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第22話 獅子の国 恐怖

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「恥ずかしい」
 ぼんやりとミューズは昨日の事を思い出した。

 抑えていた気持ちをティタンに、ぶつけまくったのだ。

 寄り添い、何度も好きだと伝えた。

 感謝の気持やどこに惹かれたのかを懇懇と話し、抱きつき、しかもそのまま寝てしまった。

(きっと嫌われたよね)
 あんなにもしつこくうざ絡みをしたのだ。

 ミューズは逃げ出したい気持ちになるが、昨日の抵抗でまた傷が痛みだしていた。

(いっそ魔法で治して母国に帰ろうか)
 どうせティタンと結ばれるわけはないし、こんな大国に嫁げるわけがない。

 じわりと涙が浮かんでくる。

 初めて知った恋心は儚く散りそうで、悲しい。

 その時にノックの音がする。

「どうぞ」
 多分メイドだろうと思い、ミューズは許可を出すが、入ってきた人物を見て驚いた。

「ティタン様?!」

「よく眠れたか?」
 ティタンも少し恥ずかしそうにしていた。

「は、はい」
 お互い照れくさくて、話が進まない。

 その様子に痺れを切らし、ティタンと共に入室した侍女が頭を下げる。

「失礼します。私は新しくミューズ様の侍女を努めます、フィオと申します。以後お見知り置きを」
 空気を壊すかのようにフィオは話始める。

「まずは軽食をお持ちしたのでどうぞお召し上がりください。昨晩は夕食を取られてませんので、お腹もお空きでしょう。その後は湯浴みの準備を致しますので。さっぱりしますよ」
 フィオはそう言うとミューズとティタンを席に座らせ、お茶を入れ、ワゴンに用意していた食事を並べる。

 ティタンの分も含め、軽食とは思えないものだった。

(立派な朝食、よね?)
 しかも今までタニアが持ってきたものと違い、豪華だ。

「あの、フィオさんありがとうございます。でもこのような世話を受けるなんて……私にはもったいないわ」

「そのような事はございません。これらは全てミューズ様の為に用意されたのです。どうぞお召し上がりください」
 フィオは優しく微笑んでくれる。

 タニアとは大違いだ。





 食事が終わるとティタンも戻っていく。湯浴みも済んだ。

 その間に綺麗に部屋は掃除されている。

(前と違って隅々まで掃除されてるわ)
 タニアはもっと大雑把であったが、あの頃からやはり好かれてなどなかったのだろう。

 そこで彼女の事をようやく思い出す。

「ねぇフィオ。タニアは一体どうなったの?」

「存じ上げません」
 フィオはミューズにお茶とお菓子を準備する。

「私は命じられてミューズ様に仕えることになりました。前任者についてはわかりません」

「そう……」
 聞くのは無理そうだ。

 タニアもだけど、あの男達もどうなったのか。

 ガチャン、とミューズはカップを取り落とす。

「ミューズ様?!」
 フィオは慌ててミューズの側に寄る。

「お怪我はございませんか?!」
 割れたカップと溢れた紅茶に、フィオは焦る。

「申し訳ございません、熱すぎたでしょうか」
 紅茶が熱くて取り落としたと思ったのだが。

「違うの、急に怖くなってしまって」
 ミューズは思い出したくもないのに、思い出してしまい、青ざめる。

 体は自然と震え、自分が汚く思えた。

 あんな目で見られ、体を触られ、その事を考えると酷く震えてしまう。

「もう一度湯浴みをお願いしていい?」
 ミューズは今すぐ体を洗いたくなる。

 汚れと共に記憶も流したいのだ。

「お願い……」
 白くなったミューズの顔を見て、フィオは悲しそうな顔をする。

「ミューズ様、大丈夫です。あなたは綺麗ですよ」
 フィオは言わんとする事がわかり、ミューズを慰める。

「でも、まだ汚れが残ってる気がして」
 押さえられた手の感触が微かに思い出された。

 思い出したくもないのに、忘れようとすると余計意識してしまう。

「ねぇフィオ。お願い、洗わせて」
 仕方なくフィオは湯浴みの準備をした。

 それで気がすめばと思ったのだが……


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