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第15話 強制と誓約

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「陛下、何を言っているのですか?! この女はあの襲撃事件の犯人かもしれないのですよ!」

 大声で反対するのはバリーだ。

「クレディス伯爵令息。例えそうだとしても凄いとは思わないか? あのような強い力を持ちつつも、誰も殺すことなく拘束で済ますなど、その魔力の強さは他に類を見ないものだ」

 国王はフラウラーゼをじっと見る。

「この国は、草魔法は他の属性に比べるとそこまで力は強くはない。回復や補助には特化しているが、攻撃に転じるとなるとなかなか難しい。薬師は多いが、そもそも術師が少ない。だから今回の件は良い転機なのではないかと思う」

 国王の隣に控える宰相も同意する。

「赤い髪は火を表わす為に忌むものだというが、そんな事はないと昨今の若者達は考えている。他国の交流が増え、他所での話を聞くとそれが本当だというのは実証されている。古い慣習から抜け出し、新たな風を吹き込むためにも、そしてその強い魔力をぜひ国に取り込む為にも、ヴォワール侯爵令嬢の力は必要だ」

 赤髪でも上位の草魔法を使え、しかも魔力も身分も高い。

「何も王太子の妻となれ、とは言わない。第二王子か第三王子、そのどちらかの妻になるのはどうだ?」

 フラウラーゼの気持ちは要らないと言われているようで、物のような扱いにフラウラーゼは反射的に首を横に振る。

「無理です、わたくしにそのような事は務まりません」

「務め云々ではない、その魔力と血筋が貴重だという話だ。王族とも繋がれるぞ?」

「申し訳ありません、その話をお受けする事は出来ません」

 頑なにフラウラーゼは拒否をし、頭を下げる。

「そうか……ならば、事件の容疑者としてもう少し話を聞く、という事になるな」

 その言葉にヴォワール侯爵とコンラッドが凍り付く。

「お待ちください、フラウラーゼは何もしていないのに」

「強い魔力を持つのですから疑わしいでしょう。疑いが晴れるまで野放しにするわけにはいかない」

 宰相がヴォワール侯爵の言を遮る。

「義姉様はそのような事をしません。だって彼女は傷ついた僕にも優しくしてくれました」

「そう見せて疑いの目から逃れようとしただけではないか? どちらにしろ調査は必要だろう」

 どんどんと悪化していく状況に、諦めの気持ちが生まれる。

(自分だけならいいけれど、お祖父様を巻き込みたくはなかったな)

 フラウラーゼはそっとため息をついてブローチに触れる。

「デイズファイ様、申し訳ありません。彼らの説得に力を貸してくれませんか?」

 最終手段として呼びかけるが、ブローチは光ることもなく、反応もない。

「?」

 おかしい。聞こえていないのだろうか。

 その後も小声で話し掛けるが、何も起こらない。

(これは都合の良い時だけ頼ろうとした罰かしら)

 今度こそ涙が零れてしまう。何も出来ない無力な自分が歯痒くて悔しい。

 でもせめて言うべきことは言わないと。

「陛下。どこに連れて行かれてもわたくしは構いません。ですがお祖父様、ジョセフ=ヴォワール侯爵は何も関係ございません」

 せめてこれくらいは許して欲しい。

「義姉様、安心なさってください。必ず僕が冤罪を晴らします」

(あなたはそんなにやる気を出さなくて良いのですけれど)

 寧ろ何もしなくていい、見返りを期待されそうで怖い。

「その魔力をクレディス家の為に使うと言うのなら、有利になる証言をしてやってもいいぞ」

 バリーの言葉は聞かなかった事とする。今更魔力目当てに復縁なんて言われても困るし。

「フラウラーゼ、俺も一緒に行く。お前の家族は俺だ」

 そう言ってくれるヴォワール侯爵の言葉に何度救われた事か。

「ありがとうございます、お祖父様。でもあなたには何も関係ない事なので。迷惑をかけてごめんなさい」

 精一杯関係ない事をアピールするが、果たしてどう判断されるだろうか。

「ヴォワール侯爵令嬢を貴族牢へ移せ」

 その命令に従い、兵がフラウラーゼに近付いてくる。

「それではこちらへ。念の為に魔封じの腕輪をつけさせてもらいます」

 そう言って王宮術師がフラウラーゼの手を取ろうとした時、その体が吹き飛ぶ。

 それを合図に人の腕程の太さの蔓と、棘の生えた木が辺りを埋め尽くしていく。

 フラウラーゼとヴォワール侯爵だけが自由に動く事が出来た。

「デイズファイ様、どうして……」

 こんな事をする者なんて一人しかいない。

 呼んでも来なかったのに、一体どこにいたのだろうか。

「遅くなってすまない。侯爵夫人に話を聞き、許可を得ていたのだ。怪我はないか、我が妻よ」

 靴音を高く響かせてデイズファイが王の間に現れた。

 その後ろには複数の男女が見えた。皆デイズファイと同じ、耳が尖っている。
 後ろに控える者達がフラウラーゼに向かって一斉に礼をした。

 デイズファイの服装は普段と違っていて、えらく畏まっていた。

「約束通り迎えに来たぞ。さぁ我が妻よ、共に精霊界に向かおう」

 デイズファイは膝をついてフラウラーゼの手を取り、甲に口づけを落とす。

「人の世界の求婚とはこういうものなのだろう? 侯爵夫人が教えてくれた」

 小声でそう言われるが、笑っていいところなのかよくわからない。

「お前は何だ、まさか魔族か?!」

 人間に近い容姿と桁違いの力に、騎士達が国王を守るためと剣を抜く。

「魔族? あのような下衆共と一緒にするな」

 嫌悪の表情をするデイズファイが一瞥すると、剣を持つ兵士達は蔓により拘束された。

「術師、何とかしてくれ!」

 そう叫ぶも王宮術師はおろおろするばかりだ。

「魔法が、力が使えない……」

 青褪めた顔でそういう術師をデイズファイは嘲笑う。

「お前が使おうとしている魔法の源がどこだと思っているのだ。全ての植物は我の支配下、主に逆らうものがどこにいる?」

 デイズファイはセラフィム国王に目を見受けた。

「祝いの席の件もそこの小僧を懲らしめたのも我が行なった事、どちらも我が妻に危害を加えようとしたからだ。そのまま八つ裂きにしても良かったのだが、妻が悲しむのは見たくない故、生かしてやっていたのだが。また妻を傷つけようとするならば、今度は容赦せぬぞ」

 植物による包囲網がどんどん狭まっている。

 剣を振るおうにも蔓が絡まり、振るう事も出来ない。

 魔法も、草魔法どころか何も出ない。

「この城は既に我の魔力で抑えた、どの精霊も干渉は出来んよ。もしも我の干渉を破りたいならば同じ王の位にいる者を喚ぶといい。だが、奴らは一筋縄では来ないからな」

 どんどんと室内が緑で埋め尽くされていく。

「今後フラウラーゼとその家族に手を出さないと約束するならば、解いてやる。それが誓えないならば、この城ごと解体しようではないか」

 解体とはどういう事か、皆がその言葉に震えあがった。

「デイズファイ様、落ち着いて下さい。そんな酷い事はしないで」

「落ち着いている。だが我の妻を口説こうとした事は許さん」

 ブローチが光る。

「先程は呼びかけに応えられなくてすまなかったな。この城、敷地、全てを蹂躙するために少しだけ時間を要したのだ」

 それでもこんな短時間でそれ程の事をやってのけるとは。やはり精霊の王というところだろう。

「侯爵殿。人の王との交渉は任せる。何かあればこいつらも力になるからな」

 デイズファイの合図で、王だけがヴォワール侯爵の元に行くのを許される。

 そしてヴォワール侯爵の後ろには数名の精霊がつく。

「先程言った事をしっかりと書面に残すといい。人というのは何でも紙に書いておくのだろう? 騙そうとするならばこの者達がお前らを残らず引き裂くだけだ」

 怖い事を平気で言うデイズファイに、フラウラーゼはしがみついて首を横に振る。

「本当にそうなるかどうかは人の王次第よ。ではフラウラーゼは我と共に行こうではないか」

 デイズファイは優しい眼差しでフラウラーゼを見つめた。

「そなたは我の妻。そうだな?」

 このような大勢の前で誓わせられるとは思わなかったが、これ以上変なものが寄ってくるのを避けるのもあるのだろう。

 助けてくれた恩も後押しし、フラウラーゼは決意する。

「わたくしはあなたの妻となります」

 デイズファイはフラウラーゼ抱きしめる。

「これで名実ともにそなたは我の妻だ、今日は何と良き日であろう」

 フラウラーゼの視界が暗転し、周囲の様子が見えなくなった。

「ようやく一緒になれる、もう離さない」






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