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第64話 人の街と黒い影
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「ここが人の住む街か」
エリスに聞いた話を頼りに件の場所へと来たのだが……人の多さと、夜だというのに騒々しい事に辟易した。
(以前に兄上から人間には優しくしろと言われたが……何というか、この騒がしさは苦手だな)
雑多な印象とそして俗っぽさを感じ、嫌な気分だ。
所々で喧噪がありバイタリティを感じるが、お世辞にも守ってやりたい存在かと言われると首を傾げそうになるな。
「ソレイユ様、離れては駄目ですよ」
アテンに手を引かれ、雑踏に巻き込まれそうだったところを免れる。
「ソレイユ様はカッコいいんですから油断しては駄目です。変な女に声かけられてしまいますよ」
ニックも俺の反対側に立ち、人が近づくのを防いでくれる。
「そんな事あるとは思えないが」
天空界にいた頃は自分に声をかけるようなものはいなかった。
(なるほど……確かに妙な視線を感じるな)
意識すれば殺意と違った気配を複数感じる。
これらがアテンの言う好意というもの、なのか?
(いや、ないな)
即座に否定する。
今までそんな事などなかったのに急にそんな事があるわけがない。
「そんな事より道化師を探すぞ」
ルナリアらしき女性は道化師と共にいると聞いた。
もしも本当にルナリアならば、会って聞きたいことは山のようにある。
(俺の事を恨んではいないだろうか)
守るなどと大口を叩いたのに、何も出来ずに無様に敗れた俺に対して憎しみを持っていてもおかしくはない。
そしてお腹にいるという子供は一体誰との子なのか。離れている間に一体何があったのか。
嫌な考えが頭の中をめぐるが、話をしてみない事にはわからない。
せめて謝罪の言葉は伝えたいのだが。
「エリス様からの情報では火事の後から見かけてないそうですが、街の中から妙な気配がするそうです。目立つ格好をやめ、隠れ住んでるかもしれません」
アテンもまた何かを感じるのか眉間に皺を寄せている。
「身重の女性を連れていてはそう簡単に他の街にいけないのかも。この付近に街はないって言ってましたし」
ニックもまた鼻を鳴らして、その妙な気配を探っていた。
どこに潜んでいるかはわからないが、もっと探せば何らかの痕跡は残っているに違いない。
「とにかく街中を歩いてみよう、何か手がかりを見つけられるかもしれない」
人が多いから妙な気配がするとは言っても、詳しい場所まではわからない。
人ごみに巻き込まれぬよう俺たちは夜の街を歩いていく。
◇◇◇
「あの男、異様な雰囲気をしていますね」
しばらく歩いた後にそう言ったアテンの視線の先には、黒髪と金の目をした男がいる。
上質な服と整った顔立ちは目を惹くものであるが、それだけで異様な雰囲気というわけではない。
今こうして歩いてきた中で、明らかに人間とは違うものが感じられるのだ。
向こうもまたこちらに気付いたのか、視線を向けてくる。その目にはやや敵意が含まれていた。
「お前達、人間ではないな。地上界の神か」
男のその言葉から相手もまた人間ではないという事がわかる。
アテンとニックが緊張した面持ちで俺の前に出た。
「私たちは地母神の使いだ。そういうお前はどこの者だ」
「……地母神。では、違うな」
アテンの言葉に男は不快そうな顔をする。
「地母神様を呼び捨てとはお前は地上界の神ではないな。でも天空界でも見たことない、そうなると海底界の者?」
その言葉に頭に一気に血が上る。
「答えろ、お前は何者だ」
俺は怒りのままアテンとニックの前に出る。
「そう言われて素直に言うとでも思ったか?」
そう言うと男は身を翻し、暗い路地を駆けていく。
「逃げるな、この不審者!」
ニックの声と共に俺たちは走り出した。
細く、ひと気のない路地を俺達は男の後を追って走る。
路地の奥に進むにつれ、人の姿が少なくなっていった。
「逃げ切れると思うなよ」
大通りから外れ、街の光も届かないようなところまで来ると男は急に振り返った。
「逃げる? 違うな、邪魔が入らないようにしただけだ」
そう言うと男の足元から黒い影がこちらに伸びてきた。
ぞわりと嫌な予感がした為、俺はアテンとニックを制するべく、二人に命令をする。
「止まれ! この影に触れるな!!」
そうは言うものの狭い道だし、飛んで逃げるにも相手の方が早い。
とっさに二人を突き飛ばす。
「恨みはないが、怪しいものは消えてもらう」
黒い影は俺の体を飲み込むように形を変えた。
「ソレイユ様!」
ニックの声が聞こえたその時には俺の体は闇に包まれた。
エリスに聞いた話を頼りに件の場所へと来たのだが……人の多さと、夜だというのに騒々しい事に辟易した。
(以前に兄上から人間には優しくしろと言われたが……何というか、この騒がしさは苦手だな)
雑多な印象とそして俗っぽさを感じ、嫌な気分だ。
所々で喧噪がありバイタリティを感じるが、お世辞にも守ってやりたい存在かと言われると首を傾げそうになるな。
「ソレイユ様、離れては駄目ですよ」
アテンに手を引かれ、雑踏に巻き込まれそうだったところを免れる。
「ソレイユ様はカッコいいんですから油断しては駄目です。変な女に声かけられてしまいますよ」
ニックも俺の反対側に立ち、人が近づくのを防いでくれる。
「そんな事あるとは思えないが」
天空界にいた頃は自分に声をかけるようなものはいなかった。
(なるほど……確かに妙な視線を感じるな)
意識すれば殺意と違った気配を複数感じる。
これらがアテンの言う好意というもの、なのか?
(いや、ないな)
即座に否定する。
今までそんな事などなかったのに急にそんな事があるわけがない。
「そんな事より道化師を探すぞ」
ルナリアらしき女性は道化師と共にいると聞いた。
もしも本当にルナリアならば、会って聞きたいことは山のようにある。
(俺の事を恨んではいないだろうか)
守るなどと大口を叩いたのに、何も出来ずに無様に敗れた俺に対して憎しみを持っていてもおかしくはない。
そしてお腹にいるという子供は一体誰との子なのか。離れている間に一体何があったのか。
嫌な考えが頭の中をめぐるが、話をしてみない事にはわからない。
せめて謝罪の言葉は伝えたいのだが。
「エリス様からの情報では火事の後から見かけてないそうですが、街の中から妙な気配がするそうです。目立つ格好をやめ、隠れ住んでるかもしれません」
アテンもまた何かを感じるのか眉間に皺を寄せている。
「身重の女性を連れていてはそう簡単に他の街にいけないのかも。この付近に街はないって言ってましたし」
ニックもまた鼻を鳴らして、その妙な気配を探っていた。
どこに潜んでいるかはわからないが、もっと探せば何らかの痕跡は残っているに違いない。
「とにかく街中を歩いてみよう、何か手がかりを見つけられるかもしれない」
人が多いから妙な気配がするとは言っても、詳しい場所まではわからない。
人ごみに巻き込まれぬよう俺たちは夜の街を歩いていく。
◇◇◇
「あの男、異様な雰囲気をしていますね」
しばらく歩いた後にそう言ったアテンの視線の先には、黒髪と金の目をした男がいる。
上質な服と整った顔立ちは目を惹くものであるが、それだけで異様な雰囲気というわけではない。
今こうして歩いてきた中で、明らかに人間とは違うものが感じられるのだ。
向こうもまたこちらに気付いたのか、視線を向けてくる。その目にはやや敵意が含まれていた。
「お前達、人間ではないな。地上界の神か」
男のその言葉から相手もまた人間ではないという事がわかる。
アテンとニックが緊張した面持ちで俺の前に出た。
「私たちは地母神の使いだ。そういうお前はどこの者だ」
「……地母神。では、違うな」
アテンの言葉に男は不快そうな顔をする。
「地母神様を呼び捨てとはお前は地上界の神ではないな。でも天空界でも見たことない、そうなると海底界の者?」
その言葉に頭に一気に血が上る。
「答えろ、お前は何者だ」
俺は怒りのままアテンとニックの前に出る。
「そう言われて素直に言うとでも思ったか?」
そう言うと男は身を翻し、暗い路地を駆けていく。
「逃げるな、この不審者!」
ニックの声と共に俺たちは走り出した。
細く、ひと気のない路地を俺達は男の後を追って走る。
路地の奥に進むにつれ、人の姿が少なくなっていった。
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