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02 前世の私②

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何が何だか分からなくて、現実を受け止めきれなくて、気がついたら結婚式は終わっていた。

隣国、ハイル帝国の王太子……いいえ、私の旦那様となったレオ・ヘリアンサス様は、とても端正なお顔立ちをしている、聡明なお方だ。
サラリとした絹糸のような、黒い髪。
日を浴びたことのないかのような白い肌。
そして、まるでヒマワリのような、煌めく橙の瞳。

とても、とても美しい人だった。

私は、期待していた。
リーゼッヒ王国にいた頃から、レオ王子の聡明さは聞き及んでいたのだ。
もしかしたら、もしかしたら。
この方なら、私の話を聞いてくださるのではないかと。
真実を見て下さるのではないかと。

──けれど、それは有り得なかった。

『悪いが、俺は妻──お前を愛するつもりは無い。お飾りの嫁でいてくれたらそれでいい』 

婚姻を結んだ、その日に言われた言葉は、今でも覚えている。

『最低限の公務さえしてくれてたら、それでいい。好きに過ごしてくれ。契約としての賃金も出す』

夕陽に染まったヒマワリのような、綺麗な橙は、私を1度も見ることは無かった。

私の悪評は、ハイル帝国にも及んでいたのだ。
……私の居場所は、ハイル帝国にも、最初からありはしなかった。
 
その日から、私の王太子妃としての暮らしは始まった。
朝の身支度を最低限の侍女が手伝って下さり、朝食
を置いて直ぐに下がる。
レオ王子からの申請がない限り、庭を散歩するか本を読んで一日が終わる。

レオ王子が私の元を尋ねてくることは、1度だってありはしなかった。

公務の時に、お顔を合わせるだけ。
その時も、あのヒマワリが私を写すことはない。


そんな日々が1年ほど続いたある日、──私は、流行病に倒れた。


感染する病のため、傍につく侍女もいない。
一日に数回、お医者様や看護師の方がいらして最低限の治療を施すだけ。

こんな状況になってでさえ、王子が私の元を尋ねてくることは、なかった。
……元々、来れるはずもないんだけれど。ほんの少しだけ、期待していたのだ。
公務の時に、エスコートして下さる手は、とても、とても優しかったから。

「…………わたし、なにか……したのかなぁ」

久しぶりに発した声は、掠れていた。

「……なにも、……しなかった、のになぁ」

リリィ様を虐めたりなんてしていなかった。
ハイル帝国で、誰かに粗相をした記憶もない。
なのに、なのに、なんでこんなことになってしまったんだろう。

「……もし、次が……あるの、なら」

ゆっくり、手を伸ばす。
窓から射す、木漏れ日に向けて。

「……さいご、くらい……だれか、に」

──この手を、とってもらえるような、そんな。
そんな、人生を、歩みたい。

小さな小さな望みを胸に、私の意識はそこで途絶えた。


──これが、私の最後の『記憶』。

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