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第一章『初陣へ』

伊達政宗、送り主を探すのは伊達じゃない その弐

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 勝算といってもそこまで大きなものでもない。確率でいうと20%といったところだ。
「名坂! 何か犯人に繫がる手掛かりがあるのか!?」
「その手掛かりをこれから作る」
「は?」
 景頼は手紙から俺に視線を移した。「若様。それは、犯人を罠に掛ける、ということですか?」
「その通り。部屋に新たな未来のことを書いた文書を置き、また犯人に盗ませる。文書を置く場所は、犯人に怪しまれないところが良い。何にせよ、犯人は必ずまた部屋にこっそりと現れるはずだ。そこを一斉に捕まえるか、泳がせるか。どちらの方が良いか?」
「私は泳がせた方が良いかと思います」
「俺も!」
「私の考えも、景頼殿や小十郎殿のように泳がせた方が懸命でしょう」
「満場一致。結構は今夜でいいな?」
 今晩、犯人を罠に掛けて捕らえる。そのための準備を速やかにスタートさせた。まず、俺が未来について触れた手紙を小十郎宛てにもう一通書いた。その手紙を次は少しだけ見つかりにくい場所に置いた。パッと見ただけではわからないが、探せば難なく見つかってしまうような場所だ。犯人が見つけられないなんてありえない。犯人が部屋に忍び込み手紙を盗んで退出したなら、待ち構えていた小十郎、景頼、愛姫が犯人を追跡するという手筈だ。
 万全の対策だ。安心して、俺は布団に入った。安心したせいか、眠らないことになっていた俺は深い眠りに就いた。
 感覚では二時間ほど、眠っていた気がする。手紙を置いた方に目を向けると、まだ盗まれていなかった。ホッと安堵のため息をもらした。
 待機している三人は無事かな? 俺みたいに寝てしまっていないと良いのだが、不安だ。非常に不安な胸中だ。
 暇なこの時間に、何か考えて気を紛らわせよう。脅迫のような手紙を残していった奴は、いったい誰なのか。手紙は直筆だし、筆跡鑑定が出来れば簡単に犯人の発見が可能なんだが......人生はそうそううまくいかないように出来ている。それに、手紙に書かれている字は筆跡を変えているようだ。字がヒョロヒョロしている。
 他に手掛かりになりそうなものは、墨そのもの。墨の使い方には癖があるものなのだ。というのは、使っている墨に水を混ぜたりもするから薄さが個々で違うのだ。そういう部分をかんがみれば、自ずと犯人が見えてくる。でも、家臣全員の墨を調べるのとか、くっそめんどうくさい。墨以外に何か、決定的な証拠がなくてはいけない。急に決定的な証拠といわれても、そう簡単には思いつかんわけだ。考えが行き詰まってしまった......。
 いかんいかん。また寝てしまいそうになった。きっと、最近の疲れが溜まっていたのだ。ここのところ、苦労ばかりしている。疲れていて当然だ。次第にまぶたが閉じてきた。そのまま、また睡眠へと入っていった。
 目が覚めた。何回起きて寝てを繰り返せば気が済むんだよ。嫌々ながら、布団から抜け出して立ち上がった。
「もう、日が昇っている」
 手紙は盗まれていない。待機していた三人の元に向かった。
「もう朝だ! 大丈夫か、お前ら?」
「名坂! 手紙は?」
「盗まれなかったぞ」
「収穫はなし......か」
 小十郎はピンピンしていたが、景頼と愛姫は眠そうにしていた。まず、二人の視点は定まっていない。俺だけ寝ていて、申し訳ない気がした。
「皆。今日は寝て、明日に備えよう」
「そうだな」
 俺以外の全員が布団に入り、疲れを癒やした。俺はもう癒やされているわけだから、何をしようかと考えながら部屋に戻った。ふと手紙を置いた場所を見た。その瞬間、やられた、と心の内で叫んだ。手紙が紛失した。俺が部屋を出た隙に手紙が盗まれた。犯人は俺がのこのこ部屋を出るのを待っていたのだろうか?
 頭の中では落ち着いてきたが、実際は相当焦っていた。額から汗を垂らし、ものすごい勢いで廊下を走り回った。その後すぐに小十郎の寝ている部屋に駆け込んで、蹴り起こした。
「痛っ! 痛いなぁ」
「神辺! 手紙だ! 手紙が盗まれたんだ!」
「はぁ?」
 俺の大声で、景頼と愛姫も集まってきた。三人に手紙が盗まれたことを話し、俺達が図られたことを理解させた。これはまずい。何の成果も得られず、みすみす盗まれたわけだ。いろいろな意味でまずい。犯人のてのひらで踊らされていたのだからだ。
 これからはどうすれば良いのか。俺は頭を抱えた。

 四人で会議を始めてから数時間経ち、急遽輝宗に呼び出された。俺に何か用があるのか? 用件を考えながら本丸まで足早に歩いて向かった。
「失礼します、父上」
「政宗。今日は書をたしなもうと思ってな。どうだ? 字はうまくなったか?」
「はい。ある程度うまく書けるようになったという自負があります」
「そうかそうか。義姫と小次郎と四人で書をたしなもう」
 母・義姫と弟・竺丸(元服しているからすでに小次郎)がいる。小次郎は通称で、政道とも呼ばれることがあるが信憑性が低く、確かなことではない。今の状況を見ると、弟は政道とは呼ばれていないから小次郎と呼んだ方が適切だ。
 義姫と小次郎は、将来俺を悩ませることになる。何せ、義姫は長男の俺より次男の小次郎を溺愛しているからだ。義姫は、今から注意しておこう。
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