19 / 60
第19話 獅子の国 守る
しおりを挟む
嫌な予感がした。
ただの勘だ。だけども心がざわつき落ち着かない。
「まさかミューズに何かあった?」
口にすると不安が一気に押し寄せる。
昔から勘は良い方だ、だから確信した。
彼女に何かあったのだと。
「ティタン様?」
「すまない、少し抜ける」
鍛錬中ではあるが、ティタンは駆けだした。
胸のざわつきがおさまらない。
(ミューズ!)
ティタンの体が変化し、立派なたてがみと大きな爪と牙が現れる。人型であった名残はなく、完全に獣となっていた。
獣化したティタンは、四つ足で駆ける。その速度は人の姿の時とは比べ物にならない程だ。
普段はこの姿になりはしないが、いち早くミューズの元に行く為にと変化したのだ。
そして部屋に着いたのだが、ミューズの姿はどこにもない。
「何故いない、どこだ?!」
苛立たし気に喉の奥で唸る。
ここに来てから自ら部屋の外に出るなんてなかった。どこに行くかなんての心当たりもない。
「ティタン様。こちらへ」
同じく獣化し、赤い豹となったルドが匂いを頼りに案内する。
二階の窓から直接庭に降り立ち、駆け出した。温室に近づくにつれ、ティタンも匂いを察知する。
花の香りに混じって彼女の優しい匂いがするのだ。
だがそこにはミューズのものと、他者のものが入り交じっていた。
(俺以外の男がミューズの側にいるだと!)
怒りにティタンは更にスピードを上げた。
「ミューズを拐かしたのは、どいつだ!」
怒声が響いた!
ビリビリと空気が震え、その声は温室にも、そして城内にも聞こえてきた。
「ひっ?!」
匂いを頼りに温室の奥に入れば、ミューズを組み敷いている男達を見つけた。
容赦なくティタンは爪を剝き出しに襲いかかる。
「貴様らぁ!」
鋭い爪と牙は男達を切り裂き、ミューズの上から追い払う。
ミューズは懸命に抵抗していたのだろう、傷つき、震えていたが無事なようだ。
押さえつけられたのか所々肌が赤くなっているのを見て、怒りがこみ上げる。が、それはミューズにぶつけるものではない
極力優しい声を意識し、安心させるように話しかけた。
「大丈夫か?」
姿は違えど声でわかったのだろう。涙を流し、ティタンに縋り付く。
「ティタン様、ティタン様!」
余程怖かっただろうなと、ティタンは涙を舌で拭う。
「もう大丈夫だ。一人にして済まない」
ティタンは寄り添い、自分が倒した男達を見る。
多量の血を流しながらも男達は生きていた、
「命までは奪わない。貴様達がおかした罪は法で裁く」
本当は八つ裂きにしたかったが、ミューズの前でする事ではない。
心優しい彼女は自分のせいで人が死ぬのを心良く思わないはずだ。
だから司法の裁きで殺してやる。
「お前達が手を出そうとしたのはコニーリオの王女だ。どんな理由があれ、王女を傷つけた罪は重い」
そう宣言し、震えるミューズに寄り添う。
「もう一人になんてしない」
涙で言葉も紡げないミューズにただ寄り添った。
「大丈夫か、ミューズ」
しがみついていた手が急に力なく垂れさがる。
「薬も奪われてしまって、苦しいです……」
辛い息の中、そう訴えられる。
「発作が起きて、その時にタニアさんに奪われてしまったのです……あれがないと、私は」
とうとうミューズは胸を抑え、地面に倒れてしまう。
「俺が行きます。ティタン様はミューズ様をお部屋へ」
ルドが直ぐ様駆け出した。
男達をティタンの声で駆けつけた兵達に引き渡す。
「こいつらには後で厳罰言い渡す、生かしておけ」
いつもと違うどすの利いた声に震えながらも兵たちは男達を連れて行った。
あいつらに二度と日の目など浴びさせないと心に決め、ティタンはミューズを背に乗せて部屋に戻る。
「こんなに怪我をして、可哀想に」
ミューズをベッドに横にすると、ティタンは医師を呼びに行こうと外に出ようとする。
だが。
「行かないで」
ポロポロと涙を流し、ミューズは引き止める。
恐怖で落ち着かないのだろう。
「わかった、だから泣かないで」
(後でルドに頼めばいいだろう)
今は一人にしてられないと、ティタンはミューズの側に寄り添う。
ふわふわの毛にミューズは抱きつき、体を震わせている。
ミューズの涙を舐め取ると、ピクリとミューズは体を震わした。
「ティタン様」
「ごめん、嫌だったよな」
無意識にした事だったが、反省する。どうにもこの姿だと獣の思考に寄ってしまっていけない。
何の気無しにしたことだが、ティタンはミューズに嫌われたくないとすぐに止めた。
「いえ、慰めようとしてくれたのですよね。いつもこんな私に優しくしてくれて、ありがとうございます」
どうやら咎めようとしたわけではないようで、ホッとした。
「今だって助けに来てくれて、本当に嬉しかった。怖かったけれど、あなたの姿が見えて、ホッとしました」
獣化した姿を見るのは初めてだったが、見慣れた薄紫色のたてがみですぐにティタンだとわかった。
「あなたはいつでもピンチに現れてくれる、私の恩人です」
また涙を流し、ミューズはティタンを強く抱き締める。
ティタンもまたミューズを抱き返したかった。
獣姿をやめて、両の腕でミューズを慰めたい。
「好きです、ティタン様……」
そう言われ、ティタンの感情と頭が爆発する。思いもよらない好意の言葉に、心臓が破裂しそうだ。
「俺を? 本当に? 嘘ではなくて」
しつこい程確認すると、ミューズはコクリと頷く。
「はい、お慕いしております。そうでなければ発作も起こりませんので」
ミューズは顔を赤らめて話し始める。
ただの勘だ。だけども心がざわつき落ち着かない。
「まさかミューズに何かあった?」
口にすると不安が一気に押し寄せる。
昔から勘は良い方だ、だから確信した。
彼女に何かあったのだと。
「ティタン様?」
「すまない、少し抜ける」
鍛錬中ではあるが、ティタンは駆けだした。
胸のざわつきがおさまらない。
(ミューズ!)
ティタンの体が変化し、立派なたてがみと大きな爪と牙が現れる。人型であった名残はなく、完全に獣となっていた。
獣化したティタンは、四つ足で駆ける。その速度は人の姿の時とは比べ物にならない程だ。
普段はこの姿になりはしないが、いち早くミューズの元に行く為にと変化したのだ。
そして部屋に着いたのだが、ミューズの姿はどこにもない。
「何故いない、どこだ?!」
苛立たし気に喉の奥で唸る。
ここに来てから自ら部屋の外に出るなんてなかった。どこに行くかなんての心当たりもない。
「ティタン様。こちらへ」
同じく獣化し、赤い豹となったルドが匂いを頼りに案内する。
二階の窓から直接庭に降り立ち、駆け出した。温室に近づくにつれ、ティタンも匂いを察知する。
花の香りに混じって彼女の優しい匂いがするのだ。
だがそこにはミューズのものと、他者のものが入り交じっていた。
(俺以外の男がミューズの側にいるだと!)
怒りにティタンは更にスピードを上げた。
「ミューズを拐かしたのは、どいつだ!」
怒声が響いた!
ビリビリと空気が震え、その声は温室にも、そして城内にも聞こえてきた。
「ひっ?!」
匂いを頼りに温室の奥に入れば、ミューズを組み敷いている男達を見つけた。
容赦なくティタンは爪を剝き出しに襲いかかる。
「貴様らぁ!」
鋭い爪と牙は男達を切り裂き、ミューズの上から追い払う。
ミューズは懸命に抵抗していたのだろう、傷つき、震えていたが無事なようだ。
押さえつけられたのか所々肌が赤くなっているのを見て、怒りがこみ上げる。が、それはミューズにぶつけるものではない
極力優しい声を意識し、安心させるように話しかけた。
「大丈夫か?」
姿は違えど声でわかったのだろう。涙を流し、ティタンに縋り付く。
「ティタン様、ティタン様!」
余程怖かっただろうなと、ティタンは涙を舌で拭う。
「もう大丈夫だ。一人にして済まない」
ティタンは寄り添い、自分が倒した男達を見る。
多量の血を流しながらも男達は生きていた、
「命までは奪わない。貴様達がおかした罪は法で裁く」
本当は八つ裂きにしたかったが、ミューズの前でする事ではない。
心優しい彼女は自分のせいで人が死ぬのを心良く思わないはずだ。
だから司法の裁きで殺してやる。
「お前達が手を出そうとしたのはコニーリオの王女だ。どんな理由があれ、王女を傷つけた罪は重い」
そう宣言し、震えるミューズに寄り添う。
「もう一人になんてしない」
涙で言葉も紡げないミューズにただ寄り添った。
「大丈夫か、ミューズ」
しがみついていた手が急に力なく垂れさがる。
「薬も奪われてしまって、苦しいです……」
辛い息の中、そう訴えられる。
「発作が起きて、その時にタニアさんに奪われてしまったのです……あれがないと、私は」
とうとうミューズは胸を抑え、地面に倒れてしまう。
「俺が行きます。ティタン様はミューズ様をお部屋へ」
ルドが直ぐ様駆け出した。
男達をティタンの声で駆けつけた兵達に引き渡す。
「こいつらには後で厳罰言い渡す、生かしておけ」
いつもと違うどすの利いた声に震えながらも兵たちは男達を連れて行った。
あいつらに二度と日の目など浴びさせないと心に決め、ティタンはミューズを背に乗せて部屋に戻る。
「こんなに怪我をして、可哀想に」
ミューズをベッドに横にすると、ティタンは医師を呼びに行こうと外に出ようとする。
だが。
「行かないで」
ポロポロと涙を流し、ミューズは引き止める。
恐怖で落ち着かないのだろう。
「わかった、だから泣かないで」
(後でルドに頼めばいいだろう)
今は一人にしてられないと、ティタンはミューズの側に寄り添う。
ふわふわの毛にミューズは抱きつき、体を震わせている。
ミューズの涙を舐め取ると、ピクリとミューズは体を震わした。
「ティタン様」
「ごめん、嫌だったよな」
無意識にした事だったが、反省する。どうにもこの姿だと獣の思考に寄ってしまっていけない。
何の気無しにしたことだが、ティタンはミューズに嫌われたくないとすぐに止めた。
「いえ、慰めようとしてくれたのですよね。いつもこんな私に優しくしてくれて、ありがとうございます」
どうやら咎めようとしたわけではないようで、ホッとした。
「今だって助けに来てくれて、本当に嬉しかった。怖かったけれど、あなたの姿が見えて、ホッとしました」
獣化した姿を見るのは初めてだったが、見慣れた薄紫色のたてがみですぐにティタンだとわかった。
「あなたはいつでもピンチに現れてくれる、私の恩人です」
また涙を流し、ミューズはティタンを強く抱き締める。
ティタンもまたミューズを抱き返したかった。
獣姿をやめて、両の腕でミューズを慰めたい。
「好きです、ティタン様……」
そう言われ、ティタンの感情と頭が爆発する。思いもよらない好意の言葉に、心臓が破裂しそうだ。
「俺を? 本当に? 嘘ではなくて」
しつこい程確認すると、ミューズはコクリと頷く。
「はい、お慕いしております。そうでなければ発作も起こりませんので」
ミューズは顔を赤らめて話し始める。
0
お気に入りに追加
67
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
愛など初めからありませんが。
ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。
お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。
「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」
「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」
「……何を言っている?」
仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに?
✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【本編完結】異世界再建に召喚されたはずなのにいつのまにか溺愛ルートに入りそうです⁉︎
sutera
恋愛
仕事に疲れたボロボロアラサーOLの悠里。
遠くへ行きたい…ふと、現実逃避を口にしてみたら
自分の世界を建て直す人間を探していたという女神に
スカウトされて異世界召喚に応じる。
その結果、なぜか10歳の少女姿にされた上に
第二王子や護衛騎士、魔導士団長など周囲の人達に
かまい倒されながら癒し子任務をする話。
時々ほんのり色っぽい要素が入るのを目指してます。
初投稿、ゆるふわファンタジー設定で気のむくまま更新。
2023年8月、本編完結しました!以降はゆるゆると番外編を更新していきますのでよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる