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第10話 鷹の国 後悔

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「あの、エリック様」
 式が終わりエリックは周囲と少しだけ話しをした後、レナンの腕を引いて強引に連れて行く。

 すれ違うもの皆が道を開け、何事かと言う目でこちらを見ていた。

(どこに連れて行かれるのかしら)
 何も聞けず、引っ張られるままだ。

 どこかの部屋について、二人きりになるとエリックにソファに押し倒される。

 先程の甘い雰囲気はなく、恐ろしい形相だ。

(本当は怒ってる?)
 怒られても仕方ないことだが、気持ちの切り替えが出来ない。

 あんなにも笑顔になってくれたのに。

「何故君が俺の花嫁として来た。ヘルガ王女はどうした」
 低く冷たい声音だ。

「そ、それは、姉が来るのを拒んだからで」
 やはり姉の方が良かったのかと、泣きそうになる。

「わたくしで、ごめんなさい」
 恐怖で声が震えてしまう。

「いつすり替わりを決めたのだ?」
 変わらぬ声で尚も責められる。

「前日には……」

「何故言わなかった!」
 至近距離で怒鳴られ、レナンはもう真っ青だ。

「ご、ごめんなさい」

「君が相手ならば、もっと豪華にしたのに」

「えっ?」

「ドレスも作り直した、演出ももっと映えるものに出来たのに。指輪も破棄だ。後日改めて君に相応しいものを送る」

「あ、あの?」
 怒っているのではなかったのか。

「もっと事前にわかれば、君の為の式に出来たのに。くそっ、腹が立つ。式をやり直したい」
 エリックはそう言うと、レナンを強く抱き締める。

「あ、あのエリック様。怒ってらっしゃるんですよね? わたくしが姉と入れ替わったので」
 思わず確認してしまう。

 あの剣幕はそういうことではないのか?

「あぁ、怒っている。レナンと婚姻出来るならば、こんな最低限の用意しかせずにもっと豪華にすれば良かったと」
 ギリギリと歯を食いしばり、悔しそうな顔をしていた。

「今レナンに合うドレスと装飾品を、急ぎ持ってくるよう命じてあるから、もう少し待ってくれ」

「えっ?」
 どういうことか。

「あの女に合わせた衣装など着せたくない」
 その言葉に慌ててしまう。

「それでは折角の衣装が無駄になってしまいますわ、わたくしの事はいいですから」
 ドレス達を破棄するのは勿体ない。

「それでは俺の気が済まない。そしてこれも」
 ドレスに指を掛けられた。

「一生に一度のものであろう? 君に着せるのならば最高級のドレスを用意したのに……」
 本当は今すぐにでも脱がせたいが、我慢する。

 そんな事をしたら余計怖がらせるだけだ。

 ただでさえ酷く怯えさせているのに。
 エリックは怒りを抑えようと耐える。

「先程渡してくれたあの手紙は、君も読んだのか?」

「いいえ。わたくしは見てはいけないといわれました。エリック様だけが見る、特別なものだと言われて」

「読んでみてくれ、実に酷い」
 くしゃくしゃになったそれをレナンは受け取る。

『今回のすり替わりを提案したのは、私、レナンです。どうしてもあなたの妻になりたくて、いけない事とは思いましたが、我慢できませんでした。ヘルガお姉様はパロマに閉じ込めてきましたので、どうか私を妻にしてください。ヘルガお姉様は悪くありません』

「まぁ」
 このような内容であったとは。

 レナンが全てを企てたような書き方である。

「こんな頭が悪そうな手紙を君が書くわけないだろう、字も違うし。どうせヘルガ王女の差し金なのだろう」

「……はい」
 そこまで言われては否定も出来ない。

「しかし字が違うとは?」

「ずっと文でやり取りしていたからレナンの字は知っている。これとは全く違うだろ」
 レナンから手紙を返してもらうと、胸ポケットにしまった。

「大事な証拠だ」
 これが後々どういう事を引き起こすのか。目にものをいわせてやろう。



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