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第8話 パルス国の王女様

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レナンは緊張から眠れぬ夜を過ごす。

間近で見たエリックはとても綺麗で、優しい人だった。

何より自分の事を頭がいいと褒めてくれ、しかも妻にと望んでくれた。

他人にこうして認められた事のないレナンにとって、喜びを隠しきれない。

戦の事さえなければ出会わなかったであろう相手である。

少し複雑な心境だが、レナンはもらったネックレスを見ては思い出し、つい顔がニヤけてしまう。

でも他の王女達、特にヘルガからは辛く当たられるようになってしまい、あの日から自室にいる時以外は気が抜けなくなった。

あんなに優しかった姉にも睨まれ、口もきいてもらえないことは寂しかったが、レナンにはどうしようも出来なかった。

近寄ることも出来ない状態であったから。

それにエリックがドレスの異変に気づき、言った言葉が引っかかる。

(本当にお姉様が指示をしていたの?)
今までもこういうドレスの不備はあったし、仕立ての者に聞いてみたが、それは靴との兼ね合いが悪いからだと言われていた。

同じ文言しか返ってこないし、段々と口に出す事もしなくなっていったが、昔から姉が関わっていたとしたら話は違う。

レナンの事を気に食わない誰かが指示しているのかもとは思った事もあるけれど、まさかと思ってしまった。

「あの優しいお姉様が、わたくしの評判を下げようとしたというの?」
あなたはダメだから、あなたには無理だから、と過保護なくらいヘルガはレナンのお世話をしてくれていた。

もしかしてそうやって、周囲にダメな王女というのを植え付けていたのだろうか。

エリックの放った言葉は、レナンのこれまでを顧みるのに十分な言葉であった。






「エリック様は何故、あんな子を選んだのかしら!」
ヘルガは部屋で怒りを巻き散らしていた。

それまで培ってきた淑女の面を捨て、怒りに狂う様子は彼女を知るものが見たらビックリするだろう。

ヘルガは自分が選ばれるものだと確信していた。

長女ということもあるし、容姿も知識も妹たちには負けないと自負している。

皆ヘルガを持て囃し、賛辞の言葉を述べ、父である国王の寵愛も受け、重要な話はいの一番にヘルガに相談されていた。

一人だけ毛色の違うレナンだけやや警戒していたものの、負ける要素などなかったはずだ。

あの大事な対面の場で目論見通り転び、エリックすらも驚いた表情をしていた。

「エリック様……」
あの美しい男性を思い出すと胸が苦しい。

父は誘惑し、パルスの有益になるように陥落せよと言っていたが、彼を見た瞬間に全てが吹き飛んだ。

勝者の余裕と隙のない身のこなし、後ろに控える従者も見目麗しく、忠義心厚く見えた。

(エリック様に選ばれれば、戦の勝利国の王妃になれる)
第一王子なので、王太子は彼でほぼ決定なのだ。

そうなればその妻はいずれは王太子妃、ゆくゆくは王妃に。

三国を従える国の王妃など、何と名誉な事だろうか。

このままパルスにいて、どこぞに降嫁するよりも断然いい。

なのでヘルガは懸命にエリックへと話しかけた。

エリックは他国の文化や政治にも造詣が深く、妹たちはしどろもどろになっていた。

そんな中話についていけたのはヘルガだけだ。

それなのに、
「レナン王女はどう思う?」
とわざわざ話しかけていた。

他の妹同様レナンもたどたどしい口調で意見を述べていて、ヘルガにとっては聞くに堪えないものだったが、エリックは興味深げに聞いていた。

てっきりわざと難しい話題を振って、困らせていたのかと思ったが違った。

「レナン王女をもらい受ける」
エリックの言葉は衝撃だった。

多分あの場の誰もがそう思ったはずだ。

選ばれたレナンも困惑していたし、父もまさかという顔で言葉も出ないようだった。

しかも選んだ理由が腹立たしい。

「レナン王女がこの場で一番頭がいいからだ」
その言葉を聞いた時、頭が沸騰するとはこういうことかと、怒りで目の前が真っ赤になった。

「レナンが私を差し置いて王妃になるなどあり得ない」
納得など出来るものか。

こんな婚約など必ずぶち壊し、わからせねばなるまい。

大国の王妃に相応しいのはヘルガだと。

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