上 下
187 / 245
第五章『奥州の覇者』

伊達政宗、隻眼の覇者は伊達じゃない その拾肆

しおりを挟む
 真壁いわくずる賢いため注意が必要な鐵、そして単純な戦闘力では右に出る者がいないという御影。どちらか一人が敵にいたら逃げろと言われているが、二人とも江渡弥平側であり退路も断たれているこの状況でどうするべきか......。
 ある程度は江渡弥平の情報を引き出しつつ、透明化などの反則技で逃げるスキをうかがってみよう。
 御影は単純な戦闘力ならば右に出る者はいないらしいが、左に出る者はいるかもしれないしな。バカそうだし。
「俺は伊達氏の当主である政宗だ。江渡弥平を倒すために乗り込んできたことはわかっているな?」
「へえー」すると目の前にいる鐵がニヤリと笑みを浮かべた。「恭賀きょうが──君には鼬鼠殺しと名乗っていたね──は確かに猛毒を君に飲ませたと言っていたが、どうやって助かった?」
 鼬鼠殺しはこいつらには恭賀と名乗っているのか。もっとも、恭賀という名前も本名かどうかは定かではないが。
「鼬鼠殺しは確かに俺の口に猛毒を流し込んで、喉を強く押して飲み込ませた。それでも生きている俺をお前は政宗の影武者ではないかと疑っているのか?」
「そういうことだ。恭賀から聞いた政宗の容姿と似てはいるが、影武者の可能性は否めないからね。君が影武者ではない証拠があるならば、少しは話してみようとも思うよ」
 つまり、俺が影武者ではないことを証明しないと江渡弥平の企みや何から何までの情報が引き出せないわけか。ならこいつらの前で猛毒を飲み込んでみせて、毒に耐性があることを見せてやろう。
「俺は毒に対しての耐性を手に入れていたから死なずにすんだ。それを証明するにはここで猛毒を舐めるかする必要がある。君達、猛毒の塗られた矢か針か何かを持っていないか?」
「それならば」鐵は小さな針を取り出した。「針の先に猛毒を塗ってある。耐性を持たない者が舐めれば即死するからね」
 俺は毒針を受け取り、針先を舐めた。舌の先が切れて血が出たが、即死するレベルの猛毒を舐めても大丈夫だということを証明した。
「なるほど、毒耐性を身につけていたから死ななかったわけか。良い考えだ。君が考えたのかい?」
「江渡弥平の昔の部下、仁和凪は知っているか? 彼女の案なんだ」
「仁和か。そいつの話しはボスから聞いているよ。何でも、かなり頭が良くて博識のようじゃないか」
「そうなんだよ。仁和は今は軍配士として伊達氏にくみしている」
「裏切り、か」
 今ここでこいつらから引き出すべき情報は何か、慎重にふるいに掛ける。そして、もっとも引き出すべき情報──それは魔術師についてである。
「さっき俺が倒した魔術師だが、奴が病を完治させる力を持っているというのは本当なのか? というか、噂に聞く魔術師とは随分違うようだが」
 俺が調べた情報によると、魔術師は天然痘だけでなく様々な病気を治す力を持っている、と人々が口を揃えて言っていた。それを目撃した者もいれば、風の噂として耳に入れた者もいた。中には魔術師に病気を治してもらったという者もいたが、そのほとんどは魔術師には対人戦闘にも秀でていたと言う。
 先ほど俺が倒した自称魔術師は対人戦闘の心得はあったものの、秀でているとまでは言えない。天然痘などの不治の病が伝染しないように感染者を殺して焼却しようとした者を返り討ちにしたという話しまであった魔術師だ。それがあれほど弱いわけがない。
「想定よりも君は頭が良いし、素晴らしい情報網を持っているようだ。ボスが君を警戒する理由を垣間見た気がする。噂にあった魔術師は、君がさっき倒した奴じゃあないよ」
「じゃあ、本物の魔術師は!?」
「僕らさ。陰陽師の僕と御影。僕らが魔術を使って患者の病気を完治してあげた。医師ですら見限った重い病を患った人を、ね」
 陰陽師だから魔術が使える、ということなのだろうか。非科学的なことはあまり信じられないが、実際に俺が神力を使っているからな......。どうするべきか。
「君達が使う魔術について、少しばかりで良いから教えてくれないか?」
 そうしたら鐵は御影の方を向き、何度か頭を振って合図を取り合った。
「御影も良いみたいだし、君には我々が使った魔術・奇術の類いの仕掛けを教えてあげよう。んで、君はサル痘って知ってる?」
「ああ、一応知っている。天然痘とは近い種類のウイルスによって引き起こされるのがサル痘で、症状も天然痘に近いと仁和から聞いている。サル痘と天然痘の治療に使うワクチンは同じで......
「お、気付いたようだな。天然痘感染者に有効なワクチンを買っていたらお金の無駄なのは当然のことだ。それが例え、信頼を得るためであっても。ただし、サル痘はお前の言った通り天然痘より死亡率は高くないんだ。サル痘のウイルスをばら撒いて感染した奴のところに行って治療をする演技をし、治ったら治ったで魔術のお陰だと言い、治らなかったらそれまでだ。それが魔術の正体」
「テメェ! 人の命を何だと思ってんだ!?」
「は? いずれ死ぬ奴に無駄な金なんて使えるかよ」
 怒りにまかせて俺は鐵を殴ろうと拳を握ったが、急に力が抜けて床に倒れた。
「もう効き始めたか」
「ど、どういうことだ!」
「お前が舐めた毒針には睡眠薬などその他諸々の薬も塗られていた。毒耐性にも限界があるから、かなり強烈な物を舐めればお前でも気絶するだろうとは思って準備していた。お前が毒耐性を得ようとするのは想定の範疇はんちゅうだ。舐めさせるのを針にしたのも、舌を切りやすくするため。毒物や薬物は血とともに体中を巡った方が効きやすいからな」
 やられた。鐵がずる賢いことは知っていたが、まさかここまで先を見越して入念な計画を立てていたとは。仁和と同等、いやそれ以上の策士だ。鼬鼠殺しが俺を殺せないということも、事前にわかっていたのだろう。
 そして俺は気を失った。鐵と御影は気を失った俺の体を束縛そくばくし、江渡弥平の元へ運ぼうと動いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

魅了だったら良かったのに

豆狸
ファンタジー
「だったらなにか変わるんですか?」

幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話

島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。 俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。

性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜

mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!? ※スカトロ表現多数あり ※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

婚約破棄?貴方程度がわたくしと結婚出来ると本気で思ったの?

三条桜子
恋愛
王都に久しぶりにやって来た。楽しみにしていた舞踏会で突如、婚約破棄を突きつけられた。腕に女性を抱いてる。ん?その子、誰?わたくしがいじめたですって?わたくしなら、そんな平民殺しちゃうわ。ふふふ。ねえ?本気で貴方程度がわたくしと結婚出来ると思っていたの?可笑しい!  ◎短いお話。文字数も少なく読みやすいかと思います。全6話。 イラスト/ノーコピーライトガール

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

処理中です...