上 下
6 / 22

デート的な

しおりを挟む
おすすめされた店はシックなカフェであった。

ライカは店のドアを開け、エスコートする。

「このような店は初めて入りました」

「俺もです、緊張しますね」
案内された席に着き、ライカはメニューを見て、また眉間に皺を寄せている。

「どうされましたか?」

「いえ、どれも聞きなじみのないメニューでどれを選べばいいか悩んでしまったのです」
もしかして今までの仏頂面はそういう理由なのだろうか。

「悩んでいるとは思えない程、眉間に皺が寄っています。傍目には怒っているようにしか見えませんでしたわ」

「本当ですか?」
ライカは額に手を当てため息をつく。

「ルドにもよく指摘されるのですが、なかなか直せず……誤解を招いてしまってすみません」
眉間の皺を伸ばすように、ライカは顔をマッサージしている。

「けして怒ってるわけではないです、寧ろフローラ様とこうして話せるのを楽しみにしていました」
ライカの言葉に驚く。

(私と話すのを楽しみにしてたなんて、悪い気はしないわね)
そんな風に異性に言われたことはなかった。

「フローラ様はとても気高く美しい女性だ。信念を持ち、女性には難しいとされる剣の道を目指す、その気持ちを応援したいのです」
真っすぐにフローラを見つめるライカの目は真剣だ。

ライカはずいぶんフローラを評価してくれている。

まるで好意を持ってくれているかのような素振りに、フローラは錯覚してしまいそうだ。

「ですので、剣の事ならなんなりと、遠慮なく俺に相談してください。ぜひ今後もお手伝いをさせて頂きたいです」
ライカの締めくくった言葉に、フローラは肩の力が抜ける。

彼の関心は剣の事なのだ。

フローラ個人ではない。

「ありがとうございます。ぜひ頼りにさせて頂きますわ」
にこりと笑顔を見せれば、ライカも嬉しそうだ。







ライカは終始ニヤけそうになる顔を気合で押さえていた。

キレイだと憧れていた女性とこうしてお茶をしに来られるとは、天にも昇る気持ちだ。

だがそんな下心を表面に出すわけにかいかない。

それ故に不機嫌そうに見えてもぐっと眉間に皺を寄せ、耐えていた。

すぐにからかってくるマオやチェルシーとも、ほわほわした雰囲気を持つミューズとは違い、フローラは毅然とした美しさを持っていた。

長身で引き締まった体は、ストイックなまでに己を律することが出来る証だ。

そして自分の生き方に疑問を抱き、これからどうしたらいいのか、自分の頭で考え、こうして行動している。

親に敷かれたレールの上以外に自分の生きる道を模索しているのだ。

淑女として生きてきたフローラにとって、それがどんな辛く険しい道でも頑張りたいと奮闘している。

そんなフローラを応援したく、ライカは出来る限りの事をすると誓った。

現実を見て諦めてもいい。

本当に剣の道を選んだとしても、生き残れる力を得られるように助力するつもりだ。

ここまで異性に心を砕くのは初めてではあったが、ティタンやエリックを見て、その気持ちがなんなのかは自然とわかっていた。

目ざといマオ達にうざい程また絡まれてしまったが、こうして良いお店を教えてくれたのは感謝している。

誘い方が不器用なのはライカ自身も感じていた。

未婚の女性の手に勝手に触れることが、どういう意味を持っているかも知っている。

しかし、断られる事が怖くて否定の言葉を聞くより先に、行動で示してしまった。

戸惑いは感じられたが、嫌がられる素振りはなかったので安堵する。

先程会った元婚約者の男もその連れも、フローラが止めなければ、うっかり切り捨ててしまったかもしれない。

失礼過ぎる二人について、主君であるティタンから釘をさしてもらってもいいかもしれない。

使えるものは使わせてもらうのもありだ。

自分では身分が低すぎて、説得力に欠ける。

だから子爵家である自分が想っても、フローラとどうにかなることはないとも理解していた。

王族付きの護衛騎士とはいえ、あちらの家が許すことはないだろう。


だからせめてフローラの役に立てばと、思うばかりだ。
フローラの為に剣について教えることが、女性を喜ばせることもかける言葉もわからないライカに出来る、精一杯だ。





    
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

全力悪役令嬢! 〜王子の薄っぺらい愛など必要ありません〜

本見りん
恋愛
 ……それなら『悪役令嬢』、全力でやり遂げてやろうじゃないの!  日本人だった前世を思い出し、今の自分が『悪役令嬢』だと気付いたレティシア スペンサー公爵令嬢。  なんとか断罪を回避しようと対策を試みるも悉く失敗。それならと心優しい令嬢になろうと努力するが、何をしても《冷たい令嬢》だと言われ続けた。そしてトドメが婚約者フィリップ王子。彼も陰で対立派閥の令嬢にレティシアの悪口を話しているのを聞いてしまう。  ……何をしてもダメだというのなら、いっそのこと全力で悪役令嬢をやりきってやろうじゃないの!  そう決意したレティシアは、立派な? 『悪役令嬢』となるべく動き出す。……勿論、断罪後の逃げ道も準備して。 『小説家になろう』様にも投稿しています。こちらは改訂版です。 『ハッピーエンド?』とさせていただきました。 が、レティシア本人的には満足だと思います!

【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。

早稲 アカ
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。 宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。 彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。 加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。 果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

最悪なお見合いと、執念の再会

当麻月菜
恋愛
伯爵令嬢のリシャーナ・エデュスは学生時代に、隣国の第七王子ガルドシア・フェ・エデュアーレから告白された。 しかし彼は留学期間限定の火遊び相手を求めていただけ。つまり、真剣に悩んだあの頃の自分は黒歴史。抹消したい過去だった。 それから一年後。リシャーナはお見合いをすることになった。 相手はエルディック・アラド。侯爵家の嫡男であり、かつてリシャーナに告白をしたクズ王子のお目付け役で、黒歴史を知るただ一人の人。 最低最悪なお見合い。でも、もう片方は執念の再会ーーの始まり始まり。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

【完結】優しくて大好きな夫が私に隠していたこと

恋愛
陽も沈み始めた森の中。 獲物を追っていた寡黙な猟師ローランドは、奥地で偶然見つけた泉で“とんでもない者”と遭遇してしまう。 それは、裸で水浴びをする綺麗な女性だった。 何とかしてその女性を“お嫁さんにしたい”と思い立った彼は、ある行動に出るのだが――。 ※ ・当方気を付けておりますが、誤字脱字を発見されましたらご遠慮なくご指摘願います。 ・★が付く話には性的表現がございます。ご了承下さい。

王太子は幼馴染み従者に恋をする∼薄幸男装少女は一途に溺愛される∼

四つ葉菫
恋愛
クリスティーナはある日、自由を許されていない女性であることに嫌気が差し、兄の服を借りて、家を飛び出す。そこで出会った男の子と仲良くなるが、実は男の子の正体はこの国の王太子だった。王太子もまた決められた将来の道に、反発していた。彼と意気投合したクリスティーナは女性であることを隠し、王太子の従者になる決意をする。 すれ違い、両片思い、じれじれが好きな方は、ぜひ読んでみてください! 最後は甘々になる予定です。 10歳から始まりますが、最終的には18歳まで描きます。

処理中です...