日常探偵団

髙橋朔也

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七不思議の五番目、物欲の怪 その肆

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 新島の家のあるマンションの前に到着するとちょうど土方も着いたばかりのようで、入り口でばったりと会った。
「よお!」
「先輩、今日はビニール袋の中身が多い気がするんだが?」
「今日はコーヒー十本買ってきたんだ。一人二本飲めるぞ」
「二本......」
 五人で新島の家に入ると、やっぱりリビングの床に座る。新島は気を利かせたのか、リビングの床だけにマットを敷いていた。
 烏合の衆の会議で、高田は今日の部室で起こったことを土方に説明した。土方は何度かうなずいて、そんなことがあったのか、と言ってため息をもらした。
「で、これが高田の話した牛乳だ」
 新島は冷蔵庫から牛乳を取りだした。土方はそれを受け取る。新島は家に帰宅してすぐに、例の牛乳を冷蔵庫に入れていたのだ。そして、彼は土方にコップを一個渡す。
「まあ、先輩も飲んでみろ」
「......マジ?」
「俺と高田は飲んだぞ」
 土方は躊躇ったが、飲むと決断して勢いよくコップに牛乳を注いだ。そのコップを右手でつかみ、左手は腰に添えた。コップのふちを唇につけ、底を持ちあげて斜めに傾けた。途端、コップ内の牛乳が口に流れ出した。土方は牛乳を飲み干して、コップを新島に返す。
「普通の牛乳だな」
「だろ? 牛乳には細工がしていないということだ」
「だったら何に細工が施されていたと言うんだ」
「それがわかっていたら牛乳の話しは省かせてもらっていたよ」
「明日は昭和の日で休みだ。どうする?」
「明日は俺一人で調べてみる。お前らは好きにしてろ」
「こんなのはどうだ?」土方は咳払いをしてから、顔を新島の方に向ける。「久々に八坂市中央図書館に行こう。あそこなら明日でも自由に使えるはずだ」
「懐かしいな。ボープレさんと会った場所だな」
「もうあれから一年くらい経ったということか」
「よし。明日は五人全員で八坂市中央図書館に行こうか」
 ということがあり、次の日の午前十一時、新島宅にて。
「なぜお前らが俺の家に来てんだ!」
 土方、高田、三島、新田は見事に新島の家を訪問していた。
「ほら、だってさ......」
「高田! だってじゃねぇ! 昨日の話しでは中央図書館前で待ち合わせだったはずだぞ!」
「そうなんだけどさ、部長から電話がきたんだ」
「先輩が?」
「そう。私が高田に電話した。新島の家にサプライズで行ったら面白そうじゃないかって言ったら、高田も大賛成したから三島と新田も連れて朝に押しかけてみた。朝っていうか、十一時は昼に近いけどな」
「ってか、お前らが来るまで俺は寝ていたんだ」
「私は今日は午前七時に起きた。お前が起きるのが遅いんだ」
「中央図書館前での待ち合わせ時刻は午後一時だっただろ?」
「なのに、その二時間前に起きていないのか?」
 新島は言い返せなくて、黙って視線を下に落とした。
「じゃ、中央図書館に行くぞ! 準備しろよ」
 無言でうなずき、カバンをつかんだ。

 五人は八坂市中央図書館に着いた。現在の時間は午後一時十分。新島は懐中時計を懐にしまった。
「確か」高田は八坂市中央図書館の地図を見ながら首をひねった。「三階が休憩兼飲食スペースだったっけ?」
「そうだった記憶があるな......。俺もくわしくは覚えていないが」
 前回同様、コンビニでドリンクを買った。それから階段で三階まで上がり、休憩兼飲食スペースの椅子に着席した。すると、新田が口を開いた。
「先輩たちがさっきから言っている、ボープレさんとは誰ですか?」
 新田の質問に、土方はニヤリと口元を緩めた。
「去年のことだ。私が文芸部の部長だった時に夏休みの頃、三人で八坂市中央図書館に行った。そこで、Lawrence(ローレンス) Beaupre(ボープレ)なる外国人に会った。そいつは新島に英語でサービスカウンターのある階を尋ねた。新島は『first(ファースト) floor(フロア)』にあると答えたが、その後でボープレが新島を怒鳴ったんだ。ボープレはイギリス人で、クイーンズイングリッシュだとground(グランド) floor(フロア)が一階でfirst(ファースト) floor(フロア)が二階なんだ。つまり、新島の言った一階(ファーストフロア)をボープレは二階(ファーストフロア)と勘違いしたんだ。
 ということがあったということを話していたんだよ。すまんすまん。君たちがボープレのことを知らないことを完全に忘れていた」
「そうなんですね。ローレンス・ボープレさん......」
「ボープレはかなり背が低いぞ。言われてみると、見た目はイギリスっぽいんだよ。まあ、背が低いからイギリス人ってのは偏見だけどな」
 土方の話しに興味がなさそうに、新島は八坂中学校の給食の時間に行うことをまとめたリストと八坂中学校の見取り図を眺めていた。すると、見取り図とまとめたリストを持つ手とはもう一方の手で、鉛筆を取りだした。その鉛筆で、怪しい部分に印しをつけた。
 高田は、新島の作業が気になって横目でチラチラと見ていた。
「何だよ、新島。気になるのか?」
「気になる」
「お前にも仕事をやるよ」
「何?」
「七不思議の五番目に結論をつけろ」
「無理だ」
「仮定の上での結論でもかまわない」
「それなら出来るな」
「やってみろ」
「わかった」
 高田は腕を組んで、頭を悩ませた。目を閉じて、顔を下に向ける。手は背中に回し、足を震えさせて貧乏揺すりをする。高田いわく、このような状態だと、うまく考えがまとまるらしい。
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