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18 彼女の秘密

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ああ、ああ!なんて素敵なんだろう!!
私は、大好きだった小説のヒロインに生まれ変わったんだ!!

それに気づいたのは、3歳くらいの時だった。
国の名前と、私の名前。容姿までそのものなんだもの。分からないはずがないわ。

私が大好きだったこの小説。
体の弱いヒロインが、王子様と身分違いの恋に落ち、結ばれる。 
在り来りって言えば在り来りな内容だけど、私が大好きだったのはヒロインの愛されっぷりだ。

登場人物も、モブも全員ヒロインを愛して大事にしている。
学園でもマドンナで、先生達もヒロインを褒め称える。
国王夫妻だってあっという間にヒロインのことを認めてくれて、気持ちがいいくらいに『ヒロイン第一主義』なお話なんだもの。

最近の流行りは苦労があったり、いじめがあったり……そんなのいらない。
スッキリする快感が得たくて物語を求めてるのに、なんで苦労しなきゃいけないのよ。意味わかんない。

だって、ヒロインよ?
この物語の、世界の主役!

──ヒロインは、何をしても許される存在でなきゃ!

だから、ヒロインのリリィに生まれ変わってるって知った時は、とても嬉しかった。
なのに──……


『可哀想なリリィ。このままだと、お前の命は残り僅か……』


私は、10歳にも満たないうちに、死にかけていた。
リリィが病弱ってのは聞いてたけど、ここまでなんて思ってもなかった。
『物語』の『ヒロイン』が死ぬわけないけど、それでも苦しいものは苦しいし、怖いものは怖い。

そうして泣いていたら、お祖母様がおまじないを教えてくれたの。


『これは、我がマーガレット家に代々伝わら秘術だよ。決して、他の者に喋っては行けないよ』


そう言って、地下室に運ばれて、少し待っていたら、お祖母様は小汚い子供を連れてきた。
その子と顔を合わせ、お祖母様はおまじないを唱え始めた。
そうしたら、お祖母様のつけていたピンクの綺麗なネックレスが、強く光って──……

お祖母様は、その子供を殺しちゃった。

すっごい汚い悲鳴で気持ち悪かったけど、その子供が動かなくなった瞬間、私の体が嘘みたいに軽くなったの。
凄いでしょ!


──それが、始まり。


***


「アレン様、何を、してらっしゃるの?」

王城の図書館。
最近、『かかり』の甘くなっちゃったアレン様を追いかけて来たんだけど……来てよかった。
アレン様ったら、余計なことに気づきそうになってるんだもの。

──おかしいなぁ、アレン様の時は犬猫じゃなくて、ちゃんと『人間』を使ったのに。

思わず小首を傾げれば、綺麗なピンクの髪がサラリと揺れる。
とても可愛い私なのに、アレン様ってばなんでそんな顔をしてるんだろう?

「……リリィ」
「はい、どうされました?」

ニコリと笑って、アレン様に近づく。
今のうちなら、有耶無耶にしちゃえるでしょ。

そう思って、アレン様の腕を、いつものように抱こうとして…… 


──ぱしん!


とても乾いた音をたてて、その手は振り払われた。

「……………は?」
「……ごめん。けど、質問に答えてくれ。それまでは、触らないで欲しいんだ」

何、してんの?こいつ。
なんで『ヒロイン』を否定するわけ? 

どす黒い感情が、久しぶりに溢れかえって心を満たす。


「──君は、何者なんだ?」


──その質問に、私の中で何かが切れた。

「………あー、もう、いいや」
「リリィ……?」
「あの女みたく、あんたも、いらない」

私の言葉に、アレン様……もう様付けなんてしなくていいや。アレンはひゅっと喉を鳴らして、青ざめる。
そういや、婚約者だったんだっけ?知らないけど。

「気に入らなかったのよ。あの女。ヒロインでも無いくせに、みんなにチヤホヤされちゃってさ」

──この世界は、私のためのものなのに。

そう、ヴィオラだっけ?あの女は邪魔だった。
やっと『原作』が始まる歳になって、学園に編入したのに。
『私』がいるべき場所に、『あの女』はのうのうと笑って座っていた。

なんであんたが愛されてるの?
アレン王子の隣は私の、『ヒロイン』のもの!
例え『ヒロイン』が来るまでの代役だったとしても、そんなものいらない。
愛されるのは、私だけでいい。

だから、お祖母様から譲り受けたネックレスと『おまじない』を使った。

そしたらみんな嘘みたいに私をチヤホヤするんだもん!
気持ちいいったらなかったわ!

生贄には孤児院の子供をいつも通り使ったり、貧民を騙して使ったり。
どうでもいいモブの時は野良猫や野良犬を使ったりもした。

だって、私はヒロインだもの。
『私』が愛されるためなんだもの。仕方ないわよね?

ああ、あの時の女の顔、何度思い出しても笑える。
……けど。

「アレン、もうあなたはいらない。……王子様を生贄にしたら、もっと強い『おまじない』が出来るって思わない?」
「なに、を──」

あの女を迎えに来た、王子様。
隣国の王太子って言ってたわ。
原作に出てこなかったけど、あんな綺麗な人がいたなんて!!


──あの人こそ、私を『愛するのに』相応しい!!


だから。

「だから、アレン。私のために、死んでね?」

──どん!!

後ずさるアレンの背後には、開け放たれた窓。
私は、その窓に向かって、勢いよくアレンを突き飛ばした。

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