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第五章『奥州の覇者』

伊達政宗、隻眼の覇者は伊達じゃない その肆捌

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 少年は物心が付いた時から一人であった。気付いた時には山小屋で暮らしていて、慣れた手付きで野生の小動物を捕まえて生活していた。
 毎月一回程度は山を下りて町へ向かい、そこで動物の皮などを売った。そうして得たお金を使い、油などの必要なものだけを買って帰る。もちろん町へ行く際には必ず肌を出さず、獣人とはバレないように尽くした。そうした生活を一人で何年も続けたある日に、その事件は起こってしまった。
 その日もいつものように町で買い物をして帰路についたのだが、道中で人と接触してしまい帽子が脱げてしまう。その帽子の下には毛で覆われた顔があり、それを見た通行人は一同に少年へ石を投げつけたのだ。
「こいつは怪物だ!」
「化け物が出た!」
「きっと悪魔の化身に違いない!」
「捕らえろ!」
 何もしていないのに石を投げられた少年は当然ながら怒りを覚え、けれど生きるために逃げ出した。そしてその日の内に山小屋を捨て、別の住処すみかを求めて旅を始めた。
 最初に訪れた町には獣人の噂が広がっていて、次の町では関所に引っ掛かって獣人だとバレてしまった。そうして命からがら逃げ込んだ山でちょうど半壊した小屋を見つけ、そこで暮らすことを決意した。
 まず始めに取り掛かったのは小屋の修復である。素人ながら人が住めるくらいの修復をすると、狩りをするために弓矢を作り始めた。
 弓はしなりのある木を利用し、矢を作るのにはかなりコツが必要だった。作っていくうちにそれなりにコツは掴んだようだが、それでも少年は弓矢の出来に満足していない様子だった。
 翌日に彼はちゃんとした弓矢を見に行くために町へ下り、武器屋へ足を運んだ。
「おっ!」武器屋の店主は笑う。「若いのに武器屋とは珍しい。何をお探しかな?」
「弓矢、を少し、だけ見て、みたい」
「ほお、弓矢か。ってことは狩りだな」
「うん」
「ならこういうのがおすすめだな」
 店主の取り出した弓矢を受け取った少年は、矢に羽がなぜ付いているのか尋ねた。
「矢に羽を付けるのは威力が上がるからだ。矢に羽があると回転して、その回転によって威力か上がる。あとは羽のお陰で矢が安定して飛ぶから狙いを定めやすくなる。しかし羽には表と裏があってな、それを一方向にそろえて付けないとうまくいかん」
「なるほど」
「んで、この弓矢はどうする? 買うか?」
「すまない。買わん。今日の、ところ、は帰らせ、てもらう」
「そうか。ま、欲しいのがあったら言えよな」
 小屋に帰ったら狩りで捕まえた鳥の羽を矢に付けようと考えながら、少年はきびすを返して武器屋を出ようとした。その刹那せつな、置かれていた刀と少年がぶつかり、少年の袖を切り裂いてしまった。
 獣人とバレぬよう少年は毛深い腕を隠したが、血が垂れていたため店主は包帯を巻こうとして近づいてきた。少年は断るが店主が腕を引っ張り、最終的には無理矢理傷口に包帯を巻いた。獣人の腕を見て少年が人間ではないと知った店主は驚いたものの、尚も笑顔を絶やさなかった。
「獣の子か?」
「......怖くは、ない、のか?」
「動物には時として突然変異というものが起き、その結果周囲の動物とは異なった動物が生まれる可能性があるのだと聞いたことがある。人間の中にも頭のおかしい奴が時々生まれる。先天的に手や足がなかったりする奴もいる。どんなに完璧そうに見える人でもおかしいところの一つや二つはあるんだ。坊主のおかしいところがちょうど体毛が濃いってだけだよ」
「そう、なのか?」
「ああ。そうなんだよ。俺はガキの頃に右足の指を獣に食われちまったことがあってな。それから右足は親指以外残ってなくて、周りの奴から化け物と呼ばれたこともあった。しかも足の指がないから立っているのにも力を使うし、散々な目にあった。足の指がない程度だが、それでもなんとなく坊主の気持ちがわかる気がするんだ」
「ありが、とう。助かる」
 少年は起き上がり、そのまま武器屋を去ろうとした。しかし店主はそれを制し、優しく笑い掛けた。
「飯、食っていかねーか? 妻が先立ってから一人で飯を食ってるんだが、たまには楽しく食事をしてみたい。どうだ?」
「飯?」少年はお腹の減り具合を確かめる。「食べて、も良いの、なら、食べさせて、もらおう」
「おう! んじゃ今日は店仕舞じまいだ。奥へ行ってな」
 コクりとうなずいた少年は店の奥へ行き、置いてあった椅子に腰を下ろした。少しして店主が戻ってくると、食材を調理したりし始めた。生まれてこの方料理などしたことも見たこともなかった少年は、興味深げに店主の調理過程を眺めた。
 数十分も経つ頃には皿に盛り付けられた料理が食卓に並び、少年と店主は食べ始めた。
「おい、しい!」
「そうだろう、そうだろう。妻直伝の料理なんだ」
 少年にとっては初めて感じる味であり、加えておいしいこともあって勢いよく貪り食っていた。けれど次第に少年の体は動かなくなり、寝息まで聞こえてきた。
「食事に混ぜた眠り薬がようやく効いてきたな」
 店主は先ほどとはまた別種の薄気味悪い笑みを浮かべ、少年を大きな袋の中へと詰め込んだ。
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