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卒業 その拾
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二人は高田を部室に残して、急いで軽音楽部部室に向かった。鈴木は部室で、作曲を行っていた。他の部員は音楽室で演奏をしている最中だろう。
「来たわね。私が犯人だって、気づいた?」
鈴木の他人事のような口調に、新島は少なからずムッとした。
「鈴木」土方は部室の扉を閉めた。「何で窓ガラスを割った?」
「私が八坂中学校に仕返しをして、何か悪い?」
「なぜ、仕返しを?」
「七不思議を解明していたことで、八坂中学校から圧力がかけられていたから」
「圧力?」
「私だけ、軽音楽部で演奏すらさせてもらえない」
「それは被害妄想だろ?」
「そうかもしれないけど、七不思議は学校の私利私欲で生まれた。生徒を代表して、報復する必要はあるわ!」
「確かに、私達はまだあと三つの七不思議を解いていない。だが、文芸部の新島なら必ず卒業までに七不思議を解いて、学校に言及できるはずだ」
「私が言及しなくては駄目なんだ」
「その役目は文芸部が引き継ぐ」
「......」鈴木が言葉に詰まった。
今まで黙っていた新島は、腕を組みながら口を開いた。「人を頼ることも大切です。自分で考え過ぎていると、発想力もなくなります。マイクロ波を使ったトリックは東野圭吾の『虚像の道化師』の『幻惑(まどわ)す』に登場したものをそのまま手を加えずに使用したものですよね?」
「何で、それを......!」
「探偵ガリレオシリーズは自分も大好きですから。虚像の道化師では、俺は『透視(みとお)す』が好きです。相本美香さんは、封筒の中身のことについて触れなければ死ぬこともなかったのですがね......」
「そうか。では、八坂中学校に言及する役目は文芸部に委ねるとしようか」
鈴木は椅子から立ち上がり、新島と握手をした。
土方と新島が軽音楽部部室を出た。
「新島」
「何だ?」
「いくら探偵ガリレオシリーズをお前が好きでも、鈴木がそうとは限らないだろ? だが、それを言い当てたときは鈴木は驚いていた。つまり、鈴木は自分が探偵ガリレオシリーズを好きだと新島に伝えていないはずだ。どういう仕掛けで、そのことを勘づいた?」
「手、それと本」
「くわしく頼む」
「『透視(みとお)す』と同様、鎌をかけた。『禁断の魔術』は短編集と長編が存在する。『禁断の魔術』の短編集は『透視す』『曲球(まが)る』『念波(おく)る』『猛射(う)つ』の四つだ。だが、『透視す』『曲球(まが)る』『念波(おく)る』は『虚像の道化師』に再編集して収録された。残る『猛射(う)つ』が大幅改稿されて長編となり、『禁断の魔術』となった。
手に本を読んだ跡があった。鈴木真美は左手親指の付け根に直線の跡を残していたが、左手で本を持った跡だ。鈴木真美はそういう癖がある。といっても、彼女はその癖に気づいてないがな。
そして、カバンの膨らみから本が四冊あることがわかる。普通、一日じゃ読めない数だ。だが、四冊持ってきているということはマイクロ波がトリックに登場する『虚像の道化師』『禁断の魔術』を持ってきていたということだろう。その本を、手の跡を踏まえて考えると、少し前まで読んでいた。それで、鈴木真美が探偵ガリレオシリーズを好きだという確実性を帯びる。で、『幻惑わす』を参考にしてマイクロ波を使った窓ガラスを割るトリックを思いついたのだろう、という推理が出来るというわけだ」
「そうか。......ややこしいな」土方は不満そうな顔で言った。
二人はそれから、文芸部部室に戻った。高田はまだ眠っていたから、新島は蹴りをいれた。「起きろ!」
「いっ! ......痛っ!」
「帰るぞ」
「何だ? まだ犯人すらわかってない」
「鈴木真美だよ」
「......!?」
新島は仕方なく、高田に説明した。高田は納得して、うなずいた。
次の週、卒業式は無事に行われ、終了した。土方はその日をもって、八坂中学校生徒ではなくなった。それと同時に、文芸部部員でなくなった。そして、新島は晴れて文芸部部長になり、春休みも始まった。春休みでも、三人は集まって、新入部員確保の会議をしていた。もちろん、場所は新島の家だ。
「さて。まず、先輩が文芸部を抜けたことによりこの三人が籍を置く集団がなくなった。だが、俺の家で今日から、この三人でチームが発足する。『旧文芸部 烏合(うごう)の衆(しゅう)』!」
新島のネーミングセンスを疑うところだが、本日から烏合の衆が発足したわけだ。長(おさ)は当然土方だ。だが、今回の司会進行は新島に任されていた。
「では」新島はテーブルに置かれたコップを右手でつかみ、上に上げた。「皆々様、乾っ! ぱーい!」
新島のかけ声とともに、土方と高田もコップをつかんで上に上げ、三人でコップをぶつけた。すると、コン、という音がして、高田のコップに入っていた抹茶がこぼれた。当然熱く、抹茶のこぼれた先は高田の頭だった。
「あッチっ!」
「あちゃー」新島は笑いをこらえていた。それから雑巾を持ってきて抹茶を吹き「高田、抹茶入れ直す?」と尋ねた。
「ああ、入れ直してくれ」
「わかった」
新島はコップに抹茶の粉末とお湯を入れて高田に渡した。
「サンキュー」
「んじゃ、仕切り直して烏合の衆発足だな」
三人は、コップの中身を飲み干した後で、文芸部の新入部員確保と七不思議の会議を始めた。
「来たわね。私が犯人だって、気づいた?」
鈴木の他人事のような口調に、新島は少なからずムッとした。
「鈴木」土方は部室の扉を閉めた。「何で窓ガラスを割った?」
「私が八坂中学校に仕返しをして、何か悪い?」
「なぜ、仕返しを?」
「七不思議を解明していたことで、八坂中学校から圧力がかけられていたから」
「圧力?」
「私だけ、軽音楽部で演奏すらさせてもらえない」
「それは被害妄想だろ?」
「そうかもしれないけど、七不思議は学校の私利私欲で生まれた。生徒を代表して、報復する必要はあるわ!」
「確かに、私達はまだあと三つの七不思議を解いていない。だが、文芸部の新島なら必ず卒業までに七不思議を解いて、学校に言及できるはずだ」
「私が言及しなくては駄目なんだ」
「その役目は文芸部が引き継ぐ」
「......」鈴木が言葉に詰まった。
今まで黙っていた新島は、腕を組みながら口を開いた。「人を頼ることも大切です。自分で考え過ぎていると、発想力もなくなります。マイクロ波を使ったトリックは東野圭吾の『虚像の道化師』の『幻惑(まどわ)す』に登場したものをそのまま手を加えずに使用したものですよね?」
「何で、それを......!」
「探偵ガリレオシリーズは自分も大好きですから。虚像の道化師では、俺は『透視(みとお)す』が好きです。相本美香さんは、封筒の中身のことについて触れなければ死ぬこともなかったのですがね......」
「そうか。では、八坂中学校に言及する役目は文芸部に委ねるとしようか」
鈴木は椅子から立ち上がり、新島と握手をした。
土方と新島が軽音楽部部室を出た。
「新島」
「何だ?」
「いくら探偵ガリレオシリーズをお前が好きでも、鈴木がそうとは限らないだろ? だが、それを言い当てたときは鈴木は驚いていた。つまり、鈴木は自分が探偵ガリレオシリーズを好きだと新島に伝えていないはずだ。どういう仕掛けで、そのことを勘づいた?」
「手、それと本」
「くわしく頼む」
「『透視(みとお)す』と同様、鎌をかけた。『禁断の魔術』は短編集と長編が存在する。『禁断の魔術』の短編集は『透視す』『曲球(まが)る』『念波(おく)る』『猛射(う)つ』の四つだ。だが、『透視す』『曲球(まが)る』『念波(おく)る』は『虚像の道化師』に再編集して収録された。残る『猛射(う)つ』が大幅改稿されて長編となり、『禁断の魔術』となった。
手に本を読んだ跡があった。鈴木真美は左手親指の付け根に直線の跡を残していたが、左手で本を持った跡だ。鈴木真美はそういう癖がある。といっても、彼女はその癖に気づいてないがな。
そして、カバンの膨らみから本が四冊あることがわかる。普通、一日じゃ読めない数だ。だが、四冊持ってきているということはマイクロ波がトリックに登場する『虚像の道化師』『禁断の魔術』を持ってきていたということだろう。その本を、手の跡を踏まえて考えると、少し前まで読んでいた。それで、鈴木真美が探偵ガリレオシリーズを好きだという確実性を帯びる。で、『幻惑わす』を参考にしてマイクロ波を使った窓ガラスを割るトリックを思いついたのだろう、という推理が出来るというわけだ」
「そうか。......ややこしいな」土方は不満そうな顔で言った。
二人はそれから、文芸部部室に戻った。高田はまだ眠っていたから、新島は蹴りをいれた。「起きろ!」
「いっ! ......痛っ!」
「帰るぞ」
「何だ? まだ犯人すらわかってない」
「鈴木真美だよ」
「......!?」
新島は仕方なく、高田に説明した。高田は納得して、うなずいた。
次の週、卒業式は無事に行われ、終了した。土方はその日をもって、八坂中学校生徒ではなくなった。それと同時に、文芸部部員でなくなった。そして、新島は晴れて文芸部部長になり、春休みも始まった。春休みでも、三人は集まって、新入部員確保の会議をしていた。もちろん、場所は新島の家だ。
「さて。まず、先輩が文芸部を抜けたことによりこの三人が籍を置く集団がなくなった。だが、俺の家で今日から、この三人でチームが発足する。『旧文芸部 烏合(うごう)の衆(しゅう)』!」
新島のネーミングセンスを疑うところだが、本日から烏合の衆が発足したわけだ。長(おさ)は当然土方だ。だが、今回の司会進行は新島に任されていた。
「では」新島はテーブルに置かれたコップを右手でつかみ、上に上げた。「皆々様、乾っ! ぱーい!」
新島のかけ声とともに、土方と高田もコップをつかんで上に上げ、三人でコップをぶつけた。すると、コン、という音がして、高田のコップに入っていた抹茶がこぼれた。当然熱く、抹茶のこぼれた先は高田の頭だった。
「あッチっ!」
「あちゃー」新島は笑いをこらえていた。それから雑巾を持ってきて抹茶を吹き「高田、抹茶入れ直す?」と尋ねた。
「ああ、入れ直してくれ」
「わかった」
新島はコップに抹茶の粉末とお湯を入れて高田に渡した。
「サンキュー」
「んじゃ、仕切り直して烏合の衆発足だな」
三人は、コップの中身を飲み干した後で、文芸部の新入部員確保と七不思議の会議を始めた。
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