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番外編:粗暴な騎士と純真な近衛騎士①
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王城内の訓練場の入口にて、ライカはフローラが来るのを待っていた。
すぐさまライカはまたアドガルムを発たねばいけないので、フローラと話す時間は少ない。
戦が終わってからお互いの無事を確認した後もなかなか会えなかった。
(どうしてわざわざこのような場で会うのを希望したんだ)
溜息代わりに眉間の皺が深くなり、ますます鋭さを増す目に皆が見ないふりを決め込んだ。
もともと険しい顔がもっと険しさを増しており、尚も近寄りがたい雰囲気を醸し出している。
護衛騎士であるライカと近衛騎士であるフローラは接点はあるものの、こうして表立って待ち合わせなどしたことはない。
ライカが人前で会うのを嫌がったからだ。
評判が良くないライカが品行方正なフローラと知り合いなど、誰が信じるだろうか。
近衛騎士は王族の警護を任されているが、その殆どは貴族。他国の要人に会う事も多いために腕前もだが、気品や生まれも重視される。
フローラはアドガルム生まれで元侯爵令嬢である。今は一代限りの騎士爵だが、もともとの素材が良く一目置かれている。
王妃によく指名される事もいい評価につながっていた。
それに対してライカは隣国シェスタ国の出で、爵位も子爵位。第二王子の護衛をしているが、ルドの方が注視されており、ライカの方はどちらかと言うと悪い方での注目が多い。
到底釣り合う事はない。
(ルドみたいな奴ならば認めてもらえるだろうが、俺はあんな風になれねぇ)
多少言葉遣いは直せたが、それでも時折出る乱暴さは隠せない。
「お待たせしました、ライカ様」
「フローラ様」
眉間に寄せた皺が僅かに薄くなる。
長い黒髪に紫の目、すらりとした長身はレナンよりもやや高いくらいだ。
急いで来たのか頬は紅潮し、息も僅かに乱れている。
「待ってはいません。あなたはきちんと時間通りに来ています」
「でもライカ様よりも遅くなってしまいました。わたくしがお願いした事なのに」
しょんぼりした様子のフローラに同情の視線が集まる。
様相の悪いライカは何もしていなくともこうして悪人にされるのだ。
「ですから、大丈夫です」
「フローラを虐めないで欲しい」
急な声掛けにライカは視線をそちらに向ける。
「キグナス殿」
近衛隊の隊長だ。その人物がフローラの後を追い掛けてきたのだ。
(馴れ馴れしいな)
部下であるから当然かもしれないが、ライカは嫌な気持ちになる。
「虐めてるわけではありません」
「そんな怖い顔でせまれば虐めてるように見えるさ」
キグナスはフローラの隣に立とうとしたが、するりとライカの隣に逃げられてしまう。
ライカは庇うように前に出た。
「それで、他に用事がなければお引取りを。今はフローラ様とお話をしてますので」
貴重な時間をこんな横槍で潰されたくない。
「それが……」
「私はフローラに求婚しているのだよ」
その言葉にライカは少し面食らい、だが、すぐに冷静さを取り戻す。
「ふぅん。二人で俺に婚約の挨拶にでも来たのですか?」
内心のもやもやを感じてそう言ったが、すぐに違うと思い当たる。
(もしも二人の仲が良好なら俺の後ろに隠れないな)
ちらりとフローラの顔を見て、青ざめているのがわかる。
ライカの言葉にショックを受けてるのだが、そこまではライカは分からなかった。
ただフローラをこのまま渡さないようにと両手を広げ、守るように立つ。
「ではその前に俺と勝負ですね。せめて俺より強くないと安心して任せられない」
「元よりそのつもりで来たのだが、最初にフローラから話を聞いたときは驚いた。何故無関係のお前がそのような振る舞いをするのかと」
その言葉に確かにライカはそうだと思ってしまった。
知り合い以上の何者でもないのに、フローラの結婚について口出しをする自分。
外から見たら確かに何様だと思う。
「無関係ではありません。、ライカ様はわたくしの剣の師ですもの。その師よりも強い男性でないと認められません」
フローラの援護にライカはさらに目を鋭くして睨みつける。
「そういうわけだ。俺より強いことを証明してみな。そうでなければフローラ様は渡せねぇよ」
「お前みたいなやつに何故フローラは惹かれるのか……来い。完膚なきまでに叩き潰してやる」
訓練場にて入っていくキグナスを見て、ようやく思い至った。
(このためにフローラ様は俺をここに呼んだのか)
ちらりと後ろを見ると、フローラは震えていた。
「ごめんなさい、このような事になってしまって。でもわたくし隊長と結婚するのは嫌なの」
「キグナス殿は俺よりも年上だし嫌だよな。大丈夫、俺が守る」
慰めるようにフローラの頭を優しく撫でた。
すぐさまライカはまたアドガルムを発たねばいけないので、フローラと話す時間は少ない。
戦が終わってからお互いの無事を確認した後もなかなか会えなかった。
(どうしてわざわざこのような場で会うのを希望したんだ)
溜息代わりに眉間の皺が深くなり、ますます鋭さを増す目に皆が見ないふりを決め込んだ。
もともと険しい顔がもっと険しさを増しており、尚も近寄りがたい雰囲気を醸し出している。
護衛騎士であるライカと近衛騎士であるフローラは接点はあるものの、こうして表立って待ち合わせなどしたことはない。
ライカが人前で会うのを嫌がったからだ。
評判が良くないライカが品行方正なフローラと知り合いなど、誰が信じるだろうか。
近衛騎士は王族の警護を任されているが、その殆どは貴族。他国の要人に会う事も多いために腕前もだが、気品や生まれも重視される。
フローラはアドガルム生まれで元侯爵令嬢である。今は一代限りの騎士爵だが、もともとの素材が良く一目置かれている。
王妃によく指名される事もいい評価につながっていた。
それに対してライカは隣国シェスタ国の出で、爵位も子爵位。第二王子の護衛をしているが、ルドの方が注視されており、ライカの方はどちらかと言うと悪い方での注目が多い。
到底釣り合う事はない。
(ルドみたいな奴ならば認めてもらえるだろうが、俺はあんな風になれねぇ)
多少言葉遣いは直せたが、それでも時折出る乱暴さは隠せない。
「お待たせしました、ライカ様」
「フローラ様」
眉間に寄せた皺が僅かに薄くなる。
長い黒髪に紫の目、すらりとした長身はレナンよりもやや高いくらいだ。
急いで来たのか頬は紅潮し、息も僅かに乱れている。
「待ってはいません。あなたはきちんと時間通りに来ています」
「でもライカ様よりも遅くなってしまいました。わたくしがお願いした事なのに」
しょんぼりした様子のフローラに同情の視線が集まる。
様相の悪いライカは何もしていなくともこうして悪人にされるのだ。
「ですから、大丈夫です」
「フローラを虐めないで欲しい」
急な声掛けにライカは視線をそちらに向ける。
「キグナス殿」
近衛隊の隊長だ。その人物がフローラの後を追い掛けてきたのだ。
(馴れ馴れしいな)
部下であるから当然かもしれないが、ライカは嫌な気持ちになる。
「虐めてるわけではありません」
「そんな怖い顔でせまれば虐めてるように見えるさ」
キグナスはフローラの隣に立とうとしたが、するりとライカの隣に逃げられてしまう。
ライカは庇うように前に出た。
「それで、他に用事がなければお引取りを。今はフローラ様とお話をしてますので」
貴重な時間をこんな横槍で潰されたくない。
「それが……」
「私はフローラに求婚しているのだよ」
その言葉にライカは少し面食らい、だが、すぐに冷静さを取り戻す。
「ふぅん。二人で俺に婚約の挨拶にでも来たのですか?」
内心のもやもやを感じてそう言ったが、すぐに違うと思い当たる。
(もしも二人の仲が良好なら俺の後ろに隠れないな)
ちらりとフローラの顔を見て、青ざめているのがわかる。
ライカの言葉にショックを受けてるのだが、そこまではライカは分からなかった。
ただフローラをこのまま渡さないようにと両手を広げ、守るように立つ。
「ではその前に俺と勝負ですね。せめて俺より強くないと安心して任せられない」
「元よりそのつもりで来たのだが、最初にフローラから話を聞いたときは驚いた。何故無関係のお前がそのような振る舞いをするのかと」
その言葉に確かにライカはそうだと思ってしまった。
知り合い以上の何者でもないのに、フローラの結婚について口出しをする自分。
外から見たら確かに何様だと思う。
「無関係ではありません。、ライカ様はわたくしの剣の師ですもの。その師よりも強い男性でないと認められません」
フローラの援護にライカはさらに目を鋭くして睨みつける。
「そういうわけだ。俺より強いことを証明してみな。そうでなければフローラ様は渡せねぇよ」
「お前みたいなやつに何故フローラは惹かれるのか……来い。完膚なきまでに叩き潰してやる」
訓練場にて入っていくキグナスを見て、ようやく思い至った。
(このためにフローラ様は俺をここに呼んだのか)
ちらりと後ろを見ると、フローラは震えていた。
「ごめんなさい、このような事になってしまって。でもわたくし隊長と結婚するのは嫌なの」
「キグナス殿は俺よりも年上だし嫌だよな。大丈夫、俺が守る」
慰めるようにフローラの頭を優しく撫でた。
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