上 下
128 / 245
第四章『輝宗の死』

伊達政宗、輝宗を殺すのは伊達じゃない その弐陸

しおりを挟む
「これでわかったと思う。アーティネスは最低な奴なんだ」
 レイカーは顔を下に向けながら、そう言った。
 前世で神話として美化された神様達が異常だっただけで、実際の神様なんてこんなもんだ。だから、大したショックでもない。
「レイカーを信じよう」
「ありがとう」
 俺はレイカーと再度握手をしてから、会議を再開させた。まずは年明けに、反伊達政宗派の近隣きんりんの大名と戦ったりして暴れ回ることまではまとまった。ただ、どうやって輝宗を助けるかが問題となる。
 ホームズの世界は輝宗の危険がともなうし、いったいどんな作戦が良いのだろうか。
 俺は会議を切り上げると、仁和がクリスマスパーティー用の料理を作っている調理場まで戻った。
 仁和は拍手はくしゅをした。「まさか政宗殿が自発的に料理しに戻ってくるとは。賞賛しょうさんあたいします」
「そんなんじゃねーよ。あ、そうそう。クリスマスパーティーの参加者は登場人物全員にしろよ!」
「登場人物? あなたは何を言っているんですか?」
「んー、今までに会ってきた奴らを呼べってことだ。わかったか?」
「ええ、わかりました。家臣全員と真壁河親かわちか殿、でよろしいですね?」
「家臣全員の中に虎哉こさい宗乙そういつも入っているか?」
「はい」
「ならそれで大丈夫だ!」
「では料理を始めましょう」
「えぇっ!!」
 それから日がしずむまで料理は続いた。地獄だった。俺は火で熱せられた鉄板に指を突っ込んで火傷やけどし、包丁で間違えて指を切り、料理が下手へたで腹をくだした。そのせいで、試食を食べた家臣は、ほぼ例外なくトイレに向かっていった。これは確かに悪いことをしたと反省している。

 そんな嵐が過ぎ去り、そうして十二月。クリスマスパーティーをもよおすことになった。
 虎哉は俺と仁和で作った伊達巻き(に近い食べ物)をしょくして、体が後方こうほうった。「これは素晴らしい食べ物ですね! 平玉子焼きとは似ていますが、味は平玉子焼き以上の絶品! これは若様考案の食べ物なのですか?」
「それは伊達巻きと名付けました。師匠の口に合って良かったです。伊達巻きは軍配士である仁和凪という家臣が考案し、私と一緒に作り上げました」
「ほお、仁和寺と同じ名前ですね。それは縁起えんぎが良い」
「頭のキレた軍配士です。ここに呼びましょうか?」
「死ぬ前に若様の軍配士をお目に掛かりたいゆえ、わしの前に連れてきてください」
「わかりました」
 俺は仁和がいる場所まで行って、仁和を探した。すると仁和は調理場で調理の指導をしていた。
「おい、仁和」
「今はクリスマスパーティー中では? 私に何かご用で?」
「師匠が仁和と会いたいと言ったんだ。伊達巻きをいたく気に入ったようで、考案者とお会いしたいようだ」
「師匠とは、虎哉殿のことですか?」
「ああ、その通りだ」
「そうですか。気に入ったのですね」
「そうらしい。んじゃ、着いてきてくれ」
「はい」
 仁和は俺を追うようにして着いてきた。俺は虎哉がいるところまで行くと、仁和を虎哉の前に立たせた。
「こちらが軍配士の仁和凪です」
「どうも、仁和です」
「わしは虎哉宗乙。幼き若様の教育係を務めておりました者です」
 虎哉は仁和と両手で握手をした。
「虎哉殿は伊達巻きを気に入ったと政宗殿からうかがいましたが、美味しかったですか?」
「それはもちろん! あんな美味びみは久しく食べていませんでした。平玉子焼きのあのアレンジはよく考えつきましたね!」
「ええ。政宗殿にも手伝ってもらって少しずつ改良をし、今虎哉殿が食べているような伊達巻きに仕上がりました。美味しかったのなら光栄こうえいです」
「次に新たな料理が完成しましたら、是非ぜひこのわしを呼んでくださいね」
「はい。次は試食に呼ばせていただきます」
 俺は日本酒をたしなみながら、二人の会話を聞いていた。仁和はいつも無愛想ぶあいそうだが、こういう外交には意外と向いているんだな。愛想が良くなっている。いずれ外交を仁和にやらせてみるか。
「若様!」息を切らせながら、小十郎が走り寄ってきた。「泥酔でいすい者がご乱心らんしんを」
「ご乱心......酒に酔って家臣が暴れているってことか!?」
「さようです」
 アルコール度数の高い日本酒を家臣に振る舞ったのが失敗だったか。
 小十郎が案内した場所では、家臣二人が顔を真っ赤に染めながら服をつかみ合っていた。
「下がれ、お前ら!」
 俺が一声掛けるが、なかなか喧嘩をやめない。ついに泥酔者の片方が発狂し始めた。
 その発狂した声を聞いたのか、駆けつけた輝宗が声を張り上げた。「貴様ら何をやっておる! やめんかっ!」
 輝宗がそう言うと、両家臣は離れてひざまづいた。さすが輝宗だ。隠居いんきょをしてもなお、俺より家臣からあがめられているとはな。
「いいか? 今は政宗が当主だ。たとえ俺が言ったことに反していても、政宗の言ったことを優先するんだ!」
「「わ、わかりました!」」
「お前らは一ヶ月は酒を飲むな! 禁酒をしろよ!」
 驚くほど輝宗に素直すなおな家臣どもだ。本っ当に政宗派の家臣は少ないな。輝宗の統率力は仁和の統率力より見習いたいものだ。
「政宗。後処理は任せるぞ」
「ありがとうございます、父上」
「うむ。困ったことがあったら、いつでも頼るのだぞ」
「はい!」
 輝宗は両手を背に回して、腰を押さえながら廊下へと歩みを進めていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魅了だったら良かったのに

豆狸
ファンタジー
「だったらなにか変わるんですか?」

他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!

七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?

婚約破棄?貴方程度がわたくしと結婚出来ると本気で思ったの?

三条桜子
恋愛
王都に久しぶりにやって来た。楽しみにしていた舞踏会で突如、婚約破棄を突きつけられた。腕に女性を抱いてる。ん?その子、誰?わたくしがいじめたですって?わたくしなら、そんな平民殺しちゃうわ。ふふふ。ねえ?本気で貴方程度がわたくしと結婚出来ると思っていたの?可笑しい!  ◎短いお話。文字数も少なく読みやすいかと思います。全6話。 イラスト/ノーコピーライトガール

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

【短編】冤罪が判明した令嬢は

砂礫レキ
ファンタジー
王太子エルシドの婚約者として有名な公爵令嬢ジュスティーヌ。彼女はある日王太子の姉シルヴィアに冤罪で陥れられた。彼女と二人きりのお茶会、その密室空間の中でシルヴィアは突然フォークで自らを傷つけたのだ。そしてそれをジュスティーヌにやられたと大騒ぎした。ろくな調査もされず自白を強要されたジュスティーヌは実家に幽閉されることになった。彼女を公爵家の恥晒しと憎む父によって地下牢に監禁され暴行を受ける日々。しかしそれは二年後終わりを告げる、第一王女シルヴィアが嘘だと自白したのだ。けれど彼女はジュスティーヌがそれを知る頃には亡くなっていた。王家は醜聞を上書きする為再度ジュスティーヌを王太子の婚約者へ強引に戻す。 そして一年後、王太子とジュスティーヌの結婚式が盛大に行われた。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

処理中です...