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第176話 再建

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 皇帝を討ち、そして平和が訪れた。

 とはいえ、どこもかしこもボロボロだ。

 アドガルムも王城は無事なものの街も人も疲弊している。

 戦に出たものも十分な回復はまだ先で、特に体を酷使しし過ぎたエリックは車椅子にて移動を行なっている。
 リオンも疲労が激しく。歩けはするものの、十分な体力はまだない。
 ティタンだけは平時と変わらず動き続けていた。

 だが休んでばかりもいられない。

 帝国は頭を失い、混乱のさなかだ。例え恐怖政治でも、支持していたものもいくらかはいる。

 新たなものを担ぎ上げられては困るという事で、それらをどう抑えるかが早急な課題だ。






「僕が新たな皇帝?!」
 リオンはアルフレッドから下されたまさかの言葉に冷や汗が出る。

「そうだ。リオンなら諸外国への覚えがあるし、多くの民を救ったと聞いた。指導者として十二分な立場だ」
 シドウなどの契約解除を行なった事で、民達の受けもいい。

「待ってほしいのです! リオン様が皇帝ということはぼくが皇妃?!」
「そうなるな」
 アルフレッドの言葉にマオは青褪める。

「リオン様。短い間でしたが、ありがとうございました」
 マオは頭を下げ、逃げようとしたがニコラに捕まる。

「妹よ、ごめん」
「裏切り者ー!」
 エリックの命に逆らえないニコラはマオを羽交い締めにした。

「マオ。リオンと別れるというのか? そうなると可愛い弟が泣いてしまうので、どうにか考え直して欲しいんだが」
 困ったような顔をするエリックだが、マオはぶんぶんと顔を横に振る。

「さすがに皇妃なんて無理なのです! お断りです!」
 愛情はあっても、出来っこない。

 リオンは王命と愛情の板挟みで泣きそうだ。

「マオ。君が国を出たら死者が大勢出るぞ。それでもいいのかい?」
 エリックは諭すように話し始める。

「一人はわかるだろ? 君をこよなく愛する我が弟」
 縋るような目でマオを見ている。

「二人目はニコラ」

「何故、兄が?」
 エリックさえいればいいという男だが。

「マオがいなくならなければ何もないが、いなくなるというならば、俺が二コラに死を命じるぞ」

「!!」
 マオは驚いた。

「妹を引き止められなかった責任は兄に取らせよう。それでも出ていくかな?」

「……ずるいです」
 兄を人質に取られ、マオは唇を噛み締めた。

「そうだ、俺は狡い。知らなかったか?」
 笑っているようで笑っていない目だ。

(本当にレナン様はこの男のどこに惚れたのだろう)
 マオは力なく項垂れる。

「ちなみに」

「まだいるですか?」
 もう逆らう気はないけれど、好奇心で聞いてみる。

「イシスとギルナスも死ぬことになるだろう」
 他のものも驚いた。

「処刑する、という話だったのでは?」

「皇女として、責任はあるが……いくつかの派閥を抑えるために、今はまだ生かしておきたい。それもあってリオンを皇帝にしたいんだ」

「僕が皇帝になる事で、何か関係あるのですか?」
リオンは嫌な予感に顔を顰める。

「イシスをリオンの側室として生かす」

「……兄様、本気ですか?」
 さすがに聞き捨てならない内容だ。

「本気だ。もちろん書類上の関係だけだ。実際に手を出すなよ」

「絶対にないです!」
 リオンは大声で否定した。

「イシスもまた皇帝の犠牲者だ。何とか生かしてやりたいが、外に出すのも危険だ。どこで担ぎ挙げられるかも心配だし、今までの恨みで暗殺されてしまうかもしれない。こちらとしてもそれでは後味が悪い。処刑し死んだていで放逐しようかとも思ったが、今の彼女は生き甲斐もない。外に出せばただ死ぬだけだろう。ならば生きがいを見つけるまで、離宮でギルナスと過ごさせればいい」
 どうやらエリックの中で命を奪うという選択肢はないようだ。

「彼らは我々の助けをしてくれた。その恩は返さねばなるまい」
 確かにイシス達はたくさんの人を殺してきたが、それでもアドガルムの為に力を貸してくれたことは、無視できない事である。

 大事な局面で帝国を裏切ってくれたおかげで、戦局を大きく変えられたのだから、何らかの形で返す必要があるだろう。

 自由放免とはいかないが出来得る限りの事はしてあげたい。

「マオも人助けだと思って頼む。報酬は弾むから」
 アルフレッドの言葉にマオは逆らえない事を悟り、大人しく頷く。

「うぅ、たくさん欲しいです」
 せめて何かあった時の為に、もっと貯えを増やそうと思ったのだ。

(そうすればいずれ国を出るにしても、何とかなるだろう)
 リオンの元を離れ、自由を得る事を諦めることはしなかった。

「どれくらい頑張れば落ち着くですかね?」
 今の状態からは想像も出来ないが、せめて終わりの目安は知りたい。

「まぁ十年程すれば落ち着くだろう。あっという間だ」

「十?!」
 その歳月を想像してマオはクラクラした。

「頑張って僕も支えるから。ねっ?」
 リオンが捨てられないようにと必死な様子でマオを見つめる。

 触れる手の力から、絶対に逃がさないという意思が感じられた。



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