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第5話 本心と逆恨み
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「凄いなエイシャスは。こんなにも強い魔法を使えるのか」
報告を聞きながら、王太子のカルロスは驚いた。
まさか相手の軍勢を山ごと吹き飛ばすとまでは思っていなかった。
傭兵を雇ったが、無駄足を踏んだようだ。
まぁ払った分以上のお金を傭兵ギルドから賠償金としてせしめているが。
とかく戦いはお金がかかる。
払わなくていいなら払いたくない。
「それにしても傭兵に後れを取るなんて。今後はもう少し騎士達に力を付けるように言っておこう」
ヴェイツの隊と行動を共にすると言うと、やや手を抜く傾向がある。
ヴェイツの手駒には優秀な魔術師がいるので、大概はその魔術師が片を付けてくれる、という話になっているようだ。
ヴェイツの隊は手を抜くことなく鍛錬を行なっているが、他の隊はそうではない。
その為今回の女性騎士の隊も油断していたのだろう。周囲の者もそうだ。
あのような目に合ったのはある意味気が抜けていたとも考えられる。
目ざといウォンの忠言がなければ、あのまま辱めを受けていた可能性が高い。
「で、そのエイシャスは今日は一緒ではないのか?」
「彼女は休ませております。魔力を大分消耗したようですし」
「そういう事にしておいてあげるか」
カルロスはヴェイツの首元に赤い跡があるのに気づく。
別に男女の関係に口出しする気はないし、エイシャスがこの国を裏切ることがなければ別にいい。
(それにしてもエイシャスはどんどんと強く、そして綺麗になっていくな)
最初に会った時には考えられない程変化している。
魔法の基礎を覚えた後からエイシャスは王城へ来るのを止めた。
年を重ねるごとに美しくなり、声を掛けられたり、手を出そうとする者が増えたからだ。
それに魔法を扱うのも上手になり、習うこともなくなったからだ。
実力を見せることもなく、魔術師だということを知らないものも多い。
それ故見た目だけを見て、婚約の申込みをする者が年々増えている。
一時はカルロスの婚約者に据えて守ろうかと提案したが却下された。
だが彼女はヴェイツ一筋だから、嘘でも他の者の婚約者になるなんて、死んでも嫌だと言われた。
「貴重な魔術師を手放すわけにはいかない」
ヴェイツはカルロスにそう言われ、意図を汲んだ。
以来ヴェイツはエイシャスがこの国から離れないよう心を砕いた。
彼女が自分を好いている。
その事を大いに利用した。
自分の気持ちを押し込めて隠し、この国の為、王太子の為と言い訳をする。
本心を押し殺して。
帰宅途中の馬車の中。
久しぶりの一人時間を得て、静かに考える。
このままでいいのかと。
(エイシャスが俺を好きなのは、周囲に人がいない中で出会ったからだ。本当ならばもっと素敵な人と出会えただろうに)
顔の傷に触れて過去を思い出す。
(俺達伯爵家のせいで彼女は住んでいた場所を失い、魔術師というのがバレたからこの国に縛り付けられるようになってしまった。人殺しまでさせてしまって)
目を閉じ、ぎゅっと手を握る。
(他に縋るものがいないから俺に執着しているだけだ。エイシャスの人生を奪ったのは俺なのに、懸命に尽くしてくれて、申し訳ない)
ヴェイツにだけ見せる満面の笑みを思い出し、悲しくなってきた。
「自由に、してあげたい」
戦いがなくなればそれも叶うだろうか。
魔法の力が必要ない世界になれば、エイシャスはのびのびと暮らせるだろうか。
その時馬車が急に止まった。
何事かと御者の窓を開けると怯えたような声が聞こえる。
「襲撃ですヴェイツ様!」
「何?」
馬車が止められたので、大剣片手に外へと出る。
「お前達は……」
そこにいたのはこの間の傭兵達だ。
女性達の希望もあって裁判にはせずに示談金で済ませたのに、どうやら怒りの矛先はヴェイツに来たようだ。
「お前の人形のせいで俺達はギルドを追い出された。お前らのせいだ」
ギルドを追い出された、それは生活していけないというものだ。
仕事の斡旋以外にも、ギルドは身元の保証という意味もある。
余程の実力がないと、自分達だけではやっていけない。
仕事をきちんとするかわからないからだ。
「追い出されて正解では? あのような事をする輩がいるようではギルドも潰れてしまうだろう」
自業自得だ。
あんな勤務態度ではどのみち彼らも長くなかっただろう。
「うるせぇ、お飾りの隊長の癖に!」
良く言われる言葉だからヴェイツは動揺しない。
(もうギルドと関係ないしいいだろう)
御者を殺されては困るから、とっとと終わらせようと思う。
大剣につく魔石に触れ、念を込める。
淡く光るのを確認し、ヴェイツは駆け出した。
大剣はとても軽々と振られ、それなのに元傭兵達にぶつかる瞬間、重さが増す。
「……!」
上から振る大剣は重力の力も相まって簡単に骨と皮を潰す。
返り血がヴェイツを濡らしていった。
たった一刀で物言わぬ肉塊になったのを見て、傭兵達は動きを止めるがヴェイツは止まらない。
ムカムカしていた。
(エイシャスに手を出そうとしたのだから死んでも文句はないよな)
報告を聞きながら、王太子のカルロスは驚いた。
まさか相手の軍勢を山ごと吹き飛ばすとまでは思っていなかった。
傭兵を雇ったが、無駄足を踏んだようだ。
まぁ払った分以上のお金を傭兵ギルドから賠償金としてせしめているが。
とかく戦いはお金がかかる。
払わなくていいなら払いたくない。
「それにしても傭兵に後れを取るなんて。今後はもう少し騎士達に力を付けるように言っておこう」
ヴェイツの隊と行動を共にすると言うと、やや手を抜く傾向がある。
ヴェイツの手駒には優秀な魔術師がいるので、大概はその魔術師が片を付けてくれる、という話になっているようだ。
ヴェイツの隊は手を抜くことなく鍛錬を行なっているが、他の隊はそうではない。
その為今回の女性騎士の隊も油断していたのだろう。周囲の者もそうだ。
あのような目に合ったのはある意味気が抜けていたとも考えられる。
目ざといウォンの忠言がなければ、あのまま辱めを受けていた可能性が高い。
「で、そのエイシャスは今日は一緒ではないのか?」
「彼女は休ませております。魔力を大分消耗したようですし」
「そういう事にしておいてあげるか」
カルロスはヴェイツの首元に赤い跡があるのに気づく。
別に男女の関係に口出しする気はないし、エイシャスがこの国を裏切ることがなければ別にいい。
(それにしてもエイシャスはどんどんと強く、そして綺麗になっていくな)
最初に会った時には考えられない程変化している。
魔法の基礎を覚えた後からエイシャスは王城へ来るのを止めた。
年を重ねるごとに美しくなり、声を掛けられたり、手を出そうとする者が増えたからだ。
それに魔法を扱うのも上手になり、習うこともなくなったからだ。
実力を見せることもなく、魔術師だということを知らないものも多い。
それ故見た目だけを見て、婚約の申込みをする者が年々増えている。
一時はカルロスの婚約者に据えて守ろうかと提案したが却下された。
だが彼女はヴェイツ一筋だから、嘘でも他の者の婚約者になるなんて、死んでも嫌だと言われた。
「貴重な魔術師を手放すわけにはいかない」
ヴェイツはカルロスにそう言われ、意図を汲んだ。
以来ヴェイツはエイシャスがこの国から離れないよう心を砕いた。
彼女が自分を好いている。
その事を大いに利用した。
自分の気持ちを押し込めて隠し、この国の為、王太子の為と言い訳をする。
本心を押し殺して。
帰宅途中の馬車の中。
久しぶりの一人時間を得て、静かに考える。
このままでいいのかと。
(エイシャスが俺を好きなのは、周囲に人がいない中で出会ったからだ。本当ならばもっと素敵な人と出会えただろうに)
顔の傷に触れて過去を思い出す。
(俺達伯爵家のせいで彼女は住んでいた場所を失い、魔術師というのがバレたからこの国に縛り付けられるようになってしまった。人殺しまでさせてしまって)
目を閉じ、ぎゅっと手を握る。
(他に縋るものがいないから俺に執着しているだけだ。エイシャスの人生を奪ったのは俺なのに、懸命に尽くしてくれて、申し訳ない)
ヴェイツにだけ見せる満面の笑みを思い出し、悲しくなってきた。
「自由に、してあげたい」
戦いがなくなればそれも叶うだろうか。
魔法の力が必要ない世界になれば、エイシャスはのびのびと暮らせるだろうか。
その時馬車が急に止まった。
何事かと御者の窓を開けると怯えたような声が聞こえる。
「襲撃ですヴェイツ様!」
「何?」
馬車が止められたので、大剣片手に外へと出る。
「お前達は……」
そこにいたのはこの間の傭兵達だ。
女性達の希望もあって裁判にはせずに示談金で済ませたのに、どうやら怒りの矛先はヴェイツに来たようだ。
「お前の人形のせいで俺達はギルドを追い出された。お前らのせいだ」
ギルドを追い出された、それは生活していけないというものだ。
仕事の斡旋以外にも、ギルドは身元の保証という意味もある。
余程の実力がないと、自分達だけではやっていけない。
仕事をきちんとするかわからないからだ。
「追い出されて正解では? あのような事をする輩がいるようではギルドも潰れてしまうだろう」
自業自得だ。
あんな勤務態度ではどのみち彼らも長くなかっただろう。
「うるせぇ、お飾りの隊長の癖に!」
良く言われる言葉だからヴェイツは動揺しない。
(もうギルドと関係ないしいいだろう)
御者を殺されては困るから、とっとと終わらせようと思う。
大剣につく魔石に触れ、念を込める。
淡く光るのを確認し、ヴェイツは駆け出した。
大剣はとても軽々と振られ、それなのに元傭兵達にぶつかる瞬間、重さが増す。
「……!」
上から振る大剣は重力の力も相まって簡単に骨と皮を潰す。
返り血がヴェイツを濡らしていった。
たった一刀で物言わぬ肉塊になったのを見て、傭兵達は動きを止めるがヴェイツは止まらない。
ムカムカしていた。
(エイシャスに手を出そうとしたのだから死んでも文句はないよな)
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