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第56話 襲撃者

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ライカもセシルもミューズの側にいる。

大丈夫であろう。

ティタンは国王であるヘンデルと和やかに会話はするが、飲食物は一切口にしない。

ミューズもセシルもいないのだから当然だ、信用は出来ない。

次なにかあれば主はそろそろ斬りつけそうだとルドは思う。

今までの行いを考えれば止む無しだが、ふと気づく。

やけに周囲が静かだ。

違和感を感じたルドがティタンに進言する。

「長々と話し込んでしまい申し訳ない、そろそろミューズの元へ戻ろうと思います」
ルドの話を受け、ティタンは椅子より立ち上がる。

「そうですか? もう少しゆっくりしていってはどうでしょう。まだフロイドもミューズも積もる話をしているでしょうからね。お茶も新しく入れ直します」
全く飲むことのないお茶が、新しいものへと変えられる。

「いえ、結構です。失礼いたします」
目は泳ぎ、顔を青ざめさせる国王を見て、ティタンは歩き出した。

そうして扉に手を伸ばすが開けられない。

鍵がかかっているのではない、ドアに触れられないのだ。

「これは?」
目に見えない魔力の壁で外に出ることも適わない。

「ティタン殿、すまないがもう少しここにいてくれ。娘のためにも」
ヘンデルは身体を震わしながらそう言った。

「娘のため?」
腰の長剣に手を伸ばすが、これでは結界は破れない。

切りつけても剣が耐えられないだろう。

「どういうつもりですか、ヘンデル様」
ルドもいつでも剣が抜けるように手を掛けているが、意図が分からない。

「ミューズを取り返すためにこのような事をしたのか? 俺達を監禁してどうするつもりだ」
自分達を足止めしてもライカとセシルがミューズの側にいる。

なにかあればアドガルムに連絡が行き、軍を進行させるだろう。

セラフィムの兵力で兄達を撃退できるとは思えない。

「今は言えない……だから、大人しくしていてくれ」
苦渋に満ちた顔と声、事情があるようだが……。

この魔法を使用している術師を倒せばすぐに出れるだろうが、国王ではなさそうだ。

もしかしたらこの外から張ってるかもしれないが、ティタン達は出ることすら叶わない。

狙うとしたら……。

「仕方がない」
ティタンは収納魔法でしまっていた大剣を取り出した。

身の丈程のそれを軽々と手にもつ姿を見て国王も侍女たちは震えた。

騎士ですら場に放たれる威圧感にて動くことができない。

「俺にとって大事なのはミューズだ。その彼女との仲を引き裂くというならば、邪魔なものを切り捨てさせてもらう」
大剣を突きつけられた国王ヘンデルは、ぐっと唇を噛み、震える体を抑えつけて真っ向からティタンと対峙をした。

覚悟を持った目を見てティタンは両手で構える。

「では、壊させてもらおう」
大剣が容赦なく振るわれた。






不意に感じたドアからの殺気にライカはセシルの腕を引き、ミューズの側に放り投げる

二人に防御壁を張って、ライカが剣を抜くと同時に突如斬りかかられた。

「あれ、もしかしてバレてた?」
ドアが開き、上段から凄い勢いで二振りの剣が振り下ろされたのだが、ライカの剣がそれを防いだ。

白に近い金髪とギラギラした赤い目、耳にはスペードのイヤリング。

ミューズも見たことが無く、この城の者ではなさそうだ。

「殺気が出過ぎだ、もう少しうまく隠せ」
襲撃してきた男、ダミアンから遠い壁際にミューズ達を寄せる。

「セシル、全力でミューズ様を守れ」
ライカのよりも強い防御壁は、普通の者の剣では通過出来ない。

ダミアンはライカからミューズへ視線を移す。

ねっとりとしたその視線に、思わずセシルの後ろに隠れてしまった。

「可愛らしい王女さまだね、その目も良い、くり抜いて飾りたいよ」
ダミアンは抜き身の剣でそう言い放つ。

あらぬ殺気にライカが前に出た。

「ティタン様が来るまでそこを出ないで下さい。あいつは危険だ」
纏う殺気と死臭は消せない。

どれだけの人を殺したのか。

「それまで生きていられると思う?」
唐突に切り込んで来た剣をライカはいなす。

返す刃はダミアンの前髪を数本掠めた。

「意外とやるね」

「黙れ」
ライカは油断なくダミアンを睨みつけた。

「セシル、連絡はまだか!」

「やってる、でも連絡がつかないんだ! 何かに遮断されている」
魔力を妨害する何かがあるようだ。

(こういうのは結界、というんだったか?)
いつそのようなものを張られたのか。

ライカはフロイドの様子がおかしいのに気づく。

明らかに震えているが、その手からは何らかの魔法を放っている。

「てめぇ! 余計な事を!」
ライカが怒鳴りつけた。

「ひっ?!」
怯えつつも魔力の放出は止まらない。


ミューズの異母兄だろうと知らん、折角怪我を治したのに余計な事をして。

ライカが切り捨てようと一歩前に出ると、ダミアンが庇うようにして間に入った。

これでは近づけない。

「お兄様、何故このような事を」
裏切られ、ショックを受けるミューズだが、それ以上に苦悶と苦痛の表情でフロイドは叫んだ。

「仕方ないんだ! だって、従わなければセーラを殺すって」
そう言ったフロイドと双眸からは涙が溢れ出た。

「「??!!」」
人質などと、なんて卑劣な手口を。

「許せねぇ!」
ライカがダミアンに斬りかかる。

双剣を使うダミアンは手数も多く、一撃も重い。

見た目の小柄さとはまるで違う、重厚な一撃だ。

「君強いなぁ、楽しいね」
ダミアンの方は余裕の表情だ。

「黙れ。その臭い口をとっとと閉じやがれ!」

「酷い言われようだ」
ダミアンは軽口を叩きながらも危なげなくライカの剣を躱す。

(それにしても死臭が酷い、何なんだこいつは)
見たところ自分より年下なのに、どれだけの人を殺してきたのか。

ライカが剣に炎を纏わせ、剣を振ったが、空ぶってしまう。

「火魔法とはアドガルムでは珍しいね。あそこは風魔法が主流じゃなかった?」

「全員そうなわけじゃねぇよ」
勢いよく踏み込み、ライカの蹴りが繰り出される。

硬い靴底がダミアンの剣を一つ弾き飛ばした。

「鉄でも仕込んでる? 固いね」

「……」
剣を飛ばされても尚これだけ話すとは、どれだけ余裕なんだこの男。


「ねぇねぇそこの王女様を連れて僕と来ない? このまま死なすには君は惜しいな」
振り下ろしたライカの剣はダミアンに止められた。

「寝言は寝て言え」
ギリギリと剣に力を入れ、ダミアンを両断しようとする。

押せている、このままなら切れるはずだ。

「残念だな、ならば殺すしかない」
そんな声と共にライカの背中に熱い衝撃が走った。

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