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第143話 喪失
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「あたしを殺せば主に恨まれるわよ」
「黙れ」
殺す気はない。
動けなくなるくらいに留めるだけだ。
(後でお叱りは受けますから)
心の中で懺悔をしながら、ルドは剣を振り下ろした。
だが、ルドの体はミューズに触れる前に弾き飛ばされる。
「くっ?!」
防御壁ではない。それよりも強い力だ。
大きく飛ばされたルドはかろうじて受け身を取り、ルビアを睨みつける。
「便利なものね」
役目を終え、崩れ去っていったブレスレットはティタンが初めてミューズへと贈ったものだ。
希少な魔石で出来ているそれはミューズの体を守り、消えてしまった。
(厄介なものが丁度良く消えて良かったわ)
ティタンではこの役目は出来ないし、正直この後の事を考えるとこのお守りは邪魔であった。
目論見がバレれば、目的を果たす前に力づくで取り押さえられていただろうから。
「下がりなさい。この体にこれ以上何かしたら、ミューズを殺すわよ」
ライカは素直に従い、ルドも悔しそうに剣を仕舞う。
遠くにいるセシル達は様子を見るに止め、動向を伺っていた。
ルド達を牽制した後、ルビアはティタンに視線を移す。
「ねぇティタン様。あいつら邪魔だから、動けないようにして。あたしは優しいから殺さない程度でいいわよ」
後で操るつもりだから、あまり体を破壊され過ぎては困る。
ただでさえティタンは力が強いから、殺せなどと言ったら粉々にされてしまうだろうと危惧したのだ。
「そんな事は、出来ない」
さすがに仲間を攻撃しろなどというのは了承しない。ルビアはつまらなさそうに口を尖らせた。
「あら、ではこの体はいらないという事ね?」
ルビアが短剣を首に押し当てた。
「待て!」
「それ以上近づけば、本当に切るわ」
ルビアは本気だと示すように、刃を細い首に押し当てる。
糸のような血が流れた。
「妻を選ぶかそれとも部下を選ぶか、どうするの? 早く選んで頂戴」
ルビアの脅迫にティタンは歯を食いしばる。
出来るわけがない。
体を震わし、拳を握りしめ、途方に暮れた。
どちらも選ぶことが出来ない程大切だ。
それにルビアの言うことを聞いたとして、ミューズを返してくれるとは言っていない。
下手したら状況が悪化すると二の足を踏んでしまう。
「出来ないの? 駄目な人ね」
そう言ってため息をつくと、ルビアはためらいもなく自分の、いや、ミューズの首を掻き切った。
「ミューズ!!」
あまりの事にティタンは目を見開いき、周囲からも悲鳴が上がった。
止める間もなく起こったこの事態に、皆固まってしまった。
いち早く行動に移れたのはティタンだ。
「今、助けるからな!」
(何をしたらいい? まずは、止血か?)
焦る気持ちを抑え、急ぎミューズの首元を抑える。
濃い血の匂いと温かな感触に、手が震える。
「セシル、すぐに回復を!」
遠くで呆然としているセシルに声をかけている間に、血まみれの手が頬に伸ばされた。
「ティタン様、何で、助けてくれなかったの?」
涙を流し、血塗れになりながらもミューズにそう訴えられ、動揺が走る。
「ミューズ、違う。俺は……」
「酷いわ。守ってくれるって、言ったのに」
わなわなと震え、ミューズを見つめる事しかできなかった。
中身がルビアだという事はもはや頭から吹き飛んでいる。
約束も守れず、目の前で死にかけているミューズに対して何も出来ないなんて、自分の不甲斐なさが情けない。
その間にもミューズの顔からはどんどん血の気が失くなっている。
(俺は何て無力なんだ!)
ミューズの小さな手がティタンの手に重ねられ、はっきりと告げられた。
「あなたが私を殺したのよ」
ミューズは目を閉じ、その手は力なく垂れさがる。
ティタンの心が絶望に包まれた。目の前が真っ暗に染まっていく。
「黙れ」
殺す気はない。
動けなくなるくらいに留めるだけだ。
(後でお叱りは受けますから)
心の中で懺悔をしながら、ルドは剣を振り下ろした。
だが、ルドの体はミューズに触れる前に弾き飛ばされる。
「くっ?!」
防御壁ではない。それよりも強い力だ。
大きく飛ばされたルドはかろうじて受け身を取り、ルビアを睨みつける。
「便利なものね」
役目を終え、崩れ去っていったブレスレットはティタンが初めてミューズへと贈ったものだ。
希少な魔石で出来ているそれはミューズの体を守り、消えてしまった。
(厄介なものが丁度良く消えて良かったわ)
ティタンではこの役目は出来ないし、正直この後の事を考えるとこのお守りは邪魔であった。
目論見がバレれば、目的を果たす前に力づくで取り押さえられていただろうから。
「下がりなさい。この体にこれ以上何かしたら、ミューズを殺すわよ」
ライカは素直に従い、ルドも悔しそうに剣を仕舞う。
遠くにいるセシル達は様子を見るに止め、動向を伺っていた。
ルド達を牽制した後、ルビアはティタンに視線を移す。
「ねぇティタン様。あいつら邪魔だから、動けないようにして。あたしは優しいから殺さない程度でいいわよ」
後で操るつもりだから、あまり体を破壊され過ぎては困る。
ただでさえティタンは力が強いから、殺せなどと言ったら粉々にされてしまうだろうと危惧したのだ。
「そんな事は、出来ない」
さすがに仲間を攻撃しろなどというのは了承しない。ルビアはつまらなさそうに口を尖らせた。
「あら、ではこの体はいらないという事ね?」
ルビアが短剣を首に押し当てた。
「待て!」
「それ以上近づけば、本当に切るわ」
ルビアは本気だと示すように、刃を細い首に押し当てる。
糸のような血が流れた。
「妻を選ぶかそれとも部下を選ぶか、どうするの? 早く選んで頂戴」
ルビアの脅迫にティタンは歯を食いしばる。
出来るわけがない。
体を震わし、拳を握りしめ、途方に暮れた。
どちらも選ぶことが出来ない程大切だ。
それにルビアの言うことを聞いたとして、ミューズを返してくれるとは言っていない。
下手したら状況が悪化すると二の足を踏んでしまう。
「出来ないの? 駄目な人ね」
そう言ってため息をつくと、ルビアはためらいもなく自分の、いや、ミューズの首を掻き切った。
「ミューズ!!」
あまりの事にティタンは目を見開いき、周囲からも悲鳴が上がった。
止める間もなく起こったこの事態に、皆固まってしまった。
いち早く行動に移れたのはティタンだ。
「今、助けるからな!」
(何をしたらいい? まずは、止血か?)
焦る気持ちを抑え、急ぎミューズの首元を抑える。
濃い血の匂いと温かな感触に、手が震える。
「セシル、すぐに回復を!」
遠くで呆然としているセシルに声をかけている間に、血まみれの手が頬に伸ばされた。
「ティタン様、何で、助けてくれなかったの?」
涙を流し、血塗れになりながらもミューズにそう訴えられ、動揺が走る。
「ミューズ、違う。俺は……」
「酷いわ。守ってくれるって、言ったのに」
わなわなと震え、ミューズを見つめる事しかできなかった。
中身がルビアだという事はもはや頭から吹き飛んでいる。
約束も守れず、目の前で死にかけているミューズに対して何も出来ないなんて、自分の不甲斐なさが情けない。
その間にもミューズの顔からはどんどん血の気が失くなっている。
(俺は何て無力なんだ!)
ミューズの小さな手がティタンの手に重ねられ、はっきりと告げられた。
「あなたが私を殺したのよ」
ミューズは目を閉じ、その手は力なく垂れさがる。
ティタンの心が絶望に包まれた。目の前が真っ暗に染まっていく。
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