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第4話 熱弁

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(兄上に聞かれたがまだ間に合う)

 キリトは我に返ると側近共にディルスを探しに走る。

 しかし今日はキリトの為のパーティだ。挨拶をされれば話をせざるを得ない。

 にこやかな笑顔の裏で焦りの気持ちが生まれている。

 せめて兄より先にレグリスの王に話をすればまだ何とかなると思った。

(自分の方が優れているし、金もないヒモの様な男といるよりも、将来有望な俺の方がエルマを幸せに出来る)

 キリトはそう信じて疑っていなかった。

 エルマがキリトとの婚姻を拒んだのはディルスへの義理だろう、三年も一緒に居れば多少情は湧くし、急な求婚に動揺しただけで本心ではないはずだ、許してやろう。

 すぐに引き止められられなかったのは失策だったが、まだ間に合うはずだ。

 さすがに言い触らされるとキリトの評判に関わる、屈曲した話し方で事実と違う事を言われるかもしれないのでもう一度しっかり話し合う必要性があった。

 しかし目に付く範囲にはディルスは疎か、エルマの姿も見えない。

 兄の影の薄さはともかくあのような目立つ容姿のエルマも見当たらないとはおかしい。側近に命じ、捜索に当たる者を増やしてもなかなか見つからなかった。

(一体どこに行ったのか……まさか帰ってしまったのか?)

 それならそれでいい。

 ディルスの評判はそこまで高くなく寧ろ低い。第二王女とはいえ社交界デビューを果たしたばかりのエルマも、そこまでの人脈と信用性はないはずだ。キリトを貶める程の話が出来るとは思えない。

 我儘姫という話もあるし、話した感じもやや強気な性格なのも感じた。

 そんな二人よりも他国との社交に長け、評判のいいキリトの言葉の方が説得力があるはずだ。

 そう考えると少し冷静さが戻って来る。一応帰路に着いたか確認するように命令を出して、自身はレグリス国の国王陛下の元に向かう。

 あの二人が先程の話を報告したのかを確認するためだ。

 話していれば訂正と弁明を、話していなければ牽制と自身の売り込みをする。

 今のカミディオンがどれだけ力を持ち大きくなったか、そしてエルマ王女がディルスと婚姻関係を続けることにメリットがないという事を訴えるつもりだ。

(力ないディルスを引き取り、エルマを幸せに出来る力があるという事を示し、王太子妃として迎えてやると提案しようじゃないか)

 行き場のないディルスは可哀想だからカミディオンで仕事を与え、エルマは美貌の王太子妃として、キリトの隣で微笑んでもらう。

 そうなれば誰しもが幸せになれるはずだ。

 幾人かとの話を終え、ようやくレグリス国王夫妻の元に来ることが出来た。

 二人の側には護衛しかおらず、ゆったりと飲み物を飲んでくつろいでいるとことだ。何とも都合の良い。

 好機だとキリトは二人に近づいた。

「レグリス国王陛下、そして王妃様。パーティは楽しんでおられますか?」

 既に挨拶を済ませているし、姻戚関係であるので和やか且つ親し気な雰囲気を纏って二人に話しかける。

「これはキリト殿下。えぇ、おかげさまでとても楽しく過ごさせてもらっています」

 ニコリと微笑む二人のはキリトを拒むような様子は感じられない。それを見て、まだエルマもディルスも何も言っていないと判断した。

「それは良かった。料理も飲み物も自慢のものがまだまだありますので、ぜひゆっくりとお過ごしください」

 お互いに笑顔で話を続けていく。

「ありがとうございます。このような手厚いおもてなし、カミディオンはとてもいい国となりましたね」

 何時の事と比べてか。少し含みのある言葉だが、キリトはあえてそこには触れない。

「色々な国との交流が増えましたからね。おかげで他国の良い品物、文化を取り入れることが出来ました。これも我が国の者達が努力した賜物です」

「カミディオンの国の者の努力の賜物……本当にそうですね」
 レグリス王の目が少しだけ細められる、表情が引き締まるがキリトは気づいていない。

「ところで貴方の兄上、ディルス殿を見ませんでしたか? 少々聞きたいことがあったのですが」

「兄上ですか? すみませんが私は見ておりません。まぁ兄上は影の薄い男ですからいてもいなくてもわかりませんが」

 先程もいつの間にかエルマの隣にいた。空気の様に無色透明な男で、不気味である。


「影は薄いですが、いないと困りますね。とても勉強家で、いつもエルマの為に頑張ってくれているんですよ」

「私の身内だからと言って、無理に庇わなくていいのですよ。昔から昼行燈と言われるほど、影は薄いし人の為にならない兄で。地味で冴えない仕事しか出来ない男なんです」

 二人はディルスを悪く言えないのか、何も言わず、苦笑するばかりだ。
 まぁ娘婿を表立って悪くは言えないのだろう。うっかり聞かれて娘に嫌われたくないだろうし。

 側近に目配せし確認する、首を振る様子から近くにディルス達はいないようだ。

 これならゆっくりとレグリス王と王妃と話が出来るかもしれない。

 キリトは周囲に人が寄らないようにとそっと指示を出す、自分の今後に関する大事な話をするつもりだ。

 ディルスがエルマに手を出す前に決着をつけたい。

「実はその兄の事で、二人に相談があるのです」

 キリトは声を抑え、周囲に気を配りながら話を始める。

 ディルスがエルマに釣り合わない事を、そしてエルマをカミディオンで受け入れる準備がある事。勿論強制ではないけれど、良かったら考えて欲しいと伝える。

「そう言うのは本人の気持ちも伴う事だから、どうでしょうね」

「そうですが、これはレグリス国やエルマ様にとってとてもいい話ですよ。エルマ様は臣籍降下よりも王妃になるに相応しい人ですから。そんな女性に兄上の様な男は釣り合いません」

 レグリス王は渋面になっていた。

 だが即決で断られたのではないという事は、懸念がなければエルマをカミディオンに嫁がせてはいいと考えているはずだ。

「それに私とエルマ王女が婚姻し、子が男児ならばカミディオンとレグリスを繋ぐ架け橋もより強固になる。二国のこれからの未来の為にもぜひエルマ様を我が国に」

 キリトの熱弁は続く。


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