカテリーナ様の気が変わったらどうするんですか」

 ぐっと頭を抑えられ、反り返った喉に短剣が近づく。

「待ちなさい!」

「少し見せしめしようというだけです。あまりにもうるさいのでね」
 短剣が更に喉元に近づいた。

「彼に手を出さないで。もしそんな事をしたら、許さないわ」

「許さない、ね。記憶を失い、何も出来ないあなたが何を出来るというのですか?」

 カチンとくる物言いに、こめかみに青筋が立つ。

「ごちゃごちゃとうるさい男は嫌われるわよ。いいから彼を放しなさい」

 もういい、ゲルドを生け捕りにして終わらせましょう。

 きっと近くには王家の兵が居るだろうし、これ以上減らず口を聞きたくない。

(記憶が戻ったと言えばいいでしょう)

 後でリヴィオには本当の事を話すつもりだが、嘘をずっとついていた事で嫌われないかが心配だが、きっとわかってくれる。

「優しい人ですね、エカテリーナ様は。ありがとうございます」

 ニコリと彼は微笑むと、自ら体を動かした。

 彼の体に短剣が刺さるのが見えたのは、意を決してゲルドに魔法を放とうとした時だ。

 その時、突然の天井が吹き飛び、轟音と荒れ狂う風と砂塵が狭い室内をのみ込んだ。



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