上 下
82 / 83

第82話 天空界の神

しおりを挟む
「ルナリアもソレイユも無事でよかった……」

 アテンとニックから報告を受け、私は急いで地上界へと赴く準備をしていた。

 表向きは地上界と海底界のいざこざについての話を聞くため、という事にしている。

 (天上神に知られるわけにはいかない)

 あいつに知られたら、ソレイユもルナリアもどんな目に合うか……アテンとニックにもけして天上神や他の者に会うなと注意をした。念の為時間をずらして宮殿を出る。

 今のところ天上神が追いかけてくる様子はない。

 まぁ他界のいざこざについての話し合いと言ってあるからな。こんな時は面倒臭がりな性格でよかったと思ってしまう。

 おかげで難なく地上界まで来ることが出来た。

「いろいろな事があって結局自ら探しに来ることは出来なかったな」

 本当は今だって離れて大丈夫というわけではないが、仕事している場合ではない。

「ようやく家族に会える」

 私にとって二人はかけがえのないものだ。

「本当に良かったです。ルシエル様、ずっと待っていましたものね」

「報告がなかなか来なくて心配でしたが、こうしていい知らせが来てよかったです」

 部下のレシィとカサスも共に再会を喜んでくれている。

「二人共ありがとう」

 常に側にいて支えてくれる大事な部下達だ。

 それゆえこうして危険に付き合わせてしまうのが心苦しい。

「何かあったら、知らなかったと話すように。すべては私の責任だと言うのだぞ」

 ルナリアとソレイユの保護の件は、完全に天上神に対する謀反である。

 知られたら、いくら私でも天上神と海王神の粛清対象となるだろう。

「何をそんな。自分はルシエル様の部下です、どこまでもお供します」

「俺もです。今更知らぬ存ぜぬなんて言いません。ルシエル様、水臭いですよ」

 レシィもカサスもそんな事を言ってくれる。

「私たちもルシエル様についていきます!」

「私たちの主はルシエル様です、他の神に仕える気はありません」

 他の部下達も追随してそのように言ってくれるが、言葉尻がやや不穏だな。

「……あまりそういう事を言うものではない。だが、ありがとう」

 私だけではこれからの天空界を変えることは出来ない。

 こうして味方がいてくれるというのは嬉しい事だな。





 ◇◇◇





「何か、あったのか?」

 しばらく地母神様の宮殿には来ていなかったが、何やら雰囲気が違う気がする。

 何というか空気が重いというのか。

「慎重に行こう」

 更に宮殿に近づこうとしたその時、アテンとニックが私の前に飛び出してきた。

「待ってください、ルシエル様」

「アテン、ニック、何があった? 何故こんな所にいる」

 ソレイユ達と合流するためにと先に出たはずなのに、何故宮殿にもいかずにこのようなところにいるのか。

「実は海底界の者達が来ていまして。僕たちは宮殿に入らない方がいいと言われたのです」

「しかも来ているのはリーヴ様です。ソレイユ様やルナリア様の事を絶対に知られるわけにはいかないし、どうしたらいいかと考えていました」

 なるほど。確かに二人のような役職もない神が、ただ地母神様の宮殿を訪れるなど不自然だ。

 それにもしかしたらソレイユの側にいたとして、二人を覚えている者もいるかもしれない。そうなれば迂闊に海底界の者と顔を合わせることも出来ないだろう。

「ならば私と向かおう。念の為に部下達の間に入り、共に付いて来てくれ」

 アテンとニックが部下たちの中に入るのを見てから、私は地母神様のいる宮殿へと向かった。

 最初門衛達が訝し気に顔をしかめたが、アテンとニックを見て警戒を解く。

「本日はどういったご用件でしょうか?」

「地母神様へと伝言を頼みたい。ルシエルが来たと」

 その言葉で門衛が背筋を伸ばして、姿勢を正す。

「申し訳ございません、ルシエル様とは知らずとんだご無礼を。すぐに取次ぎを行います」

 二人いたうちの一人が地母神様の元へと駆けていく。

「ところで海底界の者が来ていると聞いたが、まだ滞在しているのか?」

「はい……今はソレイユ様とルナリア様がここにいると言って、宮殿内をくまなく探しているところです」

「宮殿内の捜索? そんな事をよく地母神様が許したな」

「許したというか。交換条件を出されまして」

 問題を起こした地上の神の解放を取引として出されたか。

「……なかなか卑怯な交渉だな」

 地母神様は地上界の神を殊更大事にする。苦渋の選択をしただろうな。

 そうでなければむざむざと懐になど入れまい。

「ならば私もその話に混ざろう。今中立なのは私たちだからな」

 厳密には中立どころか海底の神達の敵であるが。

 さて、今は時間がない。ソレイユとルナリアが見つかる前に、リーヴをここから追い出さなくては。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

いつか彼女を手に入れる日まで

月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

幼馴染以上恋人未満 〜お試し交際始めてみました〜

鳴宮鶉子
恋愛
婚約破棄され傷心してる理愛の前に現れたハイスペックな幼馴染。『俺とお試し交際してみないか?』

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

愛人をつくればと夫に言われたので。

まめまめ
恋愛
 "氷の宝石”と呼ばれる美しい侯爵家嫡男シルヴェスターに嫁いだメルヴィーナは3年間夫と寝室が別なことに悩んでいる。  初夜で彼女の背中の傷跡に触れた夫は、それ以降別室で寝ているのだ。  仮面夫婦として過ごす中、ついには夫の愛人が選んだ宝石を誕生日プレゼントに渡される始末。  傷つきながらも何とか気丈に振る舞う彼女に、シルヴェスターはとどめの一言を突き刺す。 「君も愛人をつくればいい。」  …ええ!もう分かりました!私だって愛人の一人や二人!  あなたのことなんてちっとも愛しておりません!  横暴で冷たい夫と結婚して以降散々な目に遭うメルヴィーナは素敵な愛人をゲットできるのか!?それとも…?なすれ違い恋愛小説です。

【完結】この胸が痛むのは

Mimi
恋愛
「アグネス嬢なら」 彼がそう言ったので。 私は縁組をお受けすることにしました。 そのひとは、亡くなった姉の恋人だった方でした。 亡き姉クラリスと婚約間近だった第三王子アシュフォード殿下。 殿下と出会ったのは私が先でしたのに。 幼い私をきっかけに、顔を合わせた姉に殿下は恋をしたのです…… 姉が亡くなって7年。 政略婚を拒否したい王弟アシュフォードが 『彼女なら結婚してもいい』と、指名したのが最愛のひとクラリスの妹アグネスだった。 亡くなった恋人と同い年になり、彼女の面影をまとうアグネスに、アシュフォードは……  ***** サイドストーリー 『この胸に抱えたものは』全13話も公開しています。 こちらの結末ネタバレを含んだ内容です。 読了後にお立ち寄りいただけましたら、幸いです * 他サイトで公開しています。 どうぞよろしくお願い致します。

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑

岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。 もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。 本編終了しました。

処理中です...