106 / 202
第106話 王宮医師の跡継ぎ②
しおりを挟む
「大丈夫ですか? サミュエル様」
運良く自室にいたサミュエルに許可を取り、話がしたいと部屋に入ったが、様子がおかしい。
机に顔を突っ伏して、時々「あぁ」とか「うぅ」とか呻いている。
聞けばシフと会った後だそうだ。
(何かあったんだろうな)
話を聞く前にとりあえずお茶を淹れる。
お湯が沸くまで部屋の中を眺めた。
物のない部屋でさっぱりとしていると思っていたサミュエルの部屋だが、久しぶりに入るとシフからの贈り物で溢れていた。
余程大事にしているのだろう、見えるところに綺麗に並べられている。
「サミュエル様。お茶を置いておきますよ」
零さないようにと注意を促し、自分も椅子に座る。
この椅子も昔はなかったなぁ。
基本誰も来ないしわざわざ物を増やすようなことはしたくないと話していた。
だいぶ変わるものだ。
「ありがとう……」
小さい声でお礼を言われる。
一応セシルの声は届いていたようだ。
「それで話なんですけど、シフ様とはどうなったのです?」
ストレートに話を切り出すと、サミュエルは勢いよく顔を上げて、セシルから距離を取った。
「どこで、その、話を?!」
息遣い荒く言われ、なんと答えるかと考える。
「いや、普通に見ていたらわかりますね。明らかに不審でしたし」
「本当に?!」
バレていないと思ったのかサミュエルは頽れている。
「嘘だろ、だってシフは顔が広い。それに僕と話す姿だって、きっと周囲からは同情にしか見えていないはずなのに」
ぶつぶつと小声で言っている言葉をセシルは耳を傾けて聞いていく。
「だってサミュエル様、シフ様と話す時たまに声が上ずってますよね? 明らかに好意を持ってるし、シフ様も嬉しそうだし。このあたりのものもシフ様からの贈り物ですよね」
サミュエルの趣味とは言い難いものが数々並んでいる。
「お願い、セシル。このことは内緒にして欲しいんだ」
「もう同僚の殆どは知っていますよ」
「えっ? 何で?」
「てか先生も知っています」
「っ!」
サミュエルは頭を抱えた。
あのシュナイまでもが知っているとは、相当ショックなのだろうなと思うが交際相手の親が悪すぎた。
「ロキ様経由で話が来ました」
ひゅっと息を吸う音が聞こえた、プルプルと体を震わしている。
「記憶を消す薬が必要か……」
「誰に飲ませる気ですか?!」
さすがに不穏を感じ、サミュエルを止める。
「もう色々な人が知っているし、諦めた方がいいですよ。それでその事でシュナイ先生は養子の話を進めたいと言ってました。シフ様と結婚するなら貴族籍は要るでしょう?」
「結婚……」
その言葉にサミュエルは立ち上がった。
「そうだ、どうしよう。結婚、僕……」
動揺してるのだろう、片言になっている。
「聞きますから、まずは座って」
先程淹れたお茶を飲ませつつ、落ち着くのを待った。
サミュエルはシフとのやり取りを話していく。
義兄弟の為、セシルに対しては他の者よりも信頼をしているのだ。
「俺はどうしたらいいのか。シフは僕で良いと言ってくれた。だが答える自信がない」
顔も見てもらった。
少し驚いたものの、それだけだ。
「受け入れてもらえたならいいのでは? それにシフ様が他の男性と一緒になっても許せるのですか?」
「部屋に籠って会わなければ大丈夫。転移魔法も習ったから廊下も通らなくて済むから、会わないでいられる」
どこにも大丈夫な要素はない。
「そうではなくて。シフ様が他の人と抱きしめ合ったり手を繋いだり、キスしても平気なのですか?」
「それは嫌だ!」
「じゃあそれが答えです。サミュ兄が応えるだけでこの縁談は纏まりますよ。ロキ様ももうお認めですから」
思わず昔の呼び名で呼んでしまった。
シュナイの元に現れたロキが言っていたのだから、ほぼ公認だろう。
「でもこんな顔の男でいいのかな? ほら貴族ってしょっちゅうパーティとか夜会とかするだろ。この格好では一緒に歩けないし」
「そう言えば」
あまり気にしたことがなかったが、そうなるか。
リオンの護衛として認識阻害をかけて陰ながら護衛をしていたが、シフのパートナーともなればそうはいかない。
もと貴族であったセシルはあまり気にしていなかったが、そう言えばそのような事もある。
貴族の婚約者ともなれば、最低でも皆の前でのお披露目をしなければいけないだろう。
「ミューズ様なら治せるかもしれないから、今度相談してみよう」
「嘘、こんな古い傷も?」
サミュエルは仮面の上から傷口に触れた。
相当広く、広範囲に渡るものだ。
「もしかしたら。欠損部も治せるらしいし」
「それは凄い魔力と医学の知識が必要になるのに」
シュナイとて難しい魔法だ。
だが期待が持てる。
「戦が終わった後でも一緒に頼みに行きましょ。サミュ兄は俺の大事な家族だから」
よしよしと慰め、セシルはにこやかな笑顔を見せた。
その笑顔に安心し、サミュエルは自分を奮い立たせるように頷いた。
運良く自室にいたサミュエルに許可を取り、話がしたいと部屋に入ったが、様子がおかしい。
机に顔を突っ伏して、時々「あぁ」とか「うぅ」とか呻いている。
聞けばシフと会った後だそうだ。
(何かあったんだろうな)
話を聞く前にとりあえずお茶を淹れる。
お湯が沸くまで部屋の中を眺めた。
物のない部屋でさっぱりとしていると思っていたサミュエルの部屋だが、久しぶりに入るとシフからの贈り物で溢れていた。
余程大事にしているのだろう、見えるところに綺麗に並べられている。
「サミュエル様。お茶を置いておきますよ」
零さないようにと注意を促し、自分も椅子に座る。
この椅子も昔はなかったなぁ。
基本誰も来ないしわざわざ物を増やすようなことはしたくないと話していた。
だいぶ変わるものだ。
「ありがとう……」
小さい声でお礼を言われる。
一応セシルの声は届いていたようだ。
「それで話なんですけど、シフ様とはどうなったのです?」
ストレートに話を切り出すと、サミュエルは勢いよく顔を上げて、セシルから距離を取った。
「どこで、その、話を?!」
息遣い荒く言われ、なんと答えるかと考える。
「いや、普通に見ていたらわかりますね。明らかに不審でしたし」
「本当に?!」
バレていないと思ったのかサミュエルは頽れている。
「嘘だろ、だってシフは顔が広い。それに僕と話す姿だって、きっと周囲からは同情にしか見えていないはずなのに」
ぶつぶつと小声で言っている言葉をセシルは耳を傾けて聞いていく。
「だってサミュエル様、シフ様と話す時たまに声が上ずってますよね? 明らかに好意を持ってるし、シフ様も嬉しそうだし。このあたりのものもシフ様からの贈り物ですよね」
サミュエルの趣味とは言い難いものが数々並んでいる。
「お願い、セシル。このことは内緒にして欲しいんだ」
「もう同僚の殆どは知っていますよ」
「えっ? 何で?」
「てか先生も知っています」
「っ!」
サミュエルは頭を抱えた。
あのシュナイまでもが知っているとは、相当ショックなのだろうなと思うが交際相手の親が悪すぎた。
「ロキ様経由で話が来ました」
ひゅっと息を吸う音が聞こえた、プルプルと体を震わしている。
「記憶を消す薬が必要か……」
「誰に飲ませる気ですか?!」
さすがに不穏を感じ、サミュエルを止める。
「もう色々な人が知っているし、諦めた方がいいですよ。それでその事でシュナイ先生は養子の話を進めたいと言ってました。シフ様と結婚するなら貴族籍は要るでしょう?」
「結婚……」
その言葉にサミュエルは立ち上がった。
「そうだ、どうしよう。結婚、僕……」
動揺してるのだろう、片言になっている。
「聞きますから、まずは座って」
先程淹れたお茶を飲ませつつ、落ち着くのを待った。
サミュエルはシフとのやり取りを話していく。
義兄弟の為、セシルに対しては他の者よりも信頼をしているのだ。
「俺はどうしたらいいのか。シフは僕で良いと言ってくれた。だが答える自信がない」
顔も見てもらった。
少し驚いたものの、それだけだ。
「受け入れてもらえたならいいのでは? それにシフ様が他の男性と一緒になっても許せるのですか?」
「部屋に籠って会わなければ大丈夫。転移魔法も習ったから廊下も通らなくて済むから、会わないでいられる」
どこにも大丈夫な要素はない。
「そうではなくて。シフ様が他の人と抱きしめ合ったり手を繋いだり、キスしても平気なのですか?」
「それは嫌だ!」
「じゃあそれが答えです。サミュ兄が応えるだけでこの縁談は纏まりますよ。ロキ様ももうお認めですから」
思わず昔の呼び名で呼んでしまった。
シュナイの元に現れたロキが言っていたのだから、ほぼ公認だろう。
「でもこんな顔の男でいいのかな? ほら貴族ってしょっちゅうパーティとか夜会とかするだろ。この格好では一緒に歩けないし」
「そう言えば」
あまり気にしたことがなかったが、そうなるか。
リオンの護衛として認識阻害をかけて陰ながら護衛をしていたが、シフのパートナーともなればそうはいかない。
もと貴族であったセシルはあまり気にしていなかったが、そう言えばそのような事もある。
貴族の婚約者ともなれば、最低でも皆の前でのお披露目をしなければいけないだろう。
「ミューズ様なら治せるかもしれないから、今度相談してみよう」
「嘘、こんな古い傷も?」
サミュエルは仮面の上から傷口に触れた。
相当広く、広範囲に渡るものだ。
「もしかしたら。欠損部も治せるらしいし」
「それは凄い魔力と医学の知識が必要になるのに」
シュナイとて難しい魔法だ。
だが期待が持てる。
「戦が終わった後でも一緒に頼みに行きましょ。サミュ兄は俺の大事な家族だから」
よしよしと慰め、セシルはにこやかな笑顔を見せた。
その笑顔に安心し、サミュエルは自分を奮い立たせるように頷いた。
0
お気に入りに追加
189
あなたにおすすめの小説
ハズレ嫁は最強の天才公爵様と再婚しました。
光子
恋愛
ーーー両親の愛情は、全て、可愛い妹の物だった。
昔から、私のモノは、妹が欲しがれば、全て妹のモノになった。お菓子も、玩具も、友人も、恋人も、何もかも。
逆らえば、頬を叩かれ、食事を取り上げられ、何日も部屋に閉じ込められる。
でも、私は不幸じゃなかった。
私には、幼馴染である、カインがいたから。同じ伯爵爵位を持つ、私の大好きな幼馴染、《カイン=マルクス》。彼だけは、いつも私の傍にいてくれた。
彼からのプロポーズを受けた時は、本当に嬉しかった。私を、あの家から救い出してくれたと思った。
私は貴方と結婚出来て、本当に幸せだったーーー
例え、私に子供が出来ず、義母からハズレ嫁と罵られようとも、義父から、マルクス伯爵家の事業全般を丸投げされようとも、私は、貴方さえいてくれれば、それで幸せだったのにーーー。
「《ルエル》お姉様、ごめんなさぁい。私、カイン様との子供を授かったんです」
「すまない、ルエル。君の事は愛しているんだ……でも、僕はマルクス伯爵家の跡取りとして、どうしても世継ぎが必要なんだ!だから、君と離婚し、僕の子供を宿してくれた《エレノア》と、再婚する!」
夫と妹から告げられたのは、地獄に叩き落とされるような、残酷な言葉だった。
カインも結局、私を裏切るのね。
エレノアは、結局、私から全てを奪うのね。
それなら、もういいわ。全部、要らない。
絶対に許さないわ。
私が味わった苦しみを、悲しみを、怒りを、全部返さないと気がすまないーー!
覚悟していてね?
私は、絶対に貴方達を許さないから。
「私、貴方と離婚出来て、幸せよ。
私、あんな男の子供を産まなくて、幸せよ。
ざまぁみろ」
不定期更新。
この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。
目は口ほどに物を言うといいますが 〜筒抜け騎士様は今日も元気に業務(ストーカー)に励みます〜
新羽梅衣
恋愛
直接目が合った人の心を読めるアメリアは、危ないところを人気の騎士団員・ルーカスに助けられる。
密かに想いを寄せ始めるアメリアだったが、彼は無表情の裏にとんでもない素顔を隠していてーー…。
憧れ? それとも恐怖…?
こんな感情は初めてです…!
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
変態婚約者を無事妹に奪わせて婚約破棄されたので気ままな城下町ライフを送っていたらなぜだか王太子に溺愛されることになってしまいました?!
utsugi
恋愛
私、こんなにも婚約者として貴方に尽くしてまいりましたのにひどすぎますわ!(笑)
妹に婚約者を奪われ婚約破棄された令嬢マリアベルは悲しみのあまり(?)生家を抜け出し城下町で庶民として気ままな生活を送ることになった。身分を隠して自由に生きようと思っていたのにひょんなことから光魔法の能力が開花し半強制的に魔法学校に入学させられることに。そのうちなぜか王太子から溺愛されるようになったけれど王太子にはなにやら秘密がありそうで……?!
※適宜内容を修正する場合があります
愛など初めからありませんが。
ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。
お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。
「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」
「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」
「……何を言っている?」
仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに?
✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる