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第五章『奥州の覇者』
伊達政宗、隻眼の覇者は伊達じゃない その伍伍
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成実や景頼は政宗の言いつけを忠実に守って見張り役に徹しているが、その他の者は酒を飲んだりして羽目を外している。無理もない。多忙な日々が休みなく続いたのだ。彼らが呆ける理由もわからなくはない。
だが、そんな中で政宗らはカルミラなる狂人と相対していた。地の文の立場からしてみれば、何やっているんだ政宗の配下ども、と言いたいくらいだ。けれど政宗以外への干渉は最大限少なくしたい。よって傍観することにした。
政宗の家臣のくせに主の一大事に気付かないことに内心イラついていると、政宗に忠誠を誓ったエリアスという奴が寺の中に乱入してきた。
成実は即座にエリアスの首に刃を向ける。「異人と見受けられる貴殿に聞こう。何が目的でこのような場に来た! 日本語がわかるなら答えよ!」
「これはこれは」エリアスは嘲笑う。「私は魔女教司教、強欲の罪人・エリアスです。と言っても以前の肩書きですがね」
「魔女教? 何を言っている?」
「私はすでにお屋形様の家臣の末席に加えられた身です。それにいきなりで悪いのですが、我が主は交戦中です」
「何!?」
「我が主と交戦中の者は一人の少女。彼女は私の元同僚で、暴食の罪人・カルミラと呼ばれています。他には''狂人''などとも言われていますが、要は彼女に感情はありません。戦いに加わり、応戦してください」
少し考え込んだ成実だったが、すぐに指示を下した。「若様を助けに行きましょう!」
「「おおっ!」」
政宗の危機に立ち上がった彼らは鎧を装着して武器を持ち、歯を食いしばって寺から飛び出してゆく。そんな者達を見つつ、エリアスも鎧を拝借して装備する。そして刀を持つと鞘を抜き捨て、一度ため息をもらす。
「まったく、片手剣の一番の利点は盾を持てることにあるのですが。私は全身鎧に盾も装備......っと、そう言えば日本では盾はあまり使われていませんでしたね。確か日本で盾と言えば支えの取り付けられた置き盾や、戦死した仲間の体を盾にするようなことだったと記憶していますが」
さらっと恐ろしいことを言うなと思いつつ、視点を政宗に切り替えた。
暴食の罪人・カルミラ。戦っていてわかったことと言えば、彼女は理性がぶっ飛んでいるということだ。奴が持つ武器は刃渡りの短いものばかりの短刀で、対して俺は仁和が護身用に帯刀していた刀を使っている。しかしカルミラは危険を顧みずにたびたび俺の間合いに飛び込んでくる。
仁和は戦闘の指示を出してもらうべく離れた場所で待機させ、エリアスは家臣達に応援要請をしてもらった。剣崎は俺と連携してカルミラと戦ってはいるが、まだこちらが劣勢といった感じだ。剣崎は素手だし期待はしていない。
それにしても仁和の護身用の刀はやけに軽量化されているな。おそらく権次と兼三が仁和用に設計したものだと思うが、刀が重くなければカルミラを斬っても致命傷ほど深くに刃は達しない。このままではまずいぞ。
「政宗殿、後ろです!」
仁和が教えてくれたが、時すでに遅し。気付いた時にはカルミラの短刀が俺の背中に深い横一文字の傷を刻んでいた。
「あああああああぁぁぁぁぁーーーーーーー!!」
俺は激痛に耐えて踏みとどまったが、立っているだけで限界だった。
「!」カルミラは真顔で俺に尋ねる。「痛いの?」
「は?」
「だから、その傷は痛いの?」
「い、痛いに決まってんだろ」
真顔が怖い。カルミラは真顔なのに睨まれているような錯覚をしてしまう。
「私、生まれた時から感情というものがないの。人を殺せば感情も芽生えるかと思って、長年罪人の首斬り役をやっていた。けどこれと言って感情が生まれなかったのよ。そんな時、魅惑の魔女様が救いの手を差し伸べてくれたわ」
「救いの手?」
「あなたは同物同治を知ってる?」
「何だ? 同物同治?」
「同物同治とは体の不調な部位を治すには同じ部位を食べる、というものね。それで魅惑の魔女様は、感情が欲しいなら人間の脳を食べなさい、とおっしゃったわ。人間の脳は感情豊富だそうなので。ああ、私はついに感情を手に入れる手段を得たの。では早速、あなたの頭もおいしく食べさせていただくわ!」
こいつ、マジで狂人だ。思考回路がおかしい。理性がぶっ飛んでいるわけだ。暴食の罪人という二つ名で呼ばれるだけはあるじゃねぇか!
「ぐあぁ!」
俺の首目掛けてカルミラの短刀が振られ、血が周囲へと飛び散った。俺は地面に倒れ、カルミラは見た者全てを魅了させるほどの美しい笑顔で俺の血しぶきを眺める。
「綺麗、綺麗ね。こんな綺麗な血液は初めて見たわ! 私は好きよ、この血の温もりとか。ああ、美しい。今私、嬉しいと感じている。こんな私にもやっと感情が生まれた! これも全部あなたのお陰。......ねぇ、あなたの臓物は血なんかよりももっと綺麗だと思うの。あとでゆっくり臓物は引き抜くから待ってて。あなたの体は剥製にして私のそばに置く。これでこれからもずっと私のそばにいられるね!」
カルミラは膝を折って地面に座り、手に付いた俺の血を嬉々として舌で丁寧に舐め取った。その瞬間、寺の方角から刀が飛んできた。カルミラは間一髪で避け、鎧を身に纏った愛姫は悔しがる。
「私の!」愛姫は声を振り絞る。「私の政宗様に触れないで!」
だが、そんな中で政宗らはカルミラなる狂人と相対していた。地の文の立場からしてみれば、何やっているんだ政宗の配下ども、と言いたいくらいだ。けれど政宗以外への干渉は最大限少なくしたい。よって傍観することにした。
政宗の家臣のくせに主の一大事に気付かないことに内心イラついていると、政宗に忠誠を誓ったエリアスという奴が寺の中に乱入してきた。
成実は即座にエリアスの首に刃を向ける。「異人と見受けられる貴殿に聞こう。何が目的でこのような場に来た! 日本語がわかるなら答えよ!」
「これはこれは」エリアスは嘲笑う。「私は魔女教司教、強欲の罪人・エリアスです。と言っても以前の肩書きですがね」
「魔女教? 何を言っている?」
「私はすでにお屋形様の家臣の末席に加えられた身です。それにいきなりで悪いのですが、我が主は交戦中です」
「何!?」
「我が主と交戦中の者は一人の少女。彼女は私の元同僚で、暴食の罪人・カルミラと呼ばれています。他には''狂人''などとも言われていますが、要は彼女に感情はありません。戦いに加わり、応戦してください」
少し考え込んだ成実だったが、すぐに指示を下した。「若様を助けに行きましょう!」
「「おおっ!」」
政宗の危機に立ち上がった彼らは鎧を装着して武器を持ち、歯を食いしばって寺から飛び出してゆく。そんな者達を見つつ、エリアスも鎧を拝借して装備する。そして刀を持つと鞘を抜き捨て、一度ため息をもらす。
「まったく、片手剣の一番の利点は盾を持てることにあるのですが。私は全身鎧に盾も装備......っと、そう言えば日本では盾はあまり使われていませんでしたね。確か日本で盾と言えば支えの取り付けられた置き盾や、戦死した仲間の体を盾にするようなことだったと記憶していますが」
さらっと恐ろしいことを言うなと思いつつ、視点を政宗に切り替えた。
暴食の罪人・カルミラ。戦っていてわかったことと言えば、彼女は理性がぶっ飛んでいるということだ。奴が持つ武器は刃渡りの短いものばかりの短刀で、対して俺は仁和が護身用に帯刀していた刀を使っている。しかしカルミラは危険を顧みずにたびたび俺の間合いに飛び込んでくる。
仁和は戦闘の指示を出してもらうべく離れた場所で待機させ、エリアスは家臣達に応援要請をしてもらった。剣崎は俺と連携してカルミラと戦ってはいるが、まだこちらが劣勢といった感じだ。剣崎は素手だし期待はしていない。
それにしても仁和の護身用の刀はやけに軽量化されているな。おそらく権次と兼三が仁和用に設計したものだと思うが、刀が重くなければカルミラを斬っても致命傷ほど深くに刃は達しない。このままではまずいぞ。
「政宗殿、後ろです!」
仁和が教えてくれたが、時すでに遅し。気付いた時にはカルミラの短刀が俺の背中に深い横一文字の傷を刻んでいた。
「あああああああぁぁぁぁぁーーーーーーー!!」
俺は激痛に耐えて踏みとどまったが、立っているだけで限界だった。
「!」カルミラは真顔で俺に尋ねる。「痛いの?」
「は?」
「だから、その傷は痛いの?」
「い、痛いに決まってんだろ」
真顔が怖い。カルミラは真顔なのに睨まれているような錯覚をしてしまう。
「私、生まれた時から感情というものがないの。人を殺せば感情も芽生えるかと思って、長年罪人の首斬り役をやっていた。けどこれと言って感情が生まれなかったのよ。そんな時、魅惑の魔女様が救いの手を差し伸べてくれたわ」
「救いの手?」
「あなたは同物同治を知ってる?」
「何だ? 同物同治?」
「同物同治とは体の不調な部位を治すには同じ部位を食べる、というものね。それで魅惑の魔女様は、感情が欲しいなら人間の脳を食べなさい、とおっしゃったわ。人間の脳は感情豊富だそうなので。ああ、私はついに感情を手に入れる手段を得たの。では早速、あなたの頭もおいしく食べさせていただくわ!」
こいつ、マジで狂人だ。思考回路がおかしい。理性がぶっ飛んでいるわけだ。暴食の罪人という二つ名で呼ばれるだけはあるじゃねぇか!
「ぐあぁ!」
俺の首目掛けてカルミラの短刀が振られ、血が周囲へと飛び散った。俺は地面に倒れ、カルミラは見た者全てを魅了させるほどの美しい笑顔で俺の血しぶきを眺める。
「綺麗、綺麗ね。こんな綺麗な血液は初めて見たわ! 私は好きよ、この血の温もりとか。ああ、美しい。今私、嬉しいと感じている。こんな私にもやっと感情が生まれた! これも全部あなたのお陰。......ねぇ、あなたの臓物は血なんかよりももっと綺麗だと思うの。あとでゆっくり臓物は引き抜くから待ってて。あなたの体は剥製にして私のそばに置く。これでこれからもずっと私のそばにいられるね!」
カルミラは膝を折って地面に座り、手に付いた俺の血を嬉々として舌で丁寧に舐め取った。その瞬間、寺の方角から刀が飛んできた。カルミラは間一髪で避け、鎧を身に纏った愛姫は悔しがる。
「私の!」愛姫は声を振り絞る。「私の政宗様に触れないで!」
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