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番外編 とある伯爵令息の婚活(Sideジョセフ)①

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「……ジョセフ。またお断りされたのか」
 執務室に入った途端に書類から顔も上げずに上司が告げてきた。
 ジョセフ・パーキンソンは三十三歳。エルム伯爵の三男坊にして、ストケシア王国の英雄と呼ばれる将軍パーシヴァルの副官を務めている。現在絶賛婚活中……なのだが。
「何でわかるんですか……」
「ドアを開ける勢いだな」
「はあ、まあそうなんですけどね」
 淡い色の金髪と氷のような淡い青の瞳を持つジョセフの上司パーシヴァルは現在新婚で幸せのまっただ中にいる。かつては呪われた公爵だの氷壁将軍と言われていた面影は全くない。表情は穏やかだし伴侶の話になるととても雄弁になる。
 ジョセフは不器用で堅物で愛想がないパーシヴァルのことをおそらくこのままずっと独身だろうと予想していた。
 まさかあのハルちゃんを口説き落とすなんて思わなかったし、あの閣下がああまでメロメロになるとか思わないじゃないか。

 まあ、自分は三男なので家からいずれ出なくてはならない。出来ればどこかの家に婿入りして退役後も安定した暮らしができればいいな、と思っている。だから公爵家当主のパーシヴァルとは事情が違う。
 まあ、いくらかは実家から財産の分与があるし、贅沢さえしなければ軍人として食うに困らない程度の給金はある。それでも人生この先一人じゃ寂しいから一緒に生きていける家族は欲しい。
 それでお見合いに励んでいるのだが、どうにも上手く行かない。いくら軍で名を上げたとしても、伯爵家の三男でしかも三十代になれば難色を示される。
 プレゼントは受け取ってもらえても、その後が続かない。

「いやー、残念。せっかくハルちゃんにお勧めの口紅を教えてもらったのに、ダメでしたー」
 今回の見合い相手は子爵令嬢。口紅は喜んでくれていたし、話も弾んでいたし、好印象だと思ったのに。昨日正式なお断りの書状がとどいた。
「そうか。ところで、レイン商会から感謝の手紙が届いていた。困っていた女性店員を助けてくれた軍人さんにお礼がしたいと」
「え? あれ? わざわざ手紙くれたんですか」
 ジョセフはレイン商会でよく買い物をしていた。最近急成長している化粧品や生活雑貨を扱う商会だ。ここの商品を女性へのプレゼントにすればハズレがない。ハルのお勧め口紅もこの店のものだった。
 先日買い物に行ったとき、偉そうな客が店員を困らせていたので黙らせたのだが。
「礼を言いたいそうだ。お前が都合がいい日にこちらに挨拶に来るとか」
「挨拶……? ハルちゃんが?」
 パーシヴァルの伴侶であるハルはレイン商会の共同経営者だ。おそらく店員に口添えしたのがジョセフとバレたのも彼の耳に入ったからだろう。
「なんでそうなる。来るのは商会長のジャスティンだ」
 なんだ。可愛いハルちゃんやあの時の女性店員ならまだしも、商会長の男か。
 見合いに失敗したばかりでやさぐれていたジョセフは、うんざりした気分になった。同性との恋愛を否定はしないが、自分にはそうした嗜好はない。
「わざわざ来てもらうの悪いですから、今日の帰りにでも寄りますよ」
 ジョセフはそう言って、次のお見合いの日程に思いを切り替えた。
 そう、この時点までジョセフはまだ貴婦人との運命の出会いを夢に見ていたのだ。
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