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06 悪役令嬢は人類絶滅の夢を見る
しおりを挟む「魔王軍の面々に集まってもらったのは他でも無い、今回の議題は──」
巨大な椅子に座る三頭六眼の黒竜は話を切り出した──
「自由についてよ!」
──ので、私が代わりに議題を提起する。
「なんだお前……!?どうやってここに──!!」
一斉に殺気立つ魔王軍の幹部達、そして魔王。
「玄関から」
「な、何を言ってるんだこの娘は!」
「警備は一体どうなっている!?」
混乱した幹部達が叫ぶ。
「落ち着きなさい、無事よ。今回は不殺、そして不忍なの、不忍の忍者とは私のことよ。グレート忍者」
「誰かこやつを摘み出せ!」
「動くな。私はレベル65535よ。私が指を鳴らした瞬間にこの城が消えるわ」
「65535……?何を馬鹿な、魔族ですら99が限界だと言うのに……!」
「何が99よ、笑わせる。試しに攻撃してみなさい」
「言われなくとも──」
剣を構えた蜥蜴男は立ち上がった瞬間に消えた。
「な、何……!?」
「カラテよ」
「落ち着け皆の者!先ずは名乗ろうではないか?其方の名は何と言う?」
竜の魔王が私に問いかける。
「名前を聞くときは自分から言うのが礼儀よ」
「……我が名は魔王イヴァルアス、見ての通り竜だ。其方の名は?」
「奇遇ね、私もイヴァルアス、見ての通り竜よ」
「は……?巫山戯ているのか?」
「私が竜以外の何に見えるの?」
「どう見ても人間の小娘だが」
「まだまだ心眼が足りないわ」
「心眼……?何を言っている?」
「私は竜であるとも言えるし、そうでないとも言えるわ」
「いや、どう見ても人間だ。間違いない。絶対に竜でも、ましてやイヴァルアスでも無い」
「いいえ、絶対なんて言葉、絶対にあり得ないわ。この世界に絶対は無いのよ。もしかしたら、貴方はルチアという人間の少女かも知れない、これを否定できるかしら?」
「どこをどう見たら我輩が人間の小娘に見えるのだ……?」
「どこを見るか、じゃないわ。どう見るか……よ。見方を変えれば貴方も少女かもしれない?違うかしら?」
「頭が痛くなってきた……なんだこの屁理屈娘は……」
「魔王イヴァルアスよ」
「だから……ああもういい、じゃあイヴァルアス。お前は何の用でここに来たんだ?」
「じゃあ、今日から貴方がルチアね。よろしく、ルチア。ところで貴方何才?」
「……いや……いいか。我輩は……500の年を数える」
「なら私の方が年上ね、600より上は数えてないの。つまり、私の方が強くて年上、私の方が偉いの、わかった?」
「……馬鹿な事を……人族がそのような年月を生きることが……」
「竜よ。間違えないで」
「あー、わかったわかった。そうだな、竜だったな。だとしても我輩よりも前から生きていたなど信じられん」
「前からじゃなくて、同じ6年を100回ほど生きてるの、貴方に会うのも多分初めてじゃないわ、もう忘れたけど」
「転生……か、なるほどな。しかし、なぜそんな事をしている?意味はあるのか?」
「繰り返したくて繰り返してる訳じゃない、私は……この輪廻を終わらせたいの」
「イヴァルアス……お前は……」
「というわけで、ルチア、今日の午後から代わりに授業に出てもらうわ」
「………は?」
◆◆◆◆◆◆◆◆
「本日は、実技試験を行う!呼ばれた者は前に出て呪文を唱えよ!最初は──公爵家のルチア!」
「我輩の出番か……」
魔王イヴァルアス……もとい、新ルチアがグラウンドの真ん中へ舞い降りる。
「な、なんだその姿は!いや!お前はルチアなのか!」
「……そうでもあるし、そうでないとも言える」
「……ふむ、変身術か。よし!合格!」
「何か破壊しなくてもいいのか?」
「結構、もう十分だ!」
「そ、そうか……?」
「ルチア!やるじゃないか!そこまでの変身術は想像できるものじゃないぞ!」
フリードリヒが新ルチアに駆け寄り、堅牢な漆黒の鱗を撫でる。
「気安く触るな、塵芥」
「はははっ、喋り方まで魔王みたいになってるな!」
「いや……魔王なんだが……」
「ああ、そうだな!もはや魔王と言っても過言では無いかもな!」
「え……あぁ……そうだな……」
「次は、フリードリヒ王太子、順番ですのでよろしくお願い致します」
「……良いだろう!私の実力を見るが良い!」
フリードリヒは笑顔で校庭の中心へ駆けて行った。
「態度が違う……?我輩は舐められているのか……?」
「……ルチアお姉様、フリードリヒ様は親愛故に砕けた態度を取っておられるのです、決して侮っている訳ではございません」
大荷物を持った桃色の髪のクラリスが静かに告げる。
「……なんだ急に、我輩に何様のつもりで語っている」
「申し訳ございません、お姉様。身分も弁えず、出過ぎた真似を……」
「……良い、我輩は知らぬ事ばかりだ。よろしく頼む。……妹よ」
新ルチアは旧ルチアよりも慎重かつ丁寧だった。伊達に魔王の仕事をしていた訳では無い。
「──!は、はい!」
「ところで、その荷物は何だ?」
「お姉様の教科書や道具です……常に持っていろと……」
「下らん、『開け、闇の門』」
新ルチアは空間に穴を開け、荷物を全て放り込んだ。
「よ、よろしいのですか!?」
「何故妹であるお前が、荷物持ちの仕事をする。彼奴らの仕事を奪うな。いいな、お前は我輩の妹である。誇りある振る舞いをせよ」
「ルチアお姉様……そんな……私のような平民混じりを……」
「魔王の前では等しく塵芥だ。そのような些事で我輩を煩わせるな」
「お、お姉様──!」
クラリスは涙を流した。平民混じりである事を些事と切り捨てだからだ。生まれに絶対的なコンプレックスを抱え、差別されてきた彼女にとってその言葉は救いだった。
無論、新ルチアは全くそんな事は知らない。
「なんだ急に……早く拭け、我輩の鱗をそんな液体で濡らすつもりか?」
「……ルチアお姉様がルチアお姉様でないみたいです……こんな日が来るなんて……!」
「そうだな、別人だからな」
「ええ、本当に別人のようです!」
「(何でこいつらは全く疑わないのだ……?いや、あの化け物に脅されているから城には戻れないし、都合は良いのだが….…)」
こうして新ルチアの学園生活が始まった。
新ルチアは、公爵令嬢として真面目に授業を受けたり、王太子やクラリスとダンジョンへ潜ったり、スポーツで汗を流したりした。
変身が解けなくなったという言い訳も普通に受け入れられ、新ルチアがルチアであることを疑う者は誰一人としていなかった。
異母姉妹のクラリスとの関係は良好になり、休日には共に買い物や旅行へ行き、共に紅茶を嗜み、ある時は同級生とパジャマパーティーを、そしてイケメンの話題に興じた。
これまで魔王としての絶対的な力と立場によって、孤独な生活を強いられていた新ルチアには、その生活の全てが新鮮だった。
最初は塵芥と侮っていた人間達、学園や友人、そしてここでの生活、彼らとの関係性が、新ルチアにとって、かけがえの無い物へと変わっていった。
また、新ルチアの何気ない言動がフリードリヒやクラリスを、そして学園の人々を救い、彼らにとっても、この巨大な黒竜は唯一無二の存在になり、
一年が経つ頃には新ルチアは自分がルチアである事を疑わなくなっていた。
◆◆◆◆◆◆◆◆
一方、旧ルチアは魔王と入れ替わったその日から、モンスターの増殖バグで魔王軍の兵力を数倍に増やし、
「バグってるけど、良いわ!動いてるからヨシ!」
「流石です!お姉様!」
帝国以外への派兵を開始し、
「手始めに周りを囲むわ!包囲殲滅陣よ!」
「流石です!お姉様!」
ラウラに破壊工作をさせて各国の内乱を促し、
「ラウラ、貴女も忍者よ!手始めに各国の反政府勢力を扇動して来なさい!」
「流石です!お姉様!」
国を弱体化させた上で、その国の要人達に戦後の立場を約束して裏切らせ、
「私の魔王軍に入って忍者になるか、魔物に滅ぼされるか選びなさい!」
「忍者になります!」
「流石です!お姉様!」
次々に国を侵略、新ルチアが学校生活に馴染む頃には、既に帝国以外の周辺国家を裏から牛耳っていた。
「ふはは!やっぱり魔王は最高ね!何度やっても国が滅びる様を見るのは爽快だわ!」
玉座で高笑いする旧ルチア。
「流石ですお姉様!魔王よりも魔王です!」
今回のラウラはルチアに心酔していたので、止めることもしなかった。
「さて、諸君──今日集まって貰ったのは他でもない」
旧ルチアは謁見の間に集めた者達を見て切り出す。
彼女に跪くのは、忍者、ハイ忍者、魔王軍の幹部達、古くからいる魔族や、人間を裏切った人間達、そして魔獣、魔王軍の兵士達、そして、白い犬と忍者。
「──漸く、準備は整った。私がかねてより計画していた大侵攻を今こそ始めたいと思う」
「お姉様!ついに!この大陸全てを支配されるのですね!」
隣に立ったラウラが歓喜に震える。
「帝国の地こそ私の生まれ故郷。そして、あらゆる魔物、魔族、人間の楽園が立つべき大地。そこに不要な物は歴史から永久に消し去る」
「然り!然り!然り!」
魔王軍の兵士達が武器を打ち鳴らす。
「あの大地を手にし、我々はこの大陸にあらゆる生命が対等に、理不尽に怯えることのない世界を創造する。阻む物は帝国、いや神であろうと鉄血の劫火で燃やしてやろう」
「魔王様!魔王!新魔王!新魔王イヴァルアス様!」
跪く魔王軍の全てがそう叫ぶ。
「諸君、更なる戦争を望むか?情け容赦のない糞の様な戦争を望むか?鉄風雷火の限りを尽くし三千世界の鴉を殺す嵐の様な闘争を望むか?」
「戦争!戦争!戦争!」
「よろしい、ならば戦争だ」
「魔王軍大隊各員に伝達、魔王命令である──さぁ諸君、地獄を作るぞ」
◆◆◆◆◆◆◆◆
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