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第82話 天空界の神
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「ルナリアもソレイユも無事でよかった……」
アテンとニックから報告を受け、私は急いで地上界へと赴く準備をしていた。
表向きは地上界と海底界のいざこざについての話を聞くため、という事にしている。
(天上神に知られるわけにはいかない)
あいつに知られたら、ソレイユもルナリアもどんな目に合うか……アテンとニックにもけして天上神や他の者に会うなと注意をした。念の為時間をずらして宮殿を出る。
今のところ天上神が追いかけてくる様子はない。
まぁ他界のいざこざについての話し合いと言ってあるからな。こんな時は面倒臭がりな性格でよかったと思ってしまう。
おかげで難なく地上界まで来ることが出来た。
「いろいろな事があって結局自ら探しに来ることは出来なかったな」
本当は今だって離れて大丈夫というわけではないが、仕事している場合ではない。
「ようやく家族に会える」
私にとって二人はかけがえのないものだ。
「本当に良かったです。ルシエル様、ずっと待っていましたものね」
「報告がなかなか来なくて心配でしたが、こうしていい知らせが来てよかったです」
部下のレシィとカサスも共に再会を喜んでくれている。
「二人共ありがとう」
常に側にいて支えてくれる大事な部下達だ。
それゆえこうして危険に付き合わせてしまうのが心苦しい。
「何かあったら、知らなかったと話すように。すべては私の責任だと言うのだぞ」
ルナリアとソレイユの保護の件は、完全に天上神に対する謀反である。
知られたら、いくら私でも天上神と海王神の粛清対象となるだろう。
「何をそんな。自分はルシエル様の部下です、どこまでもお供します」
「俺もです。今更知らぬ存ぜぬなんて言いません。ルシエル様、水臭いですよ」
レシィもカサスもそんな事を言ってくれる。
「私たちもルシエル様についていきます!」
「私たちの主はルシエル様です、他の神に仕える気はありません」
他の部下達も追随してそのように言ってくれるが、言葉尻がやや不穏だな。
「……あまりそういう事を言うものではない。だが、ありがとう」
私だけではこれからの天空界を変えることは出来ない。
こうして味方がいてくれるというのは嬉しい事だな。
◇◇◇
「何か、あったのか?」
しばらく地母神様の宮殿には来ていなかったが、何やら雰囲気が違う気がする。
何というか空気が重いというのか。
「慎重に行こう」
更に宮殿に近づこうとしたその時、アテンとニックが私の前に飛び出してきた。
「待ってください、ルシエル様」
「アテン、ニック、何があった? 何故こんな所にいる」
ソレイユ達と合流するためにと先に出たはずなのに、何故宮殿にもいかずにこのようなところにいるのか。
「実は海底界の者達が来ていまして。僕たちは宮殿に入らない方がいいと言われたのです」
「しかも来ているのはリーヴ様です。ソレイユ様やルナリア様の事を絶対に知られるわけにはいかないし、どうしたらいいかと考えていました」
なるほど。確かに二人のような役職もない神が、ただ地母神様の宮殿を訪れるなど不自然だ。
それにもしかしたらソレイユの側にいたとして、二人を覚えている者もいるかもしれない。そうなれば迂闊に海底界の者と顔を合わせることも出来ないだろう。
「ならば私と向かおう。念の為に部下達の間に入り、共に付いて来てくれ」
アテンとニックが部下たちの中に入るのを見てから、私は地母神様のいる宮殿へと向かった。
最初門衛達が訝し気に顔をしかめたが、アテンとニックを見て警戒を解く。
「本日はどういったご用件でしょうか?」
「地母神様へと伝言を頼みたい。ルシエルが来たと」
その言葉で門衛が背筋を伸ばして、姿勢を正す。
「申し訳ございません、ルシエル様とは知らずとんだご無礼を。すぐに取次ぎを行います」
二人いたうちの一人が地母神様の元へと駆けていく。
「ところで海底界の者が来ていると聞いたが、まだ滞在しているのか?」
「はい……今はソレイユ様とルナリア様がここにいると言って、宮殿内をくまなく探しているところです」
「宮殿内の捜索? そんな事をよく地母神様が許したな」
「許したというか。交換条件を出されまして」
問題を起こした地上の神の解放を取引として出されたか。
「……なかなか卑怯な交渉だな」
地母神様は地上界の神を殊更大事にする。苦渋の選択をしただろうな。
そうでなければむざむざと懐になど入れまい。
「ならば私もその話に混ざろう。今中立なのは私たちだからな」
厳密には中立どころか海底の神達の敵であるが。
さて、今は時間がない。ソレイユとルナリアが見つかる前に、リーヴをここから追い出さなくては。
アテンとニックから報告を受け、私は急いで地上界へと赴く準備をしていた。
表向きは地上界と海底界のいざこざについての話を聞くため、という事にしている。
(天上神に知られるわけにはいかない)
あいつに知られたら、ソレイユもルナリアもどんな目に合うか……アテンとニックにもけして天上神や他の者に会うなと注意をした。念の為時間をずらして宮殿を出る。
今のところ天上神が追いかけてくる様子はない。
まぁ他界のいざこざについての話し合いと言ってあるからな。こんな時は面倒臭がりな性格でよかったと思ってしまう。
おかげで難なく地上界まで来ることが出来た。
「いろいろな事があって結局自ら探しに来ることは出来なかったな」
本当は今だって離れて大丈夫というわけではないが、仕事している場合ではない。
「ようやく家族に会える」
私にとって二人はかけがえのないものだ。
「本当に良かったです。ルシエル様、ずっと待っていましたものね」
「報告がなかなか来なくて心配でしたが、こうしていい知らせが来てよかったです」
部下のレシィとカサスも共に再会を喜んでくれている。
「二人共ありがとう」
常に側にいて支えてくれる大事な部下達だ。
それゆえこうして危険に付き合わせてしまうのが心苦しい。
「何かあったら、知らなかったと話すように。すべては私の責任だと言うのだぞ」
ルナリアとソレイユの保護の件は、完全に天上神に対する謀反である。
知られたら、いくら私でも天上神と海王神の粛清対象となるだろう。
「何をそんな。自分はルシエル様の部下です、どこまでもお供します」
「俺もです。今更知らぬ存ぜぬなんて言いません。ルシエル様、水臭いですよ」
レシィもカサスもそんな事を言ってくれる。
「私たちもルシエル様についていきます!」
「私たちの主はルシエル様です、他の神に仕える気はありません」
他の部下達も追随してそのように言ってくれるが、言葉尻がやや不穏だな。
「……あまりそういう事を言うものではない。だが、ありがとう」
私だけではこれからの天空界を変えることは出来ない。
こうして味方がいてくれるというのは嬉しい事だな。
◇◇◇
「何か、あったのか?」
しばらく地母神様の宮殿には来ていなかったが、何やら雰囲気が違う気がする。
何というか空気が重いというのか。
「慎重に行こう」
更に宮殿に近づこうとしたその時、アテンとニックが私の前に飛び出してきた。
「待ってください、ルシエル様」
「アテン、ニック、何があった? 何故こんな所にいる」
ソレイユ達と合流するためにと先に出たはずなのに、何故宮殿にもいかずにこのようなところにいるのか。
「実は海底界の者達が来ていまして。僕たちは宮殿に入らない方がいいと言われたのです」
「しかも来ているのはリーヴ様です。ソレイユ様やルナリア様の事を絶対に知られるわけにはいかないし、どうしたらいいかと考えていました」
なるほど。確かに二人のような役職もない神が、ただ地母神様の宮殿を訪れるなど不自然だ。
それにもしかしたらソレイユの側にいたとして、二人を覚えている者もいるかもしれない。そうなれば迂闊に海底界の者と顔を合わせることも出来ないだろう。
「ならば私と向かおう。念の為に部下達の間に入り、共に付いて来てくれ」
アテンとニックが部下たちの中に入るのを見てから、私は地母神様のいる宮殿へと向かった。
最初門衛達が訝し気に顔をしかめたが、アテンとニックを見て警戒を解く。
「本日はどういったご用件でしょうか?」
「地母神様へと伝言を頼みたい。ルシエルが来たと」
その言葉で門衛が背筋を伸ばして、姿勢を正す。
「申し訳ございません、ルシエル様とは知らずとんだご無礼を。すぐに取次ぎを行います」
二人いたうちの一人が地母神様の元へと駆けていく。
「ところで海底界の者が来ていると聞いたが、まだ滞在しているのか?」
「はい……今はソレイユ様とルナリア様がここにいると言って、宮殿内をくまなく探しているところです」
「宮殿内の捜索? そんな事をよく地母神様が許したな」
「許したというか。交換条件を出されまして」
問題を起こした地上の神の解放を取引として出されたか。
「……なかなか卑怯な交渉だな」
地母神様は地上界の神を殊更大事にする。苦渋の選択をしただろうな。
そうでなければむざむざと懐になど入れまい。
「ならば私もその話に混ざろう。今中立なのは私たちだからな」
厳密には中立どころか海底の神達の敵であるが。
さて、今は時間がない。ソレイユとルナリアが見つかる前に、リーヴをここから追い出さなくては。
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