上 下
27 / 245
第一章『初陣へ』

伊達政宗、プロポーズは伊達じゃない その弐

しおりを挟む
 俺は息継ぎをせずに話したから、一回咳き込んでしまった。「以前、愛姫に佐久間信盛を信長が追放すると言ったが、そのことも『信長公記』には記されている。佐久間信盛は柴田しばた勝家かついえと並んで織田軍の両総督と呼んでも良いくらいの存在だ。佐久間信盛は信長からの信頼も厚かった。だが、信長からの評価が落ちるきっかけとなった戦いがある。徳川家康が糞尿を漏らしたことで有名な三方ヶ原の戦いだ。
 三方ヶ原の戦いでの、徳川家康の対戦相手は武田信玄たけだしんげんだ。その戦いにて、徳川家康は武田信玄に大敗した。通説では武田信玄軍は二万から三万人、徳川家康軍は八千人と織田信長からの三千人の援軍。その織田信長からの三千人の援軍の中に、佐久間信盛がいたわけだ。佐久間信盛は三方ヶ原の戦いで成果を上げず、一緒に三方ヶ原の戦いに派遣された平手汎秀ひらてひろひでを見殺しにした挙げ句の果てに、自分と家臣を無傷のまま帰還した。そんな背景もあり、1580年8月には佐久間信盛は織田信長によって追放された。
 佐久間信盛の追放も『信長公記』に記されていることなのだが、予言の書『予言未来書 一之巻』の内容は『信長公記』を参考にしているはずだ。内容はどちらも酷似しているからだ」
 思ったより長く話してしまったが、小十郎と愛姫には大体伝わっただろう。『予言未来書 一之巻』を書くために『信長公記』を参考にしたのなら、作者は未来の人間だということは明々白々だ。やはり、転生者・転移者・時間旅行者が作者だと考えて大丈夫だ。
 江渡弥平一味が時間旅行者集団だとしたら、江渡弥平が一味のトップだとしても一人で大人数の統率が出来るはずがない。つまり、江渡弥平一味のバックにはかなり大きな組織があるはずだ。そのかなり大きな組織は、現代日本にあるだろうし、タイムマシンを作れるほどの力のある組織は大会社か? だけど、歴史を変えて、何のメリットがあるんだ?
「政宗様」
 愛姫は予言の書を眺めながら口を開いた。
「どうしたんだ、愛姫」
「この予言の書の作者を転生者・転移者・時間旅行者と考えることは容易ですが、実際に予言者はいないのでしょうか?」
「なるほど。実際に存在するかもしれない予言者か。時間があったら探してみよう」
 三人で予言の書について話し合った。その翌日、輝宗からルビーの調達が完了したのと連絡が入ったので、本丸御殿に向かった。
「父上。ありがとうございます」
「ルビーといっても、それほどは大きくないが勘弁してほしい」
「いえ、私が大きさについてとやかく言えた立場ではないので」
「そのルビーだが、加工されたものだからそのまま愛姫に渡しても大丈夫だ」
 輝宗は布を何重にも被せた木箱を出した。
「この箱の中にルビーが一つ入っている。持っていくがよい」
「では、失礼して......」
 木箱を受け取り、布のすき間から中身を確認した。ピンク色に光り、万人を虜にする美しさだ。このルビーの形に合うように金属でリングを作ってドッキングさせれば指輪の完成だ。早速リングの設計図を書き上げて、鍛治屋に注文しよう。
「それでは、父上。私はこれで」
 輝宗は無言でうなずいた。俺は本丸御殿を出ると、小十郎と合流して指輪のリングの形状について考えを出し合い、リングの設計図を書き上げた。鍛治屋にリングの注文を終えると、ルビーを大切に木箱に入れて愛姫に見つからぬように隠した。
 後日、鍛治屋からリングが完成したとの報告を受けて完成品を見に行った。
「鍛治屋! リングが完成したのか?」
「かなりシンプルな構造だったので、思ったより早く作ることが出来ました」
「それは良いな。見せてくれ」
「これです」
 鍛治屋からリングを受け取った。設計図通りにちゃんと作られていた。
「協力に深く感謝する」
「いえ、こちらこそ」
 リングを持ち帰ると、木箱からルビーを取り出して、指輪にはめ込んだ。ルビー自体を傷つけぬように細心の注意を払ってはめ込んだため、十分ほどの時間がかかったが何とか指輪とルビーを合体させた。
 小十郎を呼び、木箱に戻した指輪を見せようと木箱を手に取って布を持ちあげた。
「は!? 指輪がねぇ!」
「本当か、名坂!」
 小十郎と二人て、木箱をじっくりと観察したり触ったりして確かめたが、指輪は煙のように姿を消した。
「どういうことだよ」
「名坂が言うには現在の伊達家の家臣には竺丸派の奴が多いんだろ? 何かの妨害かもしれない」
「なるほど、そういうことか! 全て竺丸の仕業か! クソがぁ!」
「ま、まあ、落ち着けよ名坂。手分けして城内を探してみよう」
「そうだな。手分けしよう」
 二人で城内を走り回ったが、指輪などまったく見つからなかった。イラついた俺は火縄銃で木をバンバン撃った。辺りが暗くなり、廊下に行灯あんどんともされた。
 小十郎と合流した。小十郎も指輪を発見することは出来なかったようだ。とぼとぼ廊下を歩いていると、一人の家臣とすれ違う。光りに照らされて、その家臣の指元がはっきりと見えた。指には指輪がはめられていて、指輪には赤く光りを反射させる宝石があった。おそらく、ルビーだろう。
「おい、待て!」
 俺が呼び止めると、その家臣は走り出して逃走を始めた。
「小十郎、追うぞ!」
「はい、若様!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魅了だったら良かったのに

豆狸
ファンタジー
「だったらなにか変わるんですか?」

他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!

七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?

婚約破棄?貴方程度がわたくしと結婚出来ると本気で思ったの?

三条桜子
恋愛
王都に久しぶりにやって来た。楽しみにしていた舞踏会で突如、婚約破棄を突きつけられた。腕に女性を抱いてる。ん?その子、誰?わたくしがいじめたですって?わたくしなら、そんな平民殺しちゃうわ。ふふふ。ねえ?本気で貴方程度がわたくしと結婚出来ると思っていたの?可笑しい!  ◎短いお話。文字数も少なく読みやすいかと思います。全6話。 イラスト/ノーコピーライトガール

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【短編】冤罪が判明した令嬢は

砂礫レキ
ファンタジー
王太子エルシドの婚約者として有名な公爵令嬢ジュスティーヌ。彼女はある日王太子の姉シルヴィアに冤罪で陥れられた。彼女と二人きりのお茶会、その密室空間の中でシルヴィアは突然フォークで自らを傷つけたのだ。そしてそれをジュスティーヌにやられたと大騒ぎした。ろくな調査もされず自白を強要されたジュスティーヌは実家に幽閉されることになった。彼女を公爵家の恥晒しと憎む父によって地下牢に監禁され暴行を受ける日々。しかしそれは二年後終わりを告げる、第一王女シルヴィアが嘘だと自白したのだ。けれど彼女はジュスティーヌがそれを知る頃には亡くなっていた。王家は醜聞を上書きする為再度ジュスティーヌを王太子の婚約者へ強引に戻す。 そして一年後、王太子とジュスティーヌの結婚式が盛大に行われた。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

処理中です...