26 / 59
辞書の紛失 その弐
しおりを挟む
蜘蛛が姿を消すと、部室内は一応静かになった。
「まず、なんで辞書を盗んだのかだが」新島は周囲を警戒しながら話し始めた。
「辞書にはどんな利用方法があるかだ」
「そりゃあ、調べ物だろ」
「だから高田は甘いんだ。調べ物をするんだったら電子機器の方が速い。しかも、部活で唯一電子機器を所有できる新聞部は文芸部より警備が薄い。何たって、文芸部部室の隣りは職員室だからだ。なのに、わざわざ文芸部から辞書を盗んだのかだ。その理由がわかったら苦労はしない。まずは辞書の調べ物以外の使い道を考える必要があるんだ」
「なるほどな」
「私からも一ついいか?」
「ああ」
「辞書の他の使い道なら、何かの台にするとか」
「うーん? 今のところ結論は出せないな。まずは盗んだ理由と犯人でも考えてみよう」
高田は本棚の本を一冊取り出してからパラパラめくった。それから、話し始めた。
「パラパラ漫画を書くために辞書を盗んだんじゃないのか? つまり、犯人はアニメーション制作部」
「アニメーション制作部にはアニメを制作するための機器は揃っているはずだが?」
「だよなぁ?」
「まあ、行くだけ行って確かめておこう」
三人が部室を出ると、土方は慎重に鍵を掛けた。
アニメーション制作部はB棟三階にある。新島が扉をノックすると、扉が開いた。
「誰だ?」
「文芸部一同です」
「文芸部?」
「ちょっと、いろいろな部活の部室を見学して回っていまして...」
「なら、入っちゃって。好きに見ていいから」
「ありがとうございます」
三人は部室を見渡したが、辞書はなかった。それに加え、アニメーション制作に必要な機器は揃っていた。
そのまま三人は文芸部部室に戻った。
「俺の説は駄目だったか。振り出しに戻ったぁ!」
「高田の説はいつも駄目だからな。七不思議の七番目の時も粉塵爆発という説で大失敗をしただろ」
「新島はよく覚えてるな。もう一年も前の話だが」
「一年か。結構早かったな」
「来年は長くなるぞ」
「何でだ?」
「七不思議はあと四つは残っているからだ」
すると、土方は寂しそうに口を開いた。
「来年、か。私はもういないんだな」
「ほらっ! 元気出すっす。いつでも会えるっすよ、俺たちなら」
「それもそうだな」
土方は悲しそうにため息をついた。
「先輩は辞書の他の使い道について、台になると言っていたがそれだと犯人は誰だと思う?」
「わからないな」
「なら、先輩が考える犯人は?」
「図書委員だ」
「何でだ?」
「本棚の空(あ)いたすき間を埋めるために厚い本を入れたい。そこで辞書に絞ってから文芸部から盗んだんだ」
「一理ある、か?」
「なら、まずは図書室に行こう」
新島はかなり頻繁に図書室に行ってるな、と考えながら図書室に向かった。
「失礼します」
中にいた図書委員は七不思議の二番目の時にもいた人物だった。
「また君たちか」
「どうも」
「今回の用件は?」
「辞書を探していまして...」
「好きに本棚を探したまえ」
「ありがとうございます」
三人は本棚を見た。
「先輩」
「どうした?」
「先輩の辞書には何か特徴はなかったか? ないなら、先輩の辞書かどうかわからないから」
「ああ、最後のページに私の名前が書いてある」
「わかった」
図書室の本棚を調べたが、そのうち辞書は三冊。土方の名前が記入されているのはなかった。
「どいつが盗んだんだ?」
「フランスだろ?」
「高田! 今は洒落(しゃれ)を言う時じゃない。先輩の辞書が消えたんだ」
「ヨーロッパの方が良かったか?」
「俺はイギリスだけが好きだ」
「お前、絶対王政を受け入れるのか!」
「トマス・ホッブズの『リヴァイアサン』では、絶対王政を正しいとしている。民は国から守られるという契約をしているのだがら、言うことを聞く必要がある」
「自然状態が云々の奴だろ?」
「そうだ」
「って! 何で絶対王政の話しになってんだ」
「高田のつまらん洒落のせいだろ」
「いや、面白かっただろ?」
「そういうことにしておこう」
新島は辞書を本棚に戻してから、図書室を出た。二人もそれに続いた。
「まず、なんで辞書を盗んだのかだが」新島は周囲を警戒しながら話し始めた。
「辞書にはどんな利用方法があるかだ」
「そりゃあ、調べ物だろ」
「だから高田は甘いんだ。調べ物をするんだったら電子機器の方が速い。しかも、部活で唯一電子機器を所有できる新聞部は文芸部より警備が薄い。何たって、文芸部部室の隣りは職員室だからだ。なのに、わざわざ文芸部から辞書を盗んだのかだ。その理由がわかったら苦労はしない。まずは辞書の調べ物以外の使い道を考える必要があるんだ」
「なるほどな」
「私からも一ついいか?」
「ああ」
「辞書の他の使い道なら、何かの台にするとか」
「うーん? 今のところ結論は出せないな。まずは盗んだ理由と犯人でも考えてみよう」
高田は本棚の本を一冊取り出してからパラパラめくった。それから、話し始めた。
「パラパラ漫画を書くために辞書を盗んだんじゃないのか? つまり、犯人はアニメーション制作部」
「アニメーション制作部にはアニメを制作するための機器は揃っているはずだが?」
「だよなぁ?」
「まあ、行くだけ行って確かめておこう」
三人が部室を出ると、土方は慎重に鍵を掛けた。
アニメーション制作部はB棟三階にある。新島が扉をノックすると、扉が開いた。
「誰だ?」
「文芸部一同です」
「文芸部?」
「ちょっと、いろいろな部活の部室を見学して回っていまして...」
「なら、入っちゃって。好きに見ていいから」
「ありがとうございます」
三人は部室を見渡したが、辞書はなかった。それに加え、アニメーション制作に必要な機器は揃っていた。
そのまま三人は文芸部部室に戻った。
「俺の説は駄目だったか。振り出しに戻ったぁ!」
「高田の説はいつも駄目だからな。七不思議の七番目の時も粉塵爆発という説で大失敗をしただろ」
「新島はよく覚えてるな。もう一年も前の話だが」
「一年か。結構早かったな」
「来年は長くなるぞ」
「何でだ?」
「七不思議はあと四つは残っているからだ」
すると、土方は寂しそうに口を開いた。
「来年、か。私はもういないんだな」
「ほらっ! 元気出すっす。いつでも会えるっすよ、俺たちなら」
「それもそうだな」
土方は悲しそうにため息をついた。
「先輩は辞書の他の使い道について、台になると言っていたがそれだと犯人は誰だと思う?」
「わからないな」
「なら、先輩が考える犯人は?」
「図書委員だ」
「何でだ?」
「本棚の空(あ)いたすき間を埋めるために厚い本を入れたい。そこで辞書に絞ってから文芸部から盗んだんだ」
「一理ある、か?」
「なら、まずは図書室に行こう」
新島はかなり頻繁に図書室に行ってるな、と考えながら図書室に向かった。
「失礼します」
中にいた図書委員は七不思議の二番目の時にもいた人物だった。
「また君たちか」
「どうも」
「今回の用件は?」
「辞書を探していまして...」
「好きに本棚を探したまえ」
「ありがとうございます」
三人は本棚を見た。
「先輩」
「どうした?」
「先輩の辞書には何か特徴はなかったか? ないなら、先輩の辞書かどうかわからないから」
「ああ、最後のページに私の名前が書いてある」
「わかった」
図書室の本棚を調べたが、そのうち辞書は三冊。土方の名前が記入されているのはなかった。
「どいつが盗んだんだ?」
「フランスだろ?」
「高田! 今は洒落(しゃれ)を言う時じゃない。先輩の辞書が消えたんだ」
「ヨーロッパの方が良かったか?」
「俺はイギリスだけが好きだ」
「お前、絶対王政を受け入れるのか!」
「トマス・ホッブズの『リヴァイアサン』では、絶対王政を正しいとしている。民は国から守られるという契約をしているのだがら、言うことを聞く必要がある」
「自然状態が云々の奴だろ?」
「そうだ」
「って! 何で絶対王政の話しになってんだ」
「高田のつまらん洒落のせいだろ」
「いや、面白かっただろ?」
「そういうことにしておこう」
新島は辞書を本棚に戻してから、図書室を出た。二人もそれに続いた。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
虚像のゆりかご
新菜いに
ミステリー
フリーターの青年・八尾《やお》が気が付いた時、足元には死体が転がっていた。
見知らぬ場所、誰かも分からない死体――混乱しながらもどういう経緯でこうなったのか記憶を呼び起こそうとするが、気絶させられていたのか全く何も思い出せない。
しかも自分の手には大量の血を拭き取ったような跡があり、はたから見たら八尾自身が人を殺したのかと思われる状況。
誰かが自分を殺人犯に仕立て上げようとしている――そう気付いた時、怪しげな女が姿を現した。
意味の分からないことばかり自分に言ってくる女。
徐々に明らかになる死体の素性。
案の定八尾の元にやってきた警察。
無実の罪を着せられないためには、自分で真犯人を見つけるしかない。
八尾は行動を起こすことを決意するが、また新たな死体が見つかり……
※動物が殺される描写があります。苦手な方はご注意ください。
※登場する施設の中には架空のものもあります。
※この作品はカクヨムでも掲載しています。
©2022 新菜いに
密室島の輪舞曲
葉羽
ミステリー
夏休み、天才高校生の神藤葉羽は幼なじみの望月彩由美とともに、離島にある古い洋館「月影館」を訪れる。その洋館で連続して起きる不可解な密室殺人事件。被害者たちは、内側から完全に施錠された部屋で首吊り死体として発見される。しかし、葉羽は死体の状況に違和感を覚えていた。
洋館には、著名な実業家や学者たち12名が宿泊しており、彼らは謎めいた「月影会」というグループに所属していた。彼らの間で次々と起こる密室殺人。不可解な現象と怪奇的な出来事が重なり、洋館は恐怖の渦に包まれていく。
月明かりの儀式
葉羽
ミステリー
神藤葉羽と望月彩由美は、幼馴染でありながら、ある日、神秘的な洋館の探検に挑むことに決めた。洋館には、過去の住人たちの悲劇が秘められており、特に「月明かりの間」と呼ばれる部屋には不気味な伝説があった。二人はその場所で、古い肖像画や日記を通じて、禁断の儀式とそれに伴う呪いの存在を知る。
儀式を再現することで過去の住人たちを解放できるかもしれないと考えた葉羽は、仲間の彩由美と共に儀式を行うことを決意する。しかし、儀式の最中に影たちが現れ、彼らは過去の記憶を映し出しながら、真実を求めて叫ぶ。過去の住人たちの苦しみと後悔が明らかになる中、二人はその思いを受け止め、解放を目指す。
果たして、葉羽と彩由美は過去の悲劇を乗り越え、住人たちを解放することができるのか。そして、彼ら自身の運命はどうなるのか。月明かりの下で繰り広げられる、謎と感動の物語が展開されていく。
駒込の七不思議
中村音音(なかむらねおん)
ミステリー
地元のSNSで気になったこと・モノをエッセイふうに書いている。そんな流れの中で、駒込の七不思議を書いてみない? というご提案をいただいた。
7話で完結する駒込のミステリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる