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第五章『奥州の覇者』
伊達政宗、隻眼の覇者は伊達じゃない その肆伍
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鉄から不純物を取り除く高い技術力。そんな技術がこの時代にあるのだとすれば、是非とも確保しておきたい。それには藤堂や慧の力が必須だ。今のうちに慧と仲良くなっておこう。
「慧が今まで研究していたのはどんな錬金術なんだ?」
「錬金術の完成形とも言われる死者蘇生です。死者蘇生が出来るようになれば両親とまた一緒に暮らせるので......」
「死者蘇生か。そう言えば江渡弥平っていう俺達の因縁の相手がいてな、そいつらの計画が死者蘇生に似ているんだ」
「ほ、本当ですか!?」
「ああ、本当だ」
「その計画とやらを教えてくださいっ!」
俺はまず足音を立てずに仁和が寝ている布団まで近づき、仁和のまぶたを触る。別に変な気を起こしたわけではなく、睡眠の深さを確認していたのだ。
睡眠には二種類あり、レム睡眠とノンレム睡眠に分けられる。レム睡眠は眠りが浅く、ノンレム睡眠は眠りが深い。寝ている間にこの二つの睡眠は繰り返されていて、レム睡眠の間に夢を見ている。つまり一回の睡眠で何個かの夢を見ていることになるが、見た夢をほとんど覚えていない場合が多い。
レム睡眠とノンレム睡眠を見分ける方法は眼球運動にある。レム睡眠時には眼球が動いており、ノンレム睡眠時には眼球は静止している。もしまぶたに触れて眼球が動いていればレム睡眠時であり、眠りが浅いのだとわかる。
仁和のまぶたに触れたところ眼球の動きは確認出来ないため、俺は仁和の眠りが深いのだと判断した。つまり小さな物音程度では目が覚めない。俺は仁和が起きないように細心の注意を払いつつ、江渡弥平達のゾンビについての研究結果の記された帳面を引っ張り出す。
その帳面を慧に渡すと、彼女は食い入るように読んでいった。ページをめくるスピードは速く、かなり速読のようだ。俺は慧の傍らで眠気覚ましとして宿屋のコーヒーを啜っていると、いつの間にか帳面を読み終えていた。
「どうだった?」
「死者蘇生というより不死に近い感じですね」
「その通りだ。実際は不死ですらないんだが、どうやらこのウイルスに感染した人間は痛みを感じにくいらしく、骨が折れて物理的に動けなくならない限りは動き続ける。要は痛覚のない最恐の兵士ってわけだ」
「まあ死者蘇生に近いことは認めますが、不死の下位互換と言ったところでしょうか」
「そんな感じだな」
慧の読み終えた帳面をこっそりと元の位置に戻そうとすると、仁和が起き上がって俺を睨んだ。
「何度も言いますが、帳面を勝手に持ち出さないでくださいよ。この帳面を落としてしまったら大騒ぎになります」
「起きていたのか!? いつからだ?」
「最初からです。あなたが私の眼球運動を確認する以前から、と言ったらわかりますか?」
「最初っから盗み聞きしていたんだな」
「あんなに大きな声で会話していたら、聞こうとしなくても聞こえてしまいます」
そうしていると皆が起き始めたので、俺はお寺へ行く準備を始めた。米沢城から辛うじて持ち出せた荷物は少なく、準備もそこまで時間が掛からなかった。
準備が出来次第宿屋を発ち、地図を見ながら道なき道を進んだ。非力な仁和や藤堂などの頭脳担当は進行に遅れが出る可能性を考慮して荷物をあまり持たず、逆に力が有り余る戦闘担当の奴らは荷物を多く持つ。
「すみません、若様」良直は息を切らせながら頭を下げた。「もっと若かったら力があったのですが、もう歳ですかね」
「隠居したとはいえ良直はまだまだ役に立つだろ? 元気出せよ戦闘担当!」
「ありがたきお言葉! 一生若様にお供いたします!」
「おう!」
良直を励ましたものの、俺の体力はすり減る一方である。元々前世から体力に自信がある方ではなく、それは伊達政宗に転生してからも変わらない。
半分ほど歩いたところで俺は力尽き、肩で息をしながら地面に腰を下ろした。
「俺はもう限界だ。歩けん!」
「では休憩としましょう。政宗殿は何か体力の回復するようなものを口にしてください」
「体力回復? あいにくだが、食べられる物は城から持ち出せてないぞ」
「そう思って町で海藻類を買ってきました。携帯しやすいので便利ですしね」
「ああ、助かった」
海藻を受け取り、少しずつ口へ放り込んだ。生の状態の海藻だな。乾燥させた方が保存が利くが、手間が掛かっていない分だけ生の方が値段が安かったのだろう。
「うわあっ!」ジョーは驚き、後ずさりした。「海藻を生で食べてるの!?」
「ん? どうしたんだよ、ジョー」
「いや、海藻は生では食べられないはずだ。消化が出来ないよ?」
「そんなことねぇよ。海藻は生でも食える」
そんな会話をしていると、ホームズが笑いながら説明を始めた。「日本人は昔から海藻を食べる習慣があり、そのため日本人の腸内には生の海藻でも消化出来るほどの力を持ったバクテリアがいるんだ。僕や君は生で海藻を食すことは無理だけど、彼ら日本人にとっては普通のことなんだよ」
「な、なるほど」
「ちなみにですが」仁和はホームズの説明に補足を加えた。「生の海藻を消化出来るのは腸内にバクテロイデス・プレビウスというバクテリアを保有する日本人だけです。お二人が海藻を食べたいのでしたら、今ここで焼きましょうか? ちょうど海藻と一緒に町で燃料を買ってきたので」
と言って仁和は乾燥した馬糞の入った袋を取り出した。馬糞などは乾燥させて燃料などにも使えるが、俺は海藻を食べている最中だったので気分が悪くなった。馬は草食動物だから肉食動物の糞に比べると臭いもそれほどしないが、それでも気分が悪くなるのは当然だ。
「慧が今まで研究していたのはどんな錬金術なんだ?」
「錬金術の完成形とも言われる死者蘇生です。死者蘇生が出来るようになれば両親とまた一緒に暮らせるので......」
「死者蘇生か。そう言えば江渡弥平っていう俺達の因縁の相手がいてな、そいつらの計画が死者蘇生に似ているんだ」
「ほ、本当ですか!?」
「ああ、本当だ」
「その計画とやらを教えてくださいっ!」
俺はまず足音を立てずに仁和が寝ている布団まで近づき、仁和のまぶたを触る。別に変な気を起こしたわけではなく、睡眠の深さを確認していたのだ。
睡眠には二種類あり、レム睡眠とノンレム睡眠に分けられる。レム睡眠は眠りが浅く、ノンレム睡眠は眠りが深い。寝ている間にこの二つの睡眠は繰り返されていて、レム睡眠の間に夢を見ている。つまり一回の睡眠で何個かの夢を見ていることになるが、見た夢をほとんど覚えていない場合が多い。
レム睡眠とノンレム睡眠を見分ける方法は眼球運動にある。レム睡眠時には眼球が動いており、ノンレム睡眠時には眼球は静止している。もしまぶたに触れて眼球が動いていればレム睡眠時であり、眠りが浅いのだとわかる。
仁和のまぶたに触れたところ眼球の動きは確認出来ないため、俺は仁和の眠りが深いのだと判断した。つまり小さな物音程度では目が覚めない。俺は仁和が起きないように細心の注意を払いつつ、江渡弥平達のゾンビについての研究結果の記された帳面を引っ張り出す。
その帳面を慧に渡すと、彼女は食い入るように読んでいった。ページをめくるスピードは速く、かなり速読のようだ。俺は慧の傍らで眠気覚ましとして宿屋のコーヒーを啜っていると、いつの間にか帳面を読み終えていた。
「どうだった?」
「死者蘇生というより不死に近い感じですね」
「その通りだ。実際は不死ですらないんだが、どうやらこのウイルスに感染した人間は痛みを感じにくいらしく、骨が折れて物理的に動けなくならない限りは動き続ける。要は痛覚のない最恐の兵士ってわけだ」
「まあ死者蘇生に近いことは認めますが、不死の下位互換と言ったところでしょうか」
「そんな感じだな」
慧の読み終えた帳面をこっそりと元の位置に戻そうとすると、仁和が起き上がって俺を睨んだ。
「何度も言いますが、帳面を勝手に持ち出さないでくださいよ。この帳面を落としてしまったら大騒ぎになります」
「起きていたのか!? いつからだ?」
「最初からです。あなたが私の眼球運動を確認する以前から、と言ったらわかりますか?」
「最初っから盗み聞きしていたんだな」
「あんなに大きな声で会話していたら、聞こうとしなくても聞こえてしまいます」
そうしていると皆が起き始めたので、俺はお寺へ行く準備を始めた。米沢城から辛うじて持ち出せた荷物は少なく、準備もそこまで時間が掛からなかった。
準備が出来次第宿屋を発ち、地図を見ながら道なき道を進んだ。非力な仁和や藤堂などの頭脳担当は進行に遅れが出る可能性を考慮して荷物をあまり持たず、逆に力が有り余る戦闘担当の奴らは荷物を多く持つ。
「すみません、若様」良直は息を切らせながら頭を下げた。「もっと若かったら力があったのですが、もう歳ですかね」
「隠居したとはいえ良直はまだまだ役に立つだろ? 元気出せよ戦闘担当!」
「ありがたきお言葉! 一生若様にお供いたします!」
「おう!」
良直を励ましたものの、俺の体力はすり減る一方である。元々前世から体力に自信がある方ではなく、それは伊達政宗に転生してからも変わらない。
半分ほど歩いたところで俺は力尽き、肩で息をしながら地面に腰を下ろした。
「俺はもう限界だ。歩けん!」
「では休憩としましょう。政宗殿は何か体力の回復するようなものを口にしてください」
「体力回復? あいにくだが、食べられる物は城から持ち出せてないぞ」
「そう思って町で海藻類を買ってきました。携帯しやすいので便利ですしね」
「ああ、助かった」
海藻を受け取り、少しずつ口へ放り込んだ。生の状態の海藻だな。乾燥させた方が保存が利くが、手間が掛かっていない分だけ生の方が値段が安かったのだろう。
「うわあっ!」ジョーは驚き、後ずさりした。「海藻を生で食べてるの!?」
「ん? どうしたんだよ、ジョー」
「いや、海藻は生では食べられないはずだ。消化が出来ないよ?」
「そんなことねぇよ。海藻は生でも食える」
そんな会話をしていると、ホームズが笑いながら説明を始めた。「日本人は昔から海藻を食べる習慣があり、そのため日本人の腸内には生の海藻でも消化出来るほどの力を持ったバクテリアがいるんだ。僕や君は生で海藻を食すことは無理だけど、彼ら日本人にとっては普通のことなんだよ」
「な、なるほど」
「ちなみにですが」仁和はホームズの説明に補足を加えた。「生の海藻を消化出来るのは腸内にバクテロイデス・プレビウスというバクテリアを保有する日本人だけです。お二人が海藻を食べたいのでしたら、今ここで焼きましょうか? ちょうど海藻と一緒に町で燃料を買ってきたので」
と言って仁和は乾燥した馬糞の入った袋を取り出した。馬糞などは乾燥させて燃料などにも使えるが、俺は海藻を食べている最中だったので気分が悪くなった。馬は草食動物だから肉食動物の糞に比べると臭いもそれほどしないが、それでも気分が悪くなるのは当然だ。
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