日常探偵団

髙橋朔也

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辞書の紛失 その弐

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 蜘蛛が姿を消すと、部室内は一応静かになった。
「まず、なんで辞書を盗んだのかだが」新島は周囲を警戒しながら話し始めた。
「辞書にはどんな利用方法があるかだ」
「そりゃあ、調べ物だろ」
「だから高田は甘いんだ。調べ物をするんだったら電子機器の方が速い。しかも、部活で唯一電子機器を所有できる新聞部は文芸部より警備が薄い。何たって、文芸部部室の隣りは職員室だからだ。なのに、わざわざ文芸部から辞書を盗んだのかだ。その理由がわかったら苦労はしない。まずは辞書の調べ物以外の使い道を考える必要があるんだ」
「なるほどな」
「私からも一ついいか?」
「ああ」
「辞書の他の使い道なら、何かの台にするとか」
「うーん? 今のところ結論は出せないな。まずは盗んだ理由と犯人でも考えてみよう」
 高田は本棚の本を一冊取り出してからパラパラめくった。それから、話し始めた。
「パラパラ漫画を書くために辞書を盗んだんじゃないのか? つまり、犯人はアニメーション制作部」
「アニメーション制作部にはアニメを制作するための機器は揃っているはずだが?」
「だよなぁ?」
「まあ、行くだけ行って確かめておこう」
 三人が部室を出ると、土方は慎重に鍵を掛けた。
 アニメーション制作部はB棟三階にある。新島が扉をノックすると、扉が開いた。
「誰だ?」
「文芸部一同です」
「文芸部?」
「ちょっと、いろいろな部活の部室を見学して回っていまして...」
「なら、入っちゃって。好きに見ていいから」
「ありがとうございます」
 三人は部室を見渡したが、辞書はなかった。それに加え、アニメーション制作に必要な機器は揃っていた。

 そのまま三人は文芸部部室に戻った。
「俺の説は駄目だったか。振り出しに戻ったぁ!」
「高田の説はいつも駄目だからな。七不思議の七番目の時も粉塵爆発という説で大失敗をしただろ」
「新島はよく覚えてるな。もう一年も前の話だが」
「一年か。結構早かったな」
「来年は長くなるぞ」
「何でだ?」
「七不思議はあと四つは残っているからだ」
 すると、土方は寂しそうに口を開いた。
「来年、か。私はもういないんだな」
「ほらっ! 元気出すっす。いつでも会えるっすよ、俺たちなら」
「それもそうだな」
 土方は悲しそうにため息をついた。
「先輩は辞書の他の使い道について、台になると言っていたがそれだと犯人は誰だと思う?」
「わからないな」
「なら、先輩が考える犯人は?」
「図書委員だ」
「何でだ?」
「本棚の空(あ)いたすき間を埋めるために厚い本を入れたい。そこで辞書に絞ってから文芸部から盗んだんだ」
「一理ある、か?」
「なら、まずは図書室に行こう」
 新島はかなり頻繁に図書室に行ってるな、と考えながら図書室に向かった。
「失礼します」
 中にいた図書委員は七不思議の二番目の時にもいた人物だった。
「また君たちか」
「どうも」
「今回の用件は?」
「辞書を探していまして...」
「好きに本棚を探したまえ」
「ありがとうございます」
 三人は本棚を見た。
「先輩」
「どうした?」
「先輩の辞書には何か特徴はなかったか? ないなら、先輩の辞書かどうかわからないから」
「ああ、最後のページに私の名前が書いてある」
「わかった」
  図書室の本棚を調べたが、そのうち辞書は三冊。土方の名前が記入されているのはなかった。
「どいつが盗んだんだ?」
「フランスだろ?」
「高田! 今は洒落(しゃれ)を言う時じゃない。先輩の辞書が消えたんだ」
「ヨーロッパの方が良かったか?」
「俺はイギリスだけが好きだ」
「お前、絶対王政を受け入れるのか!」
「トマス・ホッブズの『リヴァイアサン』では、絶対王政を正しいとしている。民は国から守られるという契約をしているのだがら、言うことを聞く必要がある」
「自然状態が云々の奴だろ?」
「そうだ」
「って! 何で絶対王政の話しになってんだ」
「高田のつまらん洒落のせいだろ」
「いや、面白かっただろ?」
「そういうことにしておこう」
 新島は辞書を本棚に戻してから、図書室を出た。二人もそれに続いた。
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