53 / 59
七不思議の五番目、物欲の怪 その肆
しおりを挟む
新島の家のあるマンションの前に到着するとちょうど土方も着いたばかりのようで、入り口でばったりと会った。
「よお!」
「先輩、今日はビニール袋の中身が多い気がするんだが?」
「今日はコーヒー十本買ってきたんだ。一人二本飲めるぞ」
「二本......」
五人で新島の家に入ると、やっぱりリビングの床に座る。新島は気を利かせたのか、リビングの床だけにマットを敷いていた。
烏合の衆の会議で、高田は今日の部室で起こったことを土方に説明した。土方は何度かうなずいて、そんなことがあったのか、と言ってため息をもらした。
「で、これが高田の話した牛乳だ」
新島は冷蔵庫から牛乳を取りだした。土方はそれを受け取る。新島は家に帰宅してすぐに、例の牛乳を冷蔵庫に入れていたのだ。そして、彼は土方にコップを一個渡す。
「まあ、先輩も飲んでみろ」
「......マジ?」
「俺と高田は飲んだぞ」
土方は躊躇ったが、飲むと決断して勢いよくコップに牛乳を注いだ。そのコップを右手でつかみ、左手は腰に添えた。コップのふちを唇につけ、底を持ちあげて斜めに傾けた。途端、コップ内の牛乳が口に流れ出した。土方は牛乳を飲み干して、コップを新島に返す。
「普通の牛乳だな」
「だろ? 牛乳には細工がしていないということだ」
「だったら何に細工が施されていたと言うんだ」
「それがわかっていたら牛乳の話しは省かせてもらっていたよ」
「明日は昭和の日で休みだ。どうする?」
「明日は俺一人で調べてみる。お前らは好きにしてろ」
「こんなのはどうだ?」土方は咳払いをしてから、顔を新島の方に向ける。「久々に八坂市中央図書館に行こう。あそこなら明日でも自由に使えるはずだ」
「懐かしいな。ボープレさんと会った場所だな」
「もうあれから一年くらい経ったということか」
「よし。明日は五人全員で八坂市中央図書館に行こうか」
ということがあり、次の日の午前十一時、新島宅にて。
「なぜお前らが俺の家に来てんだ!」
土方、高田、三島、新田は見事に新島の家を訪問していた。
「ほら、だってさ......」
「高田! だってじゃねぇ! 昨日の話しでは中央図書館前で待ち合わせだったはずだぞ!」
「そうなんだけどさ、部長から電話がきたんだ」
「先輩が?」
「そう。私が高田に電話した。新島の家にサプライズで行ったら面白そうじゃないかって言ったら、高田も大賛成したから三島と新田も連れて朝に押しかけてみた。朝っていうか、十一時は昼に近いけどな」
「ってか、お前らが来るまで俺は寝ていたんだ」
「私は今日は午前七時に起きた。お前が起きるのが遅いんだ」
「中央図書館前での待ち合わせ時刻は午後一時だっただろ?」
「なのに、その二時間前に起きていないのか?」
新島は言い返せなくて、黙って視線を下に落とした。
「じゃ、中央図書館に行くぞ! 準備しろよ」
無言でうなずき、カバンをつかんだ。
五人は八坂市中央図書館に着いた。現在の時間は午後一時十分。新島は懐中時計を懐にしまった。
「確か」高田は八坂市中央図書館の地図を見ながら首をひねった。「三階が休憩兼飲食スペースだったっけ?」
「そうだった記憶があるな......。俺もくわしくは覚えていないが」
前回同様、コンビニでドリンクを買った。それから階段で三階まで上がり、休憩兼飲食スペースの椅子に着席した。すると、新田が口を開いた。
「先輩たちがさっきから言っている、ボープレさんとは誰ですか?」
新田の質問に、土方はニヤリと口元を緩めた。
「去年のことだ。私が文芸部の部長だった時に夏休みの頃、三人で八坂市中央図書館に行った。そこで、Lawrence(ローレンス) Beaupre(ボープレ)なる外国人に会った。そいつは新島に英語でサービスカウンターのある階を尋ねた。新島は『first(ファースト) floor(フロア)』にあると答えたが、その後でボープレが新島を怒鳴ったんだ。ボープレはイギリス人で、クイーンズイングリッシュだとground(グランド) floor(フロア)が一階でfirst(ファースト) floor(フロア)が二階なんだ。つまり、新島の言った一階(ファーストフロア)をボープレは二階(ファーストフロア)と勘違いしたんだ。
ということがあったということを話していたんだよ。すまんすまん。君たちがボープレのことを知らないことを完全に忘れていた」
「そうなんですね。ローレンス・ボープレさん......」
「ボープレはかなり背が低いぞ。言われてみると、見た目はイギリスっぽいんだよ。まあ、背が低いからイギリス人ってのは偏見だけどな」
土方の話しに興味がなさそうに、新島は八坂中学校の給食の時間に行うことをまとめたリストと八坂中学校の見取り図を眺めていた。すると、見取り図とまとめたリストを持つ手とはもう一方の手で、鉛筆を取りだした。その鉛筆で、怪しい部分に印しをつけた。
高田は、新島の作業が気になって横目でチラチラと見ていた。
「何だよ、新島。気になるのか?」
「気になる」
「お前にも仕事をやるよ」
「何?」
「七不思議の五番目に結論をつけろ」
「無理だ」
「仮定の上での結論でもかまわない」
「それなら出来るな」
「やってみろ」
「わかった」
高田は腕を組んで、頭を悩ませた。目を閉じて、顔を下に向ける。手は背中に回し、足を震えさせて貧乏揺すりをする。高田いわく、このような状態だと、うまく考えがまとまるらしい。
「よお!」
「先輩、今日はビニール袋の中身が多い気がするんだが?」
「今日はコーヒー十本買ってきたんだ。一人二本飲めるぞ」
「二本......」
五人で新島の家に入ると、やっぱりリビングの床に座る。新島は気を利かせたのか、リビングの床だけにマットを敷いていた。
烏合の衆の会議で、高田は今日の部室で起こったことを土方に説明した。土方は何度かうなずいて、そんなことがあったのか、と言ってため息をもらした。
「で、これが高田の話した牛乳だ」
新島は冷蔵庫から牛乳を取りだした。土方はそれを受け取る。新島は家に帰宅してすぐに、例の牛乳を冷蔵庫に入れていたのだ。そして、彼は土方にコップを一個渡す。
「まあ、先輩も飲んでみろ」
「......マジ?」
「俺と高田は飲んだぞ」
土方は躊躇ったが、飲むと決断して勢いよくコップに牛乳を注いだ。そのコップを右手でつかみ、左手は腰に添えた。コップのふちを唇につけ、底を持ちあげて斜めに傾けた。途端、コップ内の牛乳が口に流れ出した。土方は牛乳を飲み干して、コップを新島に返す。
「普通の牛乳だな」
「だろ? 牛乳には細工がしていないということだ」
「だったら何に細工が施されていたと言うんだ」
「それがわかっていたら牛乳の話しは省かせてもらっていたよ」
「明日は昭和の日で休みだ。どうする?」
「明日は俺一人で調べてみる。お前らは好きにしてろ」
「こんなのはどうだ?」土方は咳払いをしてから、顔を新島の方に向ける。「久々に八坂市中央図書館に行こう。あそこなら明日でも自由に使えるはずだ」
「懐かしいな。ボープレさんと会った場所だな」
「もうあれから一年くらい経ったということか」
「よし。明日は五人全員で八坂市中央図書館に行こうか」
ということがあり、次の日の午前十一時、新島宅にて。
「なぜお前らが俺の家に来てんだ!」
土方、高田、三島、新田は見事に新島の家を訪問していた。
「ほら、だってさ......」
「高田! だってじゃねぇ! 昨日の話しでは中央図書館前で待ち合わせだったはずだぞ!」
「そうなんだけどさ、部長から電話がきたんだ」
「先輩が?」
「そう。私が高田に電話した。新島の家にサプライズで行ったら面白そうじゃないかって言ったら、高田も大賛成したから三島と新田も連れて朝に押しかけてみた。朝っていうか、十一時は昼に近いけどな」
「ってか、お前らが来るまで俺は寝ていたんだ」
「私は今日は午前七時に起きた。お前が起きるのが遅いんだ」
「中央図書館前での待ち合わせ時刻は午後一時だっただろ?」
「なのに、その二時間前に起きていないのか?」
新島は言い返せなくて、黙って視線を下に落とした。
「じゃ、中央図書館に行くぞ! 準備しろよ」
無言でうなずき、カバンをつかんだ。
五人は八坂市中央図書館に着いた。現在の時間は午後一時十分。新島は懐中時計を懐にしまった。
「確か」高田は八坂市中央図書館の地図を見ながら首をひねった。「三階が休憩兼飲食スペースだったっけ?」
「そうだった記憶があるな......。俺もくわしくは覚えていないが」
前回同様、コンビニでドリンクを買った。それから階段で三階まで上がり、休憩兼飲食スペースの椅子に着席した。すると、新田が口を開いた。
「先輩たちがさっきから言っている、ボープレさんとは誰ですか?」
新田の質問に、土方はニヤリと口元を緩めた。
「去年のことだ。私が文芸部の部長だった時に夏休みの頃、三人で八坂市中央図書館に行った。そこで、Lawrence(ローレンス) Beaupre(ボープレ)なる外国人に会った。そいつは新島に英語でサービスカウンターのある階を尋ねた。新島は『first(ファースト) floor(フロア)』にあると答えたが、その後でボープレが新島を怒鳴ったんだ。ボープレはイギリス人で、クイーンズイングリッシュだとground(グランド) floor(フロア)が一階でfirst(ファースト) floor(フロア)が二階なんだ。つまり、新島の言った一階(ファーストフロア)をボープレは二階(ファーストフロア)と勘違いしたんだ。
ということがあったということを話していたんだよ。すまんすまん。君たちがボープレのことを知らないことを完全に忘れていた」
「そうなんですね。ローレンス・ボープレさん......」
「ボープレはかなり背が低いぞ。言われてみると、見た目はイギリスっぽいんだよ。まあ、背が低いからイギリス人ってのは偏見だけどな」
土方の話しに興味がなさそうに、新島は八坂中学校の給食の時間に行うことをまとめたリストと八坂中学校の見取り図を眺めていた。すると、見取り図とまとめたリストを持つ手とはもう一方の手で、鉛筆を取りだした。その鉛筆で、怪しい部分に印しをつけた。
高田は、新島の作業が気になって横目でチラチラと見ていた。
「何だよ、新島。気になるのか?」
「気になる」
「お前にも仕事をやるよ」
「何?」
「七不思議の五番目に結論をつけろ」
「無理だ」
「仮定の上での結論でもかまわない」
「それなら出来るな」
「やってみろ」
「わかった」
高田は腕を組んで、頭を悩ませた。目を閉じて、顔を下に向ける。手は背中に回し、足を震えさせて貧乏揺すりをする。高田いわく、このような状態だと、うまく考えがまとまるらしい。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
日常探偵団─AFTER STORY─
髙橋朔也
ミステリー
『クロロホルム? あれは推理小説なんかと違って、吸引させることで眠らせることは出来ない』
八島大学に勤務する高柳真朔教授の元に舞い込んだのは新島真准教授の義弟が親のお金をくすねた事件。義弟の家で大金を探すため、高柳教授はクロロホルムを使うのだが推理小説のように吸引させて眠らせるのは無理だ。そこで高柳教授が思いついた、クロロホルムを吸引させて確実に眠らせることの出来る方法とは──。
※本作は『日常探偵団』の番外編です。重大なネタバレもあるので未読の方は気をつけてください。
学園ミステリ~桐木純架
よなぷー
ミステリー
・絶世の美貌で探偵を自称する高校生、桐木純架。しかし彼は重度の奇行癖の持ち主だった! 相棒・朱雀楼路は彼に振り回されつつ毎日を過ごす。
そんな二人の前に立ち塞がる数々の謎。
血の涙を流す肖像画、何者かに折られるチョーク、喫茶店で奇怪な行動を示す老人……。
新感覚学園ミステリ風コメディ、ここに開幕。
『小説家になろう』でも公開されています――が、検索除外設定です。
日常探偵団2 火の玉とテレパシーと傷害
髙橋朔也
ミステリー
君津静香は八坂中学校校庭にて跋扈する青白い火の玉を目撃した。火の玉の正体の解明を依頼された文芸部は正体を当てるも犯人は特定出来なかった。そして、文芸部の部員がテレパシーに悩まされていた。文芸部がテレパシーについて調べていた矢先、獅子倉が何者かに右膝を殴打された傷害事件が発生。今日も文芸部は休む暇なく働いていた。
※誰も死なないミステリーです。
※本作は『日常探偵団』の続編です。重大なネタバレもあるので未読の方はお気をつけください。
特殊捜査官・天城宿禰の事件簿~乙女の告発
斑鳩陽菜
ミステリー
K県警捜査一課特殊捜査室――、そこにたった一人だけ特殊捜査官の肩書をもつ男、天城宿禰が在籍している。
遺留品や現場にある物が残留思念を読み取り、犯人を導くという。
そんな県警管轄内で、美術評論家が何者かに殺害された。
遺体の周りには、大量のガラス片が飛散。
臨場した天城は、さっそく残留思念を読み取るのだが――。
失踪した悪役令嬢の奇妙な置き土産
柚木崎 史乃
ミステリー
『探偵侯爵』の二つ名を持つギルフォードは、その優れた推理力で数々の難事件を解決してきた。
そんなギルフォードのもとに、従姉の伯爵令嬢・エルシーが失踪したという知らせが舞い込んでくる。
エルシーは、一度は婚約者に婚約を破棄されたものの、諸事情で呼び戻され復縁・結婚したという特殊な経歴を持つ女性だ。
そして、後日。彼女の夫から失踪事件についての調査依頼を受けたギルフォードは、邸の庭で謎の人形を複数発見する。
怪訝に思いつつも調査を進めた結果、ギルフォードはある『真相』にたどり着くが──。
悪役令嬢の従弟である若き侯爵ギルフォードが謎解きに奮闘する、ゴシックファンタジーミステリー。
めぐるめく日常 ~環琉くんと環琉ちゃん~
健野屋文乃
ミステリー
始めて、日常系ミステリー書いて見ました。
ぼくの名前は『環琉』と書いて『めぐる』と読む。
彼女の名前も『環琉』と書いて『めぐる』と読む。
そして、2人を包むようなもなかちゃんの、日常系ミステリー
きっと癒し系(⁎˃ᴗ˂⁎)
怪奇事件捜査File1首なしライダー編(科学)
揚惇命
ミステリー
これは、主人公の出雲美和が怪奇課として、都市伝説を基に巻き起こる奇妙な事件に対処する物語である。怪奇課とは、昨今の奇妙な事件に対処するために警察組織が新しく設立した怪奇事件特別捜査課のこと。巻き起こる事件の数々、それらは、果たして、怪異の仕業か?それとも誰かの作為的なものなのか?捜査を元に解決していく物語。
File1首なしライダー編は完結しました。
※アルファポリス様では、科学的解決を展開します。ホラー解決をお読みになりたい方はカクヨム様で展開するので、そちらも合わせてお読み頂けると幸いです。捜査編終了から1週間後に解決編を展開する予定です。
※小説家になろう様・カクヨム様でも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる