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婚約破棄
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「フローラ=ローズマリー侯爵令嬢。あなたとの婚約は破棄させてもらう」
呼び出された場所でフローラはそう宣言された。
「今、何と?」
フローラは信じられない思いでいっぱいだった。
特に喧嘩した記憶もないし、今まで嫌われていた素振りもなかったはずだ。
「婚約破棄だ!あなたとは結婚出来ない」
強い声で再びそう言われる。
周囲に人がいないからまだいいが、そうでなければ驚くほどの声量だ。
こんな風に言われた事など、初めてだ。
婚約者だった男性はそう言うと、近くに隠れていた可愛らしい女性を呼び寄せ、肩を抱く。
可愛らしい、ほわほわした雰囲気の令嬢だ。
フローラとは全く違う。
「こちらのキャシーは君と違ってとても可愛らしい。私はこのキャシーと婚姻を結ぶので、君も新たな幸せを探してくれ」
「ごめんなさい、フローラ様。あなたからビクター様を奪うつもりなんてなかったの」
二人は示し合わせていたのだろう。
淀みなくすらすらとそんなことを言われた。
うるうるとした瞳で言う令嬢に、フローラは開いた口がふさがらない。
奪うつもりがなかったなんて、婚約者のいる男性に近づいてきてよく言えたな。
フローラとビクターは幼い頃からの婚約者だ。
誕生日には贈り物を送り合い、互いに家を行き来し、両親ともに顔見知りだ。
ごく普通の婚約者同士の付き合いをしてきていた。
昔からの婚約者だからこそ、家同士の繋がりも強く、信頼もあった。
そのため共同事業も行なっているのに、ビクターはどう考えているのか。
「ビクター、きちんとおじ様に伝えました?」
独断ならえらいことである。
ここまで宣言して実はなし、なんて出来ない。
少なくとも打診もなくここまで言われて、フローラは元の関係に戻れるとは考えられなかった。
「ふん、父上も認めてくれるさ。女のくせに剣を振るうなど、淑女にあるまじき事だ。それに俺より背の高い女など、隣に立たれたら見栄えも悪い。顔立ちとて愛らしさもなく、男みたいではないか」
黒髪紫眼をしているフローラの目は、やや鋭い。
背も高く、剣を振るっているから筋肉がついている体は引き締まっているといえば体裁はいいが、女性らしい丸みは少ない。
普段はドレスを着るのを好まず、動きやすいように胸に晒しを巻いているのもあって尚更そう見える。
髪を切り、化粧を落とせば男性とも言われるかもしれない。
(好かれてないのはわかったけど、ビクターの独断のようだわ……)
許可をもらっているなどの決定的な言葉は言ってない。
しかしここまで嫌われて、フローラに覆す気力も愛情も残るわけがない。
「わかりました、承諾します。どうぞお幸せに」
ショックを受けない訳では無いが、こんな男に涙を見せるわけにはいかない。
今までの関係は何だったのだろうか。
燃えるような恋ではないが、幼馴染としての気安さと安心感はあった。
愛してるかと問われると疑問が浮かぶが、家族のような愛情はあった。
それがこの数分で壊れるとは。
胸に入った亀裂が広がっていく。
そのひずみが涙となって外に出る前に帰ろうと、足早にその場を去るしか出来なかった。
家に帰り、すぐに家族に話した。
母は慰めてくれたが、父と兄は違った。
「女がいつまでも剣なんて持つからだ」
否定的な意見。
婚約も相手方のせいなのに、双方悪いということで解消となった。
ただ、共同経営についての権利はこちらが貰ったので、実質それが慰謝料になるのだろうか。
ただそれではフローラの瑕疵は払拭されない。
「やはり剣を振るう女は駄目かしら」
落ち込みはしたが、剣を振るのをやめたくはない。
ミューズやメィリィなどの友人たちは懸命に励まし、憤りを感じてくれていた。
「女性が剣をもつことの何がいけないんでしょう、これからは女性も堂々と働く時代ですよぉ!」
メィリィはプンプンと怒っている。
「ビクター様も、ローズマリー侯爵様も酷いわ。フローラの事を何だと思っているのかしら」
ミューズも拳を握り震えている。
二人が怒ってくれて何とか平静を保てている。
そうでなければ泣いていただろう。
自分のこれからについて、早急に考えなくてはならない。
卒業した後の身の振り方が白紙となってしまったのだ。
今のままではろくな結婚相手もいない。
瑕疵のついた、男性さながらの令嬢など好んで嫁の欲しい者はいないらしい。
ビクターとキャシーがあることないこと噂してるせいもあって、婚約の打診も全く来ない。
こうなったら否定された剣の道で、さらなる高みを目指してやろうと思った。
「お願い、私に剣を教えて!」
ミューズの護衛騎士をしているルドにフローラは言った。
「……ティタン様の許可を得られればいいですよ」
ルドからの言葉を受け、ティタンは面白そうだと頷いた。
「女性騎士はいいな。同性がいいという場合もあるし、採用していきたい」
ティタンの了承も得ることが出来、フローラは指導を受けることとなった。
空き時間にという約束のもとで、今後教えてくれるらしい。
フローラの家族には知られぬようにと、街での待ち合わせとなった。
「あれ? ルド様は」
ルドに頼んだので、てっきり彼が来ると思ったのだが。
「あいつだといらぬ誤解をしそうな者がいますので、俺が来ました。俺も人に教える事は初めてですが、できる限りの事をします。我慢してください」
ライカが頭を下げる。
フローラとしては教えてもらえるなら誰でも良かった。
呼び出された場所でフローラはそう宣言された。
「今、何と?」
フローラは信じられない思いでいっぱいだった。
特に喧嘩した記憶もないし、今まで嫌われていた素振りもなかったはずだ。
「婚約破棄だ!あなたとは結婚出来ない」
強い声で再びそう言われる。
周囲に人がいないからまだいいが、そうでなければ驚くほどの声量だ。
こんな風に言われた事など、初めてだ。
婚約者だった男性はそう言うと、近くに隠れていた可愛らしい女性を呼び寄せ、肩を抱く。
可愛らしい、ほわほわした雰囲気の令嬢だ。
フローラとは全く違う。
「こちらのキャシーは君と違ってとても可愛らしい。私はこのキャシーと婚姻を結ぶので、君も新たな幸せを探してくれ」
「ごめんなさい、フローラ様。あなたからビクター様を奪うつもりなんてなかったの」
二人は示し合わせていたのだろう。
淀みなくすらすらとそんなことを言われた。
うるうるとした瞳で言う令嬢に、フローラは開いた口がふさがらない。
奪うつもりがなかったなんて、婚約者のいる男性に近づいてきてよく言えたな。
フローラとビクターは幼い頃からの婚約者だ。
誕生日には贈り物を送り合い、互いに家を行き来し、両親ともに顔見知りだ。
ごく普通の婚約者同士の付き合いをしてきていた。
昔からの婚約者だからこそ、家同士の繋がりも強く、信頼もあった。
そのため共同事業も行なっているのに、ビクターはどう考えているのか。
「ビクター、きちんとおじ様に伝えました?」
独断ならえらいことである。
ここまで宣言して実はなし、なんて出来ない。
少なくとも打診もなくここまで言われて、フローラは元の関係に戻れるとは考えられなかった。
「ふん、父上も認めてくれるさ。女のくせに剣を振るうなど、淑女にあるまじき事だ。それに俺より背の高い女など、隣に立たれたら見栄えも悪い。顔立ちとて愛らしさもなく、男みたいではないか」
黒髪紫眼をしているフローラの目は、やや鋭い。
背も高く、剣を振るっているから筋肉がついている体は引き締まっているといえば体裁はいいが、女性らしい丸みは少ない。
普段はドレスを着るのを好まず、動きやすいように胸に晒しを巻いているのもあって尚更そう見える。
髪を切り、化粧を落とせば男性とも言われるかもしれない。
(好かれてないのはわかったけど、ビクターの独断のようだわ……)
許可をもらっているなどの決定的な言葉は言ってない。
しかしここまで嫌われて、フローラに覆す気力も愛情も残るわけがない。
「わかりました、承諾します。どうぞお幸せに」
ショックを受けない訳では無いが、こんな男に涙を見せるわけにはいかない。
今までの関係は何だったのだろうか。
燃えるような恋ではないが、幼馴染としての気安さと安心感はあった。
愛してるかと問われると疑問が浮かぶが、家族のような愛情はあった。
それがこの数分で壊れるとは。
胸に入った亀裂が広がっていく。
そのひずみが涙となって外に出る前に帰ろうと、足早にその場を去るしか出来なかった。
家に帰り、すぐに家族に話した。
母は慰めてくれたが、父と兄は違った。
「女がいつまでも剣なんて持つからだ」
否定的な意見。
婚約も相手方のせいなのに、双方悪いということで解消となった。
ただ、共同経営についての権利はこちらが貰ったので、実質それが慰謝料になるのだろうか。
ただそれではフローラの瑕疵は払拭されない。
「やはり剣を振るう女は駄目かしら」
落ち込みはしたが、剣を振るのをやめたくはない。
ミューズやメィリィなどの友人たちは懸命に励まし、憤りを感じてくれていた。
「女性が剣をもつことの何がいけないんでしょう、これからは女性も堂々と働く時代ですよぉ!」
メィリィはプンプンと怒っている。
「ビクター様も、ローズマリー侯爵様も酷いわ。フローラの事を何だと思っているのかしら」
ミューズも拳を握り震えている。
二人が怒ってくれて何とか平静を保てている。
そうでなければ泣いていただろう。
自分のこれからについて、早急に考えなくてはならない。
卒業した後の身の振り方が白紙となってしまったのだ。
今のままではろくな結婚相手もいない。
瑕疵のついた、男性さながらの令嬢など好んで嫁の欲しい者はいないらしい。
ビクターとキャシーがあることないこと噂してるせいもあって、婚約の打診も全く来ない。
こうなったら否定された剣の道で、さらなる高みを目指してやろうと思った。
「お願い、私に剣を教えて!」
ミューズの護衛騎士をしているルドにフローラは言った。
「……ティタン様の許可を得られればいいですよ」
ルドからの言葉を受け、ティタンは面白そうだと頷いた。
「女性騎士はいいな。同性がいいという場合もあるし、採用していきたい」
ティタンの了承も得ることが出来、フローラは指導を受けることとなった。
空き時間にという約束のもとで、今後教えてくれるらしい。
フローラの家族には知られぬようにと、街での待ち合わせとなった。
「あれ? ルド様は」
ルドに頼んだので、てっきり彼が来ると思ったのだが。
「あいつだといらぬ誤解をしそうな者がいますので、俺が来ました。俺も人に教える事は初めてですが、できる限りの事をします。我慢してください」
ライカが頭を下げる。
フローラとしては教えてもらえるなら誰でも良かった。
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