40 / 245
第一章『初陣へ』
伊達政宗、送り主を探すのは伊達じゃない その弐
しおりを挟む
勝算といってもそこまで大きなものでもない。確率でいうと20%といったところだ。
「名坂! 何か犯人に繫がる手掛かりがあるのか!?」
「その手掛かりをこれから作る」
「は?」
景頼は手紙から俺に視線を移した。「若様。それは、犯人を罠に掛ける、ということですか?」
「その通り。部屋に新たな未来のことを書いた文書を置き、また犯人に盗ませる。文書を置く場所は、犯人に怪しまれないところが良い。何にせよ、犯人は必ずまた部屋にこっそりと現れるはずだ。そこを一斉に捕まえるか、泳がせるか。どちらの方が良いか?」
「私は泳がせた方が良いかと思います」
「俺も!」
「私の考えも、景頼殿や小十郎殿のように泳がせた方が懸命でしょう」
「満場一致。結構は今夜でいいな?」
今晩、犯人を罠に掛けて捕らえる。そのための準備を速やかにスタートさせた。まず、俺が未来について触れた手紙を小十郎宛てにもう一通書いた。その手紙を次は少しだけ見つかりにくい場所に置いた。パッと見ただけではわからないが、探せば難なく見つかってしまうような場所だ。犯人が見つけられないなんてありえない。犯人が部屋に忍び込み手紙を盗んで退出したなら、待ち構えていた小十郎、景頼、愛姫が犯人を追跡するという手筈だ。
万全の対策だ。安心して、俺は布団に入った。安心したせいか、眠らないことになっていた俺は深い眠りに就いた。
感覚では二時間ほど、眠っていた気がする。手紙を置いた方に目を向けると、まだ盗まれていなかった。ホッと安堵のため息をもらした。
待機している三人は無事かな? 俺みたいに寝てしまっていないと良いのだが、不安だ。非常に不安な胸中だ。
暇なこの時間に、何か考えて気を紛らわせよう。脅迫のような手紙を残していった奴は、いったい誰なのか。手紙は直筆だし、筆跡鑑定が出来れば簡単に犯人の発見が可能なんだが......人生はそうそううまくいかないように出来ている。それに、手紙に書かれている字は筆跡を変えているようだ。字がヒョロヒョロしている。
他に手掛かりになりそうなものは、墨そのもの。墨の使い方には癖があるものなのだ。というのは、使っている墨に水を混ぜたりもするから薄さが個々で違うのだ。そういう部分を鑑みれば、自ずと犯人が見えてくる。でも、家臣全員の墨を調べるのとか、くっそめんどうくさい。墨以外に何か、決定的な証拠がなくてはいけない。急に決定的な証拠といわれても、そう簡単には思いつかんわけだ。考えが行き詰まってしまった......。
いかんいかん。また寝てしまいそうになった。きっと、最近の疲れが溜まっていたのだ。ここのところ、苦労ばかりしている。疲れていて当然だ。次第にまぶたが閉じてきた。そのまま、また睡眠へと入っていった。
目が覚めた。何回起きて寝てを繰り返せば気が済むんだよ。嫌々ながら、布団から抜け出して立ち上がった。
「もう、日が昇っている」
手紙は盗まれていない。待機していた三人の元に向かった。
「もう朝だ! 大丈夫か、お前ら?」
「名坂! 手紙は?」
「盗まれなかったぞ」
「収穫はなし......か」
小十郎はピンピンしていたが、景頼と愛姫は眠そうにしていた。まず、二人の視点は定まっていない。俺だけ寝ていて、申し訳ない気がした。
「皆。今日は寝て、明日に備えよう」
「そうだな」
俺以外の全員が布団に入り、疲れを癒やした。俺はもう癒やされているわけだから、何をしようかと考えながら部屋に戻った。ふと手紙を置いた場所を見た。その瞬間、やられた、と心の内で叫んだ。手紙が紛失した。俺が部屋を出た隙に手紙が盗まれた。犯人は俺がのこのこ部屋を出るのを待っていたのだろうか?
頭の中では落ち着いてきたが、実際は相当焦っていた。額から汗を垂らし、ものすごい勢いで廊下を走り回った。その後すぐに小十郎の寝ている部屋に駆け込んで、蹴り起こした。
「痛っ! 痛いなぁ」
「神辺! 手紙だ! 手紙が盗まれたんだ!」
「はぁ?」
俺の大声で、景頼と愛姫も集まってきた。三人に手紙が盗まれたことを話し、俺達が図られたことを理解させた。これはまずい。何の成果も得られず、みすみす盗まれたわけだ。いろいろな意味でまずい。犯人の掌で踊らされていたのだからだ。
これからはどうすれば良いのか。俺は頭を抱えた。
四人で会議を始めてから数時間経ち、急遽輝宗に呼び出された。俺に何か用があるのか? 用件を考えながら本丸まで足早に歩いて向かった。
「失礼します、父上」
「政宗。今日は書をたしなもうと思ってな。どうだ? 字はうまくなったか?」
「はい。ある程度うまく書けるようになったという自負があります」
「そうかそうか。義姫と小次郎と四人で書をたしなもう」
母・義姫と弟・竺丸(元服しているからすでに小次郎)がいる。小次郎は通称で、政道とも呼ばれることがあるが信憑性が低く、確かなことではない。今の状況を見ると、弟は政道とは呼ばれていないから小次郎と呼んだ方が適切だ。
義姫と小次郎は、将来俺を悩ませることになる。何せ、義姫は長男の俺より次男の小次郎を溺愛しているからだ。義姫は、今から注意しておこう。
「名坂! 何か犯人に繫がる手掛かりがあるのか!?」
「その手掛かりをこれから作る」
「は?」
景頼は手紙から俺に視線を移した。「若様。それは、犯人を罠に掛ける、ということですか?」
「その通り。部屋に新たな未来のことを書いた文書を置き、また犯人に盗ませる。文書を置く場所は、犯人に怪しまれないところが良い。何にせよ、犯人は必ずまた部屋にこっそりと現れるはずだ。そこを一斉に捕まえるか、泳がせるか。どちらの方が良いか?」
「私は泳がせた方が良いかと思います」
「俺も!」
「私の考えも、景頼殿や小十郎殿のように泳がせた方が懸命でしょう」
「満場一致。結構は今夜でいいな?」
今晩、犯人を罠に掛けて捕らえる。そのための準備を速やかにスタートさせた。まず、俺が未来について触れた手紙を小十郎宛てにもう一通書いた。その手紙を次は少しだけ見つかりにくい場所に置いた。パッと見ただけではわからないが、探せば難なく見つかってしまうような場所だ。犯人が見つけられないなんてありえない。犯人が部屋に忍び込み手紙を盗んで退出したなら、待ち構えていた小十郎、景頼、愛姫が犯人を追跡するという手筈だ。
万全の対策だ。安心して、俺は布団に入った。安心したせいか、眠らないことになっていた俺は深い眠りに就いた。
感覚では二時間ほど、眠っていた気がする。手紙を置いた方に目を向けると、まだ盗まれていなかった。ホッと安堵のため息をもらした。
待機している三人は無事かな? 俺みたいに寝てしまっていないと良いのだが、不安だ。非常に不安な胸中だ。
暇なこの時間に、何か考えて気を紛らわせよう。脅迫のような手紙を残していった奴は、いったい誰なのか。手紙は直筆だし、筆跡鑑定が出来れば簡単に犯人の発見が可能なんだが......人生はそうそううまくいかないように出来ている。それに、手紙に書かれている字は筆跡を変えているようだ。字がヒョロヒョロしている。
他に手掛かりになりそうなものは、墨そのもの。墨の使い方には癖があるものなのだ。というのは、使っている墨に水を混ぜたりもするから薄さが個々で違うのだ。そういう部分を鑑みれば、自ずと犯人が見えてくる。でも、家臣全員の墨を調べるのとか、くっそめんどうくさい。墨以外に何か、決定的な証拠がなくてはいけない。急に決定的な証拠といわれても、そう簡単には思いつかんわけだ。考えが行き詰まってしまった......。
いかんいかん。また寝てしまいそうになった。きっと、最近の疲れが溜まっていたのだ。ここのところ、苦労ばかりしている。疲れていて当然だ。次第にまぶたが閉じてきた。そのまま、また睡眠へと入っていった。
目が覚めた。何回起きて寝てを繰り返せば気が済むんだよ。嫌々ながら、布団から抜け出して立ち上がった。
「もう、日が昇っている」
手紙は盗まれていない。待機していた三人の元に向かった。
「もう朝だ! 大丈夫か、お前ら?」
「名坂! 手紙は?」
「盗まれなかったぞ」
「収穫はなし......か」
小十郎はピンピンしていたが、景頼と愛姫は眠そうにしていた。まず、二人の視点は定まっていない。俺だけ寝ていて、申し訳ない気がした。
「皆。今日は寝て、明日に備えよう」
「そうだな」
俺以外の全員が布団に入り、疲れを癒やした。俺はもう癒やされているわけだから、何をしようかと考えながら部屋に戻った。ふと手紙を置いた場所を見た。その瞬間、やられた、と心の内で叫んだ。手紙が紛失した。俺が部屋を出た隙に手紙が盗まれた。犯人は俺がのこのこ部屋を出るのを待っていたのだろうか?
頭の中では落ち着いてきたが、実際は相当焦っていた。額から汗を垂らし、ものすごい勢いで廊下を走り回った。その後すぐに小十郎の寝ている部屋に駆け込んで、蹴り起こした。
「痛っ! 痛いなぁ」
「神辺! 手紙だ! 手紙が盗まれたんだ!」
「はぁ?」
俺の大声で、景頼と愛姫も集まってきた。三人に手紙が盗まれたことを話し、俺達が図られたことを理解させた。これはまずい。何の成果も得られず、みすみす盗まれたわけだ。いろいろな意味でまずい。犯人の掌で踊らされていたのだからだ。
これからはどうすれば良いのか。俺は頭を抱えた。
四人で会議を始めてから数時間経ち、急遽輝宗に呼び出された。俺に何か用があるのか? 用件を考えながら本丸まで足早に歩いて向かった。
「失礼します、父上」
「政宗。今日は書をたしなもうと思ってな。どうだ? 字はうまくなったか?」
「はい。ある程度うまく書けるようになったという自負があります」
「そうかそうか。義姫と小次郎と四人で書をたしなもう」
母・義姫と弟・竺丸(元服しているからすでに小次郎)がいる。小次郎は通称で、政道とも呼ばれることがあるが信憑性が低く、確かなことではない。今の状況を見ると、弟は政道とは呼ばれていないから小次郎と呼んだ方が適切だ。
義姫と小次郎は、将来俺を悩ませることになる。何せ、義姫は長男の俺より次男の小次郎を溺愛しているからだ。義姫は、今から注意しておこう。
0
お気に入りに追加
121
あなたにおすすめの小説
他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!
七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?
婚約破棄?貴方程度がわたくしと結婚出来ると本気で思ったの?
三条桜子
恋愛
王都に久しぶりにやって来た。楽しみにしていた舞踏会で突如、婚約破棄を突きつけられた。腕に女性を抱いてる。ん?その子、誰?わたくしがいじめたですって?わたくしなら、そんな平民殺しちゃうわ。ふふふ。ねえ?本気で貴方程度がわたくしと結婚出来ると思っていたの?可笑しい! ◎短いお話。文字数も少なく読みやすいかと思います。全6話。
イラスト/ノーコピーライトガール
王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。
七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」
公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。
血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
【短編】冤罪が判明した令嬢は
砂礫レキ
ファンタジー
王太子エルシドの婚約者として有名な公爵令嬢ジュスティーヌ。彼女はある日王太子の姉シルヴィアに冤罪で陥れられた。彼女と二人きりのお茶会、その密室空間の中でシルヴィアは突然フォークで自らを傷つけたのだ。そしてそれをジュスティーヌにやられたと大騒ぎした。ろくな調査もされず自白を強要されたジュスティーヌは実家に幽閉されることになった。彼女を公爵家の恥晒しと憎む父によって地下牢に監禁され暴行を受ける日々。しかしそれは二年後終わりを告げる、第一王女シルヴィアが嘘だと自白したのだ。けれど彼女はジュスティーヌがそれを知る頃には亡くなっていた。王家は醜聞を上書きする為再度ジュスティーヌを王太子の婚約者へ強引に戻す。
そして一年後、王太子とジュスティーヌの結婚式が盛大に行われた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる